情報過多
『世界に平和と安寧が訪れるまで戦い続ける――悪鬼羅刹の解放者なり……』
こうもハッキリと恥ずかしい台詞を淡々と言ってのけやがりますか。
痛いでありますな。
んんんwww
その台詞を聞いてしまうと被った猫を剥いでさらけ出すしか無いwww(ピョカリピュエットォ!
吹かせ!俺もとい小生のキモオタフルスロットル!
『悪鬼羅刹の解放者』
繰り返し頭に響いてくるこのフレーズには覚えがあるでござる。
ネトゲのモンハクを初めてプレイし、主人公をキャラメイクし終え、テスカという名前の後に決めた“二つ名”の呼び名だったからであります。
その拭いきれない嫌な予感が、今まで考え無いようにしていた疑問を再浮上させた。
二つ名、それはプロフィールの初期設定で非公開になっており“小生”は一度も公開した事は無い。
勿論、恥ずかしくて隠蔽していたのでありますな!
つまり誰も知る由も無い情報であります。
それは親しいギルドメンバーや数少ないフレンドにも明かしたことのない情報でありますぞ。
んんん〜?
小生の体はギガントバジリスクの足元に急降下で滑空し、其の足元にいる魔物達へと剣を振るう。
まるで呼吸をするかのように自然体で戦い、鋭く動き、剣と盾を構え、舞うように薙ぎ倒していく。
流れるような剣捌きであった。
突如出現した翼と尾、剣と盾もネトゲのモンハクで愛用していたアクセサリーや装備に酷似したものだった。
奇妙な事に小生は半透明で浮遊しており、自分だった筈の彼を後ろから俯瞰して見ている。
もう一人の僕、といった状態がしっくりくる。
彼の頭の上には自分のHPゲージ等のステータスが表示されている。
何だか据え置き型でプレイするゲーム画面を見ている感覚に近い、というかそのままでござる。
HP、MP、その下はST?……あぁ、スタミナの事でござるか。
彼が行動する度に100の数値が下がっていき、動きが止まると100の数値へと戻って行きましたな。
STの100に近ずくにつれ、彼は呼吸を整っていくのが確認出来たのであります。
他にはフレームレートやらxyzの座標軸なんかも表示されている、デバック画面かなんかですかな?
もしかしてフラグ管理とかできます?
目線の上には赤いHPゲージが爛々と照らしている。
そのゲージにはギガントバジリスクと名前が表示されていた。
ゲージが数本重なり後ろに隠れて見えることからHPは途方も無いのでござろう。
もう一度彼を見下ろすと『AUTO』という文字が点滅している事に気付く。
オートモードだから勝手に自立して動いているのか、なるほどわからん。
斬りつける魔物達はゴブリン、オーク、キマイラや鎧を纏い腐乱臭が漂うゾンビナイト、浮遊し漂うキメラや骸骨が剥き出しのスケルトン、どデカイ蜘蛛の群れ、得体の知れない不定形で不気味な黒い肉塊。
まだまだその後ろには名前の知らない魔物達が蠢き犇めき合い、地獄を創り出さんと壊れた城壁の隙間から這い出るかのように溢れ、跋扈していた。
幸いと言って良いのかはわからないが、石化された人々を傷つけたり壊す事は出来ないらしい。
魔物達は石化した人々を攻撃しているが、繰り出した攻撃は『無敵』とその人の頭の上に表示され、HPも減少していなかったからだ。
だからと言ってその光景は痛々しく、見るに耐えないものには変わりない。
石化した人々に攻撃している魔物達は隙だらけで簡単に斬り捨て、殲滅していた。
ギガントバジリスクが侵入してきた城壁には殆ど人がいなかったのも幸いだった。
小生の意識で動かない彼の身体は魔物の群れに突撃していく。
掴んで裂いて切って、瞬く間に見るも無惨な死体の山を築いていく。
戦い方は最初こそ良かったものの、徐々にお粗末なヒット&ヒットのスタイルに変更を余儀なくされていた。
その足取りは奇妙なほどに重く、初期の優雅さとは正反対のように、肉を切らせて骨を断っている。
倒していくものの、自分の身体は魔物達の絶え間無い怒濤の猛攻で徐々にその身を切り刻まれていく。
しかし受けた細かい傷は黒い雨によって瞬く間に塞がっていき、深い傷も暫くすれば元通りになっていた。
黒い雨は常時再生の役割を果たしているでござろう。
有難いことに痛みも共有していないみたいだ、痛覚が感じれるならきっと痛みで悶絶し気絶していたであります。
鎧の傷や破損も回復しているのに違和感を感じたが……
時間にして数分でギガントバジリスク以外の魔物を残らず殲滅していた。
奇妙な事に、斬り捨てた魔物達はその形を保ったまま黒い金属体のような鉱物に変化していく。
ゴースト系の魔物も同様に黒く鉱物化していた。
どういうことでござろうか。
闇属性付与、そのまま自分も鉱石化なんてオチではござらんよな?
「クカカッ!残るはギガントバジリスクのみとなったか。しかして我がこの身体を操るのも限界ときたらしい。惜しいが貴様に譲ってやるとしよう。我が領分を委ねるのだ、恥部を晒すでないぞ。」
彼はそう呟き、小生へと振り向く。
突如として黒い無数の巨大な針が地面から突き出しギガントバジリスクの行動を封じる。
し、心臓に悪いんですな!
彼の方へと振り返ると崩れ去るようにして膝を折っていた。
身体を支えるかのように剣を地面に突き刺し寄り掛かっている。
飄々と闘っていた姿は今では肩で呼吸をし、息も絶え絶え。
台風の日の通勤で満員電車に乗車し、揉みくちゃにされた小生に似ている。
こう傘を杖代わりにしているところとか、妙に親近感が湧くでござるな。
「ククク!して、我が誰か分かったか?」
うむむ、もしや貴殿は『この体の持ち主』でござるか?(名推理)
ゲームの世界……いや、此方の世界の。
そして小生はその体に憑依しているという事になるので御座ろう。
全くもって理解が追いつかないでありますが。
「――否である。彼奴は自らを犠牲にし、貴様に全てを委ねた……。貴様を呼び出すため、勇者召喚の生贄としてな」
違った、恥ずかC。(迷推理)
其の身体の持ち主であったテスカは勇者召喚、つまり小生を呼ぶ為に生贄にされた?
勇者召喚にそんな裏があったなんて聞いてないでありますな。
そんな事が罷り通って良いのですかな?
断じて否でありましょうぞ。
「我は彼奴の好敵手であり永遠の宿敵」
ライバル?
……そうか!もしかして貴方は……
「――黒炎龍クアトル。この体の持ち主だった契約従魔……龍か」
答えると同時に小生の意識はまたテスカ殿の身体に戻っていた。
剣、盾、翼は無くなっていたが見えざる腕だけはまだ背中から出ていた。
「(左様。しかして勇者召喚は我の魂もほぼ全て削ぎ落とされたので今では風前の灯だがな。これにて我も彼の地へ旅立つ。彼奴の身体はもう貴様のものだ、好きに扱い好きな様に生きるが良い。それこそが彼奴の願いだろう。民の願った世界の平和なぞ、彼奴にも貴様にも到底重過ぎる代物だ)」
勇者のお勤めを刹那的にバックラーしでかした小生。
いやぁ、そんな自営業ならまだしも労基で守られていない様な孫請け派遣のお仕事は願い下げでござるよ。
報酬がどんなに良くてもね!
命あっての物種かなって小生ツクヅク感じるんですな。
特に今まさにそう!
「(我としては、願わくば運命を弄ぶ神々の悪戯に裁きを下して欲しいところだがな。ではさらばだ!クックカカッ!)」
霊体になった黒炎龍クアトルは先程の小生と同じく半透明で、徐々に粒子が離れていく様に消えていく。
クアトルが天高く咆哮した。その咆哮は小生にしか届かない。
咆哮が止むと、もうクアトルの姿は其処には無くなっていた。
もっと聞きたい事があったのだけれども、風前の灯火って言ってたから出会えただけでも良かったと思っておくとする。
嵐の様な方でござった。
もう一つの咆哮が、目の前の問題を小生に打ち付ける。
「クアトル殿はかっこいいでござるな。姿形もさることながら、井出立ち振る舞いも豪快で芯の通った武人の様な方でござった。何処かのデブッチョな鶏さんには到底届かない浪漫がありましたぞ」
ふと、クアトル殿がサイクロプスと引き合わせてくれたのでは?と思う。
そう思うとしっくり来る。
というか今までの戦闘は破壊衝動(呪)の所為では無くて、クアトル殿が度々顔を覗かしていた所為かもしれませぬ。
今となっては知るヨシもないですが、感謝していますよ。
暗黒神殿で人を殺そうとしたところは遺憾の意ですけどね、戦闘狂のクアトルさん!
その巨体故、城壁に挟まっていたデブッチョな鶏は黒い無数の巨大針に串刺しにされつつも蠢いていた。
「さぁて、本当にこれからどうしたものでありますかなぁ〜?」
確か闇魔法の発動は後2回か。
念の為、自分の手札を確認する。
――ステータスオープン。
見てみると変更箇所が4カ所ほどあった。
MP:181
黒炎龍さんはガッツリ消費してやがりますね。
《契約従魔》
黒炎龍クアトル(仮)の文面が消去されていた。
クアトルは消滅したのだろう。
そして恐らくだが(仮)というものはクアトルがテスカの契約従魔だったからで小生の契約従魔では無いということを表していたのだろう。
SP:456
ウヒョ〜!溜まっているでありますな!
ルトアに聞いたところによるとSP100を消費すれば新しいスキルを習得出来ると聞いたんですな。
個人的に欲しいスキルは《鑑定》。
他には《千里眼》とか《危険察知》、《隠密》とか欲しいでござるな!
『ピピ!それらのスキルは必須要件を満たしていない為、取得出来ませんでした』
は?……は?
急にシステムが話しかけてきましたぞ!
じゃ無くて必須要件?
聞いてないでござる!
『ピピ!必須要件であるステータスとレベルを確認ください』
INT(知力)が足りないので《鑑定》はダメ。
《千里眼》は加護が無いのでダメ。
DEX(瞬発力)とAGL(器用度)が足りないので《危険察知》もダメ。
妖怪ダメダメが出できましたな、お片付けしましょうね。
しまっちゃいましょうね。
まぁズルして取ったポイントを使わせない対策なんでしょう。
欲しいスキルは取るために努力するか自然に身につくものなのでござろうしネ。
システムさん、もといダメ子さん。
それならば一体何が取得出来るでござるか?
『ピピ!表示します
《思い出す》
《よく思い出す》
《すごく思い出す》
《ものすごく思い出す》
ピピ!以上です。取得しますか?』
あぁ、なんというレトロな王道スキルか!
「そんなの大抵メモしてたら済む様なスキルを一々取る必要があるんですかね?(半ギレ」
いやまぁレトロゲームによくあるセーブ方法でパスワードを入れないと続きができないとかだと便利ですよね。捗りますよ?
でも現代っ子は写真を撮ったりスクリーンショットな訳であって、録画とかもあるのですよ。
脳内で思い出すだけじゃあ証拠にはあまりならん訳でして。
裁判で証言だけでは信用に足り得ないとか言われてしまうんですな、嫌な事を思い出してしまったでござる……
こちとら助平なシーンを脳内に刻み込むことは年がら年中やってきている訳ですしおすし?
そんなこんなで記憶力は悪く無い方だと自負しておる訳でして。
SPは当分の間、肥やしになるしかないのですな。
トホホ。
『ピピ!受諾しました。これら4つのスキルを取得し習得しました。』
「ファー!ダメ子氏!!何をやっているんですかなァ!!!(白目」
SP:56
あぁ!減ってる!キッチリキッカリSPが400減っているでござる!!(ぐにゃああ
もしかして、小生の台詞であった「取る必要」がヒットしたんですかな?
「修正を求めますな!今の無しで!とかできないでござろうか……?」
『ピピ!一度取得したスキルを修正、削除は不可能です』
「そ、そんなぁ〜でござる。ご慈悲はないでござるか〜?」
『ピピ!ごめんなさい』
「全て許した。可愛いは万国共通で正義でござる。それは異世界であっても有効でありますな(デュフフ」
システムを脳内でドジっ子システムたんへと擬人化し平静を保つ事に成功した。
どんな時でもポジティブなシンキングですぞ!
さて、システムたんとお話しは最後にし、3カ所目の変更点を見る。
HP(生命力) 2/2
うん。
うん?
あと1回じゃね?
あぁ!そうか!バジリスクを突き刺して縛っている黒針を忘れていた。あのハリーーーーーッ!!!!
どうしたものですかな、この状況。
SPも無駄に消費してしまっただけ。
HPが2で崖っぷちだし、目の前に立ちはだかる巨大な魔物は手が付けられそうにない。
コイツァ、ワクワクもんダァ。
ゆっくりと、だが確実に国を蹂躙していくギガントバジリスクに初めて逃げずに向き合った。
背水の陣というやつかもしれない。
此処に来て漸く覚悟というものが決まったみたいだ。
「何処に行く、ギガントバジリスク。お前の相手は――小生でござろうに。」
ギガントバジリスクの前に身を投げ打つ。
家の屋根を見えざる腕を使い移動していく。
何度か見えざる腕で殴りつけるも効果は無かった。
見えざる腕の『吸着』も羽根が邪魔で効果は薄い。
目玉に攻撃しようか?と思ったが確かバジリスクって魔眼持ちで、目と目が合う瞬間に石化だとわかった。
スキルにある『ヘイト一極集中(呪)』が功をなしたのか、ギガントバジリスクの嘴が小生を飲み込もうかと伸びてくる。
こうなったらアレですよね!お約束のこの展開ですよ。
――あぁ、自分がそうするなんて考えても見なかったが。
『バクンッ!』
見えざる腕を身体全身にまとわりつかせ、ワザとギガントバジリスクの口内に侵入した。
うえぇ、ゲロ以下の匂いがプンプンするでござる。
見えざる腕で顎を支えつつ一気に喉奥まで辿り着いた。
悪臭は更に酷くなる。
其れに比例して自分の身体の調子が良くなっていた。
不快感この上ない。
こうしている間にもギガントバジリスクは国を蹂躙しているだろう。
なるべく早く内部破壊か魔物を構成する要素の『核』を破壊するにこしたことはない。
奥へと進んでいく際に幾つかの分かれ道があったが、全ての道を自分が直感で感じた方の逆に進む。
いや多分どっちみち悪い道にしか行かないんだけどネ!
奥に連れ段々と瘴気の様なものが濃く漂っているのがわかる。
当たりかな?
辿り着いた先は紫色をした沼の様な液体が広がっていた。
其れが瘴気を、黒い雨を降らしている原因であると認識する。
沼には石化した何かの動物などが浸かっていた。
夜目が効いているのか色や空間も把握できている。
自分の直感が先ず外れであることは分かりきっているのだ。
つまり、此処に何かある筈なのだけれども何も見当たらない。
有るのは紫色をした沼のみ……
沼を触って見る。
肉壁から滲み出る体液が沼を作っている。
瘴気は絶えず此処から出ていた。
思い切って全ての瘴気を取り込んで見る。
徐々に沼の水位が減少していくことが分かった。
思った通り底の方から肉壁にめり込んだ『核』を思しきものがあらわになる。
ビンゴでござる!
その核に触ろうと腰あたりまで沼に浸かり『核』に近付く……
――ふと、残った紫色の沼に疑問が残った。
というのも、肉壁から紫色の液体が沼に溜まっていくのを見ていたからだ。
瘴気を全て『吸収』したのに沼の水位は半分程度にしか下がらなかった。
それ以外の『変化』が見られなかったのだ。
魔晶石の『瘴気』だけを吸収した際、澱んでいた魔晶石は光り輝く澄んだ色にハッキリと『変化』した。
なので瘴気で汚染された液体も多少は綺麗になる筈では?と思ったのだ。
沼に変化は無い。
水位のみ下がったのだ。
そして沼に使ってから自分の身に起こっている『すこぶる体調が良い』という違和感。
紫色の沼では無くもしかして――
「毒か?」
普通の人にとって有害な液体。
先ほど瘴気を吸収した際に感じた違和感もあった。
沼の瘴気と魔力とは別に、もう一つのエネルギー体があった。
それはルトアが石化した際に瘴気を吸収しようとした時にもチラついていた。
それらは全く同じのエネルギー体だった。
ルトアにはそのエネルギー体の吸収は怖くて出来なかったが、このギガントバジリスクには心置き無く試せる!
この毒を全て『吸収』すれば或いは、『石化』を解除出来るかもしれない。
そしてもう一つの期待。
瘴気でHPが回復。
魔力でMPが回復。
ーーでは『毒』では何が『回復』する?
沼へ全身を沈めて行く。
この毒と思しき液体が垂れ流され続ける空間へ身を投じる。
瘴気で無く、魔力でもない、毒を『吸収』する事へと意識を傾ける。
2つの知っている感覚の他に確かに1つ別に存在していた、其れを『吸収』していく。
身体の細胞一つ一つが作りかえられていく様な不思議な感覚を覚える。
一つ残らず『吸収』すると紫色の沼は枯渇していた。
ステータスオープン。ご褒美は何でござろうか。
HP(生命力):4989/4989
「毒が裏返ったッッッ!!!」
いや、実際には裏返っているわけではないんだけどね。
こう叫ばずにはいられない。
バグではないでござろうね?
いや〜、生きてるってスンバラシイでありますな。
嬉しさで奇妙な踊りを待っているのも束の間、見る見るうちに肉壁は黒く鉱石化して崩壊していく。
脱出しなければと生き埋めになってしまうでござるな。
『核』の方に目をやる。
核を支えていた肉壁が黒く鉱石化しており、簡単に引っぺがすことができた。
念の為に回収しておくでござるか。
慣れた手つきで見えざる腕を使い脱出した。
ギガントバジリスクはやはりというか息絶えていた。
そうだ。バジリスクの目玉を回収しておかないとでござるな。
二次災害とか引き起こしそうでありますし。
いや、死んでいるから大丈夫ではあるのでござろうか?
まぁ念の為に取っておくでござるか。
目を見ない様に見えざる腕で両目をほじくり、アイテムボックスへと回収する。
この行為は小生、いつまでたっても慣れる気がしないですはい。
城壁を登りルトアの頬を触る。そして『毒』を『吸収』する。
この行為は成功の様だった。石化は解けて、健康的な色白の肌に戻って行く。
「……あれ?私は一体?ってテスカ、どうしたのです?そんなに震えて。あらあら、涙も鼻水もほらもうだらしないですよ。どこか痛いのかしら?魔晶石のストックはまだあるから安心して、ね?」
「――うん。なんというか、恐ろしい結末を見ない様にする為に気丈でお調子者の様に振舞っていたでござるが。今まさに小生のダムが決壊したと言いますか、良かったでござる。」
あぁ、本当に良かったでござる。
今回は救えたでござるよ、あぁ良かった。
これ以上トラウマが増えるのはもう耐えられないでござるから。
「テスカ、其れは君の方言か何かなのか?うん、特徴的で良いと思います。その、漸く腹を割って話してるかの様な気がして嬉しいわ。でも何か大切なことを忘れている様な……?」
「あ!そう、バジリスクよ。ギガントバジリスク!早く逃げないと!あれ?そういえば如何して私はこんなにも軽快に動けるのかしら?」
「あ、其れはでござるね。小生がギガントバジリスクを成敗いたした際に毒を吸収する事が出来る様になって、今まさにルトアたんの毒を取り除いたからでござるな。あ、国の人々も毒を吸収しないとでござった。まだ石化したままの人々が大勢いるでござるから」
「ちょっと待って、脳の整理が追いつかないのだけれど。あれ?コレって前も君に言ったかしら?」
外はすっかり雨が上がっていた。
雲の切れ間から太陽が照らす。
鎧を外して私服に着替える。
マントと仮面は忘れずに装着する。
人気のなく、上から人々を眺める場所へ移動する。
ルトアを抱き上げて城壁を降り、濡れた地面を触って毒を『吸収』する。
黒い毒は瞬く間に吸い上げられ、人々の石化は解除された。
吸収の範囲が思ったより広いや……
「ふむ、一先ず一件落着でござる」
『『『ドシンッ!!!』』』
ギガントバジリスクが倒れ、砂煙が舞い上がる。
『吸収』は無数の巨大な黒い針までもを吸収してしまったのか、跡形も無くなっている。
そのせいでギガントバジリスクは割と大きな傷跡を残した。
二次災害は避けようと思っていたのに。あちゃー。
「あぁ〜ワシの屋敷が!ワシの!ワシの!!(ブクブクブク」
「ヌルゴン様!お気を確かにっ!あぁ、ちょうどヌルゴン様のお屋敷のみが被害に!幸い誰もいないから良かったものの!良かったものの!!」
遠くで聞こえた気がしたけれど聞こえないフリをした。
ごめんなさい、ヌルゴン様。
そして詳しい状況説明を有難う従者さん。
「さて、テスカ」
「何でござるか、ルトアたん」
「言いたい事は山ほどあるが。そうだな、私への『たん』という敬称はやめて欲しい」
「わかったでござる」
「ござるも禁止」
「えぇ〜!そんなーホントでござ……いますかー」
「嘘さ。……ありがとう。そして、おかえりなさい」
「ただいま!」
夕日に映える彼女の笑顔を脳内メモリーへと永久保存した。