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呪詛の解放者  作者: 三脚 巴
0章 Player1 暗黒騎士テスカ
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嘘から出た実

 小生、もとい俺は一先ず膝を折り、伏せの状態になる。両手を前に出し、首だけ少し上げる。


 負け戦の撤退戦だ!誰がどう見ても土下座の姿勢をとる。今世紀最大のピンチを迎えていた。


「申し訳ございませんでした!――なんでもしますから許してください!!後生ですので!!!」


 後生が異世界だから生きてるうちに善処させていただきますので何卒ご容赦のほどを!!


 頭を思いっきり大理石の床に打ち付ける、打ち付けて血が出たのか少し落ち着くことだできた。

 いやできてはいないが。

 龍のあれこれを忘れるくらいには冷静になっている。

 今は絶望より羞恥心のほうが高いとかもう基本的に自分はポジティブなのかもしれない。


「面を上げよ、悪いようにはせぬゆえ。――でも先に服は着て欲しいかな」


 この女性、両手で顔を隠してはいるものの、指の隙間からガン見しているのやめてほしい。

 マントをすばやく体に巻きつける。

 さながら古代ローマのトーガという服装もどきの完成だ。


「よもや男性の裸体をいきなり拝む事になろうとは思わなんだ」


「すみません、誰かいるとは知らなかったものでしたから……」


 しまった、この言い訳だとまるで誰もいなければ全裸になる奴だと捉えられてしまう。

 ちゃうんですー、鎧の中が裸だったのも知らなかったんですー!

 いや今にして思うと自分でも全裸になるのは可笑しい。(冷静)

 気が動転していたって事でFA。


「いや、よい。眼福であっ……して、そなたは異世界からやってきた者かな?」


 聞き捨てならない台詞が飛び交った気もするが、敢えて触れないようにスルーする。

 触らぬ女神に何とやら。


「え?はい、そうですけど。どうしてわかったんですか?」(IQ3並の疑問)


「この城に入ってくる人族は勇者かその仲間しかおらぬし、本日に勇者召還の儀式を行うと知らせがあったのでな」


「あぁー、なるほど。でもとてもじゃないですが勇者ではないですし、なれそうにもありませんね」(IQ3並の回答回答)


「そうか?そなたが召還されてからこの水晶でそなたの事を覗いておったが、とても流暢にそして淡々と世界を救おうとしておったではないか?」


 そういって枕元にボウリングくらい大きさのある水晶玉があることに気付く。というか見られていたのか、恥ずかしすぎて頭が沸騰しそう。


「お恥ずかしながら、いきなりでしたのでノリに乗ってしまったというか。はい正直に言います調子乗ってました自分かっこよく見られたいかつバリバリのウケ狙いで演じてしまいましたLv.1のくせに生意気な発言繰り返し連呼してましたァ!」


 何度も腰を90度に曲げて平謝りする。


「で?そなたはこれからどうするつもりじゃ?幸い私にしか素顔を見られていないのだから、どうとでもできるといえばできるな」


「これからですか……」


 今の気持ちはもうどうにでもな〜れ☆ミです。

 あんまりピンとこないな、まだ頭の中が整理できていないのが正直な話しだし。

 とりま、元いた世界に定時退社キメていいっすか?

 ……なんて魔王様に逆らえる発言が言えるはずもなく。


 うん、そうだな、有る事無い事適当に出まかせ発言してみよう。

 もはや何も失うものはあるまい。


「あまりにも急に話が早く進むので、とりあえずですけど。こんなヘタレクソザコヒューマンに世界は救えそうに無いですし、次の勇者さんに任せますはい。痛いのとか本当苦手なので無理です。そんなことよりせっかく異世界に来てるなら旅行感覚で色々な国や都市、街にでも観光に行って文化に触れ、この世界の歴史も学んでみたいです。特産品や食事とか他の娯楽も一通り体験してみたいですね。元の世界で体験できないような文化が違うって感覚に触れたいです。まぁ安全第一でですけど。最終的には異世界は良いところだったなぁ〜って感覚を保ったまま土産話を持って元いた世界に帰れれば幸せですかね」


「ふむそうか、そうか」


 話しながら考えて思いついた無難な言葉を並べただけの意味を持たない発言だ。

 ウップス、嘘をつく時も早口になってしまうきらいがあるの忘れていたでござるぞ。

 バレてないかな?


 女性はにこやかに微笑み立ち上がる。

 一瞬ふらついたと思ったので手をとり体を支える。


「ふふ、すまんな。久方振りの歩行ゆえな」


 わかるわかる、連休中ずっとゲームしててご飯やトイレで立ち上がるとき身体の節々が悲鳴を上げたりするよね。


「出かけるために着替えるゆえな、主はその鎧を纏うのじゃ。あとこちらが呼ぶまで振り返らないでくださいませ」


 指示に従い手惑いながらも鎧を装着していく、もちろん鎧の中は葉っぱ一枚すらないマッパだ。

 頭の装備を付けようとしたところ、着替えが終わったのか女性が近づいてくる。


「片膝を床につけてくれませんか?」


 いわれたまま片膝をつくと俺の頭装備をつけてくれた。


「とりあえず、そなたは私以外に素顔を見せてはいけませんので。注意なさってください」


 え?なんでだろ?

 とりあえず生返事を返すと機嫌が良くなったのか微笑み返してくれた。


「それでは、私の手をとってくれますか?」


 言われるがままスッと手を取らさせていただいた。

 女の子の手って小さいんだなと思った瞬間、乗り物酔いの感覚がした。

 部屋の景色が微睡み歪んでゆく……




 そしてまたゆっくりと景色が戻ってゆく、戻っていくのだがその景色は全くもって違っていた。


「さて、着いたか。――初めての家出にしては上出来だな」


 屈託のない笑みで笑う女性に何も言う気になれなくなってしまった。

 ここがどこなのかすら聞くのを躊躇った。

 まるっきり内装が違う、さっきまでは豪華で煌びやかなスイートルームで今はどこかのビジネスホテルみたいな……

 窓から下を見下ろすと長く商店街が続いていた。

 そして打って変わったように魔族だけでなく普通の人達や獣人や竜人等々たくさんの人で賑わっていた。


「なんでもするって言ったからには、あなた様の気の済むまで付き合わさせていただきますよ」


 内心、ワクワクしていたのは内緒だ。

 魔王城で感じていた張り詰めるピリピリした空気が払拭されたからだ。


 先程までは嘘で語った夢物語が急に現実味を帯びてきた。


 これから訪れるであろう不思議で夢のような体験に期待している自分がそこにいた。




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