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アリス荘の不思議な馬鹿たち  作者: 弥永エイジ
第一章 鬼の巫女
4/8

ようこそ

「あなた意外と優等生なんだね。」

「意外とはなんだ、意外とは。」


俺は迷子の迷子の子猫ちゃんをバスに乗せ、一緒に寮へと向かっていた。

次の授業に間に合うか心配だが、次も単位を取れている。しかも俺の得意な魔力の授業だ。


「自己紹介がまだだったね、私は鬼道アヤネ。あなたは?」

「早乙女タクヤ、3号室の住人だ。よろしく。」

「私は確か8号室……ねぇ、なんでこの寮アリス荘って呼ばれてるの?」


資料に目を通す鬼道が首をかしげる。

正式名称は聖ラヴァフト学園寮第32号。普通の寮と比べて部屋数は少なく、10室しかない。側から見れば小さなアパートにしか見えないだろうな。


「資料にもアリス荘って記載されてるけど……。」

「不思議の国のアリスって知ってるか?」

「知ってるけど……。」

「そこにいるような不思議ちゃん達の集まりだからアリス荘。いやその不思議ちゃん達にも失礼なくらいの変態達の集まりかな。」

「え…………。」


正直、この寮に入るのはお勧めしない。

寮の奴らは学校では一歩引いて見られる……こともないが、変に見られることが多い。

歴代のアリス荘出身者を多く見てきた俺から言えば、今回の奴らはまだ甘い方なんだがな。


「私違うところに変えてもらおうかな……。」

「お前は転校者?それとも転入者?」

「あれ?!スルー?!?!」


ふっ、お前はもう俺達の呪縛からは逃げられない。

はぁ……….こんな事を思うとか、染められてるんだなぁ………俺。


「それで、どっちなんだ?」

「前者よ。」

「へーー、どこの学園だ?」

「ロシナント魔導学園。」


今話題のロシナント学園??

なんでこの時期に??


「…….なんでこの学園に来たんだ?向こうは絶対的な将来を約束するんだろ?」

「やめさせられたの。」

「……………。」


あーダメだコレ。

空気が重い。

何か事情があったんだろう。詮索するのはプライバシー的にダメだよな、うん。

………というか面倒くさい。


「何故……とか聞かないの?」

「話したくないだろ?」

「別にそんなことないんだけど。」

「話したくないならいいよ、話さなくて。」

「人の話聞いてた?!」

「もう着くぞ。」

「ちょっと!!」


バスを降りるとすぐ目の前にあるのが、アリス寮。

外観も内観も普通に綺麗だ。だが、その住人達が濃過ぎる。


それが欠点。


「意外と綺麗。」

「まぁな。」


その代わり、周りになんもないけどな。


草原の中にポツンと隔離されたように建つアリス荘。

その昔、この周りには色んな寮が存在したらしい。だが年々アリス荘の住人の影響を受けていく寮生が増えたらしく、周りの寮が全部立ち退いたらしい。


「まずは管理人の人に挨拶ね。」

「それなら多分庭だな。」


この時間は庭の手入れをしているはず。


「ん?タクヤじゃないか。こんなとこで何してる。おいおい授業をほっぽり出して逢引きかぁ??」


予想通り、三十路過ぎの綺麗なおばさん・豊条シンバさんが庭の手入れをしていた。

普段は頼りになるいい人生の先輩なのだが、酔ったら本当に面倒くさい。というか何故か俺にめっちゃ絡んでくる。


「そんなわけないだろ。迷える子猫ちゃんに救いの手をだなぁ。」

「誰が子猫よ。」

「鬼の間違いだったか??」

「………。」


あれ?今のツッコミどころなんだけど……。


「イチャイチャしてるとこ悪いけど、誰なの??」

「イチャイチャしてません!!」

「新しい入居者だよ。あんた知ってるだろ?」

「ん??………あーーー鬼道アヤネか。」


この人……忘れてたな。

どおりで俺達が何も知らないわけだ。


「とりあえず寮に入るか。」

「は、はい。」


さてと、俺は戻るとするかな。

交番に子猫を届けたし。


「じゃあ俺は帰るわ。」

「えっ……。」

「なんだぁ??こいつがいなきゃ不安なのか??」

「そ、そういわけじゃぁ……。」


それは不安だろうな。

なにせアリス荘なんて呼ばれてるヤバイ寮の管理人なんかと初対面で2人きり。

俺なら帰るな。


「やっぱり残るわ。」

「へーー、あんたが面倒くさい事を断らないなんて珍しい。この子に惚れちゃった??」

「そんなわけないだろ。」


あれだ。人にやられて嫌な事を他の人にしない理論。


「じゃあ行くぞ、まずは管理室だ。」

「う、うん。」

「ほほーん。」


俺が誘導して寮へと入る。が、俺の袖を掴んでもじもじしている鬼道とそれを見てニヤニヤするシンバさん。

やっぱ帰ればよかった。


「タクヤ……この子の事どう思ってるの?」

「なんだいきなり。」

「ほらほら面倒くさがりのタクヤがここまでするなんてー。ひ・と・め・ぼ・れ??」

「あ……あぁ……。」

「なんでお前が慌ててんだよ。」

「だ、だってぇー。」

「おっ実はそっちが惚れてたのか??」

「なっ!」

「冗談だよ。」

「そんな冗談やめて下さい!!」


悪い悪い、と言いながら管理室に入るシンバさん。数分後、鍵と資料を持って出てきた。


「えーと、今から色々確認させてもらうな。簡単な質問だから、あー本人確認的な?」

「は、はぁ。」


8号室に向かいながら質問タイムが始まった。


「名前、年、出身地は……いいや。」

「鬼道アヤネです。年は15です。」


出身地を聞かなかった……。いつも新しい入居者には聞くのに。

まぁ別に気にする所でもないか。


「さて……スリーサイズは?」

「へっ?」

「ん?だからスリーサイズだよ。」

「それはひ、必要な事なんですか……??」

「あぁ、必要だ。必要だとも!!というか重要過ぎる!!」

「え、えぇ……。」


シンバさんは貧乳だ。

だから入ってくる生徒のスリーサイズをとことん気にする。まぁ知ってどうこうするわけではないとだが。


「う、上から…….85,59,82です……。」

「カップは……いくつだ?……ゴクリ。」


ゴ、ゴクリ。


「い、Eカップ……です。」

「か、か、か…….」

「??」

「隠れ巨乳だとぉーーーーー?!?!」

「なっ!!」


まさかの隠れ巨乳属性!!

スリムな体からは考えられない。……これが失われし属性の力か!!


「がはっ!!」

「シンバさん!!しっかりしろ!!」


シンバさんはその場に倒れこむ。なぜか吐血しているように見える。


「タクヤ……後は頼んだ……ぞ。」

「シンバさーーーーーーーーーん!!!!!!」


シンバさんは俺に鍵を託し、廊下で息をーーー

くそっ!!俺がもっとしっかりしていれば!!


「何やってるの?」

「行くぞ、8号室へ!!シンバさんの意思は俺が引き継ぐ!!!」

「あ、ありがと。」


なんのツッコミもないなんて……やってるこっちが恥ずかしくなるだが。


俺はシンバさんを廊下の隅で寝かせ、先に進む。

まぁものの数秒で部屋に着いくのだが。階段を上って

すぐ右にある部屋が8号室。

早速鬼道が入り、俺もお邪魔する。


「綺麗し、広い!!」

「あぁ。アリス荘なんて変な名前で呼ばれてる以外はちゃんとしてんだよ。」

「さっきのでどんなのかはわかった気がする。」

「まだまだ甘いぞ。」

「マジで??」

「あぁ……。1号室の人なんか……」

「私がどうしたのー?」

「なっ、サアヤさん?!」


いつのまにか8号室の玄関には制服に白衣を着た、目の下にクマのある薄い紫色の髪をした女性がいた。

スタイルは良く高身長だが、全身から溢れ出す不健康のオーラによりそれらは全て灰となる。


「だ、誰?」

「1号室の住人、2年の紫童サアヤさん。このアリス荘が誇る最強の変人だ。」

「ふふーん。どうだー。」

「褒められてはないと思いますよ。」

「そんな事はどうでもいいんだー。」


そう言うと変人、もといサアヤさんは俺に近づき俺の腕を取る。

胸の感触が心地よい。

うん、86点。


「タクヤは私のだー。お前には渡さんぞー、この泥棒猫ー。」

「そういうのはもっと感情を込めるべきだ。」

「そういうのは苦手だー。」

「泥棒猫じゃあありません!!」

「言い訳なんか見苦しいぞー。いいかー、タクヤは私のだからなー。」

「どういう関係なの?」

「どういうって言われても……」


アリス荘のペットな……じゃなくて。

まぁサアヤさんは魔術研究家になるのが目標で日夜研究ばっかしている。なので生活面はくだくだ。

そして何故か俺が彼女の世話をしているわけだ。

だから彼女は俺が好きとかではなく、俺に彼女ができたら自分の世話をしてくれないんじゃないかと不安になっているだけなのだ。


「いいかー、こいつはねーおっぱいが好きなんだよー。だからねーそんな粗末な物じゃあーこいつは惹かれないよー。」

「えっ?!」


そんな目でこっちを見るな。(まぁおっぱいは好きなのは間違いないが……)

まぁこの人はそこそこデカイ。

だからここまで威張るのだが、相手が悪かったな。


「わかったらさっさと……うん?」

「何か?」

「いやーまさかー。そんなわけー。それっ!一揉みー!!!」

「ひゃっん!!」

「こ、これは!!!!!」

「甘かったなサアヤさん。大きさにさほどの差はないが……属性が違ったな。」

「か、隠れ巨乳だと……。」


オープンおっぱいに隠れ巨乳は効果抜群だ!!

サアヤさんはおっぱいをただの脂肪の塊、赤ん坊にご飯を与えるための器官にぐらいにしか思っていない。

だから今のように谷間に俺の腕を埋めようが、俺が揉もうがなんとも思わない。


だが、そんなオープンおっぱいとは真逆の存在。

隠れ巨乳は大きさもさることながら、慎ましく隠すという純情さがにじみ出る。

そこが男には響く。


(全て自論。)


「そ、そんな隠し球があったなんてー。」

「別に隠してるわけじゃあ……。」

「今日の所は見逃してやるー。う、うわぁぁぁーーーーーーーーん!!!!!!」


泣き叫びながらサアヤさんは一階の自室へ走り去って行った。どうせ今日の夜にはケロッとしてるだろうけどな。


「な、なんだったの……。」

「この数分で2人も打ち負かすなんて……なんておっぱいなんだ。伝説級だな。」

「あ、あんまりジロジロ見ないで。殺すわよ。」

「伝説の双頭、破滅の象徴。二つ名は何がいい?」

「セクハラで訴えるわよ。」

「それは勘弁してくれ。面倒くさい。」

「そっ。」


鬼道は窓を開けて小さなベランダに出る。

何処か遠くを見つめて、何かを呟いていた。なにを呟いたかはわからないが彼女の顔から哀愁が漂う。


「私ここでやってけるかな?」


彼女は1人だ。

率直にそう思った。

靡く髪が、後ろから射す光が、彼女の眼が。

孤独さを訴えてくる。


「さぁな。」


だがここは変人の巣窟。

どんな奴さえも受け入れる馬鹿たちの集まりだ。


「でも俺達はお前を歓迎する。」


俺は手を差し出す。


「ありがと。これからよろしく。」


深く握手をし、彼女はニコリと笑う。


「ようこそ。不思議な馬鹿たちが集う寮、アリス荘へ。」



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