泣く君へ
気がつくと、隣でユアが泣いていた。
不謹慎かもしれないが彼女の頬をつたう光はとても美しく、僕はそんな彼女の横顔に見惚れてしまったようだった。
彼女はグスッと鼻をすすり、またひとつ光をこぼした。
「ユア、悲しいの?」
僕の問いかけに彼女はただ前を向いて答えた。
「うん、悲しいよ。」
光が地面にキラリと落ちる。
彼女は美しい。
心の悲しみを表に出して体全体で表現する。それがどんなに難しいことか、僕にはよくわからなかった。
別に僕に心がない訳じゃないけれど、ユアみたいにはできなかった。
「ユア、どうして悲しいの?」
彼女は僕の問いかけに怒ることなく静かに答えた。
「だって、もう、こうやってみんなと会えないんだよ。」
声がひっくり返って、息を吸って、
「もう、朝におはよってできないんだよ。」
ダムが決壊したみたいに止めどなく光がつたう。
それが、本当に美しくて僕はだんだん彼女を直視できなくなってきた。
「また、会えるよ。」
もちろん確証はない。でも、これ以上ユアを悲しませたくなかった。
「きっと会えるよ。」
この言葉が心のない、ただの言葉であることにユアは気がついているだろう。でも、僕にできるのはこの軽い言葉を言うことだけだ。
だから、何度でも言う。
彼女の涙が止まるまで。
桜の花のつぼみが赤く色ずく頃、僕らはここから旅立った。
次に戻ってくるときは部外者だ。
あのあと、彼女が泣き止むまでにはかなり時間がかかった。そして、彼女は最後に
「私もあなたも、いつかこの日を忘れちゃう。」
と言って、彼女はふわりと笑い
「だって、私たちは人だもの。」
そう、悲しそうに言った。
しかし、僕はそうは思わなかった。きっと、死ぬまでこの日のことを忘れない。
だって、僕の心は彼女の美しすぎる姿を記憶しているから。
僕は今日まで何度彼女のことを思い出したことか。
残念なことに彼女の名前は忘れてしまった。
しかし、彼女のことを忘れることはなかった。そして、何度も彼女の美しさに見惚れた。
僕は彼女の予想に反したのだ。
僕はあの日を忘れない。
いつまでも旅立ったあの日を。
いなくなったら、本当にすべて忘れてしまうのか。
いや、そんなことはない。
記憶の片隅で生きているのだ。
読んでいただきありがとうございました。