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プロローグ

主人公の名前が不適切でしたので変更しました。


尊氏タカウジ隆也タカヤ


になっています。


不快な気分になった方にはお詫び申し上げます

 ポップ広告が目煩く、風景に混じり大々的に張り出されている。そんな中、一際目立つのはある一つの商品に対する広告である。


 発売日が近づき、電車の中吊りやスーパーのチラシなど、どこを見渡してもその商品を目にしないことはないほどであった。




 VRMMO(ヴァーチャル・リアリティー・マッシブリー・マルチプレイ・オンライン)が発表されて数年、世界は大きく揺れた。


 モニターを通じて自分の分身であるアバターを動かすことで仮想世界を体感するのが従来の技術であったのが、VRによって自分の目線が全て仮想世界を投影されることで人工世界はより現実に近づいてきていた。


 その後、更にVRが進化することにより自らがその世界の一員として過ごすことができるようになる。


 ただVRに当初から考えられていた脳波を利用して感覚器官をすべて支配するというフルダイブ機能はない。


 あくまで視覚のみ仮想空間へ完全に移動させ、その世界で動くためにはコントロールスーツと言われるコンソールが必要であった。


 服状のそれを着用し、筋肉の微細な動きや力の込め具合を個人に合わせ調整することで小さな動きでその世界で自分の体を自由に操るように動けるというものだ。


 注意書きには半径1m以内にものは置かないようにとあるが実際どんなに激しいプレイをしていてもスーツが制御しているため現実の体が極端に反応するということはなく安全面も人気を呼んだ一因であった。


 この技術は多くに取り入れられたが一番話題を呼んだのがやはり娯楽性の強いVRMMORPGであった。


 異世界の生活を自分の目線で体験できるというのは話題を呼び一時期、社会問題になったほどの熱っぷりだった。


 その後も○○オンラインと名を変え世界観を変え、ゲーム性を変えたものが発売しそれぞれにコアなファンがつくなどVRは時代を象徴するようなものだった。


 しかし現在、人々の関心はVRから新たな物へと変わっていた。


 IRイマジネーション・リアリティと呼ばれる技術。

 現実空間を衛星によって3Dスキャニングし、それを仮想空間へ用いることで架空の地球を作り出す。


 そしてそこに人間の手が加わり、時には地球の形をした別世界を作り出したり、時代そのものを変えて歴史の資料にしたりと用途様々では大きく発展すると期待を寄せた。


 仮想地球では東京の空にドラゴンが飛んでいたり、巨大な地下迷宮が大阪の街に現れたり、まさにイマジネーションーー想像現実な世界が広がっていた。


 軍事目的の開発が最初とされるが、ティッシュペーパーや電子レンジ然りどの時代もそこから新しいものが生まれるようでこのIRも軍事技術が企業に取り入れられ、数年経ってようやく一般販売にまで至ったというわけだ。


 スキャニングに関しては国ごとにそれぞれ制約があるが基本的に大陸の形や、発展国の都市部については建物の内部以外詳細なマップが作られているという情報が出回っている。


 すでにGPS機能で3D化はできていたので間違いない情報で問題はどこまで鮮明に細かく現実が投影されているかなのだが、真相は実際見て見なければ不明というところが多い。


 そんなIRを体験するための機器『クリエイト』と呼ばれる一式の装備品は予約段階で世界累計6000万台という異例な数を叩き出し、ここ日本ではその中の3分の1を占める2000万台という期待値の高さがわかる数の予約数であった。


『クリエイト』は電気信号を使い脳を催眠状態へする、強い出力ではなく眠りを誘うような信号でレム睡眠による夢を見ている状態に近い。


 その状態にすることで全ての感覚がIR世界で利用でき、VR時代の当初の脳波利用に近いものになっていた。


 もちろん反発はあったが臨床実験や安全の証明を時間をかけ丁寧行い、各国々へ説明したこともありそれほど大きな問題にもならずに済んだ。


 そんな『クリエイト』には1本のソフトが同梱しており、仮想地球を自由に歩き回れる『アースウォーク』というソフトで遊べる。


 これは『クリエイト』本来の可能性をシンプルに極めたソフトであった。


 個人で好きなように世界を作り変えることができるのだ。


 とは言っても同梱ソフトなので地球まるごとは変えられないが、いつも歩く道に突然隕石が降ってくるや、巨大獣が街中に現れた時の被害など想像していたことが実際に起きたらどうなるかという検証もできる。


 多くの国はそのソフトだけで他のソフト販売は未定とされているのだが、ゲーム大国の日本はいち早くIRを利用したゲームを同時発売することを決めていた。


 街中に溢れかえったゾンビから逃げる『ハザードシティ』、自分で街を開拓していく『クラフトワールド』などどれもIRを体験するにはちょうどいいゲームが発売される。


 そんな中でも日本のゲームメーカーが共同し作り上げた1本のソフトは世界中から販売を希望する声があがるほど力の入った、期待値の高いソフトが注目を浴びていた。


 膨大な職とスキル、学習AIのNPC、ランダム発生のダンジョン、モンスターの進化と退化。


 様々な要素をふんだんに盛り込んだ体験型アクションロールプレイングといったところだろう、VRの頃にもあったがその規模は比べ物にならない。


 少なくとも地球規模で世界は広がってることからゲーマーの間ではゲームの終着点などと言われてもいる。


『DevarsisWorld』と名付けられたゲームは略称DWと呼ばれキットと同様に予約数は前代未聞な数を記録していた。


 オンラインプレイが基本ということもあり、発売日初日サーバー混雑を避けるためマルチプレイのアーリーアクセスコードが抽選で発行され100万名が購入後からプレイできる権利を獲得したが、これをめぐり盗難や転売、SNSでの違法な取引など世間を騒がせた。


 結局運営は政府からの要請をうけすぐさま予定の数倍のサーバー増強など対応を迫られアーリーアクセスコードを持つ人には後日ゲーム内アイテムの補償をすることを公式で告げた。


 その後も話題に欠くことなくIRキットの発売日は目前と迫っていた。


 有休を前もってとり仕事を休む人もいれば発売日が夏休みということで学生などは家にこもる準備をしたりなどネットはもちろんテレビでは専らそんな人々を取り上げてはIRの宣伝へ持ち込んだりと各スポンサーもそれだけこの技術の有用性を大きく見ているようであった。


『クリエイト』発売日初日。


 日付の変わった深夜0時販売の店には予約受け取りだけで長い行列を作っていた。

 もちろん数に限りがあるわけではなく早期予約していれば確実に手に入るのだがいち早くプレイしたいという人間が多く、従業員総出でレジと商品手渡しをしている。


 そんな朝のニュースを一ノ瀬隆也(イチノセタカヤ)は朝食の食パンを齧りながらぼーっと見ていた。


 ーーそういえば話題になってたな。


 普段興味のないことは一切調べないせいか、周りからの情報はいつも流行りからワンテンポ遅れてしまいがちななのだが。

 そんな隆也も流石にIRのことだけは知っていた。


 街中のあらゆるところに広告が張り出されそれなりに興味も持っていた。


 しかし学生である隆也にはなかなか手にし難い高価なもので値段に見合ったほど熱中出来る気がしなかった、頭の中から発売日やらの情報が残っていなかったのはそのせいだろう。


『帰ったらソッコー始めます!!今日は寝ないぞー!』

『めちゃくちゃ楽しみにしてたんで!!テンションめっちゃあがります!』

『いえーい!クリエイトサイコー!!』


 テレビの中ではテンションの上がった大人たちが人目も気にせず叫んでいた。


 正直見ていて心地のいいものではないがそれほどまでに話題性があるものとして各メディアが取り上げたくなる気持ちも分からなくはなかった。


 コップに注いであるお茶を飲み、口を潤す。IRの及ぼす影響など真剣に討論する評論家たちの声を聞き流しながら尊氏はいつもと変わらない朝の時間を過ごすのであった。


 ピーンポーン。


 そんな朝早い時間に似つかわしくないチャイムが室内に響いた。

 キッチンにいた隆也の母はささっとリビングの入り口に付けられたインターホンへ駆け寄り外用の声で返事をする。


 そんな母の姿を見ながら隆也は食べていた残りのパンを口に放り込んでいた。


 玄関へ向かった母が何やら喋っていたがすぐにリビングへ戻って来た。

 抱えていた段ボールを見る限り宅配であったことを理解して再び隆也は興味のないテレビへ視線を戻した。


「タカ。これあなた宛の荷物よ?何か頼んだ?」

 そんな母親の質問に心当たりがなく隆也は「貸して」と母の持つ荷物を受け取った。


「いや、頼んだ記憶ないけどな。ーーげっ!これ姉ちゃんからじゃん。なんで俺宛なんだろ」


 送り先には上京して家を離れた一ノ瀬愛佳(イチノセマナカ)の名前と住所が記入されていた。


「あら、ほんとね。わざわざあんた宛ってことは何かいいものなんじゃないの??」

 そんな母の言葉を聞いても隆也は正直この荷物を開けることを躊躇っていた。


 弟は姉に敵わない。


 そんな言葉の通り隆也もまた姉の愛佳には頭が上がらないのだ。

 僕のように扱われることの多かった子供時代から今に至るまで姉の親切心の裏側には見返りが必要なことが確実といっていいほどあった。


 この段ボールの中身はわからないが自分宛であることですでに隆也は警戒心マックスでしかなかった。


「母さん、開けていいよ。俺なんか見るの怖い」

「なんでよ、あなた宛なんだから自分で開けて。私まだやることあるんだから。ほら。はい」


 そういって横の文房具入れからカッターナイフを取って渡し、再びキッチンへ戻っていった。


 段ボールのサイズは2リットルのペットボトル6本入りの段ボールより一回り小さめ。ものとしてはそこまで大きなものは入らなさそうな大きさだ。箱には取扱注意やこわれものなど物々しさすら感じるほど注意書きがしてある。


 大きく呼吸する、それが嘆息だと気づくことはなく隆也はまた一回大きく息を吐き出した。


 このまま放置もしておけないため仕方なく箱を開封する。


 いいものと期待はしていないため細心の注意を払ってダンボールを開く、そこには発泡スチロールとその上に手紙が入っていた。


 姉からの手紙だろう、発泡スチロールの下を確認する前に手紙を手に取り隆也は読み始めた。


『拝啓、最愛なる弟へ


 こんな形で初めてタカに手紙を書くとは思いもよりませんでした。

 今回私があなたへ送ったものは今日発売の『クリエイト』です。

 今話題のやつです。お姉ちゃんすごいでしょ?それをタカに送れるなんて!

 ま、褒めてもらうのは後日直接でいいからとりあえず同封したディバルシスワールド《DW》をやってください。というかやれ。

 やらなかった場合は姉権限で色々と酷い目にあってもらいます。

 目的は一つゲームを進めて【希望の丘】へくること、ここへ来たらやめるもよし、タカの好きなようにしてくれてかまいません。

 とりあえずこの手紙を読んだならすぐに始めてね、時間指定で荷物は送ったからお母さんに電話して聞くからね。

 じゃ、待ってるねー!

                      敬具 世界一可愛い姉より』


 隆也は慌てて発泡スチロールの蓋を開け中を見た。


 そこにはさっきまでテレビで取り上げられていた『クリエイト』そのものと横にはディバルシスワールドと書かれたソフトが共に入っていた。


 マジか。そんな言葉がつい溢れた。


 あまりのことに呆けていた隆也を見た母が何事かと覗きにきた。


「あれ、これさっきテレビでやってたやつじゃない!なになにタカにプレゼントなの?いいなーお母さんにもマナちゃんくれてもいいのに」


 そんなことを言いながら『クリエイト』の箱を持ち上げて、軽いだのいいなぁなど言っている。


「こんなに怖いプレゼントねぇよ。きっと裏があるんだよ、姉ちゃんのことだから。ほらこれ、一緒に入ってた手紙」


 握っていた手紙を母に渡し、とりあえず中のものを外へ出してダンボールの処理をしようとした。


 中の発泡スチロールをとりダンボールを折りたたんでいると軽快な音楽にのったメロディーがキッチンの方から聞こえた。


「あれ、私の携帯…あっちか。もしかしてお姉ちゃんかしら?電話するって書いてあるし」


 そんな母の言葉に慌てて隆也は片付けもそのまま『クリエイト』と『DW』を持って隠れるように自室へ駆け込んだ。


「もしもし?うん、届いたわよーーーー」


 母が電話で喋るころには隆也はすでにリビングにはおらず、テレビの音声と母の声がただ反発するように入り混じっていた。


 部屋に入り扉へもたれかかる。

 手に持った予期せぬ最新機器を落とさないように上手に抱え混みそのままずるずると座り込む。


 隆也の胸中は複雑なものがあった。


 話題の最中である『クリエイト』がこうも簡単に手に入ってしまったことで抑えきれない好奇心、さらにその中でも1番話題なっている『DW』付きだ。


 しかし、ただのプレゼントではなく姉からの命令付きのプレゼントだというのがどうにも胸に残る違和感があった。


 ただこのままやらずに放置という選択肢はすでにない。姉が一体何を要求しているのか、という疑問はあるが隆也の手は自然と『クリエイト』の箱の封を開けていた。


 ヘッドホンに収納式のゴーグルの付いたヘッドギア、手首用と足首用に巻くバンドが付属されている。


バンドの一つには指輪が付いていて、あとは電源コードやらの線が数本あったがどれもリストバンドとヘッドギアを繋ぐコードのようで長さはまちまちである。


 これをセッティングして電源を入れればすぐに開始可能である。


 DWのソフトのほうも開けてみると中には小さなチップが入っているだけだった、どうやらヘッドギアに差し込むようで探してみると右の耳のスピーカーなどを隠す外装下に入れ口がありチップを押し込むとカチッと音を立て読み込み始めた。


 すでに電源コードを繋げていたのでヘッドギアのゴーグルの枠が青色に光っていたのが、ソフト入れてから緑色の光が淡くなったり濃くなったりと光が揺らめき正常に作動しているのがわかる。


 隆也はバンドとヘッドギアを線で繋ぎゲームの準備を進める。


 Lと書かれた手首用バンドに指輪が付いており人差し指に指輪をつけてバンドを巻く。


 そのほかも線が絡まないように手首足首と巻き、側から見ると糸に繋がれたマリオネット状態になっていた。


 不自由のない程度に線の長さはあり、無理に動いても特に線で引っかかるということはなかった。


 ヘッドホンをつけゴーグルを下ろすと目の前には映画館のシアターのように大きなスクリーンが現れる。

 矢印が動かせるようで指輪のつけた人差し指を動かすと自由自在に操ることができた。


 すでに読み込みしていたのでDWのコンテンツ画面になっていてあとは、はじめるを押せば自然とスタートする。


 隆也は一呼吸おき未知なる体験に胸躍らせていた。

 人差し指をとんっと弾くとはじまると書かれたボックスが白く波打ち、音声とともに映像が変わる。


 《イマジネーションの世界へようこそ。それでは始めましょう。》


 音声とともに青い景色がジェットコースターのようにぐんぐんとスピードを上げて何もない青い空間を抜けていく。


 そして一瞬の浮遊感を感じたあと、意識は別の世界へ飛んでいた。

はじめまして、よろしくおねがいします

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