プロローグ
彼の名はエル・カルマック、15才だ。
歴史ある魔法大国で、世界最高峰の魔法を身に付けた。
物覚えが良く、周りからは『神童』だと呼ばれていた。
そして今、彼は数千年に渡り祖国を苦しめていた『魔王』デボルグロードと対峙していた。
デボルグロードは既にその命を絶やしかけていた。
エルの全魔力を注ぎ込んだ最上位魔法より更に上に位置づけられている神格魔法によるものだ。
だがエルも全魔力をつぎ込んだ反動で『魂』そのものが体から離れかけていた。
「クハハハッ善きかな善きかな」
「ハァ…何を笑っている」
デボルグロードはその醜悪な顔に恍惚とした表情を浮かべていた。
彼は喜んでいた。
初めて自分を倒し得る力を持った者が現れた事に。
この永き命に終焉をもたらすやも知れぬ事に。
そして、
輪廻の輪に戻り、再び転生できることに。
そして二人は、方や永すぎた命を、方や短すぎた命を、散らしていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
エルは永遠とも感じる時の流れを過ごした。
そして意識が覚醒してもそこには何も無かった。
ーーーここは…?ーーー
エルが周りを見渡してみてもモヤモヤとしてよく分からない。
体に感覚は無く、深い水の中で漂っているかのようだ。
すると頭の中に声が響いてきた。
(勇敢なる人の子よ、汝には詫びと礼を申さねばならん)
ーーー貴方は誰ですか?ーーー
口は動かせないエルは、頭の中で答える。
(我は輪廻を司る神の一人なり。彼の魔王は、我々輪廻を司る神の一人だったのだ。だが奴は同胞殺し、つまり神殺しという禁忌を犯した。天界を追われた奴は地上へと降りてしまい、魔王として君臨したのだ)
エルは直ぐには飲み込めなかった。
ーーー神?あの魔王が?ーーー
思わず呆けてしまう。
(そうだ。汝には事の尻拭いを任せてしまった)
ーーー別に気にしてなんて……いや、まあもう少し生きていたかったかな…ーーー
エルは偽りのない本音を、吐露した。
(あぁ本当にすまない。だが私も輪廻を司る神だ。汝を再び生ある者の世界へ返すこともできる)
ーーー本当ですか!?ーーー
(ああ。しかし同じ世界には返せない)
ーーーッ!……それは何故?ーーー
(世界その物が、同じ『魂』を持つ者を拒むのだ)
ーーーそう、ですかーーー
(ああ、汝が次に生まれるとすると……ふむ地球とな?これまた数奇な運命に愛されているな)
ーーー?ーーー
(あぁすまない。ではどうする?新たな生を望むのなら、我は送り出そうではないか)
エルに否があろうはずも無かった。
ーーーお願いしますっ!ーーー
(よかろう。では来世では良き生を)
ーーーはいっ!ーーー
ここでエルの意識は途絶えた。
次に彼が目を醒ますのはとある病院の一室である。