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楽しめカオスな新世界!  作者: スリジャヤワルダナプラコッテ(笑)
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一話:竹谷聡介

竹谷たけや聡介そうすけ

それが、彼の新しい人生に付けられた題名だ。

彼は心に決めていた。

この命は、人生は、誰に縛られることもなく生きていく、と。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「■■■■~■■■■■■!」

 「あぅあぃ」

 「■■ッー■■■■~!」


 (ここは……僕の新しい、家?このひとがお母さんかな?)


エル、改め聡介の目の前には一組の男女がいた。

二人揃っておいでおいでと手を振っているので、まだ力の入り切らない手足を使い、ヨチヨチと歩く。

するとこれまた二人して笑顔になり、女の方は何やら喜んだようにはしゃぎながら手を叩き、男の方は驚愕したように聡介を眺めた。

恐らく両親なのだが、如何せん異世界の言語なためハッキリせず、対応を決めかねていた聡介だが、取りあえず二人を両親だと言うことにして、まず言葉を理解しようと決心した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         ~生後一年三カ月~


聡介は積極的に読書に勉めていた。

生前の物覚えの良さはシッカリ受け継いだらしく、次々と吸収していった。

七月も中旬に入り、今日も外は三十度を軽く越えている。

しかし生前は世界中を旅した経験のある聡介はこの程度の暑さはどうという事はない。

それに今聡介の行る場所は父の書斎だ。

冷房がこれでもかと冷たい息を吐いている。

それを見ながら聡介は内心ため息をついた。


 (はあ、本当に凄いなこの世界は。魔法なんか無くても何でも出来ちゃうんだもんね。...ん、ちょっと暗いかな)


そして聡介が本の上に手をかざすと、小さな光の球体が浮かび上がり、辺りを明るくした。


 (こういう小さな術でも魔力は減っちゃうしね)


この世界ちきゅうでは魔法は『何でも出来ちゃう便利な物』みたいな認識だが、聡介からしてみれば魔力の消費なしに同じ事ができる科学の方が便利に思えてくるらしい。

そしてまた読書に没頭し始めたそのとき、書斎のドアが叩かれた。


 「聡~入るぞ~」


入ってきたのは竹谷たけや健司けんじ、聡介のこの世界の父親だ。

とても厳格そうな顔をしているのだが…いや普段はそうなのかもしれないが、少なくとも聡介の前ではだらしないほどに顔を緩ませる。


 「聡介はホントに本が好きだな。だが引きこもってばかりじゃダメだぞ?お隣のルミちゃんまた来てるよ」


 (う、ん、あのコかぁ)


ルミちゃん、もとい工藤くどう瑠美奈るみなは、いわゆる幼馴染みである。

聡介と産まれた病室や日付が同じだったり、実家が隣同士だったりで済し崩しに親ぐるみの付き合いを始めていたのだ。

そして聡介は何故だか瑠美奈に懐かれてしまい、少し…いやかなり参っていた。

瑠美奈に、ではなく本が読めない事に対してだが…。


 (んーー。この本も後ちょっと何だけどなぁ、ってこの足音はまさか…)


聡介が隠れるよりも早く開けっ放しのドアから入ってきたのは工藤くどう政信まさのぶ、瑠美奈の父だ。

これまた健司と似たり寄ったりの強面だがこっちは本物の『厳格な人』だ。

だが親馬鹿なのは変わらず、瑠美奈の前だと、少し顔が緩む。

その腕には聡介と同い年の少女が収まっていた。


 「ほら、遊んでおいで」

 (ちょっと政信さんやめて下さいよ~~!)


そんな聡介の心の叫びが聞こえる筈もなく、瑠美奈がヨチヨチ歩きで近寄ってくる。


 (ぐ…か、可愛い!)


そんな姿を見てしまうと逃げる気も失せてしまい、笑顔で迎えた。


 「ん、おいでルミ。一緒に遊ぼう」

 「あぃ~」

 (((可愛い)))


これ以上ない笑顔に、男三人衆の心の声が図らずも重なった。

しかし生後一年三カ月の幼児の思考としてはこれ如何に。



 「ふむ健司よ、お前さんとこの坊主は末恐ろしいな。この年でここまで流暢りゅうちょうに喋れるとは」

 「全くです。親馬鹿かもしれませんが、神童と呼んでも良いのではないかと思ってしまうぐらいです」

 「はっはっはっ確かに、私もそう思うよ。ではどうかね?ここは家の瑠美奈と縁を結んでは?」

 「ほう?それは名案ですな。では本人達さえ良ければ…」

 「うむ」


聡介の耳の及ばぬ所でトンデモトークが続いていた。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

          ~生後十歳~




時間は午前零時。

この日聡介と瑠美奈は学校の屋上に来ていた。

冬休みに入ったばかりなのだが...。

いやそれ以前に門限を破っているためバレたら雷が落ちるのは避けられないだろう。


 「ルミー早く来いよ」

 「ちょっと待ってよここ屋上だよ!?って言うかどうやって鍵開けたの!」


瑠美奈は自分の幼馴染が犯罪に手を染めたのでは、と子供心にも冷や汗を流した。

無論魔法を使ってだが。

それに、初冬のしかも真夜中にパジャマ姿で外にいても二人が寒がっていないのも、聡介が寒気緩和魔法をかけているためだ。

しかし、いまだ転生云々を説明していない聡介は誤魔化すのに苦労している。


 (そろそろ打ち明けようかな?いやせめて中学に入ってから...。)


と、只今現在進行形で悶々としている最中である。

...ヘタレということなかれ。

 

 「ねえどうやって開けたの!?」

 「まぁまぁそれより今日だろ?」

 「え、あ、うん」


そう、十歳の二人(一人は精神年齢二十五歳)が何の理由も無く門限破ってまで学校に来るはずが無い。

その理由というのが...


 「うわ~綺麗!」

 「うん。彗星なんて初めて見たよ」


彗星である。

二人の頭上には、幾重もの尾を引いた青白い彗星が見えていた。

数日前から、テレビというこの世界の魔道具ならぬ電子機器で、この彗星の事を知った聡介はこの日瑠美奈に声をかけ、誘ったのだ。



夜中に起こしに行って叫び声を上げられ、大慌てで遮音結界を張った聡介が、この誘い方は二度としないでおこうと決心していたのは、また別のお話。


 

 「ありがとう、聡君!一生の思い出にするね!」

 「っ!......っっ!」



この時の瑠美奈の笑顔を忘れることも出来なさそうだな、と聡介は内心で呟いた。

そうとも知らない瑠美奈は、十歳にして早くも女性らしさのにじみ出る笑顔を無意識に振りまいていた。


 (また、こうやって誘ってくれないかな...でも聡君だし誘ってくれるよね!)


聡介は、この隣にいる幼馴染にずいぶんと買われているようだ。

そうとは知らないで彼女の笑顔にあてられた聡介が、その場に自分しかいなくて良かった、と小声で呟いていたのだが、その声を聴いたのは夜空を流れる彗星だけだった。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

          ~小学校卒業式にて~




聡介からしてみれば小学校の授業は初めての知識が次から次から入ってくる楽園だった。

物覚えの良い事も幸いにテストは満点、成績はトップと、順風満帆な生活だった。


 「聡介、良く頑張ったな。私も鼻が高いぞ」

 「うん。ありがとう、お父さん…ってお母さんは?」

 「ああ、もう直ぐ来ると思うよ」


母、竹谷たけや麻奈美まなみ

プロのファッションデザイナーだ。(父は工場を経営している)

デザイナーなのにモデルよりスタイル、ルックス共にずば抜けている(聡介からしてみればモデルの恨みつらみがこっちに向かないか心配が絶えないだろうが)。


 「あ、来たよ。お母さ~ん!」


聡介の視線の先には、麻奈美が茶色いセミロングの髪を揺らしながら、見事に堂には入った動きで歩いてきた。

顔の基準は変わるが前世でもモテてんじゃないかと、半ば本気で聡介が疑るのも無理はない筈だ。


 「ごめんなさい?少し寝坊しちゃって」


語尾に音符の付いていそうな弾んだ声で騙されそうになるが、遅れた理由がなかなかひどい。


 「あら?今日は瑠美奈ちゃんはいないの?」


イイ笑みで聞いてくる母、麻奈美。

からかい純度100%の顔だ。


 「あのねお母さん、僕はまだ十二才ナンダケド?」

 「ふふっ聡介みたいな十二才はいないわよ、おませさん?」

 「はっはっはっ確かにな。図書館の本を全て読破した上に内容も暗記してしまう十二才はいないな」

 「ひっどーい」


笑いあう三人。


 「あ、そうく~ん」


そこに瑠美奈達工藤家が到着した。


 「ルミ、今来たんだ?」

 「うん。じゃあ行こっか?」

 「待たせといてその言い草は何さ?」

 「ごめんごめん」


と、軽い調子で謝った瑠美奈はスルリと腕を絡ませてきた。


 「ちょ、ルミ!?」


まだまだ幼さの残る体系だが、将来の有望性を感じさせる膨らみが聡介の腕に当たる。

前世では魔法に没頭していた聡介には、まだハードルが高いようだ。


 「あらあら」

 「はっはっはっルミちゃんは中々大胆だな」

 「こら瑠美奈。『そういうこと』は二人っきりの時にしなさい」

 

二人っきりの時でもダメだよぉ!?という聡介の叫びは誰にも相手にされなかった。


 (聡君、私の事好きじゃないのかな。だったらこういう事、メイワクなんじゃ...ううんでも他の人に取られちゃうのは嫌!)


若干瑠美奈の耳に赤みがさしていたが、気づいた者はいなかった。

聡介の鈍感っぷりに呆れるのに、忙しかったというのもありそうだが...。


そんな他愛もない会話(?)をしつつ、皆で式場へと向かった。

そんな中で聡介は思う。

これが、この生き方が僕の夢見た物なんだ、と。

そして春の陽気が漂う中、ゆっくりと時間は過ぎていった。












一ヶ月後。

聡介は、新しい人生から『平穏』の二文字が消える事になるとは、とはこの時夢にも思っていなかった。


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