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アリス荘の不思議な馬鹿たち  作者: 弥永エイジ
第一章 鬼の巫女
7/8

商店街

「ここがコノミかぁ。流石は国随一の学園、こんな施設まで用意されてるとは。」

「なんで彼女がいるのかな……タクヤ??」

「知らん。」


俺達は聖ラヴァフト魔術学園に点在する商業区域、通称コノミの一つにやって来ていた。コノミにはゲームセンターや若者のファッションを多く取り入れた店、学生達がたまれるファストフード店など多種多様な学生を中心に考えられた施設が設けられている。

そして俺とアケミがここに来た理由は一つ。今日の歓迎会のすき焼き、その具材の調達のためだ。が、何故か鬼道が付いて来ていた。


「だって来たばっかりで色々わかんないことあるし。いい機会かなって!!」

「そうね、一緒にまわりましょうか。フフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ。」


笑顔って人でこんなに変わるんだな。

面倒くさいからスルーの方向で。


「ねぇ早乙女君。あれって何??」

「ん??」


鬼道が指差したのは一つの十五階建ての建物だった。

あれは………よし、ここでの常識を押さえておくか。めんどくさい事になるのも嫌だしな。


「あれはだな………」

「あれはビジネスホテルなのよ。」

「へーそうなんだ。綺麗だね。」


アケミが恐ろしい笑顔を放ってる。

駄目だ、少し放っておこう。


「でも変だと思わない??」

「何が??」

「ここはコノミ。利用者数の大半が学生達のここでそんな建物がいると思う??」

「来客とか??」

「この学園に来る来客なんて教育関係の人達だけ。そんな人達は学園総統部で宿泊するのが普通なの。」

「じゃあなんであるの??」


そう、故にこの学園にこのビジネスホテルを使用する必要のある人はまずいない。学生達は自分達の寮があり、教員や来客者には総統部の施設、コノミの従業員には従業員用の部屋が店の何処かに必ず存在する。

ならば何故、この建物が存在するのか。

それは…………


「それはね思春期特有の悩みを解決するためよ。」

「思春期……??」

「わからないかしら??人間としての本質というか……その辺を考慮して考えてみて。」

「……………………………ぶふぁむ!!!!!」


爆発した。

顔が真っ赤だ………可愛いなオイ。


「そ、それってつまりその………あれの変わりにここが使われてるってこと?!」

「えーあれって何かなぁ〜??ちゃんと言ってくれないとわからないなぁ〜。」

「だ、だからその………ラ、ラ………。」

「えー何々??よく聞こえないよー!!!さぁさぁ早く早く!!」

「ラブ……(ボソボソ)。」

「さぁさぁさぁさほべぇ?!」

「その辺にしとけ。」


確かにこのまま鬼道の照れ姿を見ていたかったが、時間が押してるので俺はアケミにチョップをして割り込む。

動画撮影も成功したし……後でサトシと拝見しよう。


「鬼道、おれはお前の想像通りの建物だ。つまりはラブホ。高校生ともなると色々溜まって来るからな。大人達は一室一室ちゃんと区切られた部屋に住んでるけど寮ともなるとドアも簡易的なものだったりするし、壁も薄かったりもする。でもラブホなんてものをドンッと学園内に置くのもあれだから………。」

「ビジネスホテルに偽装した……。」

「そういうことだ。」

「タクヤ痛かった。」

「調子に乗り過ぎだ。」

「だってぇ………………。」

「ねぇでもなんか閉まってるぽくない??」

「え??」


確かによくよく見るとホテルから人の気配がしない。というか窓全部にカーテンがかけられていて、正面玄関にはシャッターが下ろしてある。

そしてそこには一枚の張り紙が貼ってあった。

俺達はなんとなく見に行くことにした。決してこれからの為にとかではないぞ。使う予定なんか全然ないんだからね!!


「えーと……『誠に勝手ながら弊社の都合により、ロイヤルホテル東和は5月13日をもって閉店させていただきます。』だってよ。」

「弊社の都合って何かしら。」

「赤字とか??」


学園事情の事を考えれば最初の餌食になったって所か。まぁ圧倒的に被害が少ないからなヤろうと思えば何処でもできるしな。


「さぁな、それよりさっさと行こうぜ。周りからすごい見られてる。」

「わ、わかった。」

「私は全然いいんだけど。」


まぁラブホ跡に女2人を連れた男がいたら目立つよな。俺はウェルカムだが。

というわけで俺達はすき焼きの食材を求め、商店街に移動した。


「商店街まであるのね。」

「まぁな、お財布事情に優しい店が多いから覚えておけよ。」

「わかった。」


そして俺達は商店街のアーチをくぐる。


「………………。」

「………………。」

「………………。」


俺達は商店街の中を歩く。

肉屋や八百屋、魚屋まで取り揃えてある何処にでもありそうな商店街の風景。

だが様子がおかしい。


「ねぇこの商店街ってこんなに辛気臭いところなの??」

「いいえ………明らかにおかしいわ。」

「人が……いない??」


その商店街には歩行者どころか店の人達までいなく、もぬけの殻だった。いくら叫ぼうとも返ってくるのは反射した自分の声のみ。

俺達は進むのをやめ、立ち止まる。


「人払いの結界が張られてるっぽいな。」

「えっ………。」

「なるほどね………私達も出ましょう。人払いが張られている所にいていいことなんてないでしょうから。」


アケミの言う通りだ。人払いを使う時といえば事件の際の野次馬対策か………犯罪の時ぐらいしかありえない。

それに人払いの結界の中は電波さえも遮断してしまうため、携帯も使えない。


「引き返すぞ、そんでシンゲンに報告だ。」

「わかったわ。」

「うん。」


と、俺達が進行方向を逆にしたその瞬間ーーーー


『みぃつけた』


そんな言葉が商店街に響き渡った。

そして突如、俺達の前に黒い霧が現れた。


「なに………あれ………。」

「集中しろよ……逃げる事だけ考えとけ。」

『そういうな人間。楽しくやろうぞ。』


そしてその霧の中から腕が飛び出し、脚がゆったりとその後を追い出てきた。

黒い霧の中から出てきたのは女の子いや幼女だった。

黒のワンピースを着、裸足で空中に浮かびながら黒くて長い髪をなびかせる。目は赤く八重歯が特徴的な幼女。

が、そんな事よりも凄いのが迫力だ。魔力がダダ漏れで、その魔力はドス黒く、何もかも飲み込まれそうな気分にさせられる。

この感じは経験した事がある。

ある奴らが放つ、死の威圧。

そうーーーーー


「ほざけ……悪魔!!!」

「ほほう、我から漏れる魔力だけで悪魔だと判断するか。主よ中々やるよのう。」


この世界には悪魔が存在する。

もちろんその相対の存在、天使さえも存在する。

天使と悪魔の特徴は姿は人間とさして変わらないが、性別がないから(体的にはあるが)全員独自で魔術が使える。

そしてもう一つの特徴は天使も悪魔も姿はろくに見せない、希少種ということ。何故なら天使は人間になりすまして世界を傍観し、悪魔は人間なんていう下等生物に興味なんてないからだ。

なら……そんな崇高な存在がこんなとこで何をしてるんだ??


「簡潔に答えろ。お前は何しに来た。」

「ふん………この大悪魔にタメ口とは。貴様は馬鹿なのか、はたまた勇敢なのか。そっちの女子達はビビリまくっとるぞ。」

「余談なんかいらない。質問に答えろ。」

「はぁ………硬いのう。まぁよい、そこの人間に用がある。」


悪魔が指差したのは鬼道だった。

鬼道はビクリと体を震わせる。


「我のペットがその人間を欲しておってな。」

「ペットが??お前じゃなくてか??」

「あぁ、毎日毎日五月蝿くてたまらんのじゃよ。だからこうして餌を取りに来てやったのじゃ!!!!」


悪魔は左手から黒炎を出す。

そして悪魔は笑みをこぼす。まるで無邪気に遊び楽しむ子供のように。


「アケミ!!!!」


その瞬間、俺が叫ぶとアケミが震えてる鬼道の体を担いで走り出す。

そして悪魔は左の掌の黒炎を構え、鬼道達を見据える。その隙に俺は悪魔に詰め寄る。


「宗馬流武衝十式・八ノ式、封魔衝!!!」

「なっ?!」


そして俺は左肩の辺りに掌底を叩き込む。悪魔はその掌底の勢いで薬局に突っ込んでいった。

が、何事もなかったように起き上がり、こちらを見ながら微笑む。


「左をあの一瞬で封じるとは………。」


俺は別に普通の掌底を叩き込んだわけじゃない。

悪魔は確かに崇高な存在だが、魔力を創造する位置や魔術回路の流れは人間と殆ど一緒なのだ。脳で魔力を創り、背骨を通り神経に沿って魔術回路がある。

そして今の掌底は左肩から左手に通る魔術回路を押し込むことで魔力が左に流れる魔力を塞きとめる技だ。まぁ相手が悪魔な以上、持って1分程度だが。


「貴様……名は??」

「早乙女タクヤ。そっちは?」

「すぐに消える貴様に答える必要性があるのか??」

「墓ぐらいは建ててやろうと思ってな。教会にでも行って、十字架に磔て、業火の中にでも放り込んでやるからよぉ!!!!!」

「あはははははははははははは!!!!!この我をか?!この我を?!正気の沙汰ではないな、まったく。」

「正気で悪魔とやれるかよ。」

「気に入ったぞ人間。フィーゼル・ヘル・アラン。貴様を殺す悪魔の名だ。」


そう言うとフィーゼル・ヘル・アランはパチンと指を鳴らす。すると、俺の四方八方に黒い霧がいくつも出現する。


「体術で我を相手取れるかな??」

「悪いがそれで精一杯なんでな。」

「ならば死ぬな。精々楽しませてみよ、人間。」

「上等だぁ!!!!!」


商店街の一角で、俺の命懸けの時間稼ぎが始まった。

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