余韻
イベント達成の表示がされアクアは地面へ座り込んだ。隣にいるフブキはそれ見よがしにアクアの膝元へ近づき膝の上に乗ると疲れたのだろう横になり眠り始めた。
「終わった〜。でも最後逃げられたな」
1人と1匹になった地下空間は静かさもあるがどこか役目を終えたように落ち着いていた。
マイと呼ばれる人形師を引き止めておきたかったのがアクアとしての本心だった。
イベントの進み方は大抵一本道なので結果的に言って仕舞えばマイが彼の言葉を聞いてもここで立ち止まって共に旅をするという選択肢は生まれなかったのだろうが、そんなことを知る由もない彼はただ悔しさを募らせるだけではあるが。
「それにしても」
フブキは身動き一つせずにスヤスヤと寝息を立てている。
「神獣だとか、特殊イベントだとか。こんなつもりじゃなかったのにな」
ヒューマンで剣士、ごくごく定番の組み合わせで注目されないで済みそうだったものが始めて数時間でこの有様だった。
姉の命令がアクアのメインクエストで他はサブクエストでしかない現状ではあるがそれでも最短で姉の元へ向かうよりは適度に寄り道をしながらでもいいかという気になっていた。
この世界のまだ知らないことがたくさんある。恐怖よりも勝る好奇心が彼の心境を変えていた。
「IR最高だな。ゲームもっと早くからやっとけばよかった」
ここに1人のゲーマーが生まれたことなど誰も知ることはない。
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現実世界の4時間でこの世界の1日は過ぎて行く。午前午後と2時間ずつで時間経過をして行き体感も現実時間と同じなので、単純に日が昇り日が沈むのを丸一日やり続けると6回見られるというだけの話だ。
アクアが始めてから早3時間ほど経っていたようですでに日が沈み星々が空いっぱいに敷き詰められていた。
「すげー」
ありきたりな感想を空を見上げながら呟く。
人形師マイに逃げられてからしばらくアクアは地下室を満遍なく調べ上げた。
結果気になるようなものは何もなく、封印するためだけに作られた部屋かもしれないと結論づけた。そのため石台も水晶もそのままにして建物から出てきたのだった。
外は灯りのない真っ暗な街並みで月明かりと星々の煌きで辛うじて目が慣れて見えてくると言ったところだ。
調査に来たこの人形屋敷は町の外れで、中心地の協会のある方面はぼんやりと明かりが集まっている。
アクアはとりあえずそちらの方へ向かい、現実時間では正午過ぎなので場所をみつけログアウトすることにした。
ログアウトする方法は何通りかある。
街中ではどこでもログアウト可能で次回ログイン時にその場からスタート。
宿屋に宿泊しログアウトすると睡眠ボーナスでその日は任意のステータスが1.25倍になる特典がある。
町の外へ出ている場合はキャンプスポットと呼ばれる場所で野宿する事でログアウトできる。この場合はボーナスはないが稀に現れるキャンピングモンスターがそのスポットにいる時に限りランダムステータス1.25倍になる。
場所によって特殊措置もあるというヘルプの情報でログアウトに関しては多くの選択肢が与えられていた。
街中にいるためすぐにでもログアウト可能な位置にはいるが次回ログイン時に手間がないようアクアは眠るフブキを抱え中心地へ向かうのであった。
街の中心は賑わいを見せていた。人の往来が絶え間なく昼の頃とは違う大人な店や怪しげな店がどこから現れたか煌々と客寄せしている。
そこに足を向ける人もいれば毛嫌いし宿や酒場へ逃げ込む人もいる。
協会はこの通りの先、依頼の報告はあとからしようとアクアは道の端でログアウトする。
先に眠っていたフブキが手から消えていき、次第にアクアの意識が眠りから覚めるような感覚になる。そして現実へともどっていくのだった。
一時の夢が終わった。隆也が起きるとぐったりと精神的な疲労が襲ってきていた。
一通りの機器を外し、ふらふらとリビングへ昼食を取りに行く。
正午過ぎ、母はいつのまにか家を出ていたようでメモ書きで昼ご飯は適当に済ませると乱暴に書かれてていた。
常備してある即席麺を作り、隆也は放置していた携帯のメールの確認をする。
広告メールが数件、友人から1件姉の愛華から1件。
愛華のメールは言わずもがな、頑張って進めてという念押しのメールで隆也の精神にダメージを与えるようなメールであった。
もう一件の友人からのメールは夏休みだが明日が特別登校の日であることとその時に出す課題を終わらせたかの確認であった。
隆也は比較的賢い頭で成績も悪くわない。
がズボラな性格というべきか抜けていることが多く課題や提出物を出さないことが多々あるのだ。
それを心配した友人たちはどういうわけかローテーションで隆也に確認メールを送るということをするようになっていた。
隆也は感謝していた。が、こと今日に限っては背中にじんわりと汗が滲む感覚に陥っていた。
というのも明日提出の課題というのは1日で終わるような量ではなかったことを思い出したからである。
結果、その日隆也が《クリエイト》の電源をつけることはなかった。
徹夜コースの課題取り組みはどの時代でもある定番の光景でもあった。




