ダンジョン探索
ダンジョンの入り口に赴くとダンジョンから帰宅したパーティとすれ違う。
其のうちの一人で若くてガタイの良い男が声をかけてきた。
「お、見ねぇ顔だな。今から一人でダンジョンに挑戦するのか?」
「あぁ、そうだ。」
「……ほう。朝早くから勤勉なことだ。でも今日は止めて置いたほうが賢明だぜ?」
何か理由がありそうだがこういうときって情報を買わないといけないパターンのやつですね。
情報はあればあるほど生き延びる確立はぐんと高くなる。
でも今回は何もないほうが楽しいかなって。
魔物とか知らない植物や生物を観光する気分ですよ。
さっき死に掛けたことを忘れるくらいドキドキとワクワクしたいかなって。
頭を少し下げ、軽くお辞儀をすると俺の脚はダンジョンへと向かう。
「……食えない奴だ。ま、精々気をつけるんだな。」
ダンジョンの入り口に着く。
朝早いからか、国を抜けての道中では彼らのパーティしか出会うことはなかった。
ダンジョンの中には誰かいるかもしれない。
そうならば間近で戦闘などを観察してみたい。
冒険者ギルドの講習を受けていれば良かったのは間違いない。
ダンジョンへの入り口はいくつかあるらしいので、もしかするとこの入り口は人気が無いのかもしれない。
強い魔物とかいたら嫌だな。
あたりを警戒しつつダンジョンに入っていく。
ありがたいことにここまでの道中で魔物と出会ってはいなかった。
魔物に出くわした時、俺がとる行動は逃亡する事にしている。
戦うときは1対1ということにした。
囲まれるとやっかいだしね。
入り口まで来たものの、武器が無いことに気づいた。
その辺に落ちてる良く撓る木の枝を拾った、戦わないし大丈夫だろう。
あわよくば武器が落ちていたら使わせてもらおう。
必需品として持ってる小さいナイフも持っていることだし。
ここまで何も考えずにダンジョンに赴く冒険者は俺くらいのものではないだろうか。
今日は軽く下見程度で済まして、次回に来る時の必要なものや反省点をまとめることにした。
ダンジョンは洞窟にある神殿の中を下に潜って降りていく様な造りをしていた。
ある程度サクサク進んでしまった。
魔物なんていないんじゃないか?と拍子抜けをした。
奥で何か動いている気配があった。
隠れながら音を立てないようにして近づく。
――ゴブリンがいた。
ルトアの持ってた本でゴブリンの絵が載っていたが実物はすごい迫力だ。
ゲームだとザコキャラ扱いなんだけど、間近で見るとどこか不気味な凶悪さがあった。
一体だけだったのでやりすごして観察してみようかと思った。
――ゴブリンの前に人が倒れていなければ、俺は観察に徹っしていただろう。
助けなくては。
反射的に脊椎に命令を流す。
奴を殺すと。
武器なんて探す時間は無い。
ゴブリンはまさに今、片手斧を倒れて震えている人に対し振り落と……
突如、高揚感に包まれる。
実はこの高揚感は今日目が覚めてから感じていたものだった。
そして今が最高潮で、俺は何でもできる気がする感覚に陥る。
こんなにも傲慢な考え方をしたことは今までに無かった。
今日はなんだか雑な考えしか出来ていない気がする。
咄嗟にゴブリンの背後に近づき、後ろから後頭部を目掛けて拳を思いっきり打ち噛ました。
手甲を装着しているのにも関わらず、鈍い痛みが手に広がる。
ゴブリンが前のめりで倒れているところにマウントを取り、何度も何度も殴り続けた。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も――
「もうゴブリンは死んでいます!それ以上は貴方の手を傷めるだけですよ!」
倒れていた人が駈け付けて俺の振り被る手を組み付いて静止させる。
何故止める?
丁度楽しくなってきたところじゃないか?
頭蓋骨を粉々にするのがこんなにも楽しいだなんて初めて知った。
次は引き千切りたい。
快感だ、命を摘むという行為は何事にも代え難い。
もっと、もっとだ。
破壊という名の衝撃が欲しい。
根絶やそう、一匹残らず叩きのめそう。
手に電流が走るような刺激には生きる実感がある。
手なんか放っておけばそのうち治る。
邪魔をするなよ、貴様。
目障りだな――人間の分際で……こいつも殺すか。
振り向き、ゆっくりと手を伸ばし……
『ドカンッ!』
ダンジョンの奥から激しい轟音が鳴り響いた。
砂塵が舞う、爆発音は近い。
其の音で我に返ることができた。
「――今のは一体?」
気づくと俺はその人の首下に手を伸ばしていた。
いや、『確かに意識はあった』のだ。
咄嗟に距離をとってしまう。
今のは何だったんだ?
自分が自分で無くなっていた気がする。
俺はダンジョンの奥へと逃げることにした。
一目散に駆ける。
俺は今、あの人を殺そうと……
その事実だけが頭の中を駆け巡っていた。