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第97話 盟約

 お待たせしております!最近、人生で最大の買い物をしてまして色々と大変な日々を過ごしています。

 インフルやコロナもまだ身近にある昨今ですので、皆様もご健康には気をつけてお過ごしください!

 それでは「迷宮都市〜光と闇のアヴェスター」本編の続きをご覧ください!

 「襲われた!?」


 妖精族の少女リリスの話を聞き、ユウ達一行は驚愕した。

 異世界(アーモロード)でも種族の興亡に関わるような事件は耳目を集めることは間違いない。

 それが稀少種で、その存在が半ば伝説的な種族ともなれば尚更だった。


 「攫われた……。みんな、攫われた……」


 リリスが語り始めた内容の衝撃に誰もが唸る。指揮官であるガルフさえ、獣人族社会におけるその影響を考えて押し黙った。


 「いったい誰がそんな無法なことを!」

 「妖精郷を襲撃したって言うのかよ!? 有り得ねぇだろ!?」

 「そもそも、何処にあるかすら知らないんだぜ……」


 歴戦の探索者達ですら知り得ない妖精郷の場所。それは耳長族(エルフ)の王族であるアリエルでさえも正確には知らされていない程の場所である。

 妖精郷への道程はハイエルフと祭事に関わる王族の一部にしか知らされていない筈だからだ。


 (助けて……、使徒様。助けて……!)


 震える妖精が求めたのは、彼らの母と連れ去られた妖精達の救出。

 妖精達を襲撃し、妖精女王もろとも連れ去った者達の存在が不気味に浮かび上がる。


 「妖精郷を襲った連中は分かっている……」


 巨人族(ジャイアント)の戦士長ヴァルナークが言う。ユウ達一行の注目が彼に集まる。


 「闇の盟主(・・・・)を崇める者どもだ!」


 怒りの表情を滲ませてヴァルナークが苦々しく告げる。

 彼自身、奴等との戦闘で傷を負ったのだ。巨人族(ジャイアント)である彼を追い詰める程の戦闘集団がいるとなると迷宮攻略の難易度が変わってくる。

 まだ見ぬ闇の勢力に少年の背筋が凍る。


 「妖精女王を連れ去ったのは闇色の肌を持つ者ども。楽園を追放された忌まわしき放浪の民。闇に身を落とした耳長族(ダークエルフ)どもだ!」


 襲撃を逃れた僅かな妖精族の子達が助けを求めたのだろう。

 古の盟約に基づき、妖精郷を救うべく立ち上がったのが巨人族の戦士長ヴァルナークだった。

 それを悉く邪魔しているのが闇の勢力なのだろう。ヴァルナークの話から相手は強力な呪術師(シャーマン)を擁する集団らしく、様々な魔法を使ってきたのだという。

 

 「ヴァルナーク殿、奴等はいったいどのような魔法を?」


 フリッツバルドが巨人族(ジャイアント)の戦士長に尋ねる。

 彼自身、回復魔法によって傷付いたヴァルナークの治療中だ。優しい光が巨人の身体を薄く包んでいる。回復系統の中級魔法を行使しているのだろう。

 

 「奴等が好むのは行動阻害系の魔法だ。あと、隠蔽や毒もよく使う」

 「弱体化(デバフ)系か……」


 少年の呟きをフリッツバルドが拾う。


 「もともとすばしこい奴等だ。戦いの相性が少しばかり悪かったが……」


 だが、とヴァルナークが吼える。


 「次こそは根絶やしにしてくれる!!」


 手の内を知ったからには必ずと巨人族(ジャイアント)の戦士長が息を巻く。

 そんな巨人を魔法使いが優しく諭していた。


 「フフ……、回復にもう少しかかりますよ。まだ動かないでください」


 “黎明の杖”を掲げる彼も闇の勢力の存在を前に何を思うのか。

 優しい顔つきからは内心までは伺えないものの、やはり師匠(ガルフ)のパーティーメンバーと言うべきか。有象無象とは考え方が違っている。


 「ガルフ。迷宮攻略に障害はつきものだけど……。どうする気だい?」

 「放っておく訳にもいくまい。友よ」


 だがな、黒狼族の戦士が言おうとしたところで声が掛かる。


 「俺は大将につくぜ」

 「見捨てることなど出来んな」


 ブリドラとエルダーが続く。うちには姫さんもいるしな、とブリドラが視線を送る。


 「ガルフ……!」


 金糸の髪を揺らすアリエルが真剣な眼差しで見ている。

 妖精族と親交のある耳長族(エルフ)の王族であるという彼女の事情があってなお、非道な行いを許せない高潔な精神が彼女を突き動かす。


 「大樹の森と友好を結ばれた妖精女王に、私たち耳長族(エルフ)は恩義があるのです。それを差し置いてもガルフ、助けてあげましょう!」


 アリエルの願いを聞いたガルフは真剣な顔で黙考する。迷宮攻略には予定に無かった事だ。しかも危険度は未知数。仲間達の生命を預かる身として判断に悩む場面だろう。

 だが、彼は不意に少年に顔を向ける。


 「此処は、ユウに決めてもらう」

 「!!」


 迷宮攻略を目的にした一行の願いを少年は斟酌することになる。












 中層の休息地で、期せずして探索者達は巨人族(ジャイアント)との交流を果たしていた。

 ユウ達、迷宮攻略組一行は、ヴァルナークに迷宮に来た目的も話し、大陸中に迫る戦争の危機を伝えていた。

 そうした誠実な対応が功を奏したのか、話し終わる頃には彼の信頼を得ていた。


 「なら、ヴァルナーク殿は妖精族との約定を果たす為、闇の盟主の尖兵に挑まれたと?」


 魔法使い(フリッツバルド)の問いかけに巨人族(ジャイアント)の戦士長は首肯する。


 「然り」


 見上げる迷宮攻略組の一行を見下ろしてヴァルナークが厳かに言う。


 「我らの里(・・・・)は、北の山脈を越えた険しい場所にある……」


 語り出すヴァルナークの声は不思議な響きを持って少年の胸に届いた。


 「ドルーナ川を越えて、更に北へ北へと歩き、山深い渓谷へと辿ったところに妖精族が立ち寄る森があるのだ」


 霧深く立ち入る者を拒む森に思いを馳せるのか、巨人族(ジャイアント)の戦士長は思い出すように間を置いた。


 「彼らにとっては数ある森のひとつだが、その森にある薬草は効能が高く、傷を負った巨人族(ジャイアント)の戦士達を幾度となく救ってくれた」


 分かると思うが、とヴァルナークは語る。


 「その薬草を育てている(・・・・・)のが妖精族(・・・)なのだ」


 身体の大きな巨人族(ジャイアント)にとって効能の高い薬草は必需品だろう。勇壮な戦士である彼らを傷付ける存在が何かまでは分からないが。

 

 「かつて我らの太祖は妖精族に救われ、一命を取り留めた。以来、我らは妖精族に危機が迫った時には助力することを取り決めたのだ」


 古い、古い約定なのだとヴァルナークは語った。


 「深い森の最奥にある清らかなる泉から、満月の夜にだけ湧き出る聖水と妖精族の潤沢な魔力をもって育まれた薬草は桁違いの薬効がある故に、獣はもちろんのこと魔物達からも狙われる。地上に森は数あれど、妖精族に祝福されたその土地を守ることは我らにとって太祖から申し送られた約定を果たすことに繋がるのだ」


 小人(ドワーフ)達とはまあまあ争ったものよ、鍛治は木を切るからなとヴァルナークは豪快に笑った。


 妖精族の少女リリスがヴァルナークを見ていた。その黄金の瞳の色が信頼を寄せているのが分かる。


 「それに奴等は今回……、戦いの最中、とんでもない罠を仕掛けてきおった。」

 「!!」


 ヴァルナークの語る内容から魔法使い(フリッツバルド)が予感めいた何かに緊張する。


 「元々、我らは北方山脈の森で戦っていた」


 忌々しいと憎らしげに語る巨人族(ジャイアント)の戦士長は握る拳に力を込めた。


 「敵も雲霞の如く……。気付けば仲間達と分断され、黒い霧に撒かれたと思ったら迷宮(ここ)に飛ばされておった」

 「“転移系の罠”ですか……!」


 其の意味するところに魔法職達が戦慄する。

 巨人族(ジャイアント)の戦士を数百キロもの距離を無視して転移させる罠。それも世界樹の迷宮の中に呼び込むとは如何なる魔法だと言うのか。

 戦は水ものとは言うが、卑怯な手を使う奴等にただ()られる訳にはいかんと断言する。


 「貴方の戦ってきた敵とは……?」


 フリッツバルドの質問をヴァルナークが最後まで聞くことはなかった。

 殺意が交じる不穏な空気が周囲を占める。


 「……追って来たか!」


 まだ微力な魔力の波動を巨人(ヴァルナーク)が感じ取った。

 治療を受けて間もないというのに戦士長は武器を手に取る。


 「警戒しろ!」


 ガルフの一声で攻略組の全員が緊張する。それぞれに獲物を手にして周囲を伺う。既に斥候職(スカウト)達は四方に散っている。


 「ヴァルナーク殿、貴方を襲った奴等ですか?」

 「間違いない。闇の波動を感じる……!」


 フリッツバルドの問いにヴァルナークは剣先で其の方向を指し示す。

 其処は峻険な岩肌が下層へと続いているナイフエッジと呼ばれる通路。ユウも通ったことのある場所だった。


 「闇の波動(・・・・)……?」


 ユウの口から知らず声が漏れる。邪悪な魔力の一端が、近づいてくる気配がする。

 其れが何なのかを説明することが出来ない。それでも、肌で感じる波動にユウの脳内にけたたましい警鐘は鳴り響く。


 「エントの民(・・・・・)……! ここまで追ってきたのか!」


 巨人族(ジャイアント)の戦士長ヴァルナークが下層への入り口のひとつを睨んだ。

 巨大な盾を持ち上げ、前へ踏み出す。巨人の様子に探索者達は訳もわからず狼狽えていた。


 「天の御使いよ、ご照覧あれ!」


 まだ見ぬ敵に向かって行くヴァルナークの視線の先から何かが蠢く地鳴りのような音が聞こえる。

 不快な魔力が伝播してくる。

 巨大な質量が移動していると、ユウは推測する。それもヴァルナークに引けを取らないほど巨大な何か(・・・・・)だ。


 「気をつけろ! 何か出て来るぞ!!」


 迷宮の入り口から狭そうに身を捩りながら大型の魔物が這い出てくる。低い姿勢から起き上がる姿は巨人族(ジャイアント)に引けを取らない。


 「トレント!?」

 「違うぞ! ひと回り大きい……、こいつは!?」

 「エルダートレントか!?」


 巨木のような体躯を揺らしてエルダートレントが進む。

 エルダートレントが迫る巨人族(ジャイアント)の戦士長を真っ向から迎え撃つ。

 ヴァルナークの間合いに踏み込んで巨木の太い枝で剣を受けた。

 硬い衝撃音が鳴り響く。


 「本気(マジ)かよ!?」


 ユウも初めて眼にする植物知性体とでも言うべき魔物に戦慄する。これまで見てきた大型魔獣とは明らかに違う系統樹の中で進化してきたであろう魔物に理解が追いつかない。


 (いや、植物だろ? それが意思を持って動くのか!?)


 少年の困惑も宜なるかな。

 現代日本では植物はあくまで動物とは生物界を二分する存在だからだ。

 あくまで植物とは、自ら光合成によって無機物から有機物を作り、栄養分を生成することが出来る独立栄養生物である。そのため動く必要がなく、その固着性こそが特徴と言える生物であった。その常識が目の前で崩れてゆく。

 互いに剣と太い枝を打ち付け合う巨人達に誰も手出しが出来ない。

 パラパラと落ちてくるトレントの枝葉が落下音を響かせる。しかも落ちた小枝は地面に接すると棘を思わせる突起物を出し、自己に有利な戦場(フィールド)を形成していく。


 「おい見ろ! ドリュアスだ!」

 「なんでこんな迷宮(ところ)にいるんだよ!? あれは南方の“近づけず島”にいる精霊だろ!?」


 見れば探索者達が指差す方向に、トレントの肩辺りにいる人形の物体が見える。

 緑衣を纏う女性型のシルエット。長い茶髪の髪を翻す、ドライアドともドリアードとも呼ばれる木の精霊が膨大な魔力を伴って顕現している。


 「気をつけろ! まだいるぞ!」


 ガルフの号令が飛ぶ。


 「うおっ!?」


 突如、攻撃された探索者が慌てふためく。弓矢で射られたのか、倒れた探索者が矢を掴んでいる。更に一斉射された矢の雨に探索者達が手堅く対応していく。


 「狙いは妖精族だ!!」


 虎人族のガスが大声で吼え、掴んだ矢を端折りながら立ち上がる。


 「チッ、舐めやがって! 御使いと妖精族を守れ!」


 倒れても只では起き上がらないガスが吼える。


 「防御の陣を組め!」


 矢継ぎ早に飛ぶガルフの号令に探索者達は直ちに行動する。

 ドリュアスの手元に闇の魔力が集まる。木の精霊の前方に魔力が集中していく。


 (◯⭐︎▪️▲……!)


 風が強く巻き起こる。ドリュアスの前方にある空間が魔力の密度に歪んで見える。

 見えない刃が探索者達を襲った。

 舞い上がる土煙にあちこちで声があがる。一瞬で探索者達一行を二手に分断した威力は脅威的だ。


 「怯むな! 次の攻撃がくるぞ!」


 指揮官(ガルフ)の号令に虎人族のガスが前に走り出す。

 両手の手甲を気合いに任せてガチンと打ち合わせる。彼の耳に小さな風切り音が響く。


 「フン!」


 拳を突き出して飛来する矢を打ち払う。眼で見てなどいない。

 感覚的に捉えた其れ(・・)を自慢の爪で払う。


 「当たるかよ!」


 獰猛な顔を見せて走るガスが身軽くドリュアスへ迫る。

 同じく敵に向かうヴァルナークの足音が響いてくる。巨体がぶつかる衝撃音を無視して“虎王”が駆ける。

 エルダートレントの脇を掻い潜り、頭上のドリュアスを睨む。膨張する筋肉が力を溜める。

 次の瞬間、ガスの爪がドリュアスを貫いていた。


 「◯▲▪️◎……!?」


 驚愕が伝わってくる。短距離転移で躱したのか、虚空にドリュアスが浮かぶ。


 「今だ、撃て!」


 魔法使い(フリッツバルド)の指揮で魔法職が一斉に攻撃魔法を使う。

 無属性弾(エナジー・ボルト)が乱れ飛ぶ。ガスの特攻を陽動作戦に見立てて必殺を狙う。


 「……◇●△!」


 ドリュアスの魔法防御が一斉射を弾いていく。

 魔法使い達の機転で敵の分断に成功した探索者達一行が反攻に出る。

 遠距離からの弓矢や魔法攻撃で確実に削っていく。

 木の精霊を引き離されたエルダートレントが全身の枝葉を振り回してくる。

 トレントの近くにいた探索者達が慌てて避難して難を逃れるが、巨木は移動して幾度となく狙ってくる。

 機を伺っていたヴァルナークが好機とばかりに前へと踏み込む。


 「おおおぉぉーー!!」


 エルダートレントに長剣を振り抜くヴァルナークが叫ぶ。

 巨大な何かかぶつかる衝撃音が響き、エルダートレントの表皮が弾け飛ぶ。

 エントの民を攻め立てる巨人族(ジャイアント)の戦士長に誰もが見入る。

 トレントの反撃で枝葉が叩きつけられるが、巨人は盾で防ぐ。

 顔面が浮かんだ巨木の胴体付近に傷が刻まれている。

 その傷跡目掛けて再びヴァルナークが渾身の一撃を叩き込んだ。


 「◇●◎△◾️……!!」


 ドリュアスの悲鳴に似た叫びが木霊する。

 巨木の太い幹を両断する一撃が放たれ、エルダートレントが無言のまま絶命する。

 地に落ちるトレントの半身が轟音を響かせて朽ちた。


 「「うおおおおぉぉーー!」」


 湧き上がる歓声にユウも眼前の戦闘が趨勢を決したことを悟った。

 探索者達の士気が上がる展開に、次なる敵はどう出るかと誰もが視線を向ける。

 だが、そこで目にしたのは闇色の肌を持つ種族が発した提案。


 「降リテ来イ、オマエ達。夜ト暗黒ヲ統ベル闇ノ祭壇デ、我等ハ待ツ……」


 そして、燃えるような赤い瞳をした耳長族(ダーク・エルフ)達の姿だった。















 迷宮攻略の途上で出会ったダーク・エルフ達。その燃え盛る炎のやうな眼に映るのは怒りと憎しみなのか。分たれた二つの種族が示す光と闇の戦いは激しさを増していく。

 次回、第97話「怨恨」でお会いしましょう!

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