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再び

 目を開けると前回ログアウトの時と景色が変わっていた。

 というのも前回は夜であったため多くのネオンが灯っていたが今はそんな雰囲気がなく殺伐とした装いで建物が立ち並んでいた。


「あれ、フブキ…」


 アクアは自分の側にいない雛ペンギンを探すが見当たらない。

 テイマー情報だが使役モンスターはログアウトと同時に消え、主のログイン時に現れるはずなので攫われたということはないのだがそれでも近くに気配もなかった。


 見える範囲の周りを見渡し、近くの小道やサイズ的に抜けられそうな場所を探すがそれでも足跡すら残ってはいなかった。

 少し焦りを感じながらもアクアはログインした場所へ戻ってくると何やら数人の女性プレイヤーが集まっていた。


 その光景をみてフブキがそこにいるのはすぐに察したのだがアクアはどうしていいのか悩むことになる。


 このまま放置はできないのでどうにかしてフブキを取り戻したいのだが話しかけて自分のものですと言ってはいそうですかとはならないだろう。


 かといって飽きるまであの人たちを待つほど余裕はないのでとりあえずステータス画面を開きフブキを一旦召喚中止できるのか確かめる。


 説明には新たにステータスが載っていたがそれを読み流していくと避難と書かれたボタンがあった。

 緊急時に一度自分の側へ転移させる、という使用後時間経過で再び使えるようになるスキルであった。


 目の前で姦しく騒ぐ彼女たちに申し訳なさを感じながらもアクアはそのボタンを押す。

 すると女性に囲まれていたところが青く光るとその光が飛ぶようにアクアの胸へ飛び込んできた。


「きゅー!!!!!」

「フブキ。毎度毎度囲まれるのは勘弁してくれ」


 主人を見つけたフブキは甘えるように鳴き、アクアはそんなフブキの頭を撫でながらぼやくように愚痴るが当の本人は聞く耳持たずに気持ち良さげな表情をしていた。

 そんな二人の光景は横取りされたプレイヤーからすると面白くはなかった。

 建物の影で陰鬱と怨みを募らせる装備の豪華な1人のプレイヤーがアクアに言い寄ってきた。


「ちょっとその子、返しなさいよ」


 突然の言葉にアクアは声が出なかった。

 返しなさいというからには自分が泥棒と誤解されているとすぐに気づき間を少し開けてから反論をする。


「いや、この子僕の相棒の神……じゃなくてモンスターなんですよ。だから返すとかじゃ」


 モンスターと言われフブキは首を横に振るがアクアが小声で「頷いてくれ」とお願いすると嫌そうに小さく首を縦に振る。


「どうだか、盗みを働く人間の言葉なんか信じられないわよ。ねぇ!みんな!」


 豪華装備の後ろにいたの5人ほどが、そうだそうだとアクアにプレッシャーを与える。


「じゃあどうしろと?こうしてフブキが自分から抱きついてる時点で盗むとかの関係ではないのわかりますよね?」


 何か魔法かアイテム使ってるんだ!と誰かが言うと、それだ!とその声は次第に大きくなっていった。

 これ見よがしに豪華装備のプレイヤーはニヤリと嫌に笑うとこれで詰みねとアクアへ近寄ってきた。


「これで決まりね。その子こちらに寄越しなさい」


 茶番だとアクアは言いたい気分だった。

 DWではプレイヤーの持ち物に触れることは許可しないとできない。それは一つ一つの所有物に指定でき、レア度の高いものほど盗まれる危険があるため、かなり強めのペナルティー付きの盗み防止がされていた。

 フブキに関してはレア度不明の超貴重種の神獣である。

 プレイヤーがフブキが連れ去られようものならそのアカウントは数秒のうちにアカウント停止、もしくは重大なペナルティーが科せれるだろう。


 明らかな悪者扱いされているアクアが冷静でいられたのはそのせいであった。


 手を伸ばした豪華装備のプレイヤーは鳴り響く警告音に気づいたのか途中で動きを止める。

 無理矢理フブキを奪おうものならアカウントの死が待っている、しかし後ろからは煽ったせいか熱の入ったこちらが正義という間違った声援。

 どうせ大したことない。そんな甘い考えから彼女は無理矢理フブキに手をかけるとバチンっと静電気の弾ける音と共に腕が逆方向へ飛びその勢いごと後ろへ吹き飛んだ。


「えっ」


 あまりの出来事にアクアは呆然とその様子を眺めるしかなかった、フブキは見てもいないでアクアの胸の中に顔を埋めている。

 背後で声援を送っていた女性集団もその光景に何が起きたのかすら理解できていなかった。


「だ、大丈夫ですか〜」


 あまり刺激しないよう吹き飛んだ女性にアクアが話しかける。が、返答はなくただ吹き飛んだ先に積んであった木箱を崩し挟まれるように寝そべる女性が動かずにいるだけであった。先程までの豪華な装備は修復不可能なまでにボロボロになっている。


「あの〜」


 アクアが女性の集団の方を向くと彼女らはビクッと体を強張らせる。

 しかしその中でもガタイのいい女性がアクアに対して立ち向かうように仁王立ちをして威嚇する。


「あんたチート使ってるでしょ」

「は?」

「街中では攻撃禁止。それがルールなのにリーダーが装備まで破壊されるなんてチート以外何があるのよ!」


 あくまで自分たちが正しいと思っているせいか、ペナルティーによる代償だということに気づいてはいない女性プレイヤーたちがその意見でまた一つになる。


「この子が僕の相棒だからそれを奪おうとして吹き飛んだんだと思いますよ」

「白々しい。いいからよこしなーーー」


 先程の女性と同じように掴もうとした手が吹き飛び後ろへ飛ばされる。

 装備全壊のオプション付きで二度も同じことが起きればさすがに控えていた他のプレイヤー達も自分たちの過ちに気づいた。


「この人起きたら次から気をつけるように言っておいてください。僕、急ぎの用事あるので」


 ヘッドバンキングし始めるかのように激しく頷く彼女たちをその場に残し、アクアは居づらくなったこの場所をそそくさと離れていくのだった。

 通報もできたがそれなりの罰を受けているのでまぁいいだろうとアクアはやめておいた。


「フブキいなくなるのはやめてくれよな」

「キュ?」


 なんのことと言いたげにフブキは首を傾げていた。


 周りは昨日と比べて人は少なくなって居たが単純にこの最初の村に留まっていないだけで皆各々で自由に移動しているためプレイしている人数は変わらないというよりはむしろ増えているだろう。


 昨日閑古鳥だった店々も一通り調べ尽くしたプレイヤーたちがマッピングのためか、街の調査のためか、単なる観光、好奇心のためかそれなりに出入りがある。


 初期配布のお金しか持っていないアクアはまだ食事もこの中でできていなかった。

 調べた情報では味は店舗ごとに違って本当に料理として食べている感覚になると密かに楽しみにしていた。


 屋台などの串一本は買える程度にはあるがもしかしてを考え我慢し、他の店に目もくれずに協会へ向かう。


「あっ、そういえば」


 ログイン時に新しく携帯と接続したことで現実からの連絡はいつでも取れるようになっていた。その中にメッセージも含まれており経義のフレンドコードを見ながら入力し、フレンド申請をする。経義はそれを待っていたのか、すぐさま認証されアクアの元にメールが届いた。


 ーーーーー

 アクアってタカのハンドルネーム?

 

            そうだよ。


 おけ。雪代が近いから先

 迎えにいってから行くわ。


            了解。

            やってるクエストの後始末

            してるからゆっくりでいい

            ぞ!

 ーーーーーーーーーーー


 連絡を済まし目的の協会内に入ると相変わらず受付の列が出来ていたが昨日のピーク時と比べれば3分の1もないくらいだ。


「あ!アクア!!やっと戻ってきた!」


 入って受付の方へ行くとミリクがアクアの元へ飛び出してきた。

 やはり視線が一斉に集まりアクアはあまりいい気がしない。


「えっと…ミリク?ここじゃなんだからどこか別の場所…ない?協会長に報告もあるし」


 いくらNPCだとしてもミリクほどの美人が他のプレイヤーに見せない態度を示せば面白くないようで男たちはアクアに舌打ちをする。


「わかったわ。じゃあ付いてきて!」


 しかしそんなのは聞こえていないのかミリクは目線すら与えずにそそくさと二階の階段を上っていく。それに続き目を合わせないようそっぽ向きながらアクアは二階へと上がっていった。


 前回入った部屋より小さい部屋に案内されると座って待つようにミリクは言う。


「すぐに協会長来るから待ってて。それよりその子、昨日の毛玉?」


 もともと抱き抱えていたが昨日ミリクたちと会った際は丸まっていたので何かわかっていなかったようだった。


「そうそう。フブキって言うんだ」


 ふーんとフブキの背中に指を伸ばすミリク。

 あっ、と 声を出しそうになったがNPCが悪意なく触るとどうなるのか見たかったためその様子をみる。


「ふわふわで可愛い子ね」


 特に何かあるわけでもなく、すんなりと触ることができていた。これにアクアは誰でも吹き飛ばすわけじゃないのかと安堵し、心の中でミリクに試してすまんと謝るのだった。


 ガチャっとドアノブが回る音がし、扉が内側へ開く。

 2メートル強の大男がその扉を潜るように入ってきた。


「やぁ、アクアくん。待たせてごめんね」


 ブライトンはその大きな体を縮こませへこへこと低姿勢で対面の椅子へ座った。


「いえ、僕も案内されたばかりなので。早速なんですけど依頼された件全部やってきましたよ」

「うん、聞いてるよ。ごめんねこんな雑用。何か気になる場所とかあったかい?」


 やはり簡単な依頼という前提があるのだろう、どこまで話すか悩んでいたが相手がNPCだと思い出し自分のことを隠しながら事の顛末を伝えた。


「人形師マイ=トパント=ドールにリトルドールか。ミリクちゃん確かあの建物の中にいたのはリトルドールじゃなくてダストウォーカーだよな?」

「ええ、埃の塊が歩いてるだけの魔物のはずでしたけど…。まぁリトルドールも歩く人形ですからさほど大きな差はないですが」

「問題あるんですか?」


 深刻そうな顔を2人してしていることにアクアはつい口を挟む。


「かなりね。まずその人形師は色彩の幻影と呼ばれる7人グループの1人と名前が完璧に同じなんだよ。最弱候補のリトルドールで最強の名を得た狂人で…この街にいるわけないはず」

「どういう…?」

「数年前、各地の協会長が集まってその色彩の幻影たちを一斉捕縛したんだ。その中の2人は条件付き解放をしたんだがマイはリトルドールという魔物を使う魔獣という意見が出てね。ロシエイト公国聖騎士教会の中で封印という形で今も檻の中だったはずなんだ。脱走したとかいう報告も来てないし」


 本当なのかという疑問とアクアは嘘はついていないというブライトンの感覚がかみ合わないでもやもやとした空気が漂う。


「とりあえずミリクちゃん…リトルドールだったのかの確認をアクアくんを含めた数名の冒険者と共に確認してきてくれ。マイに関しては他の協会に聞いてみる。あと、くれぐれも内密にな」


 ミリクは小さく頷きアクアに準備してくるので報酬を受け取ったら下で待っててくださいと告げ部屋を出る。


 ブライトンはとりあえずご苦労といつのまにかテーブルに出された特別冒険者登録証をアクアに見せる。


「今回の報酬だ、特別登録証と報酬金もいくらか多めに渡させてもらうよ」


 そういうとブライトンは皮袋いっぱいに入った銀貨と金貨をテーブルに置く。


「見習いの君にさせた僕からの謝罪分も入ってる、普通ならこれで1年は暮らせるけど冒険者だとこれくらいすぐになくなっちゃうから遠慮しないで受け取ってくれ」


 そんなにいいです。とアクアは日本人らしさを見せようとしたがそうか?とブライトンがすんなり引き下げそうな気がしたので素直に感謝し皮袋と登録証を受け取る。


 手に取った瞬間、両方ともアイテムとしてインベントリに吸収されお金は金額が持ち金として反映され、登録証はいつでも出せるようにセットされていた。


「では僕も残ってる仕事を終わらせないとだから、申し訳ないけどもう一度調査お願いね」


 ※※※※※※

 緊急

 継続イベント参加条件【とある人形師の解放ーー終わりは始まりの村から】のクリアを満たしています

 適正レベル2

 やり直し不可

 パーティ3人以上

 ※※※※※※


 はいか、いいえの選択肢がここででてくる。


 アクアは当然関わったからにはと、はいの場所をタップするとブライトンが話始めた。


「ありがとう、報酬も用意して置くし、危険だったらすぐに戻ってきてくれな、その子も大事だろうし」


 ブライトンは胸に抱きついて動かないフブキを優しい目で見つめる。

 少しして、じゃあ行くかと、部屋を後にブライトンと別れる。


 2階から降りてくると先ほどと変わりなくガヤガヤと人の声が混じり合っていた。

 その話題の中心はミリクだろう。普段事務的な会話しかしない受付嬢が意思があるように話すのだ、気にならないわけがない。


「アクア!終わりました?」

「あぁ、報酬もちゃんと貰ったよ」

「それはよかった!あんまり使いすぎないようにしてくださいよ?お金で問題起こす人ここ多いですから」


 気をつけるよと乾いた笑いをする。


「一緒に連れてく冒険者なんですけど、私宛がなくて。アクアさん連れてきてもらってもいいですか?」


 パーティ3人以上の理由は多分この事だろうとアクアは任せてくれと言うと、ミリクは揃ったら受付来てくださいと告げ受付カウンターの裏へと戻っていった。


 視線は一斉にアクアへ集まる、プレイヤー情報の開示要求は原則マナー違反だがプレイ中のイベント情報などは公開しないと非難されることがよくある。アクアはそうでなくてもフブキを連れているので目立つのだ。


 こぞってアクアと仲良くなろうと近寄ってくるもの、それを遠目で見て監視するものなどアクアを中心に殺伐とした雰囲気が協会内に広がっていた。

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