魔結晶
目が覚めると朝日が薄っすらと昇っていた。
隣ではルトアが寝ていた。
――その顔は涙を流した後が見え、クマができていた。
その寝室はあらゆる書物と液体の入ったビンが散らばっている。
もしかすると――いや、もしかしなくとも介抱してくれていたのだろう。
この呪いで苦しんでいた俺の介抱を。
身体は包帯を丁寧に巻かれている箇所がいくつかあった。
顔の包帯を取り除きつつ、顔を洗いに洗面所に向かう。
そこにあった鏡に映った俺の顔は、とても酷い火傷のような傷跡が残っていた。
全身の包帯を外すと同じように焼け爛れた傷跡。
この赤く爛れた傷は、誰にも見せれないほどに酷く損傷していた。
俺の姿であったものはまたも別人のような顔と身体になっていた。
包帯を外すと足元に石が落ちた。
拾い上げてみると微かにだが自分の中に何かが流れ込んでくるイメージが確かにあった。
誰にも傷口は見せないように包帯を巻き、鎧を装着した。
寝室へ戻り、散らばったものを整理しようと拾い集める。
すると、ある見開いたページに目が留まった。
『魔結晶』……ダンジョンなどの魔力を生み出す土地等に長年停滞した瘴気が魔結晶と呼ばれる希少鉱石を作る。
その魔結晶を取り込んだ魔物はより凶暴になる。
多く取り込む事でより凶暴になる。
ただし、ある一定数の魔結晶を取り込んだ魔物の魔石は高級品で品質が良く需要も多岐に渡る。
魔結晶は膨大な魔力を内包しているがいずれも瘴気が混じっており、寿命が縮んだり精神を汚染される。
用途は多岐に渡るがまず聖水や聖属性魔法などによって清めない限り使用不可。
このページの挿絵と今握っている石の絵が一致した。
この握っている石は恐らく魔結晶なのだろう。
そしてこの魔結晶から出る黒いもやみたいなものが恐らく瘴気と呼ばれるものなのだろう。
黒く光るこの石はどこか不気味な冷たさをしていた。
そして俺は人の身でありながらも、その魔結晶から漏れ出る正気の混じった魔力を取り込み、あまつさえ身体の怪我を治癒(?)していた。
傷口も塞がっている。
回復が害に、害が回復とあべこべになっているのかもしれない。
難儀なスキルと称号だ。
傷を負わない立ち振る舞いを心がけていくことにする。
全身にまだ痛みはあるが我慢できなくは無い。
落ちている液体の入ったビンは聖水なのかもしれないと直感で理解する。
よく視るとビンのラベルには名称と治癒師ギルドの印が押されていた。
高そうに装丁された木箱の中にあり、未使用だった。
ルトアの両手はかぶれたようにボロボロだった。
何らかの意図があってこの聖水を使わなかったみたいだ。
何らかの意図もきっと俺のためだろう。
ビンの蓋を開け、両手に振り掛ける。
するとルトアの両手の赤みが引いていく。
タオルに聖水を垂らし、ルトアの両手に巻きつけていく。
俺の両手は焼けるように痛かった。
この痛みは自分への戒めとして心に刻んだ。
守られてばかりの自分が恥ずかしい。
俺は何を彼女に返せるのだろうか。
自分の命を救った彼女に、俺は。
ルトアを担ぎ、ベットに寝かせる。
俺みたいなクズい人間に引っかからないように生きて欲しい。
彼女にはもう迷惑をかけれないと考え、体が治癒するまで家を出ることにした。
この傷口を見せると彼女は酷く落ち込んでしまうだろう。
貨幣が並べられた机の上に書き置きのメモを残す。
家に鍵をかけ、また戻ってこられるように祈り去った。
俺はこの呪いを克服する事を決意した。
まずは一人で生きていけるだけの力を身につけることにする。
魔結晶はダンジョンにあると書いていたのでこの国にある近場のダンジョンに入ることにする。
魔結晶を見つけ、ある程度ストックするまでダンジョンから出ないようにしておこう。
無謀と知りながらも焦った俺は早足でダンジョンに赴いた。
無計画だが、知らぬのならこの身をもって覚えていこうとする。
『暗闇神殿』それが最初に訪れたダンジョンだった。