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第63話 隷属

 ああー! 毎回の遅れに申し訳ないと反省しきりです。

 取り敢えず、迷宮都市〜光と闇のアヴェスター、本編の続きをご覧ください!

 巨大な魔法陣が現れる。其の円の中には複雑な紋様と魔術文字が幾重にも刻まれ、儀式魔法でしか成し得ない規模のものだと理解(わか)る。

 滞留していた魔力を用いて形作られた其れ(・・)の中に、見る間に幾つもの黒い闇が人型を成す箇所があった。

 魔力による長距離転移術式(・・・・・・・)

 探索者達が多い古都(アンガウル)では中々見られないものだ。

 黒い闇の塊りから杖を手にローブを纏った人物達が次々と現れる。恐らく、この術式に関わる魔法使い達だろう。其の数が十を超えた辺りで更なる変化が起きた。

 魔法陣の中央部に一際大きな黒い闇が集まっていた。一切の光を通さない其れは、迷宮の深部に現れる魔物の纏う瘴気のようであった。


 「おいでになられたようだ」


 兵長ベルンが魔法陣に背中を向けたまま呟く。

 まるで闇が人の形を取るように真っ黒な何かが現れる。その人型の闇から一人の人物が姿を見せた。

 酷薄そうな蒼く暗い瞳が印象的な男だ。

 短く刈り込まれた金髪。長身の体軀を筋肉で固め、その上から金属鎧を付けている。鋭い眼光と薄い唇は高貴な身分の者が持つ傲慢さを兼ね備えている。

 国軍の一端を担うクライン将軍その人であった。

 闇のように濃い影が引いていくのを待って、魔法陣の円周上にいたローブ姿の者達が集まって来る。それぞれが高い魔力素養を持つ術者達だ。其れが十二人。

 王国が誇る魔術館の術者達だ。魔石を嵌め込んだ杖を手にした魔術師達が、クライン将軍の後ろへと移動して来る。

 

 「ようこそ、お待ちしておりました」


 人型の影に近付き、跪く兵長(ベルン)は恭しく頭を垂れた。


 「首尾はどうだ?」


 酷薄そうな熱を感じない声色がベルンに尋ねた。


 「ご覧ください。ローランド卿が手ずから指導しているところでございます」

 「魔法剣(・・・)か……」


 なる程、とクライン将軍が答える。暗く蒼い双眸が、広場で戦うユウを見据える。

 少年を見つめる将軍の目が異様な気を孕んでいた。

 転移術式に身を委ねた後であったが彼の身体には暗い瘴気が纏わり付いている。暗黒と夜の領域に踏み込んだ魔術師には稀にあることでもあった。

 広場には今や大量の魔力による“場”が形成され、その場にいる全ての者達が視線を奪われていた。

 騎士二人との戦いの最中、少年の感覚にも其れは明らかであった。

 何者かの視線を感じる。ゾッとする冷気を浴びたかのようにユウは背筋が凍る気がした。

 クライン将軍の背後で年老いた男の嗄れた声が聞こえた。


 「閣下、よろしいでしょうか?」


 無言で振り向いたクライン将軍に、老魔術師が声を掛けていた。痩躯を真っ黒なローブに包み、手にした古木の杖には紅褐色の魔石が輝いている。

 “導師”の称号を持つ老魔術師が、その年齢に似合わぬ力強さを秘めた眼力で将軍を見ていた。


 「閣下をお待たせするなど我らとしても不本意。どうかお任せいただけましょうか?」


 野心剥き出しの老魔術師の言葉にクラインは鷹揚に頷いて見せた。

 彼も歴戦の勇士。自ら戦場に赴く決意を固めた者への扱いは熟知していた。


 「いいだろう」


 クライン将軍が承諾の意を示したことで彼等が動き出した。数名の魔術師達が迷宮前の広場へと駆け出す。その身体にすぐさま魔法陣が現れ、姿を掻き消した。

 詠唱破棄(・・・・)による魔術。その効果は、短距離転移として現れていた。


 「よお、手数(てこず)ってるなぁ!」


 ユウの前に新手の刺客が現れる。夜のような濃密な闇が広がる。その闇が人の形を取るのに時間は掛からなかった。

 声は若い男の魔術師であった。身に着けた漆黒のローブから鋭い眼光が飛ぶ。不遜に言い放ち、ローブを後ろに落として頭部を晒した。明るい金の髪。蒼い瞳の色合い。白い肌は高貴な生まれの証左だ。


 「ヒヒヒッ、閣下をいつまでお待たせする気だ? あぁ、ローランド?」


 王国魔術館の精鋭と思しき術者。その実力に裏打ちされた自信が、剣による戦いの場でも怯まぬ心を見せる。


 「これ以上かかるなら、お前らの師(・・・・・)の名誉にも当然、傷が付くよなぁ?」


 ああ、と魔術師は挑発する。其の歪んだ表情にユウの背筋に冷たいものが流れた。


 「貴様の減らず口を聞く謂れは無い! 貴様こそ帰れ!」

 「ロラン師(・・・・)を侮辱するつもり!? 万死に値するわ!」


 中座された戦闘を振り返らない程、二人の騎士達は激昂していた。魔術師の男が言ったことが彼等の誇りに傷を付ける内容なのだろう。

 ここに来て、一気に騎士達と魔術師達の間に緊張が高まる。複数の魔力が渦巻くように圧を高めていく。


 「弱っちいお前たちこそ下がってろ。代わりにやってやるぜ。この魔術館序列五位の俺様がよ!」

 「ユーグ! 貴様!!」


 いかな王国騎士団の魔法剣士でも忘れてもらっては困るとばかりに、後ろにいた別の魔術師達が名乗った。


 「序列六位ラフテル」

 「同じく序列十位リンツ」


 ユーグと名乗った男の手に、黒い闇の鎖(・・・・)が現れる。三人の魔術師達の魔力が高まっているのが分かる。


 「本気で行くぜ! 楽しませてくれよ? ヒャハハハハ!!」


 闇の鎖(ダーク・ウェッジ)を発動した魔術師ユーグが戦闘態勢に入る。獲物を見つけた猛獣のような目が少年に向けられる。その殺意に満ちた視線がユウの危機感を煽る。


 (こいつら本気(マジ)かよ……!)


 すぐにユーグ達へと剣を構えるユウ。だが三人の魔力圧に、劣勢は確実視された。(ユウ)はまだ魔術戦の経験がないのだ。

 蛇に睨まれた蛙のごとく少年はすくみ上がる心を抑え、震える手足を何とか従わせた。












 迷宮前の広場は、今や騒然としていた。

 突如として現れた王国軍の将官に、獣人族の探索も達は我先に己の身を守ろうと踵を返す者、仲間たちに連絡を取ろうとして移動しようとする者、場の成り行きを確認しようして残る者など、全員が警戒感を強めていた。

 それ程までに王国軍人達の獣人達への差別が古都(アンガウル)で横行しているのだ。

 ただでさえ恐ろしい予感がするのに魔術館の精鋭部隊が現れたのだ。もはや広場前の獣人族達は混乱していた。


 「放して! あの人(・・・)が! 助けに行かないと!」

 「おい、やめとけ。殺されるぞ!」


 暴れる女の子をムーザが押さえる。留め置くだけの行為が、ひどく難しい。思いもよらぬ力強さで抵抗されて彼は困惑していた。


 「あいつ(・・・)は楽師じゃなかったのか!? 誰か“双剣”に知らせに走れ!」


 近くにいた豹の獣人がユウのことを気遣い、ガルフへと知らせてくれようとしていた。それでもムーザに抑えられた女の子は間に合わないと言わんばかりに彼の拘束を振り払って行こうとする。


 「不味いぞ。“雷汞”に“黒剣”、くそっ! “氷撃”までいやがる!」

 「付与魔法のリンツもだ。魔術館の序列持ちがなんでこんなところに……!」


 周囲の獣人族の探索者達が騒ぎ始めていた。

 彼等が騒ぐのも無理はなかった。魔術館の序列持ちとは、一人一人が一騎当千の魔術師であり、王国の誇る最高戦力なのだ。

 ひとたび戦場に投入されれば、戦局をひっくり返し、戦えば常勝不敗。圧倒的な火力で敵国兵士を焼き尽くしてきたのだ。

 その王国の最高戦力と一人の少年の成り行きを冷めた目で睥睨する者達もいた。

 獣人族のバルドも其の一人だ。彼は今でこそ後進の育成のため、迷宮へ入る新人(ニュービー)達に付いて行っているが、元はと言えば氏族会議に出席する族長の随行として古都(アンガウル)へと来た身だ。

 皇国の戦士として、将来的に戦うことになるであろう魔術館の序列持ち達の実力を目にしておきたかったのだ。


 「こいつはただ事じゃ無いぞ……」


 バルドの言葉に仲間達が色めき立つ。探索者として幾度となく死線を潜り抜けてきた本能が何かを嗅ぎつけているようだった。


 (序列持ちの中でも青い血(・・・)の生粋の人間至上主義者ばかりを集めていやがる!)


 最初は、人族がよくやる私刑(リンチ)だろうと思っていた。だが、目の前で行われているのは猫が鼠を痛ぶるよりも悪質なものだった。見ていたいものじゃないというのに、少しでも序列持ち達の情報を引き出したいがために居残っているのだ。

 友人スサク親子と仲の良い人族の少年を救いたい。だが、助けに入るには魔術館の魔術師達の戦力が過剰だったのだ。いかなバルドでも介入すれば無事では済まない。


 (クソッたれ共が! 獣人族(俺たち)寄りの人族を槍玉に挙げて、士気を挫く気か! せめて“聖冠”が来ているなら、あるいは……!)


 バルドが握り締める拳を広場前の柵に叩き付けた。周囲を警戒していた国軍兵士達がじろりと睨む。どうやら獣人族達に手出しをさせないように指示しているらしい。これでは助けに行くのも簡単ではなかった。

 そんな彼の心配を余所に、広場では既に三対一の魔術戦が繰り広げられていた。

 魔術の余波が周囲の獣人族達にも分かるように広がっている。周囲のことなど考えていないのだ。誤爆など勝利に伴って生じる誤差のようなものだと考えているのかも知れない。

 響き渡る轟音が彼等の耳に嫌でも届いて来る。


 (くそっ! こいつらなんなんだ!? 絶対に普通じゃないだろ!?)


 少年は悪態をつく暇も無く、転がった場所から起き上がり、直ぐに走る。

 その後姿を目掛けて、氷の矢(アイス・アロー)が何本も迫る。風切り音を間近に聞きながら少年は足をとめない。

 着弾した箇所が、次々と魔力の影響で凍結していく。小さな氷の花を咲かせながら少年が弾幕を避けていく。


 「眠りの森の魔法使い(フリッツバルド)が一緒だと思ったのに、残念……」


 小柄な魔術師ラフテルの呟きが聞こえたかどうか。少年は慣れない魔術戦に頭をフル回転させながら反撃を試みている。その度に迷宮前の広場に赤い衝撃が走る。


 「おいおい、本気を出せよ!」


 ユーグの苛立ちを抑えた声がユウの耳に届く。魔術戦に期待して来たユーグにとって温い戦いなど本意ではなかった。


 「……てめぇが本気を出さないんなら、宰相に任せてる姫さん(・・・)がどうなるか分かってんだろうな?」

 「!」


 少年の動きが止まった隙を見逃さず、魔術館の精鋭達は数々の魔術を放つ。其の猛攻を辛くも凌ぐユウに、更なる恫喝が告げられる。


 「姫さんの治療も、お前の態度次第で取りやめになるだろうよ!」

 「待てよ! あの娘(・・・)は関係ないだろ!」


 氷色の瞳をした美しさ少女の姿がユウの脳裏に浮かぶ。


 「いいんだぜ? 断ってもよ?」

 「汚ないぞ!」


 嫌でも魔術戦を強いるユーグ達の態度にユウの怒りが爆発した。

 激情のまま火と炎を操り、辺りを蹂躙していく。

 その反抗を小柄な魔術師はいとも簡単に防いで見せた。


 「氷壁(アイス・ウォール)


 少年の放つ火炎魔法が朝焼けの空を焦がす。氷壁越しのその威力さえ彩りに変えて、魔術館の精鋭達は攻撃の手を辞めない。

 余人が立ち入る隙など与えない薄氷を履むような攻防が続く。その戦いを見ていたドリスが呆然と口ずさむ。


 「え? どうしてユウが皇統のシュリ姫様のことを知ってるの……?」


 当初、出自の知れない人族の少年として見ていたユウ。ダルクハムが利用されてないかと心配していた彼女は、件の少年と獣人族の皇室に接点があることが理解出来なかった。


 「ユウ……。貴方、いったい……?」


 眼前の少年は誰が為に戦うのか。ドリスは自分が思い至らなかった真実を覗き見た気がして、言葉にならない感情に胸が詰まった。


 「粘るなぁ。いいぞ、お前!」


 闇の鎖(ダーク・ウェッジ)の黒い鎖を手にしたユーグが凶悪な顔で嗤う。

 黒い波動を受けて、少年の右手が鎖に締め上げられる。

 拘束された右手が言うことを聞かない。鎖が纏わりついて動きを妨げるからだ。少年の動きを縛る其れは、魔法剣で斬り払っても繰り返し襲ってくる。

 慣れぬ魔術戦を強いられたうえに短剣を持つ利き手を封じられるのだ。ユウの消耗が早い。連携の取れた魔術師達の攻撃に、少年の心がすり減っていく。


 (ダメだ。このままじゃ埒が明かない……。こいつら、全員が戦い慣れてやがる!)


 ユウは疲労した身体に鞭を打って三人から距離を取った。先程から満足に休ませてもらえないからだ。

 黒い鎖が巻き付いた右腕に力を込めて精一杯相手を睨み付ける。


 「手を休めるな(・・・・・・)、ラフテル」

 「分かってる」


 両腕を前に突き出した彼女の手から小さな魔法陣が現れては消えていく。その効果として氷弾が爆音を立てて弾き飛ばされていた。

 ユウを狙い、外れても地面を抉る。相当な速さと威力を伴う氷弾が絶え間なく降り注ぐ。少年の放つ炎すら突き抜ける氷弾は、何度も着弾(ヒット)している。

 そして、そうと知れないように広場の気温が下がり続けていた。ラフテルと呼ばれた彼女も腹に一物のある魔術師なのだ。金髪碧眼の優しそうな顔をしながら、毒蛇のように虎視眈々と少年の隙を伺っている。


 「頃合いだ。そろそろ行くぜ!」


 無言でラフテルとリンツが頷く。二人の手元や足元に複数の魔法陣が現れる。


 (来る!)


 ユウが目にしたのは“黒剣”を手に短距離転移で飛び込んで来るユーグの姿だった。

 首を正確に狙ってくる銀光に、ユウは背筋が凍る気がした。間一髪、短剣で防ぐ少年だが、すぐに手の自由が効かなくなる。闇の鎖(ダーク・ウェッジ)の威力が継戦能力を削るのだ。


 「そら! 避けねえと死ぬぞ!」

 「ちっ!」


 黒い霧を纏わせたユーグの魔法剣をユウは銀光を纏わせた魔法剣で弾く。

 だが、右手が鎖に引っ張られて体勢を崩されてしまった。足を止めた少年に背後から氷弾が襲い掛かる。咄嗟に赤い炎で焼き払うが、次々と飛んで来る氷弾の前には炎の壁(ファイア・ウォール)も焼け石に水だった。


 「氷槍(アイス・ランス)!」


 ラフテルが放つ槍型の氷柱。其れが高速でユウを襲う。


 「炎槍(フレイム・ランス)!」


 少年が反射的に放った攻撃魔法が迫り来る氷槍を燃やし尽くす。盛大な水蒸気が辺りに拡散した時、少年は身体に起こった異変に気付いた。

 身体に何かが纏わりついて思うように動けない。ユウは三人の誰かが放つ魔術に捕らえられていたのだ。

 少年の行動に制限を掛けているのはリンツの仕掛けた“遅延(ディレイ)”だ。少年がいくら早く動こうとしても其の効果で通常の何割か速度が落ちてしまう。

 そんな状態でユーグの“黒剣”を凌ぎ、ラフテルの氷弾を捌く少年に先程から老魔術師の険しい視線が突き刺さっている。

 その殺気を帯びた視線に気を取られ、警戒が疎かになった瞬間、其れは何の前触れもなく現れた。


 「氷結華(アイス・サークル)!」


 ラフテルの放つ氷の魔術が広場の地面に白い模様を描いていく。巨大な雪の結晶のような紋様は、美しくもあるが対象の足元を凍結させ、壊死させる凶悪な代物だ。

 辛うじて避けるユウの足元に次々と白い氷の結晶が形成されていく。

 広範囲の凍結魔術に周囲からも驚愕の声が上がる。恐らくは少年の動きを止めるためだけに行使された魔術だ。

 あまりに過剰な魔術の行使に探索者達などは恐れ慄き、顔色を失くしていた。


 「どうした? もう終わりか?」


 余裕綽綽とばかりに歩いてくるユーグにユウは肩で息をして答えない。手にした短剣も刃こぼれしている。疲れから、ユウの足が止まっていた。

 地面に膝を着くユウを見下して魔術館の使い手ユーグが尋ねた。

 ローブの下に着込んだ黒い装束には土埃ひとつ付いていない。完全勝利こそ至上と尊ぶ魔術館の住人がユウを見下ろす。

 捕らえた獲物を値踏みするような視線だった。


 「……お前ら!」


 少年の全身から、ただならぬ怒りが溢れていた。

 手にした武器は破壊され、反撃したせいで魔力も半減している。それでも少年の目は死んではいない。その抵抗すらも狩りの楽しみだと言いたげにユーグは嗤った。

 直後、閃光が少年とユーグ達の間を割いて轟音を響かせた。爆風が渦を巻いて逆巻く広場に、ユウが倒れ臥す。周囲に肉が焦げたような匂いが立ち込める。

 一瞬の出来事に魔術師以外の者達は言葉を失った。

 頽れた少年(ユウ)に目もくれず、短距離転移で移動して来た老魔術師がユーグ達を嗜めた。


 「手負いの獣が牙を剥こうとしたのが分からぬとは……」


 身が凍るような老魔術師の声に、他の三人が慌てて礼を取る。厳格な上下階級のある魔術館らしい光景であった。

 だが、実際は先程みせた“雷汞”こそ厳格な魔術館の掟を掟たらしめるものだった。


 「本来の目的を忘れ、閣下をお待たせするとは……。リンツ!」

 「はっ!」


 序列十位のリンツが返答する。


 「疾く、為すべき事を」


 老魔術師が言い終わるが早いか、リンツと呼ばれた魔術師が懐から何かを取り出した。黒光りする其れ(・・)を手に魔術師は何かの呪文を口にする。

 脇目も振らず進んだのは倒れた少年の傍であった。

 その首元にリンツが手を伸ばす。魔術道具らしき魔力の揺らぎを見せて、少年の身体へと装着される。カチリ、と嫌な音を立てた。


 「終わりました」


 老魔術師へと報告した声に少年が反応した。倒れ臥した地面からジャリ、と身動ぎする音が聞こえた。


 「……俺に、何を……した?」


 “雷汞”の衝撃を受けたはずのユウが身体を起こそうとする。しかし、受けた衝撃が抜けないのか起き上がることは出来なかった。


 「知りたいか?」


 序列五位のユーグが言い放つ。いつしか少年の手が首元の魔道具に触れていた。冷たい金属の感触にユウは愕然としていた。


 「お前に嵌められたのは契約の魔道具さ。お前ら、異世界人の手綱を俺たちが握っておく必要があるからな」

 「そう。お前たちは異質だ」


 ラフテルと名乗っていた女魔術師が続けた。


 「幼少のみぎりより魔術を極めんとする我らをして、お前たち異世界人は異質なのだ」

 「然り然り」


 法外な神の恩寵を受けると言われる召喚者に、彼らの危機意識が警鐘を鳴らしていた。


 「迷宮で魔力を使わせることにも私は危惧を覚える」

 「左様。いっそ殺してしまえれば禍根を絶てるのですがねぇ……」


 リンツと呼ばれた魔術師も相槌を打つ。彼らの遣り取りする会話から受けるのは敵意ばかりだ。

 召喚された自分に対する明確な敵意に、少年の心が追い詰められてらいく。


 「テメェは俺たちの指示どおり迷宮に潜ってりゃいいのさ」

 「契約の首輪がありますからな。嫌でも戦わなくてはならない訳です」

 「異世界人に似合いの境遇だろ?」


 ユーグ達、魔術館の序列持ちの声がユウ頭に響く。全力で対抗して敗北を喫した。動かぬ身体は、もはや満身創痍だった。


 「なんで……!」


 突き上げてくるような悲しみと深い憤り。

 その制御し難い感情が、ユウの心を揺り動かしてくる。これまで感じたことが無い昏い感情がゆっくりと燃える炎のように胸の中から消えない。

 少年の手に籠る力が強くなる。地面を抉ぐる指に感情の全てをぶつけてユウは歯を喰いしばった。

















 課せられた契約の首輪という名の悪意。次々と立ちはだかる逆運にユウの心が悲鳴を上げる。少年の身に迫る真の危機とは?

 次回、第64話「干渉」でお会いしましょう!

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