肩の荷を下ろす
「慌しかった喧騒が嘘のように消えてしまった」
7つの国の王子の問題、魔物の暴走、国に侵入した竜、全ての問題を知らん振りして逃げてきた。
「勝手に召喚された挙句、命をかけて戦えなどとあまりに自分勝手ではないか。そんなものの奴等など放っておけばよいのだ」
「あぁ、いやまぁ。仰るとおりですはい」
確かにそんなことをする義理はないのだ。
多少金品等は受け取ったが釣り合えないほど迷惑していることだし。
「それでどうしよう?そなたが良いのなら、今からこれから住む家を買いに行く予定なのだけれど。付いてきてはもらえぬか?」
俺は二つ返事で了承した。
流石にいきなり一人で知らない世界に裸でうろつくのは恐い。
「自己紹介が遅れたけど。テスカだ、よろしく頼むよ」
「ようやくか。別にいいけど。私はルトア。テスカが多重結界を破ったお蔭で城から初めて抜け出すことができた、礼を言う」
そう言って頭を下げる。
長い銀髪が床に触れそうになっていた。
両耳の上に付いている角が剥き出しになる。
「多重結界?なんのことかイマイチわからないのでお礼は受け取れませんよ、ルトア……様?ルトアさん?ルトアちゃん?」
「ルトアでいい。あと今後の為に敬語も使わないでくれるとありがたいのだけれども」
「じゃぁこっちも敬語はいらないです……テスカ、敬語、イラナイ」
「はははっ、テスカは蛮族語が上手いな」
目が笑っていなかったのであんまり馬鹿なことはしないでおこうと心に決めた。
「この国には何度か来た事はあるのか?」
「いや、来た事は無い。昔、内緒で知り合いの冒険者から転移石を譲ってもらっていてな。一度きりだがここに来る事ができると聞いていたので多重結界から出られたら使おうと思っていた。この国は魔王城とは別の国だな。かなり遠い所に来たものだよ」
「ルトアってお城の中じゃ結構上の立場の人だったりするんじゃないか?」
「レディーは秘密が増える分だけ美人になるらしい」
教えてくれないそうだ。
「私はフードと隠蔽の呪文で角を隠すからいいとして、問題はテスカの服装だな。その鎧は目立ちすぎているので私服も何着か見繕わなければな」
宿屋の一室らしい場所から出て、商店街に行き、服や生活必需品を揃えていった。
大体の値段の相場を学べたのでありがたかった。
鎧が目立つので服を買ってもらうまで路地裏で待機していた。
顔の上半分が隠れる仮面も買ってくれていたのでそれも付ける様にする。
来ていた鎧はアイテムボックスへ収納していった。
家を買いに行く途中に昼食を挟む、この世界の食べ物は今まで食べたことの無い味がして楽しかった。
耳くそ味のグミなんて初めて食べた……
家を選ぶ最中にルトア一つの家に注目していた、するとルトアは悪戯な顔をして言う。
「テスカはこの家でよかったか?」
「え?俺が住むわけでも買うわけでもないし、正直どっちでもいいけど。街中に近いと便利だとは思う」
家は小さいながらも一軒家で場所もほぼ町の中心部よりなので、利便性が高く何をするにも使い勝手が良い。
「テスカも同じ家に住むのだからそういった意見はもっと欲しいな」
「いつ一緒に住むことが決まってたっけ?」
「私の話し相手になるのと少しの条件付なのだが家賃なしで住めるぞ?」
「よろしくお願いいたしますルトア様ァ!」
「ふふっ。テスカは現金な奴だな」
家を買うのも即断即決で決まり、今俺はその家で荷解きを手伝っている。
ルトアは淡々と荷解きをし、家具の配置を決めている。
ルトアもアイテムボックス持ちなのかと聞いてみるとそういった者達はそこそこいるらしい。
荷解きの際、沢山の書物が出てきたのでそれを読んでしまう。
文字は日本語ではないのだけれどスラスラと読めてしまった。
数多くのジャンルがあったのでまた後で見せてもらうことにする。
特に歴史とかは気になってはいるのでいつか読みたい。
「次はそうだな、冒険者ギルドへ行ってみよう。テスカも行って身分証の代わりになる冒険者カードを作ってもらうことにしようか。ついでに私のも作ってもらおう」
「冒険者ギルド?そんなものもあるのか、ならカードを作ったら初任務で何かチャレンジしてみたいな」
のんきなことを考えながら冒険者ギルドへと向かった。