十七話 チートじゃないもん!
第二の障害物は俺にとってはそこまで難易度の高いものではなかった。
お子ちゃまボディーのおかげでそもそもぶつかってくる幹が少ない。
それになにより相性が良かった。
「っと!」
支柱の一部が開いて小石が飛んでくる。
それ自体は大きな怪我にはならないが、回転する幹と相まって相当鬱陶しい。
しかし、それは他の受験生にとってのこと。
俺は第3の眼「魔眼アルマス」に力を込める。
とたんに白い光が周囲の物体から発せられる。
この5年かけて俺は魔眼の使い方が大分とわかってきた。
魔眼アルマス。俺はこいつを通して魔力の流れを見ることができる。
自分の周りのものは魔眼を使っていれば、ものの距離や動きが分かる。
まぁ、他にもいろいろできるようにはなってきてはいるのだが。
そして、このギミック。どうやら魔法の力で動いているようだ。
魔力の流れに集中していれば、自然とどの経路を通ればいいのかわかる。
ジンはたぶんこの能力を知っていて、俺に声をかけたのかもしれない。
いや、知っていて協力を持ちかけてきたに違いない。
そうじゃなければ、自分の合否がかかってる試験で俺のようなお子ちゃまをわざわざ仲間にしようなどと考えないだろう。
まぁ、あいつが聖人君子の類で年下の俺を助けてやろうと思った可能性も無きにしも……ないか。
俺はふと、社畜人二年目にあたった上司を思い出した。
「あいつはクソ野郎だったなぁ」
そいつは自分の物件にサブ担当という形で俺を付けた。その時点で俺も気付くべきだった。
そいつは初回の打ち合わせに一度来たきり、全て俺に仕事を任せっきりになった。
挙げ句の果てには、書類のチェックすら拒みやがった。
さらに最悪なことに、売り上げの8割はメイン担当ということでそいつに配分された。
今思い出しても腹がたつ。
それ以来俺は、仕事において誰も信用しなくなった。
最低限の社内コミュニケーションは取るものの、誰かに頼ったり相談することはほとんど無くなった。
「まぁ、そーやってほうれんそうを怠った結果がこの世界なわけなんだがな」
だからといって、ジンがあのクソ上司と同じように俺を利用するだけして、手柄を横取りしようとしたのかは不明だ。
しかし、そうでなくても一国の王族。
俺からしたら荷が重い。
「おっ、そろそろ抜けれそうだな。」
落とし穴や、簡易の囲い罠などあったが、今回は額の魔眼のおかげで難なくクリアできた。
俺は自分の手のひらを魔眼で見つめる。
白い光はまだまだしっかりとある。
使用できる魔法残回数がまだあるという印だ。
「と、次はどこに行けばいいんだ?」
自分が今の班の中では半分より上なのは間違いないだろう。
それでも、これから手を抜けるような状況になるかどうか判断がつかない。
成績がいいにこしたことはないわけだし、とにかくこのままゴールを目指そう。
「っ!……しまっ」
しまったと思った瞬間には遅かった。
正面から吹き付ける風に目を閉じる。
浮遊感の直後に襲いかかる背中への強い衝撃。
自分が壁に叩きつけられたのだと理解するのに数秒。
その間も、突風は勢いを緩めることなく俺に襲いくる。
そう、壁。俺の背後には目に見えない壁が展開されていた。
結界のようなものか?
さきほどまではなかった魔力を今は感じる。
いや、巧妙に隠されていただけの可能性もある。
魔眼で注意深く見ておくべきだった。
俺はある程度の魔力なら自然と魔眼を通して見ることはできる。
しかし、微量の魔力や隠されたものとなると魔眼に俺自身の魔力を注ぐ必要がある。
慢心していたつもりはないが、この状況はよくない。
「っく!目が乾く」
俺が先ほど使った風魔法【ウィルガ】なんかとは比べ物にならない強風だ。
逆向きに【ウィルガ】を放っても意味がないだろう。
「っち、仕方ない」
【魔眼発動】
俺は口には出さず心の中で詠唱をすると、今まで以上に魔眼に魔力を注ぐ。
【DECLARE avoid Directivity】
再び俺は無詠唱で、突風そのものに従属魔法を強制的にかける。
自分の中の魔力がガンガン減っていくのが分かる。
くそ、もうちょっと温存しておきたかったんだがな。
この「魔眼アルマス」は魔力の流れが見えることで、流れそのものを操作することができる。
とはいっても俺の魔力総量では、まだ指向性の変更が関の山だが。
今回であれば、突風が俺を避けるように魔力の流れを操作している。
まぁ、あらかじめ何種類かの法則性を持たせて、自分の中でルール付けしているので発動には時間がかからないのが救いか。
魔力が3分の2ほどになったところで突風は止んだ。
どうやら結界を抜けることができたようだ。
うーん。思っていた以上にこの第1パートは難関のようだ。
5歳児になにさせるんだ。
こんな仕掛けがあと何個存在するんだろうと俺は若干憂鬱にならいながらもゴールを目指す。
次か次の次で第1パート終わらせたい。
ってずっっっと思ってます。笑