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首ったけ

お泊まり。今自分で反復しても甘美な言葉だ。


これまでの人生、お泊まりなんてガキの頃親戚のばあちゃんの家でしかしたこと無いのに。


「どうしたんですか? タカヒロさん。顔真っ赤ですよ?」


夜の十時をまわり、桜ちゃんと隣り合ってソファに座る。こんな時間帯に、好きな子の隣に居る。時間がこうも違うだけでこんなロマンチックな雰囲気を味わえるものなのか。


「こんな遅い時間に、君の隣に居るとドキドキしてくる。君は?」

「私は嬉しいです♪ これで寂しくはありません。昨日はお気に入りのテディベアを抱いてるしか無かったのに」


嬉しい事を言ってくれる。


今日、桜ちゃんの家に泊まる為に口裏合わせてくれるようになったユウジにも感謝しなければ。

最初頼んだ時は、『お前のノロケの為に俺のプライベートを男同士のお泊まり、って言うむさ苦しい事にするのか!?』と文句を言われたが、何だかんだで頼みを聞いてくれた。


今度ラーメンでも奢ってやろう。これからも口裏合わせを頼む事になるだろうし。


「それで、何の映画を観るんですか?」


そうだった。昼間引ったくりに襲われて台無しになってしまったから、その埋め合わせに本当に映画を観ることに。部屋を暗くして部屋のDVDプレーヤーにディスクを入れ再生する。


「何の映画ですか?」

「ドラキュラ映画さ。ポップコーンを食べる事を忘れる程見入れるよ」


ドラキュラ映画なんて古いし、ベタか? いや、だからこそ変わらない面白さがあるだろうし、それに恋愛映画のDVDなんて持っていない。


「あ、白鳥の湖。この曲弾けますよ」


ドラキュラ映画なのにオープニングに流れる曲は白鳥の湖。この映画何十回も見てるからお陰で音楽の授業の筆記で知っている曲を書け、と問題を出されたら白鳥の湖が真っ先に出てくるようになっちまった。


このドラキュラ映画はそんなに長くは無い。霧の出る森に迷い混んだカップルがその森の中にあった古ぼけた洋館にたどり着く。その洋館にはドラキュラ伯爵が住んでいて、カップルの女の方がドラキュラ伯爵に目を付けられる。そんな内容だ。


「はぁ……」


隣から聞こえてくる色っぽい声。ドラキュラ伯爵が女の首筋に牙をたてて血を吸うシーンに見とれて両手で口を押さえ、しかし頬を赤く染め、恥ずかしい意味で見てはいけない物を見てしまった。と言いたげな反応をしていた。


このシーンやたら官能的なんだよな。別にこのシーンが好きで今まで見てきた訳じゃ無いけど。ドラキュラ役の俳優は好物にしゃぶりつくような感じだし、女優は顔が果てている感じだし。演技が官能的に見せているだけかも。


そして最後、離れ離れになっていたカップルの男の方が、ドラキュラ伯爵の心臓に杭をたてトドメを刺す。ドラキュラ伯爵は塵になって消えていきカップルは洋館を抜け出してハッピーエンド……と思いきや女の口には牙が……という所で話は終わる。


「最後、ドラキュラさん死んでしまいました……洋館で一人寂しそうだったのに……」


桜ちゃんは完全にドラキュラ伯爵に感情移入してしまったようだ。どうやら今まで一人で家で過ごしてきた部分とダブらせたらしい。


ドラキュラ伯爵は一人だった。……そして俺も一人だ。この時代に家族が居ても、ユウジが居ても、桜ちゃんが居ても……ここにいるのは十七歳の俺じゃない。二十八歳の俺なんだ。


今でも思う。これは夢の中の話であったら……

今、思い返すぐらいなら別の映画にしておけば良かった。


「タカヒロさん、一つお願いして良いですか?」


お願い? 一体何だろう?


「私の、首筋に後を残してくれませんか? ドラキュラさんを見てるとなぜか胸が熱く、そして寂しくなってきました」

「……今日は止まっていくから寂しくは無いだろう?」


それに首筋に跡って……それだけで変な想像が出てくるのは男の悲しい性か。


「それでもお願いします。明日の朝にはタカヒロさんは帰ってしまいます」


そう、家に帰らないと親に変な心配をかけちまうからな。それにユウジとの口裏が合わなくなる。

あいつ、明日は朝から用事があるって言ってたから家に帰らないと。


「本当は明日もずっと一緒に居たいです。でもタカヒロさんにも事情はありますから引き留める事は出来ません」


寂しくならない為に、何か跡を残してくれか……


「……女よ、私に血を捧げろ」


気取ってドラキュラ伯爵の台詞を言ってみる。実際は血じゃ無いし、残るのは牙をたてた二つの傷でもない。


桜ちゃんは抵抗する事なく、首を少し傾け首筋を見せる。そしてゆっくりと彼女の首筋に吸い付いた……




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