悪魔との対峙
決着は予想通り、ものの五分ほどでついた。
「まぁ我に対し五分も持てば上等じゃろう。」
「はぁ……。」
まぁ悪魔様に魔術なしの体術だけで挑んで勝てるわけもなく。
俺は黒い霧から出る鎖に繋がれて、膝をつき、目の前でプカプカ浮いているフィーゼル・ヘル・アランを眺めていた。
ついでに腹には漆黒のナイフが刺さっていた。
「あのさ……殺すならスッと殺してくれない??これあれだろ?じわじわ生気を吸い取る的な。」
「そうデビルグッズじゃ!!」
「ジョークグッズみたいに言うな。」
呑気に喋っているが相手は悪魔だ。
だが見た目だけではただの幼女。マサヒロが喜びそうな年頃だな。
そんな悪魔は宙に浮き、こちらに近づいてくる。
「おい人間、少し質問がある。答えよ。」
「なんだよ。」
「貴様、退魔の一族の生き残りじゃな??」
その言葉に一瞬言葉が詰まった。
驚きと懐旧と虚しさが込み上げてきたからだ。
「………何処でわかった??」
「この長い人生、何度奴らと戦ったと思うておる??宗馬流の使い手など退魔の者の他におるわけなかろうが。」
「よくご存知で。」
古来より悪魔を打ち滅ぼしてきた……というよりただ単に悪魔を殺してきた数が圧倒的に多い一族。一族みんな特異体質で、皆んなそれぞれのデメリットを持つが皆んな同じ異能を持つ。
それが退魔の一族。
「なるほど……まだ良き相棒が見つかってなかった。というところかの??」
「そうだよ。フーバーの魔力共有論をぶち壊す、超が付くほど面倒くさいデメリットがあって、中々契約者が見つかんないの。」
「はははははははははははは!!!なるほど、魔術を使う際の魔力量の多さが常人の比にならないというわけか?!傑作だな、まったく。」
「笑いたきゃ笑え。」
「だが理由はそれだけではないはずじゃな??」
これだから悪魔は嫌になる。
何もかも見透かしたように不敵に笑うから。
「………………はぁ。悪魔は心でも読めるのか??」
「勘じゃよ。悪魔……というより女の勘かの。」
「お前ら性別ないだろ??」
「体的に女性の場合、何となくだが女性としての意識を持ってしまうのじゃよ。長年……というか何世紀もこの体といるとな。だからちゃんと服を着る。まっ我の場合じゃがな。」
「そうかよ。で、下の方は丸見えだけど……それはいいのか??」
「なっ?!」
悪魔はプカプカ浮くのをやめワンピースの端を抑えてこちらを睨みつける。
いやいや、そんな格好で浮いてるのが駄目だろ。
「いつから見ていた。」
「鎖に繋がれてからずっと。つかなんでノーパンなんだよ。そして何故恥ずかしがる??」
「黙れ変態!!我をそんなエロい目で我を見よって。顔に我を陵辱したいと書いておるわ!!!」
「多分、その文は間違いだな。俺はお子様のま○こを見て喜ぶ程変態じゃない。」
そう俺は変態ではない。というよりそんなカテゴリー持ってる奴はいつでもロリッ子を受け止めるためにキャンディー持ち歩いてる真の変態王・マサヒロだけで充分だ。
それ以外はあいつはまともなのになぁ……はぁ〜。
「どうした??そんな真剣な顔をして。」
「忠告しといてやるよ、フィーゼル・ヘル・アラン。」
「な、何じゃいきなり。」
「俺の事を変態なんぞと呼ぶようじゃ、この先生きていけないぞ。」
「ごくりっ。」
「変態と呼ばれる奴らは信念のためなら、恥も外聞も関係なく襲いかかり、死してなお立ち上がってくる。俺が相手だった事を感謝しとけ。」
「じゃ、じゃが昔。我の事を慕って目を輝かせていた気持ち悪いのがいた!!その者は我に殴られ、感謝しながら召されていった!!変態なんぞその程度なのだろう?!」
「甘いな、フィーゼル・ヘル・アラン。そいつは変態の中でも最弱。悪いがこの学園にはいるぞ、変態の中の変態・真の変態王がなぁ!!!!」
「な、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!?!………ってそんな話がしたいのではない!!」
えぇ……いい感じに盛り上がってたのに。アリス荘名物、謎ごっこ。収拾することができず、丸一日それに没頭して倒れた人がいる伝説さえある。
「たくっ、でなんだよ。」
「主が契約しない理由じゃよ!!」
「あ〜それ??それ話すと辛気臭くなるから嫌なんだよ。」
「話せ。貴様が死ぬまでまだ時間はいくらかある。それまで暇じゃろうが。」
「はぁ、わかったよ。………俺は……まぁなんだ、昔色々あって精神が不安定なんだよ。心ってのは契約の際、重要になってくるものだ。契約は精神が安定している状態、つまり心がお互い通常運行しておけばいい。だが心に深い闇や傷があるとコネクトが繋がらなくなる。」
「面倒くさい生き方をしとるの貴様。」
そんな受け答えをしながらフィーゼル・ヘル・アランは薬局の商品を漁る。
まるでおもちゃで遊ぶ子供のようだ。
「特異体質の人間の中には魔力量が人の何倍もある奴もいる。この学園にもちらほらいるだろうな。でも俺の心が弱くちゃ話にならない。」
「短い人生でそんな昔の事を気にしていたら何もできなくなるぞ??」
「逆にそんなに寿命が長くて楽しいのか??短い寿命の中で切磋琢磨して生きるのがいいんじゃないか。」
「知った口を聞きよるわ。」
フィーゼル・ヘル・アランは薬局からコーラを持ち出し、それを一気に飲み干す。
プハーッという姿は本当に子供に見えた。
「それで貴様の境遇が分かったところでもう一つ質問じゃ。」
「今度はなんだよ?」
「何故武器を持たん。」
「…………。」
「貴様ら退魔の者の異能は武器の特性の限界を超えることじゃ。さっきの宗馬流武衝十式は己の肉体を武器と仮定し、その肉体の限界を超える技じゃろ?」
全てこの悪魔の言う通りだ。
開祖・宗馬タケヒトが偶然手にした異能か、それとも故意にその異能を手にしたのかはわからないが、開祖の血が流れる退魔の一族には皆その異能が発動する。
「逸話ではフライパンを手にした退魔の者が下級悪魔を打ち倒したとある。」
「あー俺もそれは聞いた事あるな。」
「で、そんな貴様が何故武器を持たん。ましてや貴様は自分が魔術を使えない事を知っとる身じゃろうに。だから不思議なんじゃよ。」
「お前に言う必要はないが……まぁ必要ないからだ。」
「どう言う意味じゃ?」
「俺は魔術師だ、格闘家じゃあない。」
そう俺は魔術師候補生だ。
そんな俺が普通の武器で戦っては魔術師候補生としての恥だ。
だから………
「そういう事か。」
「あぁ……だか……………ら????」
突然、体から力が抜けて体が沈む。
「あ……………れ??????」
動けない。
言葉が出ない。
体が震える。
「ここまで………か。」
「あ……………あぁ。がっ?!?!」
フィーゼル・ヘル・アランの言葉に意識を持っていった瞬間、衝撃が身体中を駆け巡り、喉の奥から鉄臭い液体がせり上がってきた。
そして腹に刺さっていたナイフがゆっくりと抜けていく。
ここまで……つまりは俺の死の時間がやって来たということか。
「がっ!!ああああああああああああああああああああああああっっっっっ?!?!?!?!」
「まぁ……いい暇つぶしになったかの。こんなに笑ったのはいつぶりじゃったかのう。」
「かはっ!!おえっ!!」
「じゃあのう、人間。笑わせてくれた礼に、後でさっきの女を送ってやる。」
そう言いながら俺の横を通り過ぎようとする。
俺はその悪魔の手首を鎖に繋がれた手で掴む
「離せ、人間。死地にも至らない程に消滅してやろうか。」
ゾワッ!!!!と背筋に悪寒というよりも殺意の剣で切られたような熱い何かが襲いかかる。
少しの笑みをこぼすその悪魔の顔はさっきまで子供のように遊んでいた幼女ではなく、明らかに悪魔・フィーゼル・ヘル・アランの顔だった。
そんか悪魔の言葉に手の力が抜ける----------------が、ここでひくわけにはいかない。
「いか………せ……。」
「何じゃ??」
「いかせねぇぞ!!!この野郎ぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」
俺は叫ぶ。
鎖に繋がれ身動きが取れず、ましてや相手が悪魔なのに--------------------俺は叫ばずにいられなかった。
「ほう………貴様はそんなに熱くならないタイプだと思っていたが。意外じゃの。」
「どいつもこいつも俺の事を意外意外って-------------俺は馬鹿じゃないし、クールな奴でもないんだよぉぉぉぉぉぉーーー!!!!!!!」
俺はさらに喉の奥から声を引っ張り出す。
そして腕に全身全霊の力を込めて、鎖を引っ張る。
「その鎖をちぎる事なんぞ出来るわけないぞ。」
「んなのはわかってるよ!!!!!!!」
当然、そんな事は理解してる。
なら何をしているのか-------------無駄な足掻き?いいや、違う。
あの黒い霧はおそらく何処かに通じている。それがこの世なのかは定かではないが、少なくともこの鎖は-----------------------
「おおおおぉぉぉぉぉぉぉぉああああああああああああああーーーーーーーー!!!!!!」
「なっ?!」
俺は黒い霧の中から鎖の続きを引っ張り出す。
そして鎖に余りが出来た事により、俺は再び攻撃フェイズへ移行する。
「宗馬流武衝十式・六ノ式、五爪衝!!!!!!!」
「くふっ!!!!!」
六ノ式、五爪衝。
相手の体に爪を食い込ませ、そのまま捻り切りながら吹っ飛ばす技。
その六ノ式を悪魔の脇腹に決める。勢いよく吹っ飛んだ悪魔はファーストフード店に突っ込んで小さくそして短い唸り声が聞こえた。
が---------------
「ぼばっえ?!?!?!」
その瞬間、俺は腹に莫大な力の衝撃を受け、一直線に飛んだ。
「なん?!がはっっっっ!!!!!!!!!」
遅れて腹の傷の痛みがやってきた。
しかも痛みの起点はナイフの傷の場所だった。
どこまで的確についてんだよあの悪魔は。
「クソがっ!!」
俺はそのまま何処かの店に突っ込んでいった。
体のあちこちに何かがぶつかり、刺さり、擦れていく。
が、あの悪魔は落ち着く暇さえ与えてはくれない。
パチンッと指を鳴らす音が聞こえた。と、次の瞬間俺の手首に繋がれた鎖が巻かれ、俺が回収されてるのがわかった。
ものの数秒で元いた場所に戻され、さっきと同じ体勢されてしまう。
そしてそこにいたのは脇腹から血を流しながら、少し興奮じみた顔をする悪魔だった。
「さきの一撃見事じゃったぞ。」
「あれ受けながらそんな笑顔とか………Mなのか??」
「なぁに。嬉しかったのじゃよ、まだこの我に仇なす者がいる事になぁ!!!!!!」
悪魔はそう言うと俺の首をその小さな左手で掴み、右手を大きく振りかぶる。
「そしてその仇なす者をこの手で始末する快感を味わえる事に!!!!!」
その言葉と共鳴するように右手を淡い青黒いが包み込む。
あれはヤバイな…………。
ていうか身動き取れないし、絶体絶命だな。
鬼道大丈夫………だよな。ここには凄腕の人らがいっぱいいるし、直にこの国の精鋭部隊、フリッツ王国7騎士団のどこかもやってくるはず。
他の奴らもちゃんと逃げてるはず。
それで------------------------------
「さらばじゃ人間、閻魔のジジイによろしくな。」
「それでいいわけないよな。」
俺の胸に悪魔の右腕が刺さる。
---------------と同時に俺はその右腕を握り潰す。
「な……んだと??」
「なぉおい、閻魔への挨拶は自分でしろ。」
俺の意識は急速に薄れていく。
だが、これだけは言っておく。
「地獄から……お前を……呪い殺すからよ。」
俺の意識は断絶した。