解放
絶世の美女。
現れた幼女が成長すればそう呼ばれるだろうとしか思えないそれは渦の煙を全て体に取り込み現れた。
「ふぁ〜ぁ。よく寝たの。ん…?なんじゃここ?滅茶滅茶寒いではないか」
藤色に染まった髪の毛に白金の光をチラつかせながら目の前の幼女は大きく伸びをする。
「おや、お主か。私を起こしたのは。ってなんじゃ!そんな剣を構えて!やるかやるのか!!」
下手くそなファイティングポーズを構えてシュッシュッと拳を突き出す姿は見ていて和むほどに可愛らしさがある。
「え、いや。あなたが敵じゃないなら刀は下ろしますけど。というか…布が薄い…」
肌の透け具合で目のやり場に困っていたアクアは少しばかり幼女の行動の抜け加減に警戒心を緩めるが、その幼女の一挙手一投足に注意を怠ることはなかった。
「うぇぇ!!!…っとまぁそれは別に気にする必要はない!!こんな貧相な体になってしまっては男も寄ってこん!!それとお主!敵じゃないから剣下ろしてな?それかなりビビるんじゃぞ?この薄着で剣向けられるって特殊すぎると思わんか?」
まぁまぁと両手で落ち着けと手を上下させながら幼女は少しずつ近寄ってくる。
「側から見ればね。でも生憎、今は俺とあなたしかいないから警戒するでしょ」
ジリジリとアクアも幼女の歩みに対して後ろへ足を進める。いくら気の抜けた状態でもお互いの攻防はじっとりと手に汗握るほどに緊張感を増していた。
「いや、そう言う気持ちもわかるがな。本当に私は何もせんよ?というか害がありそうに見えるか??」
この世界で何が起こるかわからない上にやり直しのきかないイベントで簡単にやられるわけにはいかないアクアはいくら幼女の無防備をわかっていてもそれでも刀を下ろすのはどうも気が引けていた。無論害があるようにはアクアも見えてはいなかったが。
ただ決定的に判断したのはアクアが警戒心を緩めない中で何故かフブキが刀から戻りたそうにしているのを感じ取り、目の前の幼女の危険性がないように思えたのだ。
「…わかった。こっちもあなたに聞きたいことがある。穏便にここは話し合いましょう」
「ふぅ。話がわかるやつでよかったぞ。流石に私も斬られたらそれまでじゃからな」
「流石に僕も幼女を斬るのは躊躇いますからね。話し合いで済ませられるなら僕としても有り難いです。早速質問なんですが、あなたは何者で?」
目の前までやってきた幼女にアクアはそもそもの疑問を問いかけるのだった。
全裸の少女の胸を張るその仕草は物好きからしたら大層なオカズになりそうなものだがそっちのけは一切ないアクアは特に何か思う節もなく何してんだと思う程度で済んだのは幼女ーーただのデータなのだがーーにとって僥倖であったと言える。
「あぁ、自己紹介が遅れた。私はしがない人形師、マイ=トパント=ドール。マイと呼んでくれ」
幼女のその発言はその場にいたアクアからすると黙って頷けるような自己紹介ではなかった。無論マイと名乗る幼女が嘘をついている確信などなくただ違和感があったからなのだが。
「いや、おかしいですよね。こんな地下で封印されてるってしがない人間のされるやつじゃないですよね」
「それはーそのーあれじゃ。ちょっとした喧嘩でな、負けて閉じ込められたんじゃよ。まさか封印するとは思わなんだが、解いてくれて感謝じゃな」
感慨深そうに頷き、顔に似合わない笑い声を彼女は上げていた。
「さて、こちらも聞かせてもらえぬかな?お主の素性を」
ピリッとした空気が部屋の澄みきった寒さを悍ましく背筋を這う。
「僕はアクアです。冒険者…見習いってところかな。この建物の調査で来ただけなのであなたのことも知らないですし、そもそもこの地下だって偶然きただけです」
「見習いか…くっくっく。見習いでもこれるようなところにわしを封印とは奴も考えるわ。多分じゃがわしの魔力に当てられて魔物か何か出ていたじゃろ?」
「ええ、この上にリトルドールがたくさん。危うく死に損ないました」
乾いた笑いを浮かべアクアは魔物の原因を突き止めたことで多少の苦労も報われたのかと安堵する。
「リトルドールで死にそうとはの。見習い程度でも流石に踏めば倒せるレベルじゃぞ」
「やっぱり、見習い程度でも余裕で倒せるんですよね、リトルドールって。はぁ〜死にそうになった自分が恥ずかしい」
「そんな大層な剣を持っておるのに、それはかなりの難ありじゃな」
「あ、この刀使ってからは全然余裕だったんですよ、そうだ、フブキ戻っていいぞ」
刀身が強く輝き柄の持ち手が消え手から光が溢れるとぽてっとしたペンギンの姿へと戻った。
「キュ〜」
疲れたと言わんばかりにうつ伏せに倒れ込みだらんと体を伸ばす。
「ほう。よもやこんなところで会えるとはの。神獣の雛が人の子に力を貸すなぞ聞いたことがないがまぁそのおかげで私の封印が解けたということじゃな」
「ん?フブキが神獣?それと封印に関係あるんですか?」
「んにゃ?お主の子なのに知らんのか?少しだけ説明してやろう」
彼女が簡潔に説明した。
神獣と呼ばれ生き物、それは神から産み落とされた穢れのない聖獣で魔物と対を成す生き物である。
種類は様々で現世の動物たちが神獣と名を変えて生存いる。
ただこの世界の動物は人に懐かないという習性があり、これは神からの使者という意識が神獣達の根幹にあるからだと認識されている。
そのせいか専らこの世界では魔物の方が親しみのある生物として君臨し、神獣は時代と共に知力と攻撃性のある魔物に淘汰されかなり数を減らしていた。
そんな数少ない神獣がマイの封印を解く鍵であった。
魔物使いテイマーと呼ばれる職のものでも神獣は契約不可能で実質永久封印解除不能と呼べる強固な封印で経年劣化をマイは待つのみでいたところに救世主がやってきた。見方によれば異端、イレギュラー、場合によってはやらかしとも言えるのだが。
「と、まあこんなところかの?とりあえずお主の連れおるその子はかなりの希少種じゃろうから周囲の目も気をつけるようにした方がいいじゃろ」
「そう…みたいですね。出歩くとしても魔物っぽくしといた方がいいかもしれないな」
彼女に呟くように言った言葉とは裏腹に思考はマイの存在についての疑問でいっぱいであった。
一体マイは何をしてこんなことになったのか、強固な封印をされるような存在であったのか、そもそも信用していい情報なのかと。
「それがいいじゃろな。あとはそうじゃお主には礼の品を渡さねばな」
「礼の品ってあなた服も……」
徐ろに空中に手を突っ込むと彼女の腕は消えその先には黒く渦巻く闇の空間が広がっていた。その光景に思わずアクアは絶句する。それがアイテムボックスなのかわからないが想像もできない未知数のそれがやけに禍々しく感じられた。
「お、あったぞ!これじゃ!」
藁人形と呼ばれる呪術で用いられそうな見た目そのままのものを彼女はアクアに手渡す。
「それはの、身代リンじゃ。致死性のあるダメージすら無効にする身代り人形での、たくさんあるから1体プレゼントじゃ」
ダメージ無効をたくさん持つことにアクアは新たな疑問を覚えたが突っ込めば面倒くさいことになりそうなので、彼女の自由にされるがまま手渡された藁人形をアイテム内に自動収集させた。
「大事にするよ。ありがとう」
「うむ、一回使ってしまっても1日経てばまた効果使えるからのリトルドールにボコボコにされても問題なしじゃ」
悪戯に笑う彼女は満足気にニヤつきをアクアに向けていた。
「もうリトルドールは懲り懲りですよ」
「くっくっ、じゃろうな。安心せい、弱体化させるためにワシの魔力を強制的に垂れ流されて産まれたやつじゃ、封印が解けて制御できるようになったからにはもう産まれる可能性はゼロ。お主がやられる心配も無問題じゃ」
ほっと胸を撫で下ろす。この言葉を聞けばとりあえず今回の依頼の達成はできたことになる。
あとはこの特殊イベントの終着点、すなわちどうすればクリアとなるかだ。
「んー。だいぶ喋った気がするの」
指を絡ませて腕を上に伸ばし体をぐっとそらす。
「マイはこの後どうするんだ?」
解放したからには放置してはおけないと考えたアクアはマイの行き場を知っておきたかった。
「そうじゃな…お主と共に行くのもまた一興ではあるのだが。久々に目覚めたのじゃ少し世界を見るというのも良さそうじゃな」
「旅にでると?」
「あぁ、せっかくじゃしな。ワシと世間のズレを知っておきたいしの。よし、思ったが吉日!早速真西のカールド帝国でも行ってみようさね」
そう言って彼女は腕を前に突き出すとその前に先ほどと同じ黒の渦が人1人入れるサイズで現れた。
「アクアと言ったかの。その身代リンがお主の場所をいつでもワシに教えてくれるからまた会うときまでにはリトルドールくらい1人で倒せるようにな。くっくっく」
「ああ、それはもちろん。それよ「じゃあワシは行くぞい。感謝しきれぬ恩はあるがしばしばの別れじゃ。じゃあの」ーーちょ!!」
彼女が消えたのは一瞬の出来事だった。黒の渦に飛び込むと先のない闇は餌を得たように一瞬で彼女を飲み込み、そこにあった全ての痕跡を消し去った。
残ったのは石台と割れて粉々になった水晶石のかけらのみで灯りはいつのまにか壁掛け燭台の蝋燭の火だけになっていた。
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特殊イベント
【とある人形師の解放ーー終わりは始まりの村から】をクリアしました
クリア報酬
・身代り人形
・称号 解放者
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幼女全裸描写がありえないと言うコメントをいただきました。
気になる方のために薄着着用に変更にさせていただきます。




