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甘えん坊少年と過保護な女神とお姉ちゃん  作者: 桜川 清太郎
第1章 理から外れた存在 コスティス編
9/20

第9話 冒険者ギルド

 コスティスの冒険者ギルド。

 昨日も足を運んだところだけど、今日は少し雰囲気が違う。

 テーブルでたむろする冒険者の姿はないけれど、壁面に設置された掲示板の前に人だかりが出来てるんだ。

 そこに依頼が貼ってあるから、それを持ってカウンターに行けばいいみたい。

 この辺りでは、一番仕事が多いギルドだから、冒険者も多いんだって。

 朝のこの時間は、いつもこんな感じらしい。さっさと依頼を片付けて、報酬を貰って、一杯? やるのができる男の嗜みだってお姉ちゃんが言ってた。

 でも、お姉ちゃんはお酒を飲まないみたいだから、よくわかんないねって、苦笑いをしてたけど。

 

「よしっ! アルくん。私たちも負けてられないね!」

「はーい!」

 

 お姉ちゃんの掛け声に元気良く返事をする僕。

 そうして掲示板を目指して歩いていこうとしたときに、ふとカウンターが気になって、そっちを見たんだ。

 そうしたら、ミラさんがこっちをじーっと見てた。僕はペコって頭を下げると、頷くように返事をしてくれた。

 昨日は驚かせちゃったけど、大丈夫かな? 僕も《あいちゃん》がすごい神様だっていうのは知っているけれど、知らない人がどう思うかなんて考えたことないから。

 それに《あいちゃん》は、大切なお友達だから、みんなに怖がられて欲しくない。

 だから、ミラさんみたいに驚かせちゃうかも知れないし、母様ははさまがどうして内緒にしなさいって言ったのか分かる気がする。

 ミラさんに、後でもう一度だけお願いしてみよう。


 僕がミラさんの事を考えてる間も、お姉ちゃんはずんずんと進んでいく。

 僕は遅れないように、しっかりと手を繋いでトコトコと付いていった。

 それで掲示板に辿り着いたのはいいのだけれど……。


 僕には全く見えない……僕が見えるのは、冒険者の人たちの太腿ふとももとかお尻だけ。

 みんなすごく大きいんだもの。お姉ちゃんだって僕よりは大きいけど、見えるのかな?

 そう思った僕は握っている手に力を込めて、お姉ちゃんを見上げると話しかけた。


「お姉ちゃん。見えるの?」


 でも、お姉ちゃんも背伸びしたりしてよく見えないみたい。

 そうこうしてるうちに、掲示板の前から次々と人が居なくなって、依頼書を握り締めながら、カウンターへと向かっていった。

 すごい身体が大きくて、怖そうなお顔をした冒険者の人に「坊主っ! 邪魔だ!」って、何度も言われてしゅんとなっちゃう。

 そうして最後に残ったのが僕たちだったんだけど。


 人の居なくなった掲示板は、所々が歯抜けになっていて、割のいい仕事から無くなったんだと思う。僕にだってそれぐらいは分かるよ。

 そんな掲示板をよく見ると、〔ノーマルクラス〕と〔マスタークラス〕っていうプレートが貼ってあって、左右に別れていたんだ。

 僕は自分のギルドカードをポケットから取り出して、ひっくり返すと裏に書かれている文字を見た。

 僕のギルドカードの裏には、《マスターE》と書かれている。結局、〔マスタークラス〕の一番下からのスタートだけど、これで良かったと思う。

 依頼も請けないで、一番凄いランクなんて、ズルしてるみたいだし。それに目立ちそうだよね?


 僕は視線を掲示板に戻すと、下のほうに貼ってある依頼書を見た。もちろん〔マスタークラス〕の方だよ。

 

“外道化植物《霧夢草》の採取。難易度E。(ノーマルCパーティ受領可)発生場所 南の森。報酬 採取用麻袋、一袋に付き二〇ビル”


 依頼書を見たのだけど、どんな相手とか分からない。でも、なんか冒険者になったんだって思うと少し嬉しいかも。

 ドルダダ村から出たことがない僕が、大きな町で冒険者になったんだもん。何かワクワクしてきた。

 

「よしっ! 決めた! アルくん。そんじゃ、カウンター行くよー」

 

 僕が掲示板の下の方を見ていると、聞こえてきたお姉ちゃんの声。

 どんな依頼を請けるのか聞く間も無く、僕の手を引っ張るんだ。僕だって気になるのに。と言っても、聞いたからって分からないのだけど。

 そうして〔仕事の受領・完了〕と書かれた窓口へ向かった。


「おはようございます。アル様……それにソフィアさんも。昨日は大変失礼致しました」

「おはようございます。ミラさん」


 ミラさんは少し素っ気無いというか、何となく怯えてるみたい。アル様なんて言われたくないのに。

 きっと《あいちゃん》のことが怖いんだ。そう思うと少し悲しい。自然と《あいちゃん》を持った左腕に力が入る。


「えっと、依頼を請けたいんです……これなんですけど……」

 

 そう言って、お姉ちゃんが依頼書を差し出した。

 僕の背より高いカウンターだから、相変わらず僕には見えない。

 すると、ミラさんが申し訳無さそうなお顔をして、


「昨日は私も慌ててしまって、ご説明が中途半端になっておりますので、この場でご説明させて頂いてよろしいですか?」

「そっかー。アルくん。聞きたい? それともお姉ちゃんが後で教えてあげようか?」

「うーん。それでもいいかな……でも、やっぱり聞きたい」


 お姉ちゃんに教えてもらうのも楽しいけど、僕も頑張らないとダメだし。って、思ったんだ。

 ミラさんは、それではと言って説明を始めてくれた。


「まずは、ギルドカードの説明から致しますね。このギルドカードは身分証明書にもなっております。他の町へ行かれた時に、城門や町の入り口等で検問があった場合には、提示されれば身分を証明することができます。ここまでよろしいですか?」

「はい」


 僕はうんうんって頷いた。なんか聞いてて楽しい。お姉ちゃんもそんな僕を見て微笑んでくれているし。

 だけど僕にじーっと見つめられながら、説明をするミラさんはやりにくそうだ。

 

「次にランクですね。ギルドランクは、《マスタークラス》と《ノーマルクラス》に分かれています。アル様は、その……寵愛を受けておられますから、《マスタークラス》になりますね。各クラスは、更に六段階に別れておりまして、最高のSから一番下のEまでとなります」


 また《あいちゃん》が暴れださないかと心配になった僕は、左腕に力を込めて心の中でお願いをする。

 大人しくしてねって。


「そして、カードもランクが上がるたびに色が変わります。Sは金。Aは銀。Bが……といった具合です。また、表面は無地になっておりますが、数人で集まって作るパーティや、もっと多くの人で組織するコミュニティに所属すると、そのパーティ又はコミュニティの名前が記載されます。この場で手続きもできますので、ソフィアさんとパーティを組まれますか?」

「はい」


 僕はうんうんって頷いた。ふとお姉ちゃんに聞いてなかったことを思い出した。僕が勝手に決めちゃダメだよね。

 それでお姉ちゃんに顔を向ける。そんな僕をニコニコしながら見ながら「お名前を考えないとね!」って、言ってくれた。

 何処へ行くのにも一緒って感じがして、すごく嬉しくなる。実際にいつも一緒に居てくれるんだけどね。


 とりあえずパーティの名前は後回しにして、説明を進めてもらうことにしたんだ。

 ミラさんの話を纏めると、ギルドカードの色は、Sは金、Aは銀、Bは白、Cは茶色、Dは青、Eは黒になる。

 ギルドカードのお色は、創生神話の神様たちにちなんで決められたんだって。更に《マスタークラス》のカードはキラキラしてるけど、《ノーマルクラス》のカードは普通のお色みたい。

 だからギルドカードを見れば、すぐに《マスタークラス》か《ノーマルクラス》のどちらがが分かるようになっているんだって。


 依頼については、クラスの違う依頼も請けようとするランクが低い場合に限り請けられるみたい。

 例えば僕は《マスターE》だから、《マスタークラス》の難易度Eの依頼と、《ノーマルクラス》の依頼は全て請けられると言った感じ。


 ただパーティを組むと、特典があってワンランク上の依頼を請けられるようになる。

 僕とお姉ちゃんがパーティを組めば、難易度Dの依頼を請けてもいいということ。

 他にも違うクラスの人が集まってパーティを組むのも大丈夫みたい。

 そうすると、《マスタークラス》の依頼を《ノーマルクラス》の人が一緒に請けられるようになる。

 でも、その場合には《マスタークラス》の人のランク相当の依頼に限るのだとか。

 それでも、《ノーマルクラス》の人が混じったパーティが請ける依頼は、《マスタークラス》の難易度Cぐらいまでだって言ってた。

 

 さっき掲示板に貼ってあった《霧夢草》の採取みたいに、特別にギルドが許した依頼は、請けられるみたいだけどね。

 攻撃はしてこないけど、《霧夢草》が出す霧に晒され続けると、夢を見てるようになって、普通の動物や人も含めて外道化しちゃうから、すぐに排除したいみたい。

 でも《霧夢草》が群生している場所は、外道化した獣がいる可能性が高まるから、ギルドも《ノーマルクラス》の人が一人で請けるのは禁止にしてるのだとか。

 それでも数が増えると、どうにもならなくなってしまうから、《ノーマルクラス》の人が請けることを許してるんだって。

 他にも《マスタークラス》の依頼でも、特別に許された依頼はいくつかあるみたいだから、今度はもっとよく見てみようと思ったんだ。

 それに例え《ノーマルクラス》の依頼と言っても、野生の熊だとか、力が強くて凶暴な獣もいるから、そういった依頼の場合には《マスタークラス》の人に応援してもらいなさいねってお話してるんだって。


 コミュニティはそんな問題を解決する為に生まれた組織で、依頼内容を確認してコミュニティ内でパーティを組んだり、人手が必要な依頼を指名されて請け負ったりするのだとか。

 うーん、ミラさんのお話は難しいや。よく分からないことは、後でお姉ちゃんに聞いてみようかな。

 

 それでも、ミラさんのお話を聞いて、神様の寵愛を受けるって本当にすごいことだっていうのだけは分かった。

 実際にキラキラしてるギルドカードを提示すれば、何処に行っても信用してもらえるって言ってたし。


「依頼が完了したら、こちらで必ず完了手続きをしてくださいね。報酬をお支払い致しますから。それで、【神袋ディエティ・バッグ】はお持ちですか?」

「ううん」


 ミラさんに言う【神袋ディエティ・バッグ】って言うのは、【神具ディエティ・アイテム】の一つで、見た目は小さい袋なんだけど、たくさん物が入るスグレモノなんだよね。

 ドルダダ村に来た行商の人から聞いたことがある。見たことはないけど。

 冒険者になると、みんな用意するみたい。ただ僕はお金を少ししか持ってないから、足りるかな? って思ったんだ。

 そんな僕を見て「私のを使うから大丈夫ですよ」って、お姉ちゃんが言ってくれた。


「わかりました。討伐部位の他に買い取れるものがあれば隣の窓口で言って下さい。買い取れる物もございますから」

 

 後は、お金を預けることができるみたいだけど、依頼が完了した時に説明しますねって言われた。

 それで、ミラさんのお話は終わりみたい。

 

「何かご質問はございますか?」


 そう言ったミラさんのお顔は、晴々とした素敵なものだったけど、僕がじーっと見てるとしゅんとなってしまった。

 そんなつもりで見たわけじゃないのだけど。ずっとこのままじゃ悲しいから、《あいちゃん》の話と一緒にお願いしてみようかな。


「あの……《あいちゃん》のことは内緒にしててくれますか?」


 僕はカウンター越しのミラさんのお顔を真っ直ぐ見ながらお願いをした。

 蒼い顔をしながら、ほっぺに汗を浮かべて、無言で何度も頷くミラさん。

 やっぱりすごく怯えてるのが僕にでも分かる。

 どうしよう……そんな辛そうなお顔しないで! 僕もミラさん見てるの辛いよ!


「それと……僕は……その……昨日の僕を抱っこしてくれたミラさんのほうがいいです!」


 僕の気持ちは伝わったかな? 何て言えばいいのか分からなかった僕は、頑張ったつもりなんだけど。


「えっと……それはどういうことなのでしょうか?」


 困惑するミラさん。上手に伝わらなかったみたい。

 ずっとこのままなの?

 そう思ったら、すごく暗い気持ちになってきた。

 

「えっとミラさん? アルくんはですね、その甘えん坊さんなんですよ。だから、今のミラさんだと甘えられなくて嫌なんだそうです。そうでしょ? アルくん」


 お姉ちゃんの溜息が聞こえたと思ったら、ミラさんに僕が甘えん坊だって言うんだ。

 それでお姉ちゃんのお顔を見たら、また意地悪なお顔してるんだよ。

 僕だって、まだ子供だけど、そんな甘えん坊じゃないよ。だから一生懸命に言ったんだ。


「ちっ違うもん! 僕は甘えん坊じゃないもん! ミラさんにまた抱っこして欲しいだけだもん!」

「……プッ」


 お姉ちゃんとミラさんは、お顔を見合わせると、突然笑い出した。

 何がそんなにおかしいの? まるで僕がおかしなこと言ったみたいだよ。

 だから僕は、怒ってるんだぞって分かってもらう為に、頬を膨らませたんだけど。


「よかった~。私ったら、アルくん達の専属になっちゃったもんだから、どうしようかビクビクしてたのよね。そっかー。アルくんは甘えん坊さんなんだ? ふ~ん……」


 ミラさんは、ギルドマスターに僕らを専属でお世話をしなさいって言われたんだって。その時に心臓が止まるかと思ったって。

 私は《アテイール》様に苛められちゃうって、とても心配になったらしい。

 僕は《あいちゃん》が、そんなひどいことするとは思わないけどね。


 ミラさんは、安心したのか、カウンター越しに僕のほっぺを摘んだ後、頭を撫でてくれたんだ。

 僕を見るミラさんのお顔は、茶色い瞳が見えないくらい眼を細めて、緩んだほっぺがとても嬉しそうだった。

 そんなお顔を見ると、僕も嬉しくなったけど、甘えん坊じゃないからね!

 

 でも、やっぱりお姉ちゃんのお陰なのかな? 

 きっと僕が沈んでるのを見て、言ってくれたんだよね?


 そう思った僕は、お姉ちゃんにそっと抱きついた。それで心の中で「ありがとう」って言ったんだ。

 お姉ちゃんのお顔は意地悪なものじゃなくなってて「よかったね」って言って僕を撫でてくれた。

 僕も本当にそう思う。

 

 後はパーティの名前を決めるだけ。

 

「アルくん。パーティのお名前はなんてしよっか」

「うーん……僕はよくわからないから、お姉ちゃん決めていいよ」


『そんなの《アルちゃん・あいちゃんズ》の一択でしょ?』


《あいちゃん》は、遂に我慢できなくなったらしく、僕の腕をすり抜けて話し出した。

 でも、目立たないようにカウンターの上に開いてくれたみたい。

 だから僕には見えないんだ。カウンターは背が高いし。

 それを読んだお姉ちゃんが、


「うーん。なんていうか、ないよね。ミラさん、そう思わない?」


『おい。どういうことだ』


「わっわたくしは……そ、その……」

「ねぇ、お姉ちゃん。《あいちゃん》は何て言ってるの?」

「ん? 《アテイール》様は、何もおっしゃってないから。それにしても、どうしようかな……」


『アルちゃん。ひどいの。私の提案を無視するのよ』


「そうなの? 僕は無視なんてしないよ」


 残念なお顔でそう愚痴る《あいちゃん》。

 少し可哀相になったから、慰めるように言ったんだ。


 ミラさんは、《あいちゃん》が怖いのか、ずっと黙ったまま。

 お姉ちゃんは、顎に手を当てて、パーティ名を考えているみたい。

 そうしたら、閃いたって感じのお姉ちゃんが、僕をニコって見て、


「アルくん。《黒碧こくへきの翼》なんてどう? アルくんの黒い髪の色と私の碧い目の色から取ったの。二人でこの世界を羽ばたきましょうねって感じでね!」

「うん! それがいい! かっこいい!」


『イヤ! そんなのダメ! 私が入ってない』


「《アテイール》様。黒碧と書いて、アテイールって読むんですよ。そうすると、三人一緒じゃないですかぁ」


『そっそうなの? ならいい』

 

 結局、お姉ちゃんの考えた名前でパーティ登録をしたんだ。

 お姉ちゃんの話を聞いて、《あいちゃん》も納得したみたい。

 でも、ほんとにそう読むのかな? 僕は聞いたことないけどって思ったのは内緒。

 本当にそう読むかもしれないしね。

 それにお姉ちゃんのお顔もにっこりしてたから、たぶん嘘じゃないと思う。


 それで持っていたギルドカードを渡して、待っている間に依頼受領の手続きも同時にやったみたい。

 戻ってきたギルドカードを見ると、《黒碧こくへきの翼》ってしっかり書いてあった。

 お姉ちゃんと僕から付けた名前。そう思うと少し嬉しくなる。


「よし! じゃあ、いこっか!」

「はーい!」


 元気良く返事した僕。

 少しの怖い気持ちとワクワクする気持ちを抱えながら、冒険者となって初めての依頼をすることになったんだ。

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