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就職したった

設定はかなりの時間考えました。


(プルルルル…ただいま留守に─)

留守なのか相手は出なかった。やはり仕事上忙しいのかもしれない。

(ピーッという発信お)ガチャ

『…はい…、こちら動物園ロイヤルミルクティーです…』

遅れ気味に出た声の主はとても眠そうであった。朝が早いからなのか。しかしたった今起きた声のように聞こえるのは何故だろう。

『えっと…どちらさんすか…?』

「あっはい!平野ひらの あきらと申します。先日そちらのホームページを拝見した際に、こちらで従業員を募集していることを知ったので電話させていただきました」

『ああ…そんなもんもあったな…。分っかりました。じゃあまた暇なときにでも来てください』ガチャ

えっ…ええ…?

電話を終え、心には不安だけが残った。


行くか行かないかは最後まで迷うことになった。

「でも電話しといて行かないのはさすがに失礼だよな…」

午後はバイトだが午前は空いている。声の主は暇なときに来いと言っていたからそれに甘えることにした。

身支度をして部屋を出る。10月も終わりかけている外の風は肌寒い。車が欲しいなと思いながらアパートの敷地隅に止めている原付にまたがり、発車させた。

場所は都心から離れた、お世辞にも都会ではないところ。どんどん風景が田舎になっていくのを見て迷ってないか心配になったが、途中に看板がいくつかあり、約1時間程で着くことができた。

『私営動物園 ロイヤルミルクティー』

駐車場に原付を止める。狭いスペースには車が少し詰めて置かれていた。人気がうかがえる。

駐車場に立て看板があり、ポップなイラストと矢印で動物園の場所が示されていた。

それに従って歩いてきたが…ここでいいのか?

目の前には『ホテル ロイヤルミルクティー』と書かれた二階建ての建造物が現れた。

はて、俺が目指していたのは動物園のはずだ。しかしたどり着いたのはホテル。どうでもいいけどホテルとミルクっていう単語を並べたら卑猥だよな。

名前が同じだから何か関係はあるだろう。入ると『チケット売り場』の張り紙、そして机がありその上にはベルが置いてあった。これで呼べということだろう。

チーン

「はーい、今行きます」

奥から声がして男性の方が出てくると、無礼な程にギョッとしてしまった。それを察したのか男性は苦笑する。

「すいません、この体格のせいでいつも初見のお客様には驚かれているんですよ」

そう言った男性は180…いや190㎝程の身長だった。それにただ大きい訳ではなく、作業着の上から分かる程筋肉質。格闘家のイメージがピッタリだ。

「い、いえ!こちらこそ遠慮なく驚いてしまってすいませんでした!」

勢いよく頭を下げたはるか上で笑い声が聞こえる。その声は低くて、男性の迫力に拍車をかけていた。

「それで…チケットをお求めですか?」

「いえ、少し用というか…」

用?と男性は怪訝な顔になる。

「今朝電話をさせていただいた平野と申します」

それを聞いた途端に男性の顔が険しくなった。

「電話…?そんな話は聞いてないな」

「え…!?」

背筋に冷たいものが走る。確かに電話で話した内容はおかしかった。だが連絡したのも事実。そう…夢ではないはず…。

その時、奥の扉から誰かが入ってきた。

「うーっす九鬼くきさん…。俺ここに昼券忘れてなかったっすか…?」

現れたのは、また背の高い男性だった。180㎝後半くらいに思われる。

「昼券?ああ、お前のだったのか。奥にあったぞ」

あざーす、と言いながら奥へと入っていく。その声はとても眠たそうだった。しかし今日は眠たそうな声をよく聞く日だな…。

「あ!この人です電話に出たの!」

俺と話をしていた男性、もとい九鬼の顔は多少引きつっていた。

「そういえばお前今朝は管理舎の当番だったな…。朝電話がかかってこなかったか?」

男性はうーん…と思い出す仕草をする。

「電話っすか…?あぁ…そういえばかかってきましたね」

九鬼は頭を抱え込んでしまった。

「…それで?内容は?」

九鬼はしょうがなくという感じで訊く。

「ええと…何でも従業員になりたいとか」

「何!?」

九鬼は眼光鋭く俺を見た。そして肩をガッチリとつかまれる。思わず体が強ばるのが自分で分かった。

「そうか、お前うちに入りたいの…か…ぁ…ぁ」

途中で声の張りがなくなり、九鬼の首がぎこちなく眠たそうな男性の方へ向く。

「お前…うちの説明は…?」

男性は首をかしげた。

「説…明…?」

「もういい分かったお前は仕事に戻れ…。後で潰す」

ふぁーい、と言って男性は眠たそうに部屋から出ていった。九鬼はふー…っと息を吐き、向き直る。てかあの人大丈夫なのかな。

「うちに入ってくれるのはとても嬉しい。でも、まだ待ってほしい」

待つ、とは。

「俺達の話を聞いてから、君に決めてほしい。この仕事に就くかどうかを。話は…この仕事の特殊性についてだ─」


さかのぼること22年、この年、史上最悪の全世界同時多発テロが起こった。犯行グループは『神人教』とかいう宗教の教徒でな。人間は神の子孫で、動物は人間に害を成すから悪魔の化身とされていたらしい。でも動物自体は悪とされていなかった。

この宗教で罪とされたのは人間と動物の共存。つまり人間と動物が一緒に暮らすと罪になるんだ。例えば、飼っていたり、動物園、ペットショップも罪になる。このときのテロは、そういう人間と動物に対する罰だそうだ。全世界の動物園、水族館、さらには運悪く近くで犬の散歩をしていた人も標的になった。

テロはその後鎮圧されたが、どの国も大きな打撃をうけた。今後このようなことが起きないよう、国連は宗教を細かく把握するよう定めたのだが、日本はそれに賛成しなかった。

『動物愛護基本法』聞こえはいいが、内容はクソだ。国が動物を管理し、国民が動物と関わるには『動物税』がかかるようになった。そしてほとんどの動物園は潰れ、残ったところも国が運営している。動物たちは管理しやすいように狭い檻に入れられてるのが現状だ。何が愛護だ笑わせる─


「俺達はそれに反対するため、日本唯一の私立動物園を作ったんだ」

九鬼は説明をそう締めくくった。

「だから正直危険だ。それこそテロ行為とされても仕方ないからな…。でも外国は俺達を応援している。それほど今の日本はおかしいんだ」

動物愛護基本法…。確か中学の公民の授業で教わった記憶がある。こんな法律だったのか。

どうするべきか…。動物は嫌いではない。嫌いではないが…。

そのとき、明の脳裏に二人の人影が映った。

「俺は…」


「平野君、新しい仕事見つかったんだってー?」

振り返るとやたらとケバい女が立っていた。なんだ先輩か。

「そうなんすよー。だからここは今日限りですねー」

時間がたち今はコンビニでバイト中。適当な返事をして商品棚をいじくる。

あの後話は進んで明はロイヤルミルクティーで働くこととなり、さっき店長に報告をした。

前の職場を解雇されて生活費を稼ぐために就いたバイト。せっかく慣れてきたのになと軽く寂しさも感じる。

「でー?どんな仕事するのー?」

「何かロイヤルミルクティーとか言う動物園です」

そのとき先輩は、ん?と怪訝そうな顔をした。

「どっかで聞いたことある…。あっあれだ。都市伝説だ」

都市伝説?

「なんですかそれ」

「ネットで話題になってたの。やめときなよそんな仕事ー。怖いわ」

…噂だ噂。でも確かに不気味だし…。仕事も危険らしいからな。

「どんなのですか?」

先輩は怖いくらいにケバい顔をさらにケバく…じゃなくて怖くして話し出した。ブサイク…。

「働いてる人が怪物らしいよー…。ヤバイ物作ってる研究者とか動物と話す精神病んだ女とか」

うわぁ…。何か…都市伝説にしてはリアルだな。

「あとクソデカイ巨人とか、やる気なく徘徊する亡霊とか」

「ぶはっ」

「…どうしたの?」

「いや、何でもない」

思わず吹き出してしまった。

後半の都市伝説は知っている。多分てか絶対あの二人だ。都市伝説にしては中々的を射ている。

と言うことは前半の二つも?不安…だけど楽しみだ。ロイヤルミルクティーはどんなところだ?

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