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第90話 突入

 本当にお待たせしました!「迷宮都市〜光と闇のアヴェスター」本編の続きをご覧ください!

 「遅れるな! この速度を保て!」


 夕闇が迫る空を仰ぎ、颯爽とガストルニスを駆る探索者達が街道を走っていく。

 集まった攻略組がガストルニスに乗り、集結しながら一路迷宮を目指す。


 「お前たち! いつ戦闘になるか分からん! 気を抜くな!」


 先頭指揮者(リーダー)たるガルフが声を張る。

 無言で続く探索者達も皆が歴戦の猛者だ。手綱を握る者達の顔は一様に真剣だ。これから始まる戦いに備えている。


 「叔父貴! まだまだ()けますぜ!」


 ガルフを知る黒狼族の探索者が声を掛ける。逸る心が奮い立つのか速度を上げてくれと進言していた。


 「まだだ! 馬車もいる。派手に知らせる必要もあるまい」

 「分かりやした!」


 夕暮れに街道を走る彼らこそ迷宮攻略組とても言うべき一行(グループ)だった。

 “御使い”たるユウの飛ばした檄に応えて参集した獣人族の戦士たちである。一人一人が腕に覚えがある者ばかり。総勢50人を超す一行(グループ)は大陸中を巻き込む大火を回避するべく文字通り奔走していた。

 しかし、それでも戦争の影は大陸中を覆っていく。

 こうしている間にも皇国を出た朋友達は王国軍の砦を次々と落としながら北進していると聞く。

 彼らの怒りを知る仲間だからこそ、攻略組に参加した者達は王国との全面戦争を避けたいと考えていた。


 「ユウ、様になっている(・・・・・・・)ぞ?」

 「いや、勘弁してください」


 隣を走るユウにガルフが笑う。ガストルニスに少しばかり苦い思い出がある少年の成長ぶりを揶揄した物言いだ。

 剣の師弟だからこその軽口にユウの心が緊張を忘れる。

 再び迷宮へ臨む少年にとって、今度は自らの生命を賭けた戦いが始まるのだ。緊張感はいや増している。


 「ユウ様、騎乗(ガストルニス)こちら(・・・)に来て覚えられたのですよね?」


 やや後方から耳長族(エルフ)の王族である美女アリエルが尋ねてくる。

 煌めきながら翻る金糸のような長い髪を靡かせ、ガストルニスを駆る姿は、さながら動く芸術品のようだ。

 美しい深緑を思わせる翠の民族衣装を身に纏い、背には耳長族(エルフ)の工芸家が魂を込めて造った精緻美麗な細工が施された至高の銀星弓(シルバースター)を背負っている。

 その様は、さながら一枚の絵画にすらなり得るほど優雅であり、戦場に赴く戦士とは思えなかった。


 「ご立派でございます!」


 優しい物腰と抜群の笑みで骨抜きにされた探索者達も多い。思いもかけない美女からの純粋な賛辞にユウも答えあぐねていた。


 「ユウを困らせないでください、アリエル。貴女は本当に無自覚に(・・・・)色々と振り撒きすぎです」


 フリッツバルドが反対側から耳長族(エルフ)の美女を嗜める。同様にガストルニスを駆る魔法使い(フリッツバルド)も愛用の杖とともに腰には剣を佩いている。迷宮攻略用の装備に身を固めた彼の戦装束にユウは常とは違う雰囲気を感じ取った。

 しかし、彼らにとっては平常運転なのだろう。その後方を走るエルダーも感心せんなとばかりに睨んでいた。


 「心配症ですねえ、フリッツバルドは。()の方には大いなる加護(・・・・・・)があると申しますのに!」


 やんわりと宥めるようにアリエルが笑う。その笑みも万人を惹き付ける魅力なのだと魔法使いだけが非難の目を向ける。

 彼女を巡って大陸中から腕に覚えのある探索者達が集い、パーティーへの勧誘権を賭けて戦ったことは余りにも有名だ。


 「ほらほら、置いて行きますよ?」


 上機嫌のアリエルが微笑む。それに釣られて彼女の騎鳥が高らかに一声をあげた。

 先頭のガストルニスが鳴くと、次々とガストルニスが鳴き出す。呼応するように集団のペースが上がっていく。

 まだまだ着いて行けるユウだが、徐々に気合いを込めなければと先駆ける彼女(アリエル)を見ながら意気込んでいる。


 「ご主人様!」

 「ああ。行くぞ、アイリ!」

 「はい!」


 傍に付き従う黒狼族の美少女を連れて黒髪の少年が駆ける。

 その周囲をさり気なくガルフが率いる仲間達(パーティー)が固めていく。

 後方にも黒狼族の戦士達が控えている。万が一にも“御使い”に危害が及ばぬようにと警戒を続けて、だ。


 「ガルフ!」


 どうした、と問いかけたアリエルに黒狼族の戦士が応える。


 「“槍使い(もうひとり)”来るんでしょう?」

 「ああ、そのはずだ!」


 騎鳥しながら会話する二人には阿吽の呼吸が見られる。


 「なら安心だわ! 揃い踏み(・・・・)ね!」


 やる気出てきた、とばかりにガストルニスの手綱を捌く。美麗な乗馬姿を見せてくれる彼女に、魔鳥(ガストルニス)達が応える。

 先程から上級探索者達の技量に舌を巻くところだが、ユウも其れに喰らい付いていく。


 (考えるな! 今はついて行くことに集中しろ!)


 振り落とされるのはゴメンだ、とユウも必死だ。そんな少年の顔を見てガルフが声を掛ける。


 「ユウ、あと一人、俺の仲間がくる!」


 ガストルニスの鳴き声を聞き流して少年は黒狼族の戦士を見る。


 「いずれ紹介しよう。遠からず合流するだろうからな!」


 ガルフの言葉に少年は頷く。


 (そう言えば、師匠(ガルフ)のパーティーは4人しか見てないよな? だいたい、あと2人いるはずなのか?)


 取り留めもない思考を頭を振って振り払う。今は魔鳥(ガストルニス)の騎乗が優先だ。後で会えるならその時でいい。

 ユウは雑念を捨てて騎乗に専念した。

 それから疾走すること一刻か。一行は巡回していた王国軍兵士に出会した。

 想定内の事態だからか、ガルフ達の足は止まらない。流れるような意思疎通で各自が動いていく。

 遠目に見えている数人の王国軍兵士に後方の集団から追い手が走る。騎馬隊のような軽やかな動きで一気に距離を詰める。

 慌てたような兵士達だったが、避けられないと見るや反転した。抜剣して戦う構えだ。

 少年の顔を向かい風が叩く。

 前に疾走する数騎が戦闘体制に入る。ある者は腰の剣に、ある者は背負う弓矢を手繰る。


 (この人数差だぞ……)


 何かを叫びながら向かって来る兵士達の姿を見て周囲の雰囲気が変わっていく。


 (来るのか!?)


 出来るだけ王国軍との戦闘を避けたい少年にとって見たくない光景だった。それでも全体の足は止まらない。

 すぐに先頭に走る者達が仕掛ける。矢を射掛け、先制する。倒れる兵士。こちらに向かって剣を振り被る兵士。

 混戦になるのか、とユウの意識が騎乗と戦闘をギリギリの状態で把握する。


 (やめてくれ! 来るな!)


 疾走する魔鳥(ガストルニス)の足跡が耳につく。

 戦いに慣れた探索者達は次々と突破していく。向かってくる者を幾度か蹴散らし、更に疾走する。

 血飛沫は見ていない。しかし、倒れる兵士達の安否は分からない。

 迷宮攻略のために足を止める暇はない。


 (考えるな、騎乗に集中するんだ、俺! 今は迷宮に行くことだけを考えろ!)


 戦闘を潜り抜け、ユウは手酷い洗礼を受ける。

 怪我人を見捨てても進む意義とは何だ、お前のしていることは殺人じゃないのか、と罪の意識が持ち上がる。


 (ご主人様!)


 ユウの疾走する傍らでアイリは少年の葛藤に気付いていた。

 誰よりも優しい少年。同じ人族同士の戦闘に心を痛めていることだろう。それでも迷宮に行かねばならない。その葛藤に悩む姿を見て、彼女の心も同様に痛み血を流している。

 並走する少年を見て固く唇を噛む。


 (守ってみせる! 絶対に!)


 恩返しでもなく、氏族の決定への恭順でも無い。彼女自身の心がユウを守らんとして手綱を握る。

 だが、振り返る余裕も無い。既に獣人族の集団が迷宮方面に駆けていることが王国軍に知られたかもしれない。

 いよいよ緊張が増すなか、少年は前方に集中する。

 師匠(ガルフ)が何か叫んでいる。聞き取れないが離れてはいない。


 「ユウ! このまま疾走(はし)るぞ、聞いているか!」


 風が強い。自分の呼吸音がやけに大きく聞こえる。

 不意に身体中に魔力の波動を感じてユウは驚愕した。


 「ユウ! 大丈夫かい?」


 魔法使い(フリッツバルド)が声を掛ける。どうやら彼の助けがあったのだろう。周囲の音が鮮明に聞こえてくる。

 戦闘に意識を持っていかれていたのは緊張のせいか。


 「だ、大丈夫です!」


 集団戦の雰囲気に呑まれていた自分を皆が心配してくれている。恥ずかしさを捩じ伏せて少年は気合いを入れ直した。


 「迷宮に着くまで油断するな!」

 「分かってます!」


 ガルフの叱責に応え、前を向く。

 集団が難なく哨戒中の兵士との戦闘を終えて続く。

 この義勇軍とでも言うべき迷宮攻略組を自分は率いていかなければならない。

 光明神(アフラ・マズダ)が言う滅亡への砂時計は減り続けている。“使徒”となったからこそ分かる。この世界の滅亡は絶対に止めねばならない。

 逸る心を押し留めて少年は魔鳥(ガストルニス)で疾走する。一刻も早く攻略を進めなければならない。

 暮れゆく闇色の空を見上げて少年は疾走(はし)っていた。












 「見えたぞ!」


 その一言で攻略組の一行は来るべきものが来たことを察した。

 薄暗い夕闇の地平線を背に、うっすらと浮かび上がる世界樹の迷宮(・・・・・・)に誰もが緊張した。


 「叔父貴! あれは!?」

 「ああ! 気づいている!」


 駆ける魔鳥(ガストルニス)の背に揺られながらも攻略組の皆が不穏な空気の匂いを感じ取っていた。

 煙が上がっていた。幾つかの細い線のように、灰色の煙が空に立ち上っている。夕闇で見え難いはずの其れを獣人族の夜目はしっかりと捉えていた。

 よく知る(・・・・)感覚にガルフは思考を巡らせる。一行(レイドパーティー)の指揮官として判断しなければならない。

 友軍の可能性は無い。まだ遠く南方の地だ。良くも悪くも自分達が先駆けなのだ。“御使い”に召集()ばれ、迷宮に挑むため立ち上がった。

 義勇軍とも呼べる我々以外に王国軍に戦いを挑む者達がいる可能性。王国軍の仲間割れやミツヤス将軍の最近の動向等が頭を過ぎる。


 「ガルフ! 戦闘があった様子です。急ぎましょう!」


 アリエルが遠見の魔法を使って状況を把握していた。彼女の手元には小さな光が集まっている。


 「分かった。ユウ、ついて来い!」


 手を挙げ一行にも合図する。そこから戦闘準備に入る皆を見てユウも緊張感の針が振り切れる。

 腰の剣を片手で掴み、手に汗が浮かぶ。油断なく前方を睨む少年の前に、意外な光景が映っていた。

 眼前に広がるのは激しい戦闘の跡。建物が焼けたのか、焦げ臭い匂いが漂ってくる。風が運ぶ匂いに戦場を意識する。

 呻く王国軍の兵士達を尻目に一行は進む。城門は既に開いていた。巨大な戦斧を模った大扉が片側とは言え開かれている。

 付近から矢を射掛けられる訳でもなく一行は砦の中へと進む。

 

 「どういうことだ?」


 最初に声を上げたのはエルダーだ。傭兵の経験もある彼は違和感を感じていた。

 あちこちに射掛けられた矢がささっており、建物の被害は少ないようだが人がいない。


 「様子がおかしいな……、調べろ!」


 ガルフの声に探索者達が数騎離れていく。もう夜が近い。急がねば分かるものも分からなくなる。

 立ち昇る煙に鼻が慣れてくる。油も使われていないのはどういうことか。火攻めでもなく、軍の駐留する砦を落としたとなると、獣人族でも氏族の戦士長級の剛の者でなければ出来ないだろう。

 仮にそうなら自分達に連絡があってもよさそうなものだ。

 奥へと進む一行は警戒しながら周囲を観察していた。


 (これは……?)


 西側の入り口付近まで来た一行は煙が濃く、戦闘の痕跡が新しいことに気付く。

 黒い煙が上がり、血が乾いていない。やはり、こちらの方は戦闘があって間もないようだ。

 ガルフに続いて開けた場所に入った途端、ユウは信じられない光景を見た。


 「よう、大将! 遅かったな!」


 出発したユウ達が迷宮で見たもの、それはくたくたに疲弊して座り込んだドワーフの三人組と、その横で返り血を浴び不敵に佇む獣人族の男、猟豹族の戦士(・・・・・・)の姿であった。


 「間に合ったか。息災で何よりだ」

 「久しぶりね、ブリドラ(・・・・)。怪我は無い?」


 ガルフが軽く手を上げて応え、アリエルの眩しい笑みが彼を労う。状況が分からないユウを置いてガルフ達は旧交をあたためていた。


 「おいおい、ヘマはしてないだろうな?」

 「派手にやったね」


 珍しいエルダーの軽口とフリッツバルドの感想。変わらない仲間たちの歓迎に、件の戦士も獲物を掲げて答えた。


 「大将からのお呼びだろ、すぐに迷宮(・・)だと思ったぜ」


 自慢の槍を掲げた猟豹族の戦士はガルフ達に不敵な笑みを返していた。佇まいが違う、とユウにも理解できる。


 「砦の守備隊はどうした?」

 「ああ、片付けておいたぜ。こいつら邪魔しやがるしよ」


 ああん、とエルダーは怪訝な顔を見せる。


 「勝手に突撃しやがって。だから頭が足りねえって言われるんだヒョロいの(・・・・)

 「俺は蹴散らした。見ろ! 問題ない、デカいの(・・・・)


 歴戦の猛者であるエルダーに正面から食ってかかる男は全く引く様子が無い。


 「アホ、考え無し」

 「バカ、ずんどう」


 ああ、と両者の剣呑な空気が膨らむ。


 「フフッ、仲が良いわね」

 「「良くねえ!」」


 アリエルの輝くような微笑みにムクれた顔で二人が同時に返す。久しぶりに会った旧友は変わらぬ笑みで迎えてくれたようだ。

 ところで、とフリッツバルドが皆を代表して尋ねる。


 「あなたがたは?」

 「見苦しいとこを見せた」


 ウォッホン、と大きな咳払いをして三人組が姿勢を正す。

 トーリと名乗る全身鎧(フルプレート)を着た小柄な男が名乗りを上げた。


 「我等は“山の民(ドワーフ)”の一族! 戦神(ジェスタ)の加護により天啓を受けたは我等が里の秘蔵っ子!」


 オーリと名乗る男が続ける。


 「勇猛なるエッダの後継たる我等を導く其の者は、畏くも山の民(ドワーフ)の一族の第一王子ドヴァーリン!」

 「ドワーフの王族だって!?」


 戦装束を身に纏い、傍に置くは一族に伝わる伝家の宝斧。見事な顎鬚を蓄えた王子ドヴァーリンが前へ出て胸を張った。


 「氏族の誇りにかけて“御使い”殿の旅に同行を願いに参った!」


 探索者達が驚く中、耳長族(エルフ)のアリエルだけが変わらずに微笑んでいた。


 「お久しぶりです、ドヴァーリン様」

 「うむ、アリエル殿も息災の様子。相変わらず彷徨う月も恥じらう美しさだ」

 「まあ!」


 お上手ですね、と耳長族(エルフ)の王族たる高貴なる娘(アリエル)が笑う。


 (やっぱりいるんだ……)


 耳長族(エルフ)の女戦士カレナリエンとは既に会っているユウだったが、山の民(ドワーフ)とは初見だ。

 そんなユウのもとへドワーフの王子がゆっくりと近づいて来る。


 「“御使い”殿。初めてお目にかかる。ドワーフが一族のドヴァーリンと申す。ぜひ一行に加えてくだされ」


 丁寧な口上にユウが固まっているとガルフが助け舟を出す。


 「山の民は勇猛な戦士と聞く。だが、今回の迷宮攻略は生命懸けだ」


 それでも同行する気か、と問う。


 「双子の月(・・・・)の名にかけて誓う。戦神(ジェスタ)のお告げを受けた時から、生命を懸けるは覚悟の上」


 真っ直ぐな眼が少年の顔を見つめる。全てを理解した上での覚悟を見せられ、ユウは同行を了解する。

 少年の差し出した手を取る逞しい手。


 「こちらこそ、よろしくお願いします」

 「ありがたい」


 迷宮に臨む一行。崩れかけたウルルには幾つもの亀裂が入り、不穏な空気が漏れる洞窟のような入り口には昏い魔力すら漂っている。

 ついに始まる本格的な迷宮攻略。最初で最後となる挑戦にユウの心は震えていた。









 踏み込んだ迷宮に溢れる魔物。明らかな迷宮の異変にユウは衝撃を受ける。かたやブリドラの挑発に乗り、前線での戦いを挑むアイリ。その思惑は誰のためだと言うのか。魔窟と化した迷宮で、今まさに生命懸けのタイムアタックが開始されようとしていた。

 次回、第91話「競争」でお会いしましょう!

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