現実1
隆也の通う高校までの道のりは家から駅まで自転車で10分、電車に乗り高校最寄りの駅までは45分と地域にもよるが時間のかかるほうではあった。
最も隆也は家から近い高校を選ぼうとしたのだが姉の母校にと親にも勧められ流されるがままに私立の名条高校へやってくることになったのだ。
入学当初、通う時間の長さは気になるものではあったが人間1ヶ月もすれば慣れるもので気になるようなものではなくなっていた。
しかし長期休暇を挟んだことで生活リズムは崩れ隆也は登校日当日、徹夜明けもあり寝坊をし慌てて学校へ向かうことになるがそれも全部自業自得である。
普段乗る電車逃してしまうと間に合わなくなるのだがギリギリ飛び込み乗車をし汗だくになったシャツをパタパタと仰ぐ。
新銅日駅は各駅停車しか停まらない小さな駅であった。
特急や急行といった電車に乗れる駅も隆也の自宅から距離的に言えば大きく変わらないのだが、隆也は人混みが苦手なことと座りたいと言う一心で早起きをしてこの駅から乗るようになった。
忙しい朝にのんびりと通勤通学する人は少なく決まって1人は座れるくらいに座席は決まって空いていた。
今日もギリギリではあったが座ることができ強めの冷房が効く車内で大きく息を吸い呼吸を整える。
そんな姿を周りはチラリと見るがすぐに興味をなくし目を離すとスマホや手帳、眠りにつくなど自分の世界に戻っていくのだった。
隆也は持ってきたタオルでいつまでも溢れる汗をこまめに拭きとり、ある程度引いてきたところでスマホを見始めた。
普段なら音楽を聴いて眠りについたりするのだがどうしても調べておきたいことがあったのだ。
DWを検索ボックスに入力すると検索候補がでてくる。攻略やクリエイト、始めての村、場所、地図など第二検索ワードは数多い。
その中の攻略をタップし攻略サイトを開いた。
まだ初日ということもあって簡易なものしか載ってはいないがそれでも初日の割にはかなりの情報が載っていた。
隆也としてはゲームのストーリーよりも自分と同じ体験した人がいるのか確認がしたかったのだ。
初心者向け何をするのかという項目をタップする。
まだ始まったばかりなのだが種族と職のオススメが載っており種族はエルフ、龍人、死霊騎士などあまり絞りきれておらず、職に至っては変更可能なので剣士や魔法使いなど定番が載っているだけだった。
種族に関しては変えようがないので隆也は興味がなかった。ただ職に関しては少し期待したのだが拍子抜けの情報に少し肩を落とす。
その後も隆也は気になる情報を調べて見るものの冒険者になるには協会へ行く前に門番に会うと登録証をもらってすぐに外へ行けるや、会わずに行くと保留にされ受付で街中のクエストをその場で受注してクリアで発行といったことが書いてあった。
会わないで行った隆也は依頼を頼まれたが協会長などという人にまで会っていたことから少し道を外れていることを改めて自覚した。
種族の星マークも解らないままで話題にすらなっていなかった。
途中ペンギンを公園で見たやら噴水から駆け寄る感動シーンは演出なのかなど関係のない話題があったが自分が話題になっていることに少しだけニヤついてしまっていた。
「何ニヤついてんだよ」
コツンと軽く頭を叩かれた隆也がパッと顔を上げるとそこには昨日課題の存在を教えてくれた友人ーー有栖川経義がつり革を握りながら目の前に立っていた。
「あ、おは。ヨシ」
「おはよ。かなり奇妙だったぞ、一人でニヤついて」
そう言って経義は隆也のスマートフォンを覗いた。
「何見てたんだ?朝からエロ動画か?」
「バカかよ、そんなもん朝から見ねぇよ。これだよこれ」
隆也は手元のスマートフォンを経義に見せるように画面を向ける。
「あぁDWの攻略サイトか。ってなに、タカ《クリエイト》買ったの?興味なさげだったのに」
「興味はなかった。実際昨日発売って昨日の朝に知ったから」
「いや、ややこしいな」
「まぁ昨日知ったんだよ発売日を」
最初からそう言えよと経義がツッコめば隆也はそれに対して言ってんだろと言い返す。
『次はーーーー。ーーーー。』
車掌の声がそんな二人の会話を遮るように聞こえてきた。
「まぁいいや、とりあえず降りよ」
経義がそう言って足の間に挟むように置いていたカバンを持ち隆也もカバンの持ち手を掴んですぐに立ち上がって出られる準備をした。
「あ、そういえば課題終わった?あのあとメールなかったけど」
ブレーキがかかり一瞬ふらつく。駅に到着するとゾロゾロ乗っていた学生が降りる。
それを遮るように真ん中に立つスーツの男性は動こうとしないためカバンを身体にぶつけられて苛立ちの表情を浮かべていたが自業自得としか言えないだろう。
「終わったよ、なんとか。メールしてくれて感謝なんだがもっと早く教えてくれてもよかっただろー」
駅のホームは人でごった返し改札口まで降りた生徒がゾロゾロと列を作っていた。
「絶対前日以外に教えてもやらなかっただろ、タカはそういうやつだ」
隆也がそう言い切ると隆也はぐうの音も出なかった。そうだけどさ、大変だったとぶつくさ文句を言うが経義は聞く耳持たないでハイハイと一言で流して行く。
「終わったんだからいいだろ。それより《クリエイト》のことだよ。なんで興味もなくて昨日発売知ったのにDWの攻略サイトなんだよ」
「それは…姉貴が…」
隆也がそう言いかけると経義は待てと静止させる。
「教室着いてからにしよう、話題の《クリエイト》関連にお前の姉さんが関わってくるならこんなたくさん人がいる場所ではまずい」
言い過ぎだろと隆也は思ったが確かにクリエイトの名前が出ただけでも数人の学生たちは彼らの方を注目するように聞き耳を立てていた。
「あー、だな。後で話すわ。それより休みの間にどこかーーーーー」
2人の休み期間の小話は教室にたどり着くまで続いた。
9階建の校舎は新校舎で見栄えはほぼビルであった。
中に入ってすぐにある大階段を昇り広いスペースを抜けると二階から4階、4階から6階と1階飛ばしのエスカレーターが設置されていて私立らしさが垣間見える。
隆也たちは完備されたエスカレーターに乗り教室のあるら6階へ移動する。
「それで、なんでか教えてくれるか?」
教室の扉を開き、経義はすぐさま机に鞄を置いて隆也の元へ戻ってくる。
「姉貴が送ってきたんだよ。《クリエイト》とセットでDWも。あと司令書付き、ヨシならわかるだろ。姉の怖さが」
「まぁな。うちの姉ちゃんと比べらないほどお前のとこの姉ちゃんすげぇもんな」
首が振り切れそうなぐらい頷きたかったがそれがなんだか情けなく感じ小さくうなずいた。
「それで超話題のそれをゲットしたってわけ」
「無料で?」
「無料で」
経義があからさまに嘆息する。話題のクリエイトを何も知らなかった男が難なく苦労なく手に入ったというのを経義以外の人が聞いていたらかなり嫌味に聞こえていただろう。
ただ隆也自身は何もしてないので恨まれたりすること自体がお門違いで変に嫉妬をされなくてよかったと思う一方、たまには少しばかり痛い目を見るのも隆也のためなのかと周りの目を気にしない友人のことを経義は気にかけていた。
「姉のレベルが違うな。うちの姉ちゃんがくれるのはせいぜいもらったお土産くらいだよ」
とりあえずはと自虐ネタを入れ込み隆也にヘイトが集まらないようにと経義は笑い話へと持っていくほかなかった。
そんな2人の会話をタイミング登校してきた三巳夏未が聞いていた。
「お姉さん!?タカくんのお姉さんの話!?」
荷物も置かないで勢いよく机に飛び込んでくる。
ショートボブのストレート髪に少し茶のかかった瞳、顔立ちは平均値を大きく超える可愛さの女生徒の目は血走っていた。
「そ、そうだけど。ナツミ?怖いぞ」
隆也も経義も若干の引き気味で冷静さを失いかけていた夏未を落ち着かせる。
愛佳は名条高校の語り継がれる卒業生の1人であった。
それは隆也自身が入学してからまざまざと知ることになるが、あらゆるところにその痕跡を残し自身と姉の差を感じるばかりであった。
夏未のように愛佳に憧れて入学する生徒も多くそれを聞いて隆也は姉の恐ろしさを改めて思い知らされる。
教師も愛佳の弟ということで隆也の名前を出すが隆也自身からしてみればいい迷惑で姉は鷹だが自分は雀だと声を荒げたい気持ちになるのだった。
良くも悪くも愛佳の存在は隆也にとっては思いがけないほどに影響していた。
「タカの姉ちゃんが話題のクリエイト送ってきたんだとさ」
経義が言い渋る隆也に変わり夏未へ大まかな説明する。その説明がどういうわけか愛佳からのプレゼントと解釈され一悶着起きそうであったが間違っていないので訂正はしない。
「う、羨ましい。愛佳様のプレゼント…国宝ね」
恍惚とした表情で空中を見る夏未の姿はいつにも度を増して危険指数が高い。
その姿に思わず2人は目を合わせた。
「ナツミってここまでやばかったか?」
「いや…流石にここまでではなかったと……思いたい」
久々に会う夏未のその姿に目を盗られるがクラスメイトたちは関わらないようにする気配を出し、そっちで処理をしろと目配せで合図をしていた。




