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呪詛の解放者  作者: 三脚 巴
0章 Player1 暗黒騎士テスカ
14/21

プレゼント


 酒屋には一度訪れていたので道には迷わなかった。

 もしかしたら俺のスキル欄にある≪方向音痴(呪)≫は有って無いような無害スキルなのかもしれない。


 店中には入っていなかったので驚いた。

 この酒屋はお酒の種類がとても豊富なのだ。

 奥にはバーがあるので利き酒が出来そうで嬉しい。


 酒屋を入ると店員が声をかけてきてくれた。


「どのようなものをお探しですか?」


 些かテンプレートすぎるマニュアル通りの対応に感激し安心した。


「お世話になった女性への贈り物に合う、良いお酒を選んで欲しいのですが」


 此方も在り来たりな回答をする。


「女性への贈り物ですか、それはまた有難いことです。因みにご予算はどのくらいのものをお考えですかな?」


 予算っていっても所持金は銀貨1枚なんだけどな。

 その範囲内にしてみようか。


「そうですね。あ、聖水の値段って幾らになりますか?」


「聖水ですか?ピンきりなので申し上げにくいのですが、高級品となると金貨5枚は下らないとか……」


「き、金貨5枚ですか!?」


 パンで家が建つ値段だ。

 いつかパン屋を開こう。


「噂によると高級品の聖水やポーションで割ったお酒というのが貴族達の間で嗜まれているとか」


「お金持ちっていうのは凄い発想してるんですね……」


 飲んでみたい気もする。

 飲めばスキルが反応して苦しみのたうちまわる事この上ないけど。


 金貨5枚は高すぎるが、払えない事もないかもしれない。

 サイクロプスが結構な金額になると聞いていたからだ。


「分割払いってできますか?できるなら金貨5枚相当のお酒を選びますが」


「分割払いは可能です。しかし、相応の信用や対価と手付金が必要になります」


「信用ですか……冒険者カードを所持しているのですがこれは信用に値しますか?」


「そうですね。失礼……ふむぅ、発行した日付が早すぎるのとそのランクではちと厳しいですな。せめて発行日から半年を過ぎているか、Gランク以外でしたらお取り引きはできます」


 なるほどなぁ。

 近いうちにでもホテプさんにランクを上げてもらおうかな。


「つかぬことをお聞きします、お酒を贈る女性というのは貴方の妻や恋人になるのでしょうか?」


「いえ、どちらでもありません。事情があり昨日から二人でこの国に来て、成り行きで一緒に暮らす仲です。美人なので此方は意識せざるを得ませんが、向こうはそんな気は無いでしょう。単に世話になりっぱなしなので、せめてお礼を形にして渡したくて……」


 俺のスケベ心が弄ばれている気もする。

 部屋着が妙に色気があって目のやり場に困る。

 俺は健全でヘタレな少年心を持っているから隙を見て凝視するだけに留まっている。

 お預けを食らった狼……いや子犬?がどんなに苦しいか!


 でも、あんなボロボロになってまで、こんな俺を助けてくれる優しい人をそんな目では見れなくなったのも事実だ。


「ん?あぁ!そういうことでしたか。なるほど。いや、これは失敬。貴方に相応しいお酒がありました。そうですとも!そうですとも!」


 店員が何かを解釈したのか奥の棚から一つのお酒を取り出す。

 すると周りの店員やバーカウンターの客とマスターらしき人が此方を見てざわめき始める。

 なんだ?そんなめでたい酒なのか?

 そういやスキルの関係で目立つんだったっけ?

 この≪ヘイト一極集中(呪)≫ってスキル、何気無い日常でも目立ってしまうのかもしれない。やだなぁ。


「此方のお酒は大変高価ですが、其れに見合った価値が秘められております。また、男性が女性へ贈るときの定番の品となっております」


 定番の品か、それにしても高いな。

 手持ちは銀貨1枚のみ、手付金にもなりはしないだろう。

 ぐぬぬ!貧乏神め!

 仕方がないけど諦めることにしよう。

 まとまった資金が手に入り次第、またここへ来るとしよう。

 

 出直そうとした時に奥のバーから誰かが走ってくる。

 俺の前に来て手を両手で掴んできた。


「もしや、ダンジョンで助けていただいた方では!」


 記憶が甦る、ダンジョンでゴブリンに教われそうになってた人だ。

 あの時の俺はどこかおかしかった。助けた人を殺そうとした。

 あの感情も呪いなのかもしれない。

 後ろめたさを感じつつ話をしてみる。


「あ、あの時の。ご無事でしたか。しかし、よく気付きましたね」


 今は鎧ではなく私服でどちらも顔を出してはいないので驚いた。


「声が似ていましたので。後はここでは見ない姿で体格が同じくらいだったからです。あの時は連戦続きで魔力が枯渇していまして、休んでいたところを襲われていたのです。いやぁ、助けていただかなかったら死んでいましたよ。申し遅れました、私はミクトランと言う者です。できればミクトと気軽にお呼びください」


 金髪を長く伸ばし後ろで縛った美少年……青年?が俺の手を掴んで話さない。

 中性的な顔立ちおしている。

 蒼い両目が此方を見るのでとりあえず視線を合わせる。

 とてつもないイケメンです!

 性別がわからないな……服装は男性冒険者そのものなんだがなぁ。


 ん?そういえばあの時、声って何か喋ってましたっけ?まぁいいか。


 「私はテスカと申します。最近、此方の国へ移り住む事になりました。今朝は偶々ダンジョンの下見に伺ったところ、ミクトさんに出くわした形ですね」


 ミクトさんは肩を落としながら応える。


「不覚にも剣を落としてしまい、普段使わない魔法戦をしたからか消耗が激しくて……休息をとっていた所を襲われました。恥ずかしい言い訳になります。今日を生きていけるのも貴方のおかげです。有難う御座いました!」


「いえ、当然の事をしたまでです」


「何かお礼をさせていただきたい。そうだ、そのお酒を買うのなら、私に料金を負担させてください」


「嬉しいですが、其れはダメです。恩人への贈り物になりますので、俺が全て払い、買わなければ意味が無いので」


「謙虚で律儀ときたものです。であれば其れには応えるのが定めでしょうか。其れならせめて、分割払いの方に尽力させていただきたい」


 そう言って水色の冒険者カードを取り出す。色が俺のカードと違う、ランクが上なのだろう。確かこの色はEランクだったはず。


「ここには個人的に受けてた依頼の報告に来ていまして。この店とも長い付き合いになります。私が保証人になることでそちらのお酒を購入してみては?」


「其れは願ってもないです。ですが良いのですか?会って間もない人物にそう易々と保証人になってしまわれて?このままトンズラするかもしれませんよ?」


 お人好しなのかもしれない。


「其れこそ私にとっては都合がよろしいかと存じます」


 ミクトは胸に手を当て頭を下げる、生真面目な方なのだと理解した。

 高貴な騎士の風貌が見栄隠れする。

 俺より頭一つ分くらい小さい身体も、堂々とした姿勢から大きく見える。


「私共は懇意にさせていただいているミクト様の提案は是が非でもお受け致しますよ」


 店とミクトさんの間で厚い信頼が有ることを窺える。

 低ランクでの括りに入るであろうEランクだが、其れ以上の魅力が彼(?)にはあるのだろう。

 俺からも紳士さや高潔さ、誠実さが読み取れる。


 心もイケメンとか非の打ち所が無いでござるな。

 最強でありますぞ。

 「シュバリパピュウ」しまった声に出てしまった。


 咳払いをしてから此方も頭を下げる。


「では御言葉に甘えさせていただきましょう。ミクトさんのお心遣いに感謝致します」


 書類にサインをして月々の返済を受諾し契約をした。

 どこかでカチッと音が鳴った気もする。

 たぶんいつもの気のせいだろう。


「テスカさん、次に暗黒神殿のダンジョンへ赴く際は私も同行させてください。私は普段一人で挑んでいるのですが少し己を見つめ直したくて」


「そうですね。自分も一人で無茶をしたと反省していたところですので心強いです。では冒険者ギルドのホテプさんと言う方に伝言を残しておきます」


「……ホテプさん?私が知らない方のようです。では冒険者ギルドに訪れた際に伝言があるかをその方に聞いておきます。私はEランクなので報酬の良い任務を一緒にこなすことが出来るのでテスカさんならすぐにランクをあげることができるでしょうね」


 おぉ!こういう理由でランクを上げてもらうようにホテプさんにそれとなく伝えておくことにしよう。


 俺はこうして無事に分割払いの契約を済ませ、自宅へと帰った。

 何故か帰ろうとしたときに店の中からお客さんの鳴り止まない拍手があった。

 店員さんも「御武運を!」と言っていた。

 ただお酒をプレゼントするだけだろうに、何をそんなにも気負わすのか?不気味だ。


 ミクトさんも「成功を祈らせて頂きます」とか気恥ずかしい台詞を口走っているし、訳がわからない。

 これが所謂、文化の違いというやつなのかもしれない。

 今度ホテプさんに会ったら社会常識を教えてもらう事にしよう……



―――――



 ――テスカの去った後にミクトと店員が会話をしていた。


「僭越ながらお聞きします。本来は『Bクラス』冒険者であるミクトさんが『不覚をとった』と言うのはとても信じられないのですが?」


「――私が上層部にある内の一つのボス部屋で相対した敵。それは本来、最下層付近に生息している筈の凶悪な魔物――サイクロプスだったのです」


「さ、サイクロプスですか!?!?それは一大事です。近々、避難指示もされるでしょうね」


「えぇ、後に冒険者ギルドから緊急討伐の任務で冒険者達は収集されるでしょう」


 ミクトはサイクロプスと相対し、ボス部屋が閉まりきる前に命からがら逃げる事に成功した。

 その際、サイクロプスの攻撃を剣で凪ぎ払ったが、圧に耐えきれず剣が弾き飛ばされてしまっていた。

 しかしミクトは全力の魔法で牽制し、部屋の外まで出ることができたのだった。


「情けないです。愛用の剣もあの恐ろしい攻撃をまともに食らっているので、見つけても復元は期待できそうにありません。痛い出費です」


「我々はミクト様がご無事であられたことだけで充分です。テスカ様には本当に感謝しております」


「だから金額を負けてやったのかい?」


「何の事ですか、わかりませんな」


「ふふっ。だってそのお酒、金貨5枚で販売していなかったかい?それが金貨3枚になるなんて可笑しな話じゃあないか」


「……売れない在庫を持つと商売になりませんので。売れるときに適正な値段で販売した、それだけです」


「ふふふっ、確かに売れ時に売るのは商売として間違い無いですね」


「有難いお客人でした。何せあのお酒は人を選びますから……」


「男性から女性に贈るとき、あのお酒を渡すと……」


「ご存知の通り、プロポーズの意味になります。300年ほど前から貴族の間で流行り、庶民へと流行りました。今もまだその風習が残っております。」


「伝統的な求婚の一つとして認知されて、今でこそ廃りつつある文化だね」


「昨日初めてこの店に訪れてくださった女性がテスカ様のお連れ様でしたら、まず問題ないでしょう。随分とお酒に博識な方でしたから」


「だとしたら、その場で飲むか飲まないかで決まりますね……」




―――――



 テスカはお酒の意味を知らぬまま、家の扉をノックした。


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