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呪詛の解放者  作者: 三脚 巴
0章 Player1 暗黒騎士テスカ
13/21

仕事仲間

ドップリと夜も更け、光りに群がる虫のように入国審査待ちの列へと並ぶ。


その間に鎧を脱いで私服に着替えた。


「トラン国へようこそ」


 この国の名前を初めて聞いた気がする。

 門兵に促され出たときと同じように冒険者カードを見せ、入国の手続きを済ませる。


 門兵の他にもテキパキと仕事をして、入国と出国の手続きをこなしていく人達がいる。

 長い列が出来ていたがそれほど待たずに入国できた。


 来たときから思っていたがこの国には優秀な人達が多い様に感じる。

 何より治安が良かった。



 まず冒険者ギルドに行って拾った冒険者カードとその他アイテムや素材を換金をしてもらうことにした。

 夜なので冒険者ギルド内の人の割合は前と比べて少なかった。


「いらっしゃいませ、本日はどのようなご利用で御座いますでしょうか?あ。貴方は確か新人の方ですね」


 対応してくれた受付の人は冒険者カードの新規発行をしたときに対応してくれてお世話になった人だった。


「はい、そうです。ダンジョンで魔物を倒したりアイテムを拾ったりしたので素材を買い取って欲しいのですが」


「え?ダンジョン??」


「はい、ダンジョンです」


「昨日の今日なのでもしかして一番近い『暗黒神殿』ですか?」


「はい。そうなります」


「腕に自信が?でもLv.1でしたよね?あ、強いパーティーに同行したとか?」


「いえ、一人ですね」


 そういえばレベルも上がってるかもしれない。家に帰ったら見てみよう。


「???か、かしこまりました。それではお預かりしますね」


 まず、拾った冒険者カード数枚を渡す。

 顔に出やすい人なのか其れを見るなり表情が曇る。


「これは……遺失物ですね。持ち主が現れるまでお預かりさせていただきます……」


「……このカードを持っていた人達はダンジョンで魔物にやられていて生きてはいませんでした」


 そう言って残りの遺留品を全て渡す。


「そうですか……では責任を持ってご家族や友人、所属クラン等へと報告させていただきます。もちろんテスカ様へご迷惑をかけないよう配慮させていただきます」


 そう言ってくれると安心することができる。

 もし自分が死んでしまった事が見つかればルトアに伝わるのかもしれないな。

 縁起でもない事が脳裏に過る。


 受付の人が名前を覚えてくれていた事に驚きつつ話を変えるため、サイクロプスの話をすることにした。


「魔物が思ったより大きくてですね、ここで出すのが難しいかなと」


「あ、魔物の解体は専用の場所があるのでご案内いたします!」



 渡り廊下を使い別館へと案内された。

 移動中、気になることを聞いてみる。


「この国って治安がとても良いですね。何か秘密があるんですか?」


「秘密ですか?それはやはり王様がとても素晴らしい事ですね!其れに尽きます」


 この国は王政なのだろう。


「とても偉大な方なのです。その説明を歴史を踏まえて私が語ると最低3日はかかりますが?」


 眼を輝かせて此方を見ている。

 気になるけど……


「3日ですか、学びがいがありそうです」


「必要最低限の知識は3日で叩き込める自信があります」


 どうやらスパルタコースだったようだ


「あっはいすみませんが今はこの国に引っ越して間もないので生活基盤が安定してきたらお伺いさせていただきます、なのでまたの機会に御願いします」


 丁寧に御辞儀をして断る。

 少し早口になった。


 小声で「約束ですよ」と聞こえた、背筋に悪寒が走る。

 覚悟しておく必要がありそうだ。


 別館の入り口を開ける。

 ここもかなりの広さがあった。

 時間が夜遅いので人はそこそこ、聞くと今の時間帯は清掃や大きい魔物などの解体を従業員達が行っているみたいだ。

 俺みたいな冒険者の装いをしたも者も見かける。

 冒険者ギルドと会わせると東京ドームが幾つ分になるだろうか。

 辺りには見たこともない様々な魔物や動物を解体している作業場でもあった。

 

 販売スペースもある。

 魔物、動物はフックにかけられ、凍ったデカい魚が床に並べられていた。

 東京の某市場が頭に過る。


 肉、野菜、魚などの食品はここでも販売しているらしい。

 この別館に入るには冒険者カードがいるらしい。

 持ってて良かったKONOカード。


 受付スペースの鈴を鳴らすと人が出てきた。

 いや、上から降って来た。


「解体する!何する?お客さん?」


 小さくて可愛らしいハーピーが首を傾げてくる。

 作業服がギャップ萌えだ、100点満点。


「こんばんは、ピーちゃん。この方、テスカさんが大きい魔物の解体を御依頼のようです。親方を呼んできてくれないかしら?」


「うん!わかった!とうりょー!呼ぶね!」


 親方もとい頭領を呼び行くらしい。

 ピーちゃんと呼ばれたハーピーは奥へと飛んでいく。

 ピーちゃんか……そのまんまで覚えやすい。


「オヤジー!客!来た!」


 親父なのか、ということはハーピー?

 でも男のハーピーなんているのか?

 ガルーダとかになりそうだ。


「わかっとる!耳元で騒ぐな!今行くわい!」


 ハーピーと一緒に奥から出てきたのは小柄なドワーフだった。


「ん?誰かと思えば昨日のアンちゃんじゃあないか」


「あ!カジノで会った隣のオッサン!!」


 親方兼頭領もとい親父であるオッサンはギャンブル通いのドワーフで解体屋だった。

 世の中狭いものだ。


「オッサンとは何じゃ!!」


「オッサン!オッサン!」


「やかましい!ピーの助はこれ以上余計な言葉を覚えんでくれ……」


「テスカさん、親方とお知り合いでしたか?」


「えぇ。昨日、買い物と観光をしていまして。カジノに行った時、私の隣に偶々いらしたところ、ギャンブルのイロハをご教示をいただきました」


「……カジノに行ってたんですか。」


 あ、不味い。

 遊んでたと思われてる。

 ただでさえ忙しいと言って先伸ばしにした約束ががが。


「あっはいそれはですねルトア……連れがこの国に訪れる前からどうしても行きたいと言っていたので仕方なくです。仕方なく」


 早口で罪をルトアに擦り付ける。

 クズさに磨きがかかってきた。


「あぁ、昨日テスカさんと一緒にいたとても美人で清楚な方がですか?以外ですね」


 ルトア様ごめんなさい。

 後で良いお酒を買って帰るので許してください。


「つかぬことをお聞きしますが、テスカさんとルトアさんは恋仲なのですか?確か住所が同じ……あっいえ」


 コンプライアンス違反な言動に受付さんは口を紡ぐ。


「いえ、僕はただの居候ですよ」


「そう?ですか?ふふふっ、仲睦まじい様子でしたけど……」


 年齢を見ようとして怒られた場面だろう。

 あまり表情を表に出さないルトアの赤面が見れた貴重な役得シーンを永久保存した脳内で再生する。

 女性とまともに会話するのは小学生以来だと思う。

 普段ならどもるのは明白だが、今は『テスカ』という役を演じているからかスムーズに会話は出来ている。


「ま、なんだ。その魔物をここに出してみてくれよ」


「そうですね。……よっと、はいどうぞ」


 そう言ってアイテムボックスからサイクロプスを出した。


 あれ?みんな口を開けて固まっている。

 ピーちゃんはドワーフの後ろで震えていた。

 まぁ、でかくて見た目が怖いもんなぁ。

 目玉くり抜いちゃったし。


「さ、サイクロプスじゃと!!」


「あれ、言ってなかったですっけ?」


「私、はじめて見ました……」


 ここの周りにも見たこともない大きい魔物はちらほらと見えているからサイクロプスなんて珍しく無いと考えてたんだけど違ったみたいだ。


「頭以外は無傷たぁ、アンちゃんは凄腕なんだな。あいわかった!解体を引き受けよう。」


「よろしくお願いします」


「それはそうとアイテムボックス持ちと伺っていましたが、とても大きな容量なのですね……」


「そうなんですか?よくわかんないですけど、まだまだ入りそうですね」


「色々と規格外ですね。テスカさんには驚いてばかりです。――どうしましょうか。サイクロプスを一人で倒したとなると、特例としてギルドマスターと相談すればランクを上げることもできますよ」


「うーん。 まだ内緒にしといてもらえませんか?できればこれからずっと内緒にしてもらった方が嬉しいですけど。この国にはルトアと来たばかりで右も左もわかっていませんし、僕達は事情があってこの国に来ていまして。それに、ルトアには心配や迷惑をかけたくないので」


 前に居た国に所在がバレると強制送還されそうではあるし、折角知らない世界に来たのだから手厚くもてなされるより、気ままに自分のペースで見聞を広めていたい。

 普段から迷惑をかけまくっていたり、嘘で罪をなすりつけてたりするのは内緒だ!


「あっ!はい。でも流石にギルドマスターには話を通しておきたいのですけど?」


 何故か受付さんは赤面している。

 何か不味いこと言ったかな?


「できる範囲でお願いします。信用できる相手なら話してくれて構いません」


「ほほう。少なくともここにいる面子は信用してくれとる訳じゃな」


「えぇ。有難い事にこれまでも良い人に恵まれ、巡り合える事の方が多い人生でして。人を見る目には自信があります」


 自分は友人にとても恵まれている。


 それが例え本名を知らなくても。

 ゲームのHNハンドルネームで呼び合う中でもだ。


 目の前にいる三人の名前すら知らないがこれからは長い付き合いになる予感がする。


「サイクロプスの素材が市場に流れれば自ずと特定はされると思います。商人の情報網は凄まじいです。時間の問題とは思いますが、やれるだけのことはやってみましょう。ギルドマスターには後で私が話をしておきますね」


「ありがとうございます……えっと……」


「あ、私の名前はホテプです」


「僕の名前はピー!だよ!ピー!」


「わしの名前はアーティじゃ」


「僕の名前はテスカ。今はただのテスカです。」


 いずれゲームで名乗っていた通り名、暗黒炎龍騎士テスカと名乗ってみたい。

 かっこいいだろう?

 かっこいいのだ。

 それでいいのだ。


「ではテスカよ。サイクロプスの解体は承った。素材の売買も此方で一任で良いか?」


「願ってもないです。よろしくお願いします」


「そうかそうか。解体が済み次第、ホテプに報酬とその他の伝言をしてもらうから、また冒険者ギルドに赴くと良い」


「わかりました。ホテプさん、御面倒をおかけします」


「いえ、お仕事ですから。それとテスカさんとルトアさんの駆け落ち……じゃなくて事情も踏まえて良き仕事のパートナーとしても相談相手としても頑張るよう勤めますとも!」


 一瞬、耳を疑がう言葉を聞いたが気のせいにしておく。

 其れにしてもホテプさんに負担にならないようにしなくては。

 早いうちにお礼を考えておくことにする。


「ピーちゃんはね!解体を頑張るよ!」


 両手を挙げてフリフリしている、可愛い。


「ピーちゃんには期待しているんですなw(クルッピプォウ」


「「「えっ???」」」


 ヤバい可愛いすぎて地が出てしまった。

 咳払いで誤魔化しつつその場を後にする。




 帰り道、お酒を買いに酒屋に行った。

 ルトアにお礼とお詫びを込めて良いお酒を贈ることにしたからだ。


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