十一話 入学準備です!
「それで?俺が入る学園ってどんなとこなの?」
部屋に戻った俺はナナカとアルカに質問する。
「屋敷から通える範囲にある学校は一つだけ。第4王立学園「ロア」ね」
俺の質問にナナカがピンク色のツーサイドアップを揺らしながら教えてくれる。
「四戒門が一柱にして私たちのご先祖様「智のサルマージ」が創設者だよ」
「王立」である学園を作ったのが智のサルマージということは、もちろんサルマージ自身が王だったことを表す。
俺は奴隷商人の息子であり、魔王の子孫というわけだ。
ナナカの話をまとめるとロアは、
・一般教養を学び、世を支える者を育てる目的で設立された。
・学校そのものは義務教育ではない、また学びたいものによって通う年数が異なる。
・通常は4年~8年で卒業。王都の高官を目指すものはそこからさらに2年以上の研究。
・特別な場合を除き学園生は5歳から。
・入学には試験があり、その点数でクラス分けがされている。
「で?その入学試験って、どんなものなの?」
俺はそこまで姉の説明を聞いて、問題の試験について疑問を口にする。
「年齢によって違うけど、基本的な読み書きと実技試験ね。私はそれに国の歴史問題と思想判定がある」
あれ?
「ナナカねーさまとアルカちゃんは、別々の試験なの?」
俺は抱きついていたもう一人の姉 アルカを見る。
「当然。どこぞのババアと一緒にされると困る」
「誰がババアよ!」
ついでに、見た目は俺が生まれた時から二人とも全然変わらない。
だが、ナナカは26歳でアルカが17歳だ。
悪魔は種族によって寿命が異なるらしい。
俺の家系はだいたい190歳くらいまでは生きるみたいだ。これから185年もなにしろってんだよ。
成長は幼少期の頃は人間より早いが、15,6歳で容姿の変化が極端になくなる。次に容姿が変化してくるのは50を過ぎてかららしい。
「まぁまぁ、じゃあ俺は読み書きは大丈夫として実技試験の練習をしないといけないんだね」
二人を宥めながら話を進める。
「実技は体術と魔術の二つね。まぁ、オーカなら年齢のこともあるし大丈夫だと思うわよ」
ふーむ。そう言われてもどんな試験か具体的に知っておきたいな。
まぁ仕方ない、いつもどおりの訓練を残り一日やりますか。
俺はこの五年体を動かせるようになってから毎日やっていることがある。
それは第3の眼「魔眼アルマス」の制御と詠唱魔法の練習。それに簡単な体力づくりと筋肉トレーニングだ。
後者の二つは悪魔の体にどこまで意味があるのか最初は不安だったが、効果は薄いながらも着実に成長はしている。
魔眼アルマスは智のサルマージから受け継がれている形質らしい。
まだまだ分からないことの方が多い。
そして魔法。
本来は一種族に対して一つの魔法しか使えなかったらしい。
それを詠唱魔法にすることで他種族間の魔法を使用することが可能になったそうだ。
「とりあえず、今日はもう遅いし明日になってから実技の練習かな」
次の日、俺は早朝から中庭で鍛錬を行っていた。
元人間の俺からすれば子どもとは言え、この悪魔の体は驚きだらけだった。
まず筋力。本気を出せば垂直飛びで2mは飛び上がれる。
そして回復力。どれだけ激しい運動をしても筋肉痛は皆無。全力疾走でも丸一日近く走れる。
日本人男性に多い腹痛も全く感じないし、頭痛や眼精疲労とも無縁。
もし前世でこの体だったなら、俺なら1週間は家に帰らずに働き続けることができただろう。
おっと、いかんいかん。ついつい仕事を中心にものごとを考えてしまう。
まぁ、この体スペックが高すぎて逆に鍛えるのは難しい。
筋肉痛もないからなかなか筋力が上がらない。体力づくりに至っては体力の限界がくるまでに日が暮れる。
そんな中でも俺はひたすら毎日鍛錬を行ってきた。
「脇が甘いですよ、坊ちゃん」
声と共に俺のわき腹へ強烈な蹴りが入る。
いてぇ!人間だったら肋骨何本か折れてるぞ!
わざと吹っ飛ぶことで衝撃を逃がしながら、蹴りを放った主へと顔を向ける。
「ごめん。ファースト、考えごとしてた」
俺は毎日、トリ頭の女騎士 ファーストに体術に関しては指導を受けていた。
「強力な魔法が使える悪魔にとって、体術や剣術とはあまり意味のないものです。しかし、我が身に刻まれたものは絶対に裏切りません。肉体の成長は精神の成長にも繋がります。続けましょう、坊ちゃん」
その言うとファーストは再び俺へと迫ってくる。
五歳児相手でも本気を出す。このトリ頭はそういう女だ。
そして、俺は割りと負けず嫌いだ。
ファーストがギリギリの間合いから蹴りを放ってくる。俺のお子ちゃまボディーではどうやってもファーストに一撃を当てられない。
それが分かった上で間合いの広い蹴りばかり使ってきているのだ。最近俺が力を付けてきたからか、容赦がない。
ならば……
「そいや!」
タイミングよくスライディングで相手の足元を潜り抜ける。
すぐに振り返りファーストの腰をがっちりとホールド。
「きゃっ」
意外とかわいい声でバランスを崩したファーストが地面にこける。
「イテテ、どうだよファースト?驚いt……ッ!」
とっさに俺を庇おうとしてくれたのだろう。
俺に覆いかぶさるように倒れたファースト。
俺はそのファーストの胸をがっちりと掴んでいた。
不可抗力であるが、その後の鍛錬がいつもより厳しかったのは言うまでもない。
あぁ、明日の試験でいい点取れるかなぁ。