バットステータス
『世界の平和を望むのか?なら其の日が訪れるまで――私は戦い続けよう!』
小生がそう言って爆笑を誘う。
視界も戻ってきたのか徐々に全体像が――うん?
『私の名はテスカ!暗黒炎龍騎士テスカ……なんですけど……おんやーw?(フヌスヌゥ』
高級そうな赤い絨毯なんて敷いてあったでござるか?
そもそも甲冑を着た人達が膝を付いて頭を垂れている異様な光景が目前に広がっているであります。
その先には玉座?
ちょっとまって?
ここは何処でござるか?
マスターの店でありましたよな?
んんん〜?
「皆の者!聞いたか!勇者である暗黒炎龍騎士テスカはこの地に平和と福音を齎すであろう!!」
いかにも王様なおじ様がすぐ傍にいたことにも気づかなかったでござる。
ドラマか何かの撮影でござるか?
後ろを振り向くとトイレのドアは無く、西洋にあるお城の謁見の間のような場所にいることに気づく。
はは~ん。これは新手の凝ったドッキリでござるな?
確かクルワ殿は海外にもいくつか別荘があるボンボンというのを本人から聞いたことがありますな。
彼なら財力でトイレごと移動させてあらかじめ演劇の方たちとこのセットを用意していたとしても可笑しくは無いでありますな。
ここは大人しくノリに乗るのが大人の判断ってやつであります!
「どれ、まずはステータスを開いて見せるのじゃ。念じるだけでよいぞ」
ステータス?
豪く凝っている。
念じるだけでいいでござるか。
でも一応声に出した方が相手方には都合もよさそうでござるしな。
小生は右手を前に出し手を広げて唱える。
「――ステータスオープン」
すると驚いたことに手のひらの前には半透明なステータス画面が表示される。
最近流行のプロジェクションマッピングというやつです?
空中ディスプレイとはたまげたものですな。
シャルト殿はIT関連の知識が豊富でしたから、このドッキリに一枚噛んでますねこれは。
そのステータス画面に表示された数値やスキルを見て周りがざわめきたつ。
きっとこの装備がデメリットだらけだからでござるな、それにしてもよくできているであります。
小生は表示されている数値を見ていくことにする。
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
名前:テスカ
職業:暗黒騎士
年齢:24
LV:1 身長:185cm
HP(生命力):10/10
MP(魔力) :10/10
SP:0
ATK(攻撃):10
DEF(防御):10
STR(筋力):10
DEX(瞬発力):10
INT(知力):10
CON(体力):10
APP(魅力):-
AGL(器用度):10
LUK(幸運):-
VIT(気力):10
≪所持スキル≫
経験値取得大幅低下(呪)
幸運値破棄(呪)
被ダメージ倍加(呪)
自然治癒力低下(呪)
バフ無効(呪)
デバフ倍加(呪)
方向音痴(呪)
ヘイト一極集中(呪)
痛覚倍加(呪)
睡眠障害(呪)
破壊衝動(呪)
闇魔法
悪運
不運
≪称号≫
異世界からの※※※
転生者
黒炎龍の呪詛
疫病神の寵愛
貧乏神の寵愛
死神の寵愛
≪契約従魔≫
黒炎龍クアトル(仮)
≪所持アイテム≫
-
― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
おやおや?
小生のやっている“モンハク”のステータス画面とはまるっきり違いますぞ?
デメリットが多すぎやしないですかな?
称号とかどうなっているんですかな?
文字化けもあるし、中々酷いであります。
ん〜……?
契約従魔に黒竜炎クアトルの文字が……
(仮)ってなんですかな?
でもクアトル殿から呪詛の称号を頂いているのにも気になるでござる……
ツッコミが追いつかなのでござる。
このステータス関係は一先ず突っ込むのを保留にしておくとして、このドッキリの後で誰かにでも聞くことにしよう。
目の前の威厳がありそうなおじ様もこちらを哀れな目で見ているではござらんか。
小生かて生きているんですよ?
演技であっても心にくるものがあります。
おじ様の後ろで控えているこれまたおじいさんズが何やらヒソヒソ会話をしているではないか。
小生はとりあえずこの流れに身を委ねてみる事にした。
おじ様のことを王と呼び、おじいさんズの内の一人がおじ様に耳打ちをした。
やっぱり王様だったでござるか。
威厳とかのオーラがあるでござるし。
「ゴホン。あー、うむ。勇者テスカ殿へ用意したものを渡すのじゃ」
小生はいくつかの金品と地図、食料、必需品を分けてもらった。
受け取ろうと近づき、内容を確認する。
地図にはいくつか印がしてあった。
現在地と倒すべき敵の居場所が書かれている。
7つの国の王子様を倒せばいいらしい、そういう設定らしい。
倒してくれれば元の世界に帰れるということも聞いた。
まぁありきたりでありながら王道といった感じでござる。
神様が戯れで与えた力を奮い、この国を含めた8国間で争い続けているらしい。
神様じゃなくて邪神なのでは?
色々ツッコミを入れそうになったが、悪用しているのは各国の王子様なのだから仕方ないらしい。
それにしても力を与える人をもっと慎重に選ぶべきでござろう?
明らかに力に溺れているんですがそれは……
そのあたりは設定が定まっていないのだろう、あまり深く考えないようにした。
従者らしき人が先程確認した品々を鞄に入れ、差し出してくれる。
手に持つの不便だなと考えつつ掴んだ瞬間、掴んだものが消えた。
これもプロジェクションマッピングだとすぐにわかった、他の荷物も触れるだけで消えていったからそうなのだろう。
一応ステータスオープンと言いながら所持アイテムを見てみるとご覧の通り、一つ一つの名前が記載されていた。
勇者のアイテムボックスは時間が停止しており、ほぼ無限に収納できるらしい。
便利な設定でござるな。
そんなものがあるなら喉から手が出るほど欲しい。
一人暮らしの冷蔵庫はよく食べきらずに腐らせてしまったもので溢れてしまうでござるからな……。
手が込んでいるのはわかるけど、このドッキリの終着地点が見えないでござるな。
予想だが、小生はデメリットが多すぎるのでさっさと違う勇者でも召喚しようという演出なのだろう。
勇者テスカ、冒険の旅が今始まる!
~未完~
……みたいなところでネタばらしなのだと予想はできる。
勇者って言ってもステータス画面の職業に暗黒騎士と表示されているのだから、厳密に言うと勇者ではないのでござろう。
そして先ほど王様の取り巻きであるおじいちゃんズが彼は勇者ではないではないか、との発言を小声で言っていたのを聞いていたからだ。
勇者はもっと主人公で主人公な主人公しているイケメンに頼むんでござるな。
小生が王なら小生に世界を託そうなんて一ミリも考えないですぞ。
言ってて悲しくなってきたで候。
小生は振り向き、出口であろう方向へ歩き始める。
カメラがあることを意識しているので心の中ではトボトボという効果音が流れるが、現実にはキビキビ動くよ!
そう、我が名は役者テスカ!
「待たれよ勇者テスカ、何処に行こうというのか?」
王様が小生に優しく声をかける。
困ったものを処分するのにどうしようか悩んでいる顔にも見えた。
「この穢れた身ゆえ、一定の場所に長くは留まれないのです。ご理解下さい、異国の王よ」
今日はもう帰って戦利品であるトゥラン様の薄い本で自家発電を楽しみたいのだ。
誰も何も言わないことを見るともうそろそろこのドッキリも終盤なのかなと肌で感じている。
「世界を救うのには協力します。が、必要以上に私に干渉するとステータスをごらんの通り、痛い目を見るのは貴方達です。なので暖かく見守っていてくれるとありがたい」
王は少し悩んだ後、従者の一人であるものに声をかける。
「勇者テスカよ、汝の忠告は受け取った。しかし、異世界からきてまだ間もないのだ。そなたに私の従者の中でも腕が立ち、頭も切れるこのエクリトアを付き人にさせてはくれぬか?」
そういって王様の隣にはいつの間にか凛々しい顔をした綺麗で美しい女性が立っていた。
正直言ってドドドストライクでござる。
この女優さんは見たことが無いでござるぞ。
帰りにでもアイドルに割りと詳しいマスターにでも聞いてみて、写真集があるなら買ってサインしてもらおうと決めた。
新人さんならファンとして応援してみようと思うでござるぞ。
「私の傍にいて、折れぬ精神力をお持ちなら、ご自由になさるとよいです。ただし、死よりも恐ろしい目にあうことは承知の上で、生半可な覚悟で来られると足手まといになります」
な~んて言っておりますが小生、Lv.1のザコで初期値以下の恥ずかしいステータスであります。
小生はLV.1なのに豪そうなのはキャラクターのロールプレイに徹しているからなんですな。
もうすでに思い描いていたキャラ像からブレている様な気がしないこともないですぞ!(吐血)
小生、スライムが出ただけで腰を抜かして失神する程度のへたれですよきっと。
最近ではスライムは実は強い設定が再燃してますし、ドロドロに溶けるのは嫌でござるな。
それこそ女の子の服が溶けるくらいのちょっぴりえっちなのを所望するでありますぞ!
「覚悟は剣の腕だけで生きていくと決めたときからできています。国に仕えるようになってからはその覚悟はより一層強固なものへとなりました。世界を救う使命であるならば、喜んでこの身を差し出しましょう」
立派な役の方でした、ほぼメインヒロインの立ち位置でござる。
魔物×女騎士で卑猥なことを考えていたので穴があったら入っていたところですな。
鎧に入ってるお陰で表情に出なくて心底良かったと感じるでござる。
小生は小さく頷き、後ろの扉へと身体を向ける。
「勇者テスカよ。付き人を受け入れてくれて感謝する。何かあった場合、そのエクリトアに申すが良い。必ずや力になろう」
こういう場合って大抵は監視が目的なのだろう。
お目付け役を断るとストーカー役が出てきてめんどくさい事になるってパターンあるよね、ないかな。
でもまあ美人に監視されるってそれただのご褒美でござるよ。
油断させるために美人なのかな?
なんにせよキャストを選んだ人マジぐっじょぶでござるな!
さっきから下ネタしか浮かばなくなるので思考を銀河の彼方へと誘う事にした。
夢のような体験だった、ありがとうギャラクシー。
歩き出すと王様がまた声をかける。
「勇者テスカよ、――我は魔王である」
皆さん角が生えてらっしゃいますからね。
あえて突っ込まないようにしたけど、これは強制イベントだったらしい。
「人の身なれぞ、我々魔族はそなたの進む道に希望があることを心から願い祈ろう」
種族を超えた信頼関係とか大好物でござる。
いちいち小生のツボを押さえてくるあたり、ニクい演出であることに感謝を覚える。
「世界を救った暁には、世界の半分をそなたに分け与えようぞ」
ブフォーwきましたなw王道でありますなwある意味待ってましたよ其の言葉。
この言葉を聞くと、あぁ終わりまでもうすぐなんだなってわかってしまうでござる。
きっとあの扉を越えるとネタばらしというのが理解できてしまった。
それだけのインパクトがあった。
魔王しか言えない台詞を言ってくれる魔王様はなんてサービス精神の塊なんだ、今日一番の笑いどころでござるな。
くぅ〜、小生のツボ、持っていかれましたァ〜!
魔王様の声に振り返らずに扉を開け、エクリトア殿にレディーファーストしつつ謁見の間を後にした。
そしていつでもクラッカー音に驚くことの無いように、いつでも決めポースを決めれるよう身構えるのだった。