十話 俺はなにしに異世界へ?
この世界にきて驚いたことは山ほどあるが、そのうちの一つは誕生日だろう。
暦は前世と同じようにきっちりと存在している。
しかし、生まれた日を一年ごとに祝うという習慣は存在しない。
この世界では大抵、五年ごとに親から試練を与えられる。
それは簡単なお使いから家の存続に関わる問題、結婚や出産などまで多岐にわたる。
たとえば、結婚適齢期の男子に嫁を見つけてこい。
などである。
この慣習をオルダリエという。
そして、俺もいま五歳の誕生日に父の書斎へと呼び出された。
「明後日から学校に行って主席を取ってこい。期間は五年以内だ」
父はぶっきら棒にそれだけ言うと下がっていいぞと手を振った。
「ちょっとお父様!まだオーカは五歳だよ!何考えてるの?!」
ピンク髪の姉ナナカが噛み付く勢いで父に詰め寄る。
「そーだよ。私の時なんてほっぺにチューだったじゃん。オーカもそれでいいじゃん。オーカが私にチューでいいじゃん」
ジト目の姉アルカも怒っているようだが、最後のほうは完全に別の要求になっていないか?
「うるせーなー。もう手続きも済ませた。屋敷から通えるし別にいいだろ。」
普段は姉二人には激甘な父が、珍しく取り付く島もない。
「わかりました。達成できるよう努力します」
俺は頭を下げながら口元を緩める。
やったぜ!これで俺は奴隷製造社畜|(字面だけだとなにがなんだか分からんな)から晴れて学生にジョブチェンジだ!
「あー、あと入学試験あるから。そこでいい点取って上のクラスに入らないとそもそも主席なんて10年かかっても無理だぞ。まして試験に落ちるなんてことがあろうもんなら、その時点でオルダリエ失敗だ」
え?試験あんの?
この世界には義務教育とかってないのか?
そーいえば姉たちは学校行ってないよな?
うーむ、最低限入学できるようにはしておかないとな。
ついでに、オルダリエを達成できなかった場合の罰は親が決める。
罰は事前にオルダリエと共に言ってもいいし、後だしでもいい。
「ついでに、失敗した場合は1年間教会で共同生活だ」
父は俺には眼もくれずに手元の資料を見ている。
「そんな……酷い」
ナナカが言葉を詰まらせる。
おー、五年の学生生活の後には一年の出家コースまでついてくるのか。いいぞ、もっとやれ。
俺はなんたって元社畜だからな、神に祈って毎日が過ごせるならそれはそれで全然OKだ。
「なら、私たちも学校行く!」
へ?
ナナカが突然俺を抱きしめながら言う。
「うん。じゃないとお父様に一生チューしない」
アルカも負けじと俺を抱きしめる。
別にそんな無理して俺に付き合う必要ないんだけどなー。
ほんと、心配性だなぁ。
「ちょ、それは卑怯だぞ。それにお前ら二人とも学校に行くのは嫌だってずっと言ってたじゃねーか」
父は端整な顔を歪める。
「オーカが行くなら、私たちも行く」
俺を抱きしめるナナカの腕に力が入る。
「レーベン。ちょうどいい機会じゃない」
そう言って書斎に入ってきたのは母だった。
「あなた、以前からナナカとアルカも学校に行かせたがっていたじゃない。せっかく二人ともがやる気を出したんだから、それを邪魔するのは良くないわ」
この家で一番発言力があるのは間違いなく母だ。
そして、母が姉二人を学校へ行かせたがっている時点で決着は決まった。
「うーん……仕方ない。わかった。これから学園長には話をつけてくる。三人とも明後日の試験の準備ちゃんとしとけよ」
折れたのはもちろん父。
父はそのまま立ち上がり書斎を後にする。
しかし、扉のところでふと立ち止まる。
「そーだ、オーカ。一つだけ言っておく。お前は学園でしっかりと常識を学べ」
父はそれだけ言い残し去っていった。
「もう、お父様ったら!まるでうちのオーカが非常識みたいじゃない!」
ナナカは扉を見つめてぷりぷり怒っている。
常識ね。前世の記憶持ちになかなか難しいことを言ってくれるよ我が父は。
そんなわけで突然俺は、姉と共に学園生活を送ることになった。