第62話 暁闇
皆さま、新型コロナは大丈夫ですか?
長雨で色々あったりして、ようやく帰って来ました!
取り敢えず、迷宮都市〜光と闇のアヴェスター、最新話「暁闇」をご覧ください!
国軍の責任者ベルンの横に立つヘイリーに、ユウ達の理解は追い付かない。まるで仕える主人の前であるかのように彼女はベルンの腕を取り、甘えるように胸の前で抱えている。
「ヘイリー……?」
彼女の名前を呼ぶだけで精一杯であった。理解が追いつかない。ユウは混乱していた。
奇妙な沈黙が流れ、やがてドリスが最初に声を上げた。
「……ヘイリー。まさか貴女、軍の密偵なの?」
「ええ。はじめからあなた方を見張るためだけに近付きました」
淡々と語る美少女に誰もが言葉を失くしていく。
「そんな! どうして……? どうして貴女がそんなことを!?」
「どうしてヘイリーが、乱暴な軍の仲間になってるだか……?」
ドリスやムースが信じられないものを見る目で彼女を見つめている。
彼女の裏切りに未だ否定したい気持ちがあるのだろう。帰って来て欲しい、嘘だと言って欲しいと仲間たちの気持ちがありありとその表情に現れていた。
「私はベルン様の奴隷です」
「!?」
仲間達の動揺を知らずか、ヘイリーが淡々と説明していく。顔を伏せているせいで、その表情までは読み取れない。
「……そんな。貴女には首輪が無いじゃない! それなのに、どうして?」
ドリスの問いにヘイリー自身が答えた。
「隷属の首輪がなくても奴隷を縛る方法は幾らでもあります」
相変わらず甘いですね、と彼女が言う。淡々とした言葉が、逆にヘイリーの話すことに真実味を与えていた。
「迷宮であなた方の成長を監視し、逐一知らせることが私の任務でした」
とっても楽でしたよ、と彼女は笑った。
顔を上げたヘイリーは、まるで子どもに優しく説くように語り出した。
「仲間への信頼は素晴らしいと思いますが、警戒心の無い振舞いは頂けませんでした。迷宮探索は本来、生馬の目を抜く戦場です。そして探索者とは互いに栄達を目指して抜きつ抜かれつする間柄なのです。誰でもを簡単に懐に入れると容易く裏切られますよ?」
ベルンの腕からするりと抜け出し、前に立つ彼女は身振り手振りを交えて説明し始めた。
身に纏う黒い外套は、よく見れば国軍のものに酷似していた。彼女の立ち姿も、よく見れば軍人の其れに近い雰囲気だった。
「特にユウ様。魔法は探索者にとって切り札です。簡単に、誰彼にと手の内を晒していては生命が幾つあっても足りません」
ご自身の立場を理解しておられないでしょう、とヘイリーは問う。
「人族でありながら、火の魔法を得意とする若き探索者。迷宮で短期間に数々の戦功を挙げ、ダルクハム様とも一緒にいる貴方は注目の的だったのですよ?」
蠱惑的な笑みを見せながら、ヘイリーが滔々と話す。
まるで歌劇の一幕のような身振りに周囲の者達は視線を奪われていた。
「地下迷宮の中層を簡単に突破する探索者が、いったい何人いると思うんです?」
厳しい視線を投げかけるようにヘイリーが蕩々と話し続ける。
「蛇神の使いを討伐した貴方達と友誼を結びたいと望んでいた探索者達もたくさんいましたよ?」
ドリスさんが無償で回復魔法を使って助けたのは貴方だけではないんです、そしてそれは普通のことではないんですとまるで言い聞かせるようにヘイリーが言う。
「休みの日には獣人族の街で楽器を演奏をしてらしたとか? あなたを慕う者達が、この街に大勢いることを知らなかったんですか?」
貴方には何も見えていない、とヘイリーは言った。
その声がユウの心に突き刺さる。
「もう分かりましたか? 貴方は、世間知らずなお坊ちゃんなんです」
見ていて苛々します、と彼女は吐き捨てる。
視線を切り、顔を伏せたヘイリーの表情は読み取れない。
「嘘、だよな……?」
思わず口をついて出た言葉は何処か力無く響いた。
「いいえ。あなた達はまんまと私に騙された。これが現実です」
「ヘイリーが俺たちを騙してたとか、嘘だろ? あれだけ打ち解けて……。なんでだよ、一緒にやってきたじゃないか!?」
喉が渇く。無性に渇きを覚える身体にユウは意識を引っ張られる。迷宮で苦楽を共にしてきた仲間たちの顔が思い浮かぶ。
「理解してください。これが現実なのですから」
「納得できるかよ! なんでだよ、ヘイリー!?」
抑えていた感情が溢れて来るように少年の口を開かせていた。
「軍人だったのか? そいつに命令されたのか? 俺たちと迷宮に入ってたのは無理矢理やらされてたのか? 俺たちは、ヘイリーの嫌がる事をさせてたのか?」
少年の声にヘイリーは知らず腕をかき抱いていた。彼女の立ち姿が急に儚げな少女の其れに重なっていた。唇を固く結ぶヘイリーの表情は晴れないままだ。
「どうなんだよ? さっきも、また一緒に行こうって言ってたじゃないか。一緒に冒険して、俺たちと笑ってくれてたのは何だったんだよ!?」
ヘイリーは俺たちの仲間なんだ、と少年の視線が痛いほど雄弁に語っていた。
「なんとか言ってくれよ、ヘイリー!」
感情的に叫んだユウに様々な視線が向けられていた。
ドリス達は共感を、王国騎士達は侮蔑を、ベルン達国軍は冷ややかな態度を隠さない反応を見せていた。
其のいずれとも違う激しい感情を隠した視線がユウを捉えた。
「甘ったれるのもいい加減にしてください!」
思いがけず激しい否定の声だった。
何かを捨てた筈の少女が出せる声ではなかった。
「言った筈です。あなた達は騙されたと。魔崫である迷宮で、油断するほうが悪いのだと!」
何故分からないのですか、と彼女が問う。
何故分かってくれないのですか、と彼女の瞳が訴える。
知らず知らずのうちにヘイリーの頬に熱いものが流れた。
激しい怒りが彼女の心を占めていた。其れが例え自分自身に向けられた怒りであったとしても。
「ヘイリー、貴女まさか……?」
ドリスだけが兎人族の少女の本心を、頬に流れる涙の意味を知ったのか、涙する彼女を見つめたまま無言であった。
だが、仲間達のためを想った忠言は第三者の声に掻き消された。彼女の身体が反射的にびくりと震えた。
「その辺でいいだろう。ヘイリー」
唐突に兵長ベルンの制止する声が聞こえた。一歩踏み出したベルンに少年達の視線が注がれる。
「ユウ様もよろしいですかな?」
駐屯地で国軍を率いている兵長ベルンが前に立った。
ヘイリーがベルンを止めようとしたのか、彼女の手は伸ばされ、そして力無く空を切った。
「全ての武装をこちらにお渡しください。遺憾ではありますが、これも王国軍としての命令。悪く思われるな」
「ふざけるな!」
武装解除を命じるベルンの言にユウのみならず仲間達も顔色を変える。
少年ですら、腰に佩く短剣に手が伸びている。探索者にとって武器は命綱だ。それだけ重要な物資であり、身を守る術そのものなのだ。
現代日本では考えられないほどに身の安全を保証するものが乏しい世界。弱い者の生命が軽んじられる世界。それが異世界の現実であった。
気炎をあげるユウを見ていたベルンが、少年の後方にいる騎士を一瞥する。徐に口髭に手をやりながらベルンは話し出した。
「あなたの後ろにいる其方の騎士様はクライン将軍の側近の方々でして……」
訝しむユウ達にベルンは淡々と事実を告げていく。
「我らの上官にも等しい方なのですよ」
兵長ベルンが少年に説明を続けた。
「現在、王国には三人の将軍がおられます。ユウ様もお会いになったことがあるのではないですかな?」
言外に召喚魔法を受けた直後に見かけた軍人が脳裏に浮かんだ。そして光安将軍のことも。
ベルンに言われたことを理解したユウだったが、彼の出方が分からないまま睨み合いが続いていた。
少年の奥歯がギリと鳴る。
「王国将官筆頭のソンソロール将軍は、王室の方々を守るべく、現在は王都で近衛隊を率いておられます」
理由を語らず兵長は続けた。右手の指を一本伸ばしている。
「二人目のミツヤス将軍は迷宮攻略の王命を受けておられますな」
少年を見る目がニヤリと歪む。二本目の指が伸ばされる。
「そして、最後に残ったクライン将軍こそが国内全ての都市防衛と、それを担う治安部隊に号令をかけられる方なのです」
もうお分かりでしょう、とベルンは語った。その右手の指は三本目がしっかりと伸ばされていた。
とても逃げられませんぞ、とベルンの目が語っていた。
「やってみろ!」
産毛が逆立つような少年の態度にドリスやムースも何とか抵抗を考える。少年が身に纏う魔力が格段に濃密さを増す。
だがドリスは既に女騎士に剣を突き付けられていた。
「あ……!」
ドリスの瞳が殺気立つ女騎士に吸い寄せられる。密かに魔力を練ろうとするが、先程から向けられる殺気に冷や汗が流れる。とても魔力を練る余裕がなかった。
(ユウ、気を付けるです! この騎士達、魔力の気配に敏感な気がする……!)
彼女の心配を余所にユウは体内魔力を錬磨する。
ユウの魔力が周囲の温度を上げていく。熱された空気が、少年の周囲で光の屈折を歪めていく。自然発火寸前の状態まで少年の魔力が溢れていた。
「ユウ、無茶はしねぇでくれ」
ムースが大斧を構えている。彼も仲間達のため、危険に身を晒してくれているのだ。
「……分かってる」
熱くなったユウだが仲間たちにも危険があるのだ。頭はどこまでも冷静になるよう必死に気持ちを抑えていた。
(とにかく、ドリスを助け出さないと……!?)
魔力を高めていた筈のユウが見せる反応にムースの方が驚いた顔をする。
「どうしただ、ユウ?」
「な、なんだよ……、これ!?」
突然の魔力の発現に少年もたじろいだ。気味が悪いほど巨大で攻撃的な魔力の昂まりを感じてユウは狼狽ていた。
その刹那の緊迫した空気を割って少年に向けられたのは、押し殺した殺気であった。
振り返る少年が目にしたのは、王国騎士の振り下ろす魔法剣だった。
銀光が煌めいたと同時に不快な金属音が響く。騎士が振り下ろした剣の刀身は、銀色の光を纏っていた。
辛うじて防ぐことが出来たのは、ユウの反射神経ゆえか。
「ほう。これを防ぐか……」
「……何しやがる! このっ!」
魔力による圧力差から短剣を持つユウの手は弾かれた。
すぐに地面に身を投げて転がるように距離を取る。相手との力量差が明らかなことにユウの顔色が蒼白になる。
「下賤な身にも分かるように教えてやろう。間も無く閣下が参られる。跪け」
向けられる殺気に少年の肌が粟立つ。仲間を人質に取られたうえで、自身に迫る白刃を目にする。
(こいつ、本気かよ……!)
冷や汗を拭うことすら煩わしいとばかりにユウは立ち上がる。なりふり構っていられないと本能が警鐘を鳴らす。
この騎士達は本物だ。そう少年の直感が告げていた。
更に逃げ場を塞ぐような王国軍の兵士達。そしてその周囲には、広場を埋め尽くすような数の探索者達が集まっていた。
窮地に陥った少年達は顔色を失くしていた。
先程から感じ始めた魔力は次第に広がりを見せて迷宮前に蟠っている。薄気味が悪い魔力が大きくなっていくのを少年は感じていた。
「待ってください! 話が違います!」
探索者や軍人達が集まった迷宮前の広場に女の声が響いた。
「危害は加えない約束です! 殺すおつもりですか!」
やめてください、と叫ぶヘイリーの声が聞こえた。少年の視線が王国軍の方へ向けられる。其処に裏切ったはずの彼女がベルンに食い下がっていた。
「やめて下さい! ローランド卿が相手では殺されてしまいます!」
ユウは目の前の状況に理解が追いつかなかった。
「ヘイリー……?」
尚も食い下がる彼女に主人からの返答は無い。黙っていたベルンの視線は冷ややかなままだ。
「お願いです! 止めてください!」
「ヘイリー、いつからそんな口をきけるようになった?」
何を、と問い返す間も無く、ヘイリーの細い身体が宙を舞った。
それがベルンによって殴り飛ばされたのだと分かるのに時間は掛からなかった。
「かはっ……」
倒れ伏した彼女が身じろいだ。えづくような息が漏れる。
「お前はいつから主人に指図できるようになった?」
「あ、いえ……。そんな、つもりでは……」
冷徹な迷宮が彼女に向けられる。まるで人を人とも思わないような視線を向けてベルンが命令する。
心底怯えた顔を見せるヘイリーは主人の怒りに震えたいた。
「まだ自分の立場が分かっていないようだな……。おい、連れて行け!」
踵を鳴らして兵士達がベルンの指示に従う。強引に立たされたヘイリーが両脇を抑えられて連行される。
「や、やめて……。お願いです! 放して!」
抗うヘイリーを兵士達が連れて行く。次第に離れて行く彼女の姿に仲間たちが叫んだ。
「お前ら! ヘイリーに何をする気だ!?」
ベルンに怒りを向けるユウが魔力を解放する。火がまるで立ち昇る気炎のように少年の身体を取り巻いている。
「他人のことより、自分のことを心配するんだな」
「何っ?」
鋭い銀光が少年の喉を狙う。魔法使いの詠唱を潰すつもりか、騎士ローランドが容赦なく攻め立てる。
有無を言わさぬ剣撃が振り下ろされた。咄嗟に弾いた少年の短剣にも銀色の魔力光があった。
「手加減の必要は無いようだな」
冷酷な笑みを浮かべて騎士ローランドが迫る。
数合の剣撃が響き、まともに殺気が放たれる。だが、同時に危険を察知した少年の放つ炎がまるで生き物のように舞い、時に空を焦がす。相手を呑み込まんとする魔力の炎が広場を焼く。
だが、その炎すら切り裂いて騎士ローランドが迫る。自らの手にする魔法剣を使い、魔力の炎を相殺しているのか。ユウは初めて相手取る強敵に余裕が無かった。
「跪けと言ったぞ。異世界人よ」
「!」
水平に斬り捨てるローランド卿の魔法剣をギリギリでユウは躱した。
少年が転がって距離を取ることにローランド卿が苛つくように舌打ちする。
やはり王国からの刺客か、と少年は喉を鳴らす。
火の魔法に対する戦い方を知っているとしか思えない相手に、ユウの手に力が籠る。状況は少年に旗色が悪い。
(どうする? どうする、俺!? ドリスを助け出して逃げなきゃダメだ。捕まったら最悪殺される!)
ユウは冷静さを保つよう必死になっていた。常にクールでいろ、と言ったのは誰だったか。
(考えろ! 考えるんだ! 何か必ず手はあるはずだ!)
諦めたら終わりだ、とばかりに少年は打開策を探していた。
だが、少年が次の手を見つける前に、状況が動いた。
「ウオオオオオォォォーーーー!!」
大地を震わすほどの気勢を上げてムースが飛び出していた。
ちょうど騎士の背面側に位置していたことが幸いして、大斧を上段から振り抜いた。
「ムース!」
広場に亀裂を刻んでムースが走る。人を相手にするには巨大な大斧を二撃、三撃と連続で攻撃する。
ローランド卿と呼ばれた騎士も流石に受け止められないのか、躱すか受け流すのに必死だ。
「ちっ! 下等な獣風情が!」
「させねぇだあ!!」
打撃陣の様相を呈したムースの攻撃に騎士が押されていく。
「やめろ、ムース! 無茶するな!」
ユウは叫ぶと同時に魔法を使う。
炎が壁となってムースと騎士の間に割って入った。燃え盛る炎が轟と空を焦がす。幅五メートル以上、高さ二メートル以上もの炎の壁が一瞬で出現する。
「なんと……。無詠唱で、この規模の炎の壁を作るとは……」
ベルンの感嘆が漏れる。爛々とした目が見開かれている。
「やはり、獣人族の伝承にある御使いとは……」
まるで探していたものを見つけたかのような目を向けるベルンの呟き。騎士ローランド達とは違う意味でベルンは興奮を覚えていた。
剣撃と炎の燃え盛る一連の騒動に、周囲の探索者達が騒つく。
何かしらの騒ぎが起こっていると察した者達がいるようだ。獣人族同士で連絡を取り合っている。
状況を見ていた女騎士が見かねて助けに入った。
「兄上!」
腰の剣を抜き、ドリスを突き飛ばしながら女騎士が駆ける。その視線はムースを捉えている。
輝くような白刃が銀の光を纏う。魔法剣特有の其れが朝陽色の殺意に染まった。
「やめろ!」
ユウの魔法剣が伸びていた。約二倍近くに伸びた剣身がムースを庇って女騎士の魔法剣を防ぐ。
金属を引き裂くような音が響く。
「ユウ!」
「下がれムース、前に出るな!」
ドリスを頼むと少年が目で訴える。
その僅かな隙をついて別の魔法剣が少年の首を狙う。兄であるローランド卿が妹を助けるべく狙いをユウに変えたのだ。
休む暇も無く襲い掛かる剣撃に、少年も精一杯防いでいる。
ローランド卿と、その妹姫による兄妹二人の連携技が途切れなく襲い掛かる。
息のあった二人の攻撃に、ユウの剣は直ぐに押されてしまう。
耳障りな剣撃の応酬に、ムースは助けに入るべきかと逡巡する。しかし、少年の身を挺した時間稼ぎに、彼は意を決して背を向けて走り出した。
「ドリス、大丈夫かあ?」
一目散にドリスの所へと駆け寄る。大柄なムースが脇目も振らずに助けに走った。
「私は大丈夫! ムースも怪我してない?」
「オラのことはいいだ。だどもユウが……」
合流した二人は戦い続ける少年を見た。その姿は防戦一方だ。
傍目にはユウの旗色が悪いようにしか見えないが、ローランド兄妹二人も少年に決め手を加えられないでいた。
その理由は魔法剣の威力の差である。この場にいる魔法剣の使い手たる三人だが、ローランド卿達は剣に魔力を纏わせることで威力を底上げしている。
だが唯一、ユウだけが剣身に纏わせる魔力により、その剣の長さが二倍近くまで伸びているのだ。少年の体格にとって短めだった護身用の其れが、必要十分な白銀色に輝く剣となって振るわれていた。
二対一の戦いに誰も手を出せない。周囲の国軍兵士達すら、彼等の戦いを黙って見つめていた。
空を斬り、烈昂の気合いを発して互いの隙を突く。息を飲むような命懸けの戦いが続く。
だが、その騎士達の襲撃の隙に広場には魔力が溜まり続けていた。兵士達に守られた広場の中央に薄く魔力光が浮かび上がる。
其れは円を描き、やがて複数の模様を組み込んだ複雑な陣へと変化していく。魔力の高まりが最高点へと導かれるように、広場の魔法陣も輝きを増していく。遽に騒がしくなった広場に其れは現れた。
「出迎え、御苦労」
聞こえてくる尊大な声。歳の頃は三十代くらいか。大柄な身体はがっしりとした筋肉に固められ、ローランド卿達より見事な鎧を身につけている。腰には使い込まれた剣を佩く。
刈り上げた金髪に、酷薄そうな瞳。
この王国にいる三将軍の一人。クラインその人が迷宮へと姿を見せたのだった。
現れたクライン将軍。告げられる新たな事実。少年に課せられた過酷な現実は彼の心を押し潰そうとする。
次回、第63話「隷属」でお会いしましょう!




