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呪詛の解放者  作者: 三脚 巴
0章 Player1 暗黒騎士テスカ
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裸の勇者様

 扉を通ると待っていたかのように魔族のコスプレをした人たちが一斉に集まってくる。


 ようやく開放されるでござる。

 いやはや、手の込んだドッキリ企画ものでござったな。


 もの凄い形相で小生の脇を通り、謁見の間へと入っていった。

 おんやー?どういうことにござるか?

 入ってきたものたちは魔王様の前に跪くと息を切らす、周りのおじいちゃんズが声を上げ抗議する。


「なんたることかっ!無礼であるぞ!身を弁えよ!」


 魔王様の手がその抗議をさえぎる。


「よい。伝令よ、緊急の用件なのだろう?申してみよ」


 伝令と呼ばれた者は跪いており、顔を上げ伝える。

 其の顔には焦りと不安があった。


「はっ!東にある迷宮にて、魔物の暴走スタンピードを確認、進行方向から――我がメソ国に到着するまで半時間かと!!次に龍がこの国に入り暴れているとの報告があります」


「なんだと!?恐れていたことが何故こうも立て続けに起こるのだ……」


 少しよろめいた魔王様を支えるようにおじいちゃんズがより集う。

 嫌な予感がするでありますな。


 というかドッキリはまだ続いているのでござるか?

 もしかして夢でも見ているのでござろうか?

 頬を抓ろうとしたが鎧を頭まで装備していることを忘れていてコツンと音を鳴らす。


 其の音に反応したのかエクリトア嬢がこちらを一瞥し魔王に進言する。


「魔王様、我々も防衛に尽力させていただきたいです。テスカ様、申し訳ありませんがその身に宿る力を我等に手をお貸しくださいませ」


 あ、もう決定なのでござるね。

 もうちょっとだけ続くんでござるな。

 でも少し考えてみるでござるよ、小生のようなザコにでも戦力と考えてくださっているエクトリア嬢の気持ちを。

 例え其れが脚本だとしても、麗しい女性の願いを無碍に断ると男が廃るでござる。

 

 きっと敵が出てきてもすぐ倒せるに決まっているでござる。

 そういう筋書きなんでござろう。

 こうハリボテ的な敵が出てくるサムシングでござろう。

 小生は軽く頷くと魔王様が声をかける。


「面倒をかける、勇者テスカよ。早急に馬等の用意させよう。我々も状況を整理し防衛と魔物の鎮圧に赴くとする」


 魔王様はそう言うと奥に下がっていった。

 でも魔族って魔物に襲われるものなのでござるな、てっきり使役しているのかと思っていたでござるが。

 なんというか、親近感が沸くにござるな。


 して、今から魔物退治イベントでござるか。

 そういって視線を廊下に向けると窓から光が漏れていた。

 可笑しいでござるな、確か夜だったはず?

 窓から外の景色を眺めていると唖然とした。


 どこかの外国のような町並み、見たことのない独特な建築物、空を飛ぶ龍、空に浮かぶ月よりも大きい2つの星。

 日は高く、見知った夜の町並みはそこにはなかった。

 本当にここはお城でここから見える景色はさしずめ城下町といったところか。


 あいやー、VRのゲームの世界だったのかもしれないでござるか?

 進化しているでござるなぁ。

 そう自分に言い聞かせるように深く念じた、ここは空想の世界なのだと。

 早く目が覚めて欲しいと。

 城下町のはずれに見える山のほうから煙が上がっていて何かが近づいている気配がした。


 「テスカ様?どちらへ行かれるのでありますか?」




 エクリトア嬢の声が聞こえてたが、走らずにはいられなかった。


 窓からこの世界を見たとき、この城の庭に降り立った龍が魔族を襲っていた。

 尻尾で吹き飛ばされた兵士らしき者が壁に激突し、身体中から鮮血を噴き出していた。


 ――ただ単純に死の恐怖を覚えた。


 血の気が引くのを全身で感じる。

 ここから逃げなくては、死んでしまう。

 隠れなければ。

 どこか違うところへ。



 入り組んだ城内を駆け巡るようにして、幾度曲がったか忘れるくらい走った。

 城内に龍が入り込んだからだろうか、すれ違う城内の兵士は小生とは真逆に進んでいく。


 走り疲れ、立ち止まるとそこは行き止まりで小さな扉があった。

 あたりには誰もいない。外の喧騒も嘘のように聞こえなかった。

 身を潜めようと其の扉を触れたとき、バチッっと電気が走った気がしたが何事もなく開いたので中に入った。


 部屋の中の様子を見るまもなく隅に身を屈める事にした。

 惨劇がフラッシュバックし、過呼吸が止まらなくなる。

 動悸も激しくて辛い。



 昔に起こった悲惨な事故の記憶が鮮明に甦る。

 その事故で巻き込まれたのはあの時たった一人の家族である弟だった。

 それが先ほどの血まみれの兵士と重なり、トラウマが蘇る。


 息苦しい。

 頭の装備を外すとだいぶ呼吸が楽になった。

 重たかった装備もはずすことにした。

 軽い素材で作っていたはずなのに、金属が擦れる様な音を立てていた。

 鎧の中へは裸で入っていたらしい。


 身が軽くなったのか、何の負荷も感じない。

 どことなく心も軽くなった気がした。

 開放している、主に下半身が。

 生まれた時の清々しい姿で解放された小生は落ち着くことができた。

 同時に余裕も生まれる。



 「おちんちんびろーん」



 まだ思慮は欠け、冷静さを失っていた。

 普段ならこんな事(知らない屋敷で全裸でイチモツを広げるなど)はしないでござる。

 正気はまだ失ったままだった。


 気づくと目の前には大きな姿見が置いていた。

 その鏡に映る人物は自分ではなかった。


 しかし自分と同じように全裸でイチモツを広げている……


 いや、そんな偶然などあるわけ無い。


 小生が腰をクイッと動かすと鏡に映る人物も腰を動かす。


 まごう事なき自分の間抜けな姿であった。


 にもかかわらず自分と思わしき知らない顔の人物が映っているのである。

 小生の実の身体と背丈が似ているその人物は、まるっきり他人の身体をしていた。

 

「なんだこれ?どうなっているんだ?」


 声も違う、髪の色も目の色も、体格はまるっきり違っていた。

 頬を抓ると痛みは感じる。

 夢ではないらしい。

 悪夢はまだ続いていたのだ。


 ようやく頭も冷静になり、玉もヒュンと縮こまる。

 他人の身体で全裸腰フリという訳の分からない行為に反省する。

 一歩間違えばこの人の人生が終わってしまうでござる。


「お前は誰だ?」


 自分の顔らしい人物はそう鏡に呟いていた。



「おや、礼儀を知らないらしいわね。まぁノックもせずに入ってきては、淑女の前で裸になる者に何を言っても無駄でしょうけど」


 振り返ると豪華なベットの上に上半身だけ身体を起こし、手で顔を覆った女性がそう声をかけてきた。


 大胆に開いた指の隙間から見えるその姿は、絶世の美女といえる美貌の持ち主だった。

 目と目が合い、数秒間見詰め合ってしまう。




 ――俺はゆっくりと両手で股間を隠した。

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