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呪詛の解放者  作者: 三脚 巴
0章 Player1 暗黒騎士テスカ
12/21

闇魔法

 ダンジョンの内部を駆ける。

 途中、何度か分かれ道があったが直感で自分が選んだ方向と反対の場所を選んで進んで行く。

 自分のスキルを信じての選択だった。


 突き当たりには扉があった。

 この扉の奥から先ほど自分が我に返る切っ掛けとなった轟音が鳴り響いている。


 考える時間がなかった。

 何故なら闇雲に駆けていたときにゴブリンの集団に出くわし、追いかけ回されていたからだ。

 もうすぐ奴等は俺に追い付くだろう。

 一か八か、扉の中に入って遣り過ごす事にした。


 扉に入る。

 中は暗くて何も見えなかった為、松明をつけて身構える。

 足下に亀裂のある直剣があったので拾い、構え直す。

 同時に後ろの扉が独りでに閉まる。

 扉に駆け寄り開けようとするが鍵がかかったみたいに開くことはなかった。


 突如、背後に殺気を感じてこの場を飛び退く。

 先ほどから聞こえていた轟音がこの場所に響き渡る。

 反響音からここは部屋になっているのに気付いた。

 自分のいた場所に松明を投げつけると轟音の正体が判明した。



 ――サイクロプス。


 一つ眼が此方を睨んでいた。

 転がり落ちた松明が下から互いを照らす。

 下から灯りが照らすサイクロプスはより凶悪さを引き立たせていた。

 屈強な肉体から放つドデカイ鎚が轟音の発生源だった。

 先ほど俺がいた場所には地面が陥没していた。

 肝が冷える。

 それと同時に気分が高揚してきた。

 人に襲いかかろうとした時以上に、この身は戦いを欲している。



 頭では逃げるべきだと判断しているのにも関わらず、心が其れを制止させる。

 戦うことから抗えないでいた。


 しかし何故か負ける気がしなかった。

 理由の無い自信が俺を戦いへと後押しする。



 先に動いたのはサイクロプスの方だった。

 既の所で鎚をかわし鎚へと飛び乗るとサイクロプスに駆け寄り、肩にしがみついて首を切り落とそうと直剣を振るう。

 仕留めたと思った矢先、首元で直剣が耐えきれずに砕け折れてしまう。

 鍛え上げられた筋肉は鉄の刃を通さなかった。

 俺を捉えようと伸びた手よりも先に、俺は自分の手をサイクロプスの眼球に突っ込み掻き回す。



「グギャアァァアァアア!!!」



 サイクロプスは悲鳴の用な雄叫びを上げ俺を掴み投げ飛ばす。



 凄まじい勢いで壁に激突し、グシャと部屋に嫌な音が響く。


 血液が垂れ流れている感覚があった。

 遅れて激痛が身体の中を駆け巡る。

 ――それこそ『何かが身体に流れ込んできた』みたいに。

 身体が作り返られていくかのような感覚。

 何度か失神しそうになった。



 ゆっくりと立ち上がって辺りを見回す。

 松明の灯りが消え、闇が広がってた。



 絶望的な状況の中、俺は自分の口角が上がっていたことに気づく。



 正面から風切り音が聞こえる。

 僅かに身体を反らし直撃を避ける事が出来た。


 サイクロプスは暗闇でも此方を認識できるらしい。

 『目が合った』からだ。

 こちらも何故か暗闇に慣れ、目が冴えてきている。


 血が抜けたのか頭が冴えてくる。

 俺は壁を背中にして様子を伺う。

 予想通り、また正面から風切り音が聞こえた。


 聞こえたと同時に壁を蹴って高く飛び上がる。

 先ほどから信じられないほどに身体が動く。

 真下から轟音が聞こえる。

 かわせたらしい。

 サイクロプスの雄叫びが聞こえた。

 降下しつつ下に向けて折れた直剣を体重を乗せて差し込む。


 攻撃はサイクロプスの口内から下顎に当たったらしく、「ヒュー、ヒュー」と雄叫びは声になってはいなかった。

 折れた直剣は突き刺さっているのか手元から離れていた。

 すかさず声を頼りにサイクロプスの頭部を掴んだ。



 いや、正確に言うと『俺の両手で掴んではいない』のだ。



 俺の両腕は曲がってはいけない方向に潰れ、痛覚はあるが感覚がないのだから。


 しかしその手は確かに存在している。

 無数にある手のうちの一つを伸ばすと遠くにあった松明を掴み、俺の近くへと移動させた。

 自分の視覚では視認できてはいない。

 その無数の手は自分の背中辺りから伸び、自由自在に操作ができた。

 ある程度の伸縮も可能だった。


 背中から生えた手は6本あるみたいだ。

 1本は松明を掲げ。

 2本でサイクロプスの頭部を掴み。

 もう2本で地面を掴み身体を支えていた。

 サイクロプスは弱っていたらしく最後の1本で簡単に目玉をくり貫く事が出来た。


 この魔法は、数ある闇魔法のうちの一つなのだろう。

 ステータスを見ると魔力を消費していた。


 サイクロプスを倒し、魔石と魔結晶がその場に落ちた。

 魔石を回収しつつ魔結晶を触ると瘴気を吸収して治癒されたのか両手に感覚が戻る。



 遠くで入ってきた扉が開き、部屋の外から薄く光りが差し込む。

 今思えばこの部屋はボス部屋と呼ばれる類いのものだったのかもしれない。



 気力を出し尽くしたのか俺はその場に座り込む。

 戦闘の時に感じた高揚感も今は落ち着いている。

 戦闘になると自分では考えられないほど挑戦的で自制が効かなくなる。

 信じられないくらいの身体能力を発揮していたのにも驚きを隠せない。

 精神と自我が誰かに乗っ取られてかけているのかもしれない。

 用心することにする。


 【破壊衝動(呪)】


 そのスキルが目に飛び込んできた。

 もしかしたらこのスキルの影響なのだろうか。

 答えは出ないので今は考えないことにした。



 辺りを松明で照らすと数人の人が倒れていた。

 気合を入れて立ち上がり近づいてみる。


 ほとんど骨、人……だった。

 辛うじて人……だと思う。


 全て、原型を留めていない人間だった。


 サイクロプスの鎚で潰されたであろう肉片が無惨にもあたりに散らばっていた。

 皆、視るも無残に絶命していた。


 空の胃袋から吐くものが無いにも拘らず、身体は吐き気を催していた。


 骨や肉片を一ヵ所に集め、遺体の装備や道具を一通り漁った後、火にかけた。

 異世界ファンタジーの御都合主義よろしくな蘇生魔法は存在しないとルトアから聞いていた。

 ダンジョンに放置されたしたいはゾンビやワイト、リッチなどの魔物になるらしいので火にくべるのが常套句とのことだからだ。


 ……松明用の油は良く燃えてくれた。


 装備や道具、冒険者カード等は冒険者ギルドに渡すことにする。

 これらは家族や仲間のもとに返すべきものだから。



 アイテムボックスは便利だった。

 サイクロプスの巨大な死骸もなんなくしまうことができた。

 サイクロプス以外の魔物の死骸も幾つかあった。

 前にこの部屋へと入った冒険者達が倒していたのかもしれない。


 燃え盛る火を見つめつつ、手を合わせた。

 ダンジョンで火を使っても酸欠にならないのは不思議な体験だ。

 ありがたく恩恵に預かることにする。


 部屋を壁沿いに歩く。

 部屋の奥には宝箱があった。


 きらびやかな装飾の宝箱が灯りに反射して存在感を高める。


 躊躇無く開けると、中身には凝った装飾のある指輪が二つ入っていた。

 効果があるかもしれないのでありがたく戴いておく事にした。


 宝箱の後ろに地下へと進む階段があるのに気づく。


 躊躇するも『嫌な予感』がしたので敢えて進んでみる。

 


 そこには濃い瘴気が溢れ出ていた。

 全て吸収していくと身体の痛みが消えていく。

 こじんまりとした空間の中心部に三メートルほどの巨大な魔結晶があった。


 魔結晶に手を触れ、アイテムボックスに収納した。


 不思議と傷も癒えていた。

 目的があっさりと達成してしまう。



 一度また家に帰る事にした。

 ルトアに会うのは気まずいけど、お礼もまだ伝えていなかったし。



 帰ってから、これからの事を考える事にした。


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