A普通の未知 共通シナリオ① 自己犠牲
――――目に見えない化け物が人を消した。
ほんの少し前までそれは、私の中でただの都市伝説やSFのような話だった。
けれどたしかに、この星には普通の人間には見えずさわれない。
まったく干渉のできない謎の生命体がいる。
名を“ウォルター”人間に取り憑き、肉体と精神の意思を奪っていく。
初めはただの流行り病とされていたが、取り憑かれた人間はまるで人形のようになってしまうという。
ある日私はその姿が見えるようになった。
なんの取り柄もない平凡な人間だと、家族や友人から評されていた私に大きなチャンスが訪れたのだ。
一部の特殊な人間にだけ見えるという、地球外生命体が私にも見えているのだ。
私は宇宙監理機関・プラネターに新たに出来た対ウォルター研究討伐特別機関、通称UTKに入ることになった。
―――金髪の若い男性が舞台に上がる。
「私はハルウィス=クレリア、プラネターの代表だ。
数少ない選ばれし諸君言っておく。
戦いにおいて優先的に護るのは、“視えぬもの”ではなく我々“視えし”者だ」
周囲が驚き、ざわついた。
「新しく作ったこのチームは、人助けとは関係ない。
我々は力を会わせて己の身を護る為に集まっているのだ」
(どういうことだろう。自分達だけを守って、他の人を見捨てろだなんて)
「さて、諸君は私の発言に対し、疑問を抱いただろう。なぜ見える自分達のみが保身に走るのか、と……」
たしかに周囲はどよめいている。
「なにも見えぬ者を見捨てよ、などとは言わない。
自分の命と引きかえに、他者を守ることは一見すばらしくも見えるが……
裏を返せば、英雄<ヒーロー>を気取って、自己犠牲をする自身に酔っただけの愚か者。だ。」
周囲の声はおさまり、同時に凍りつく。
「私はできることなら君達の中にそんな人間は出てもらいたくはない。以上だ」
――――静まったまま演説を終えた。
心ない言葉だったけど、なんだか考えさせられた。
いままで私はなんの取り柄もなくて、やっと自分にも特技のようなものが見つかったと喜んでいた。
私とは無縁の星立機関に入れた。
大勢の人がそれで犠牲になったのに、私はそんなことも気がつけなかった。
運が悪ければ私も生命体につかまって死んでいたかもしれないのに。
…帰ろう。私にはやっぱり何もできない。
私も彼のいうようなことをしてしまうかもしれない。
「おい、何処に行くんだ!」
黒髪の男性が、私を威圧するように強く呼び止めた。
「貴方は……?」
「グライント。UTKのリーダーをやることになった者だ」
「……ごめんなさい、私帰ります」
「なにを馬鹿なことを…装備も整えずに外に出たら死ぬぞ」
彼は唖然とした顔をしている。
「でも、トップの方の演説を聞いて、私は自分のことしか考えてなかったことに気がついたんです」
わかっているけど、自分の甘い考えが許せなかった。
「沢山の人が亡くなったのに、私はそれを利用しているような気がして」
「……」
何が気にさわったのか、彼は険しい顔になる。
「自分の事だけ考えて何が悪いんだ?
それでいいだろ。死んだ奴はお前が嘆いても帰らないんだぞ」
「それは…そうですけど、でも浮かばれないです」
「生きているお前がそいつらの分まで生きてやればいい」
言いたいことだけ言って、去ってしまった。
悔しいから、ここに残ってあの人に言ってやる。
“もちろんそのつもりです”