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引ったくりを追え!

それは休日の日だった。


桜ちゃんからデートのお誘い。

と、言っても実際にしたことは日用品の買い物だった。


初めてのデートって考えれば、一緒に映画を観に行ったりとか遊園地に行ったりとか。……これぐらいしか思い付かないなんてアイディアが貧相だな俺は。


でも考えようによっては、一緒に食材とか、新しいエプロンとかを買うなんて新婚さんみたいだ。そして今は小物売り場でマグカップを一緒に見ている。


「さっき歯磨きブラシ二つ買ったけど、マグカップも二つ選ぶの?」

「はい、一つはタカヒロ君の分です♪」

「ひょっとして俺へのプレゼント?」

「はい! でもこれは家に置いておくんです。家にあればいつでもお泊まりに来れますよ♪」


お泊まり! 良い言葉だ。初めて彼女の家に呼ばれて以降、毎日彼女の家に寄っているが夜の八時ぐらいには家に帰ってる。お泊まりか、その暁には夜更かしして……ごろごろしたい。


「いつ、お泊まりに行けば良い? 明日?」

「明日なんて待ちきれません。今日からでも良いですよ?」


挑発するような笑顔が少し恐ろしくもあり、官能的でもある。すっかり悪い子だ。買い物を済ませショッピングモールを出て歩きながら話を続ける。


「だったら俺も色々と用意しないと。映画のDVDとか、ポップコーンとか」

「映画好きなんですか?」


ちょっと古い映画が好きだ。ガキの頃から親父が持っていたビデオをずっと見てた。それしか見るものが無かったから……


「ホラー映画なんてどう? 夜遅くに見ると雰囲気出るぞ?」

「それなら怖くても大丈夫なように腕を掴まないと…」


腕を掴みながらか。ロマンチックだ。おっと考えたらヨダレが……


「きゃ!」


突然、桜ちゃんから悲鳴が飛び出し慌てて彼女を見る。


「どうしたの!?」

「誰かにぶつかって……」


周りをよく見ると、一人だけ俺達に背を向けて走り去る奴が一人。あいつ桜ちゃんにぶつかっておいて謝りも無しか?ヒドイ奴だ。


「あっ! ……どうしましょう」


また桜ちゃんが困ったような声を出す。


「今度はどうしたの?」

「鞄がありません! どうしましょう!? 財布とか入ってるのに……」


……何だって!?


まさか、と思いさっきぶつかった男を見るとその手には桜ちゃんの鞄が握られていた。引ったくりか。最初からこの辺でカモを狙ってたなあいつ。


引ったくりの男はバイクに乗り込みその場から走り去る。道路を走る車の合間を縫ってクラクションが鳴り響く道路を走り去っていく。


「捕まえてやる!」

「えっ!?タカヒロさんどうやって!?」


ちょうど俺の側を通った引っ越し業者のトラックが目に入る。そのトラックを全速力で追いかけ、コンテナ部分の開閉ドアの取っ手に捕まり走るトラックにしがみつく。


一方のバイクは、赤信号に捕まって前に進む事が出来ずにいた。バカな奴だ、逃げてるってのに律儀に信号を守りやがって。


しかしこのままでは間に合わないと考えトラックから手を放し、道行く他の車の屋根やボンネットを足場にして渡っていく。

クラクションが煩いが、気にしている暇はない。信号が青に変わり、走り去ろうとするバイクの側まで渡り、バイクの後部席に飛び乗った。


「おっ、お前どうやって追い付いたんだ!?」

「アスレチックをやったんだよ!」


引ったくりはさぞや驚いただろうに。後ろからバイクのハンドルを握り強引に道の端に寄せる。

そして引ったくりをバイクから引きずり下ろし、パンチを一発お見舞いした。


「引ったくった鞄を返しな!」

「クソッ、お前正気か!?」


引ったくりなんぞに正気か!? なんて言われたくない。鞄を強引に腕から奪い取り、警察を呼ぼうと携帯を取り出すが……


「はぁ、はぁ、はぁ……タカヒロさん大丈夫ですか!?」


走って追ってきたのか桜ちゃんが息を切らしながら寄ってくる。


「桜ちゃん?」

「どけよ! あばよ!」


一瞬桜ちゃんに気を取られた隙に引ったくりから殴り飛ばされてしまい、再びバイクに乗って走り去られてしまった。


「痛って……野郎逃げやがって……」

「タカヒロさん! 痛く無いですか?」

「大丈夫、鞄は取り返したから……」


桜ちゃんに鞄を返し、彼女の手を借りて立ち上がる。


「トラックにしがみつくなんて……無茶をしないでください。見ててハラハラしました」

「無茶は専売特許だ。六トントラックと正面衝突でもしない限りは……大丈夫さ」


俺は桜ちゃんの為なら何だってやる。盗まれた物があるなら、地獄の底まで追いかけて取り返すさ。




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