F 最期の道 共通①
――今日は惑星エンゲラデスで、王子の誕生日回がある。
「はあ……どうせ私は誰も選ぶことはないのになあ」
色とりどりの華やかなドレスで身を飾る令嬢達を見て、憂鬱だなと王子は呟いた。
「フン、名家に生まれただけで己が権力を得た気になる卑しい女どもめ」
大臣は髭を撫でながら、貴族の令嬢等を陰で貶める。
王子は不快な言動に顔をしかめ、その場から移動する。
「お前達もそう思わんか」
「難しい話ですねー」
褐色の肌をした異国の女を侍らせた大臣の息子は手をヒラヒラさせた。
「キミら父様の言葉の意味わかる?話してごらんよ」
「わたし共は賎しい平民ですので……」
このエンゲラデスでは男が絶対的な権力を持つ。
「近頃のエンゲラデス人女は他の平民女にも劣るのか、まったく嘆かわしい時代だ」
「きゃっ!」
公爵に連れられた6歳ほどの少女が大臣の足に躓いて転んだ。
「申し訳ない公爵殿!そこの女!代わりに謝罪するのだ!」
「こっ公爵様……申し訳ございません!」
大臣はメイドを足蹴にしながら公爵の前に這いつくばらせた。
「……この件は陛下に報告をさせてもらおう」
「どうぞお嬢さん」
みかねた王子が少女の髪飾りを拾うと、埃をはらって頭へ乗せた。
「立てるかい?」
「はっはい……」
王子がメイドに声をかけると、立ち上がりそそくさと去っていく。
「素敵……」
「わたくしも転ぼうかしら」
エンゲラデスにおいて数少ない紳士的な王子に令嬢達が思慕するのは必然だと言えよう。
「父様、今のは心証がよくないのでは?」
大臣の息子は父親に耳打ちした。
「王子め……私を踏み台にしおって」
大臣はいまいましげに睨めつけるのだった。
■
「やれやれ……」
「アレクセン殿下、この度は16の誕生日おめでとうございます」
彼はエレスゲ星アクアルド領の海軍将校ルーキオ・グレライン。
アクアルドはレディを敬うという文化のあるエレスゲの中でも異質な戦士気質が残る男至上の領地だと聞く。
「アクアルドから参加者はグレライン少佐殿お一人ですかな?」
「いえ、私が把握できる同行者は4名ほどですが中将軍クラスの方もおりまして……」
他愛ない会話を数分して
グレラインが去る。
「それではいずれご縁がありましたら、なにとぞ……アレクセン王子」
「……!」
次は誰から声をかけられるのかとアレクセンは気が抜けない時を過ごす。
「誰かいるのかい?」
「すっすみません……」
ブカブカしたマントを着た褐色の少年がひょっこり顔を覗かせる。
「隣国オラルドビアから参りました。宮廷レヤッタ・フレンダムです」
「気にしていないから怯えないでくれ」
アレクセンが微笑むとレヤッタは顔を赤らめた。
「なんだい?」
「いっいえ、殿下は麗しいだけでなくお優しいと思いまして……」
アレクセンはそういう趣味なのかと引き気味になる。
「誠に失礼ながら、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ?」
レヤッタはおどおどとしながら、アレクセンに耳打ちをする。
“貴方は女性ですか?”
「……!?」
「その反応はやっぱりそうなんですね」
レヤッタが悪用するなら本人に問う筈もないとアレクセンは頷いて認めた。
「ああ」
古より神は右側に男に権力を持たせる星エンゲラデス、中心へ平等の星ジュプス、左側には女に権力を持たせる星カレプレンを配置した。
『なに!?』
男ばかりが増えて女の少ないエンゲラデスでは敵対するカレプレンと同じくバイオ技術が発達していた。
『右と左を間違えた業者の発注ミスかと思われます』
暗に機械で人を作り出す技術を最大の科学惑星テラネスより輸入する。
そして、いまから十六年前、エンゲラデスには王子が誕生する――筈だった。
『向こうは王女のはずが王子、こちらには王子でなければだめなのに王女が……』
カレプレンは生まれた王子を女装させて王女と偽った。
故に当時の王室関係者はアレクセンを殺すことは出来ない。
「……なんでわかった?
「アレクセン様は魔法で男装なさってますよね?」
アレクセンは小さく首を動かした。
「この国では男性が武力、魔法を使うのは女性という風習があると聞きます」
「なるほど、つまり魔法使いだから判ったということかな?」
レヤッタはコクコクと頷くとあまり長く話すのは不自然だからと言って去る。
「……このパーティー、無事に終わる気がしない」