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呪詛の解放者  作者: 三脚 巴
0章 Player1 暗黒騎士テスカ
2/21

プロローグ

「これが小生のコスチュームでござる!(デュフフ」


 そういっては鞄から衣装を取り出し持ち上げる。

 その衣装をまじまじと見つめる2人の男友達は目を輝かせながら口々に声を上げる。


「流石は我が永遠のライバルであるテスカ氏ですな!むむっ!?これはもしや全て手作りでは?」


 少し腹回りがふくよかで裕福そうな男性が自分の口ひげを擦りながら興奮している。


「おや、見抜かれましたな雷帝クルワ殿。其の通りでありますな。不精テスカ、できる限りのことはやってみようとチャレンジしてみたんですなw(フヌップ」


「えぇっ手作り!?いやまぁこれほどまでにクオリティの高いコスチュームを作るとは……僕のゲーム画面を見てくださいよ、この黒炎龍クアトル装備一式と姿かたちがそのままここにある感じですよ!」


 隣にいる小さい美少年の微笑ましい見た目をしたシャルト殿が携帯ゲーム機の画面と衣装を見比べる。


 そう、この衣装は“モンスターハクスラー”というゲームで使われている装備である。

 そして黒炎龍クアトルという龍はSSS級の期間限定クエストで出てきたモンスターだ。

 あまりに強すぎ、そして素材がなかなかドロップしないという鬼畜使用でちょっとした祭りになったのは懐かしい。


 その中で装備を揃えるため協力してくれたギルドメンバーには頭が上がらないでござる。


「いやぁ~、疾風の魔術師シャルト殿にそんなに褒めて貰えるとは苦労した甲斐がありましたなw(フヒッフッフポゥ」


 彼らとはこのゲームで知り合った友人でもあるのだ。

 発売当初から知り合ったと考えると長いこと苦楽を共にしたと感じる。


 ゲームでは同じギルドに所属し、一緒にパーティを組んで旅をしている仲間でもある。


 小生はこの装備に溺愛している。

 何せ見た目は禍々しく超かっこいいのにデメリットのスキルしか発動しない玄人向け(?)のロマン装備だからだ。


 小生は今回、初めてコスプレのイベントに参加した帰りに寄ったので、ちょうど彼らにもお披露目することができた。


 「コスチュームってか、まんま鎧なんだよなぁ……ほい、お待ちどうさん!たらふく食っていけ野郎共!」


 厨房から出てきた豪快で厳ついおっさんは我等がギルドマスター兼ここの喫茶店“テスココ”のマスターでもある。

 ゲームでの名前もそのまま“マスター”なのだから呼びやすい。


 この喫茶店も夜にはバーになるのでお酒が飲めるらしい。

 今日は大晦日ということで定休日で貸切状態なのである。



 クルワ殿は薄い本という名の戦利品を大量に携えている、正直羨ましい。

 小生はクルワ殿に頼んで買ってもらっていたいくつかの戦利品を見せてもらう。

 クルワ殿と両手で硬い握手、そしてフィストバンプからの包容の儀式を終え贈呈式に移る。


「――持つべきものは友であると小生は深く心に刻んだでありますw(ヌプップルゥッ」


 小生は片膝をつきながら両手を上げ、聖典を受け取ろうと構える。


「同士よ、モンハクの薄い本を心行くまで堪能しようぞ!!」


 彼の有名な戦場は島の把握で戦術を変えなければ対応出来ないというのに、戦場で友の分まで聖典を確保するという事は尋常じゃない体力と精神力ならびに運をも必要とするだろう。

 クルワ殿はそんな豪胆と豪運を両立した漢である!


「冒険者ギルドの受付嬢で看板娘であるエルフのトゥラン様の薄い本ではござらんか!(アビャラビュ」


 刹那、股間に紫電一閃。

 こうかはばつぐんでござる。


「フフン、苦労して並んだ甲斐があったというもの。我を褒め崇め奉ってもよいぞ?」


 クルワ殿の背後には後光が差しているのが見えるッ!

 小生の興奮とクルワ殿の優しさで今まさに雪解けが始まりそうだ。


「ははーっ!いあ!いあ!クルワ殿ォー!」



 マスターの開店祝いに初期からいるギルドメンバー3人とオフ会を開いてから、度々こうして集まっている。


 初めはギルドのオフ会と言われて少し困ったが、初期からいるメンバーだったのとボイスチャットで全員男性とわかっていたのでその分は気楽ではあった。

 今となっては毎回の事だが来てみて……

 いや、彼等に出会えて幸運だと感じる。

 小生、女性の前ではあがってしまって真面に会話することが困難になってしまうしネ。

 あ、今回のコスプレイベントで接してきてくれた方々に迷惑をかけていなかったでござろうか?



 お互い名前を呼ぶのもゲーム内の名前で呼んでいる。

 彼らの本名は知らないし、小生の名前も教えていない。

 彼らの実生活は度々チャットや会話では出てくるが基本はゲームの話しかしない。

 そういったところもあるので居心地がとてもいいのだ。

 恥ずかしいけど此処では普段しないオタクなノリを使えるのも楽しいのである。



 顔に似合わずオシャレ~な料理を作るんだぜと豪語するマスターのフレンチ料理に感動しつつペロリと平らげ、食後のコーヒーを飲み、皆いつもやるゲームである“モンハク”を取り出し一緒にプレイした。

 モンハクはネトゲなのでポータブル機器をフリーなwifiに繋げてプレイする。

 お家だとヘッドなギアで脳直ダイブなゲームを楽しめるでござるが、こうやって集まってコーヒーをしばきながら没頭するのも乙でござるよ。

 うーむ、じゃぱにーずせいWABISABI。


 おや?

 小生の回線だけ異様に重く無いでござるか?

 何故か微妙にカクカクであります。

 ま、プレイには支障が無い範囲程度なので問題は無いでござるが……???



 一狩り終わったところにシャルト殿が小生に声をかけてきた。


「あ、そうだテスカさん。もしかして黒炎龍の大剣も作ってあるんですか?」


「フヒッw作って――あるんですな!でも申し訳ないでありますが、今回のイベントでは長いものは禁止でしたので持ってきてはいないんでござるよー……w(アパポゥッ……」


「それは残念ですね、というか作ってるんですね!うおおお!!」


 小生は食い気味にスッとノートパソコンを鞄から出し、モニターにその作った剣を表示させる。


「えーっと、あ!これですぞ!刀身にあるヒビの間をうねらせて赤く光らすように再現するのは難しかったでありますなw(パピィパピィ」


 再生ボタンを押し、無数の赤く点滅する光を刀身のヒビに泳がせる。

 ちなみに充電式ですぞ。


「テスカ氏はやはり器用ですな。ゲームでもデメリットしかない黒炎龍の装備を問題なく運用しているのにも納得がいくのう」


「あぁ、それわかるわ。チャットだとキャラクターのロールプレイに徹底的なのに会話だとすげぇオタクっぽいの使い分けてるんだもんな」


 あれ?でもお三方もバリバリに痛いロールプレイしているのにな?と言うのはナンセンスでござるな。


「照れるであります。でも小生は自分の作ったキャラクターに愛を込めていますからな。言葉は少なくぶっきらぼうだが熱い信念を持ち背中で語る、その男はこのモンスターが蹂躙する世界で平和を願い、黙々と大剣を振るうそんな人物像があるんですなwそれでいて……(チビィリィ!」


 キャラクターの背景を語ろうとしたときマスターの手が遮る、ここまで定番のいつもの流れ。

 いやもう恥ずかしくて早口になってしまったでござる。

 マスターは「何度も聞いたって」と言いながら鞄に指を刺した。


「なぁテスカ、その鎧を着てみてくれよ。動いてるところが見てーんだよな」


「僕からもお願いします!そのコスでテスカさんはロールプレイもしてくれるって信じてますよ」


「うむ。わが仇敵の姿を拝んでおくのも一興ではある。かまわんぞ」


「是非にとも!お披露目をば!(ヴァンビボォ!)……その、トイレで着替えてきても?」

 

 頷いたマスターを確認してトイレで着替えてくることにした。



「存外、タッパだけでヒョッロヒョロな小生でも、鎧を着ればわからないものですなw(チョゲチョゲピリィ」


 トイレにある鏡を見てそう思った。

 うん、なかなかよくできているんじゃないか?

 ゲームでお馴染みのポーズをとってみる。

 うん、悪くないはずでござるな。


 実はお三方には内緒であるが、彼らのよく使う装備も既に作って自分の部屋に置いてあるのである。

 後で報告して次に集まるときにでもプレゼントとしてあげようと思っていた。

 この姿に感動してくれていた彼らは喜んでくれるのではないか?と思ってしまう。


 マントにはギルドのロゴをいれてあったりもする。

 ロゴはマスターが作っているので強持てな顔に似合わず凄くかっこいい。 

 小生はそのロゴを見てギルドに入ったくらいだし。

 その他にも多芸多才なものが光る方で、小生が今世紀最も尊敬する人物なのでござる。



 最後に頭の装備を被ると少し視界が悪くなる、ここは次回までの改良ポイントだと自分に言い聞かせる。

 とりあえず全て装備してみた。うん、トイレのドアにところどころ引っかかりそうだなと思う。

 鎧や壁に傷をつけないように気をつけながらドアノブを捻る。


 トイレのドアを開けつつ前に進むと眩しさに少し目が眩む。

 感覚で扉を閉め手を離すと目が慣れてきたのか景色が徐々に映し出される。



 小生は開口一番に言う台詞を考えていたのである。

 それはゲーム中にも決め台詞のように繰り返し使っているもので、これで皆にウケること間違いなしだと思っている。

 寒いと思ったら負けなのだ、こういうクサイ台詞を吐くのには愛と勢いで恥じらいを捨てなければ。




『世界の平和を望むのか?なら其の日が訪れるまで――私は戦い続けよう』


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