スキルチェック
『鑑定』スキルがあればこういう場面でイカサマを未然に見分けられるのかも知れないとルトアに教わる。
『鑑定』って便利だな……いずれSPが貯まれば取得出来るのかな?
淡い期待をしておくことにした。
ルトアとは一度別れ、時間差で入ってきてもらう。
その際、俺は所持金の大半をルトアへと預けさせてもらった。
合図を出したら合流するように伝えてある。
後は流れでごっつぁんです。
俺の運が悪ければもしかすると予想通りに流れは動くかもしれない。
ルトアにはカジノの中で他人のフリをしてもらうことに徹してもらう約束もした。
ルトアにこれ以上俺の我が儘で振り回して迷惑をかけるのは避けなくちゃね。
そういえば約束をしたとき、カチッと音がどこからかしたけれどなんだったんだろう?
こんど物知りルトア様に聞くとしよう。
スキルと称号を今一度見直してみる。
―――
≪所持スキル≫
経験値取得大幅低下(呪)
幸運値破棄(呪)
被ダメージ倍加(呪)
自然治癒力低下(呪)
バフ無効(呪)
デバフ倍加(呪)
方向音痴(呪)
ヘイト一極集中(呪)
痛覚倍加(呪)
睡眠障害(呪)
破壊衝動(呪)
闇魔法
悪運
不運
≪称号≫
異世界からの転生者
黒炎龍の呪詛
疫病神の寵愛
貧乏神の寵愛
死神の寵愛
―――
いつ見ても酷い。
鑑定があればスキルや称号に関する効果の詳細が把握できるらしい。
現状は取り合えず身をもって不幸を体験するしかないか……
合法の賭博場は国の機関の『鑑定』持ちが抜き打ちで立入検査を定期的に実施しているらしい。
過去に摘発を受けた賭博場は営業停止処分で軒並み潰れたらしく、生き延びたここのカジノ『ヘブンズゲート』がこの国最大規模のカジノとして君臨しているらしい。
「ほぼ通い詰めているワシが言うんじゃから、イカサマは無いぞ。鑑定スキルはないから確証はないがの。ホッホッホ」
先ほどから隣にいるドワーフのおじさんが教えてくれているのだ。
ヒゲもじゃだし、たぶんおじさんだと思うけどおにいさんだったらごめんね。
この客であるドワーフは一度も勝てなくて負け続けている俺の隣に偶々いて「近年稀に見るほど運の無い男だな」と言い、呆れた顔で話しかけてきた。
好きで負けているんじゃないんだけど!
初めてカジノに来たことを話すとこのルーレットでの定石や他のギャンブルのルールや手解き、心構えを教えてくれた。
「決して焦らないことじゃ、焦りは隙を作り、隙間から運が流れていくからの」
なんて上手い事を言う。
オヤジギャグを言うのだからおじさんで確定だ。
「後はあまり勝ちすぎない事じゃな、ワシはいつも銅貨50枚を越えて勝った時点で止めておる。それを毎日じゃ、嫌でもお金が増えるぞい」
パン1個が銅貨1枚と考えると銅貨50枚――およそパン50個。
とんだパン好きおじさんだ。
脳内で勝手にパン祭りを開催していると資金が底を尽きそうだった。
被害を少なくする為ほぼ最小限のチップを賭けてはいるものの、ルーレットの赤か黒に賭けて今は30連敗している。
資金がそろそろ底が見えてきた。
最後の勝負が来たようだ。
ウンと伸びをする、これが合図だ。
暫くするとルトアが隣に入ってくる。
「お隣に入れさせて頂いてもかまいませんか?」
ルトアはドワーフのおじさんに話かける。
「喜んで。美人が隣に来るとは、ツキがきたかもしれんわい」
ドワーフおじさんはヒゲをもじゃもじゃさせながら上機嫌でチップをどこに置こうか悩んでいる。
「お隣さん、僕はこの勝負を最後にします。色々お世話になりました」
「うむ、ワシは何もしとらんよ。」
「良ければ、僕と勝負しませんか?」
「ほほぉう、勝負とな?取り合えず話だけは聞くけれども」
「私が賭けるものとは別の場所に賭けるだけです」
「ホッホッホ!言われなくても今回はそのつもりで賭けようとしたところじゃよ」
「そして勝っても負けても相手を褒めるって勝負です」
「それはまた退屈しなさそうじゃ」
そう言って俺は赤と黒の両方に全財産のチップ2つを半分ずつ賭ける。
「これではワシは負けてしまうのう……まあぁよいか」
ドワーフのおじさんは赤でも黒でも無い場所にチップを置く。
「お隣さん、僕は手持ちのチップを全て賭けています。そちらも全てのチップを賭けるべきでは?」
「何とも戯けた事を申すものじゃ。しかし気に入ったぞ、ワシの全チップを賭けてやろう」
「お隣さん、僕のこのチップは全財産です。もう一度言いますが勝負をしませんか?」
「ホッホッホッホッホ!!!銅貨数枚とワシの全財産が同じ価値なら話に乗らなくもないがのぅ。それはさすがに無理じゃな」
ルトアがチップを上限額まで乗せてドワーフおじさんの乗せたチップの隣に置く。
「あら、偶然ですわね。ご一緒させていただきますわ」
ルトアがニッコリと微笑むとドワーフのおじさんは自分の置いたチップとルトアが置いたチップとルトアを交互に見たあと、「勝負の女神様がついてるみたいじゃからな」と言ってチップを上限額まで足していった。
「これで僕が負けたら、――二度とカジノには来ないでしょう」
―――結果は俺の負けだった。
しかし俺は試合に負けて勝負に勝ったのだ。
ドワーフのおじさんは「お前は本当に運が無いのう……早々に見切りがつける事が出来て幸いと考える事じゃな。」と悟らせてくれた。
確かに二度とギャンブルには手を出さないと誓う。
俺1人ではだけれども。
カチッと聞いたことのある音がどこかで聞こえたが気のせいだろうか。
「して?何故にそれほどまで負け続けているのに、感情をあらわにしなかったのじゃ?」
「え?かなりショックを受けていますよ、ポーカーフェイスもままならないですし」
顔は表示で見えていないが倦怠感は隠せない。
「あぁ伝え方が悪かったわい。ギャンブルの表情というのは負け続けるとチップの数が増えて変わるものじゃ、しかしお前さんは試すように最小限のチップしか使わなかったからの。不気味だったんじゃ」
「初めて来たので長く遊びたかったんですよ。ビギナーズアンラックでしたけど」
「そうかいそうかい。これは餞別じゃ、お前さんには稼がせてもらったからのう」
そう言って銀貨1枚分のチップを渡してくる。
「受け取れません……と言いたいところですが、なにぶん文無しなので、ありがたく頂戴させていただきます。ありがとうございました。色々と勉強になり教訓とさせてもらいます」
「うむ、不運であることは嫌いになってもカジノのことは嫌いにならないでくださいのう。ワシはほぼ毎日ここにおる、たまにでいいのでまた話相手になっておくれ」
そう言われたので頷き、俺は帰るために立ち上がる。
「それはそうとワシの勝利の女神よ、良ければ今夜ディナーでも……あれ?いなくなってる?」
「僕と喋ってる間に帰られたみたいですね」
「そんなぁ……最後の最後にツキが離れていきおったわい」
そう言って二人で笑ったあと俺はカジノを後にした。
家に帰り扉を開くとルトアは机の上に貨幣を綺麗に並べて待っていた。
「どうも、――勝利の女神です」
勝利の女神は机に頬をつきながら笑っていた。
互いに笑いあってから俺は貨幣を数える。
どうやら最後にツキがまわってきて勝利の女神に微笑まれたのは、俺のところだったみたいだ。