一話 転生しましたよ!
初めは何が起こっているのか分からなかった。
頭に響く音がただただ不愉快で目から入る光が眩しくて。
頭に響く音が自分の泣き声であると分かった頃には、自分を抱きかかえている人物をようやく認識する。
俺を抱きかかえていたのはとても整った顔立ちの女性だった。
ただ、俺はようやくまともに見えだした自分の目を疑った。
漆黒の肌。
きらきらと光る銀色の髪。
その銀糸のような髪を押し分けるように生えたまるでヤギのような角。
思わず驚き、声を上げようとして不快な音がまた頭に響き渡る。
「デュッキェン。デュッキェン」
俺の声に反応して漆黒の女性は俺に訳の分からない言葉で優しく微笑みかける。
本能で分かった。この人は俺の母親である。
俺は自らの手をかざし、眺める。
小さな手のひら。
その手は母とは異なり白人のようなきめ細かな白色だった。
あぁ、漫画化やアニメ化するときにめんどくさいことにならずにすみましたね。
と、どこからか声が聞こえたような気がした。
勢いでやってしまったが、どうやら俺は異世界に転生できたらしい。
俺はゆっくりと視線を移す。
転生に成功できたこと自体には意外と驚きはなかった。なんたって自信あったし。
ただ、状況を理解することに時間は要した。
どうやらここは寝室のようだ。天蓋付きのベッドで母は俺を抱えて半身を寝かしている。
その周りには前世の秋葉原で見たようなメイド服を着た人物が三人。
全員が女性であることは胸のふくらみで分かった。
どういうことかと言うと、三人のうち二人は前世の基準でいうところの人間ではない。
一人目は小柄に黒い毛並みの猫耳の少女。
くりくりとした目は俺を好奇の目で見ている。
二人目は何故か両目をベルトで隠している紫髪の女性。
メイド服のデザインのせいもあり、その胸部の主張はすんごいことになっている。そこはまぁ、確かに前世の基準では規格外なのだが。
彼女の口の端から覗くキバは、はっきりと彼女が人外のナニカであると告げていた。
そして最後にこの中では唯一親近感の湧く容姿の女性。
黒髪に見慣れた肌の色。見ただけだと日本人っぽい感じだ。
とここで気づく。
あれ?俺ってもしかして人間じゃないんじゃないの?
慌てて動かしづらい手を見る。
先ほども見たが指は5本に爪は薄いが尖ってたりはしない。
従姉妹に子供が産まれて見に行ったことがあるが、大して変わらない。
母に抱えられている為、下半身を弄るのはさすがに気がひける。
しかし、これだけは分かる!俺は男だ!
再び辺りを見るが首が座ってないせいでメイドさん達しか見えない。
だが、諦めるのも癪なので手で顔をペタペタと触る。
こんなことする赤ん坊はいないだろーな。。。
ほっぺはぷにぷにしてる。変わったところは特にない。
耳は少し尖ってるいる気もするが気のせいかもしれない。
頭に手をやる。
角が生えている気もするが気のせいかもしれない。
いや、生えてます。かなり立派なの。
母と同じ位置におそらく同じ形状。
どーやら俺は人でないものに産まれ代ったらしい。