幻
暴走状態にあるサンダーバードは、俺らに雷撃を落としながら距離を詰めてくる。
ここで失敗すればリコルノまで巻き込みまる焦げだ。それだけは避けなければならない。
「俺が一旦ここで足止めする! 3秒だ! 3秒の間に頼むぞリコ!」
「はぁ!? ご主人死んじまうよ! 何考えてんだ!」
うなずくリコルノと叫びながら振り返るるんるん。
たしかに、俺だけなら一瞬で消しとばされるだろう。相手はそれだけ巨大で俺一人でなんとかなる問題ではない。
だが、木の根元に巨大蜂の巣があるのに俺は気づいていた。というか、本来巨大ハチは好戦的で旅をするにあたって避けなければならない魔物である。
俺らがこのハチの住処を簡単に横切っているのは、俺の能力、ハーレム能力のおかげなのだ。
あの魔物は働きバチは全て雌。俺らに危害を加えることはなく、さらに俺が助けを呼べば一目散に飛びついてきてくれる。
「これが巨大バチの壁だぁ!! 簡単に突破できると思うなよ!」
俺の目の前に高速で飛んできた巨大ハチたちは、そのまま連携し、サンダーバードの行方を阻むように針を構え行方を阻む。
雷撃に直撃し、何体かは無惨に散ったがそれでも数えきれないほどの数だ。
いくら暴走状態の雷撃ちまくりサンダーバードでも簡単には突破できないだろう。
「あんまりこの手は使いたくはないんだけどな……。生き物を道具のように扱うのは心にくる」
奥の手とはいえ、あまり使いたくはない手段であった。
ここまでくると運がいいとかじゃなくて一種の洗脳だからな。
雷撃で落とされたハチたちには申し訳ないが、突撃に耐えてるハチの命まで奪うわけにはいかない。
俺はまだかまだかとリコルノたちの方へ振り返る。
「よし、いける」
リコルノの声とともに、額にある角が青白く輝く。閃光は瞬く間に周囲を覆うと、一面青白い無の空間となった。
るんるんの言ってた情報だと、一人に対してだけ幻覚を見せられるって説明だった気がするが、失敗して俺に幻惑をかけたのか?
青白い空間の床から、リコルノの角と似たような発光した棘が次々と生えていき、俺の体の周りを覆っていく。それは他者も同様で、サンダーバードやルナ、るんるんたちの体も動けないように棘が次々と出現した。
だんだんとリコルノの表情が険しくなり、角の発光が収まっていく。やがてちかちかと点滅しだすと、リコルノがその場に倒れるのと同時に角の発光も収まった。今すぐ抱えに行きたいところだが体が言うことを聞かない。リコルノの倒れた場所あたりから青白い空間は消滅していくが、あたりの景色がみえるようになっても体を覆う棘は消えそうにない。
「幻覚の具現化……」
あきらかにリコルノの意識はなく、俺の意識ははっきりしている。それでいて、体を覆う棘に対する感触があり、周りのみんなも動けない状況が続いていた。
リコルノの本来の力が強すぎたための暴走。単体ではなく近くにいる人全員を巻き込む幻覚にそれを現実に変える能力。
しかも本人は耐えられずダウンとなると、デメリットが多すぎる。
幸い幻覚は解けたもののサンダーバードの動きは封じれたため、十分な仕事をしてくれたといえるが、倒れた本人の状況と俺たちの状況を考えると、安心というわけにもいかない。
「るん、近くに待機している狼は? ほかにいないのか?」
「今こっちにむかわせてるとこ。あと2分くらいでつくはず」
それを聞いて安堵しつつも、俺は一緒に棘だらけにされてしまったハチたちの親玉、女王バチにコンタクトをとってみる。
家族がなかなかかえってこないのに不安になったのか、巣から顔をだしているのが見えたからだ。
なんとか了承してくれたらしく、女王バチは働きバチの棘を強靭な顎で砕き、一匹ずつ解放していく。解放されたハチたちも、同じように顎で棘を粉砕していき、少し経ったあたりで合流したるんるんの狼らと一緒に俺らの動きを制限してる棘も破壊してくれた。
俺は棘が壊れ動けるようになると、リコルノの状態を見に行く。キュリア、ルナ、るんるんもその様子を見ていたが、気を失っているだけのようで命に別状はなさそうだった。
若干計算違いなところはあったが、無事サンダーバードの動きを封じることに成功した俺らは、そのまま動けないサンダーバードのもとへ近寄る。
まだ理性は戻っていないようで、話が通じる様子ではなさそうだ。
だがこのままこいつを放置するってわけにも行かない。身動きの取れない上位種なんて金目的の輩がわんさかと狙いにくるに決まっている。
なんとかして自我を取り戻してもらわないと困るんだが……。
腕を組み、その場で考えていると気絶していたリコルノが目を覚まして何事もなかったかのように立ち上がった。
リコルノはあたりを見回し、サンダーバードの様子を確認する。
「この人、事故で雷に撃たれてそこから我を見失ってる。たぶん撃たれた分の電力を消費したからそろそろ戻る」
「いや、お前は平気なのかよ。もう少し休んどけ」
リコルノは「平気」と一言だけ返すと、サンダーバードを煽っている棘に手を当て、動きを制限しているそれをバラバラに砕いた。
俺らがぎょっと驚くのも束の間、サンダーバードは力を使い果たしていたのか、その場に崩れるように倒れ、再び暴れるといった気配は感じなかった。
「うーん……、暴走状態になったとしても、仲間がいたら助けてくれそうな気がしますけど……」
「うるせぇこのアマ! オレぁあの里から出たんだよッ! 仲間なんていねぇ!」
突如、癇に障ったのかルナに対して激昂するサンダーバード。自我を取り戻せたのか言葉を離せるようになったのはよかったが、助けてくれた恩人たちに向ける態度ではない。
「おまえ、俺らが助けてなかったらどうなってたかわかってんのか。もう少し立場ってもんをわきまえたらどうなの」
サンダーバードは一瞬ムッと俺を睨むような表情をしたが、「たしかに……」と一言呟くと、次の瞬間落雷のような衝撃音と共に、半裸で金髪の青年に姿を変えていた。
目の色は青と赤のオッドアイ。綺麗な土下座で出現した青年は、俺ら一人ずつに目線を合わせると、深々と頭を下げる。
「この度は大変ご迷惑をおかけしましたッ! この御恩は一生忘れねぇ! ありがとうございましたッ!」
「ほう、ちゃんと礼を言えるのならヨシ」
「きんきらきんですごいねえっ!」
状況を理解していないキュリアはさておき、俺はサンダーバードに手を差し伸べ、顔を上げさせた。
無事話が通じそうな上位種と会うことはできたが、こいつの事情からして和解までの道のりはまだまだ長そうだ。




