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第2話 神の御業

駄文で失礼致します。

 夕暮れで赤く染まった空。村はすでに大騒ぎだった。

 村はずれを目指して、すごい速さで走るソフィアさんを、一生懸命に追った。

 道すがら出会う村人は、怒鳴りながら家の入り口にバリケードを作っていた。

 村の家屋は全て木造だ。もし、外道の獣の進入を許せば、そんなバリケードなんて役に立たないんじゃないかなって直感的に思ったんだ。

 ひょっとしたら、今日、僕は死んじゃうのかな?

 

 少ししたら、村はずれについた。

 ソフィアさんと、村長さんが険しい顔をしながら、なにかを話してる。

 近くに行くと怒られそうな気がしたから、少し離れたところで見ることにした。

 足を止めた僕は、額に流れる汗を拭う。一生懸命に走ったから、息もゼェゼェとしてて苦しい。

 村人たちは、村長の指示で、村の入り口にバリケードを作る。

 村には一応、木の柵はあるけど、背も高くないし、それほど頑丈には見えない。

 そう思うと、僕の心は不安で一杯になっていく。


「きたぞー!!」

 

 村人の怒鳴り声が聞こえると、場の空気が一気に冷えていくのがわかった。

 村の男たちは、その手に武器になりそうなものを持ち、村の入り口を警戒しながら構えた。

 いつのまにか、ソフィアさんの仲間も来たみたい。

 やっぱり喧嘩しても、仲間なんだなって思う。

 キザ男も、ツルツル男も、手に剣を持って、入り口近くで一緒に戦ってくれるんだ。

 これで大体二十人くらい集まった。


 辺りの様子を見終わったころ、外道の獣がくるであろう村の入り口を僕は凝視する。

 

 ドーーーン!! って音が聞こえたと思ったら、砂埃がたくさん上がった。

 砂埃で村人が見えなくなったと思ったら、すぐに悲鳴が聞こえたんだ。

 慌しく右往左往しながら逃げ惑う村人たち。


「――【神鎧変身チェンジング・アーマデット】!!」


 怒号と悲鳴が入り混じった喧騒の中で、ソフィアさんの祝詞のりとが一際響く。

 僕は釣られるように祝詞のりとが聞こえたほうを見た。

 僕の眼に入ったソフィアさんは、眩い光に包まれると、足元から鎧姿に変身していく。


 ソフィアさん……すごい……すごいよ!


 生まれて初めて見る神の御業と、鎧姿になったソフィアさんの後姿はとても神々しくて、すごく興奮した。 

 真っ赤なマントに綺麗な青い髪が重なってて、本当に神様が出てきたみたい。

 これなら……神様の寵愛を受けたソフィアさんなら大丈夫だよね?


 やがて砂埃がおさまっていくと、外道の獣の正体が顕わになった。


 ああ……僕は、思わず呻いた。


 漆黒の毛を纏った家ほどの大きさの熊。

 顔に傷を負い左目がなくなっててすごく気持ち悪い。それに、口に村人を咥えているその姿に僕は怖くて震えだす。

 やっぱり、昨日の夜に言ってた外道の熊デヴィル・ベアだ……

 外道の熊デヴィル・ベアは、口に咥えた村人を首を振って放った。

 村人たちはその姿を見ると、恐怖におののき、悲鳴をあげながら、逃げていってしまう。

 気がつけば、ソフィアさんの仲間もいなくなっちゃった。


 どうしてソフィアさんと一緒に戦わないの? 仲間じゃないの?

 僕もそれを見たら、逃げたい気持ちが我慢できなくなっちゃった。

 それで逃げ出そうとして、振り返ったその時、


「せぃっ!」


 果敢に外道の熊デヴィル・ベアに挑むソフィアさんの声が聞こえたんだ。

 僕は怖くて足の震えも止まらない。でも、たった一人で戦うソフィアさんを残して、逃げちゃいけない気がした。

 ソフィアさんは、右に左に目で追うことができないくらいのすごい速さで剣を斬りつける。

 外道の熊デヴィル・ベアは、大木の幹ほどにありそうな腕を振り回して、ソフィアさんを攻撃する。

 ソフィアさんの綺麗な青い髪は、外道の熊デヴィル・ベアの攻撃をかわすたびに、ゆらゆらとなびく。

 

「ソフィアさんっ! がんばってー!!」


 僕は目一杯の勇気を振り絞って、応援しようと大声で叫んだ。

 村の為に戦っているソフィアさんにできることは、これぐらいしかないもの。

 僕の応援に気づいたソフィアさんがこちらに振り返った。

 

「どうしてこんなところにいるの! 早く逃げなさい!!」

 

 僕が見惚れた碧い瞳を大きく見開き、とても驚いた顔をしながらそう叫んだ刹那――外道の熊デヴィル・ベアの太い右腕が、ソフィアさんを薙ぎ払う。

 

「あゎゎゎ……」


 僕は吃驚して、その場に尻餅をついた。そして余計なことをしてしまったことに気づいたんだ。

 地面を砂埃を上げながら吹き飛ぶソフィアさんは、止まった場所でつくばる。

 外道の熊デヴィル・ベアは、少しだけ僕のほうを見て、再びソフィアさんに向き直ると、ゆっくりと四つん這いで近づいていく。


「ご……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 僕は溢れる涙を拭うこともできずに、ただソフィアさんの邪魔をしてしまったことを必死に謝った。

 ソフィアさんは、つくばったままこちらを見ると、


「はっ早く……逃げて……」


 ソフィアさんの口からは一筋の赤い血が流れ、それでも自分のことより僕を気にかける。


 僕はこの時、《アテイール》様に生まれて二度目のお願いをにした。

 一度目は、母様ははさまが死んじゃったとき。

 どうかお母さんを生き返らせてくださいって。

 でも、神様は何も応えてくれなかった。

 二度目のお願い――《アテイール》様、ソフィアさんを助けてください。どうか僕に力をお与えください。

 僕は両手を胸の上で握り締めると、一生懸命にお願いする。

 

いでよ神書オペン・ブック!」


 僕は生まれたときから知っていた祝詞のりとを口ずさむ。


 僕の目の前は、光のかすみがかかったように明るくなった。

 そのあとすぐに光に彩られた《神書しんしょ》が現れる。

 すると宙に舞ったまま《神書しんしょ》は開き、白紙だったページに神文字で祝詞のりとが書き込まれていった。

 その有様はとても幻想的で《神書しんしょ》は眩い光を放ちながら、祝詞のりとがページを埋め尽くすと、ものすごい速さでパラパラと勝手にめくっていった。

 

“我の寵愛を受けし人の子よ。そなたに第一の御業を授けよう。声高に詠うがいい! 【神装変身チェンジング・ユニファーム】と!”

 

“我の寵愛を受けし人の子よ。そなたに第二の御業を授けよう。声高に詠うがいい! 【外道の分解デヴィル・デコムポーズ】と!”


 祝詞のりとの記入が終わったのか、ピカッて神文字が光り輝くと、《神書しんしょ》はゆっくりと僕の手元に降りてきた。

 

 そうして僕は、神の御業を授かった。


 僕は急いで《神書しんしょ》をめくっていく。


 第一の御業【神装変身チェンジング・ユニファーム】は、術者用の神装ディエティ・ユニファームに変身できる。

 ソフィアさんの神鎧ディエティ・アーマーとは違うみたい。でも、祝詞のりとを宣えば、身体能力、防御力が上がるんだって。

 この御業を使うには“我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その意思を継ぐもの。我の纏いし神装束は、この世の理を顕し、あらゆる邪気を祓うものとならん。【神装変身チェンジング・ユニファーム】”って言わなきゃいけないみたい。

 ソフィアさんも、さっき言ってたのかな? 聞こえなかっただけかもしれない。


 第2の御業【外道の分解デヴィル・デコムポーズ】は、外道に落ちた者に使える神の御業みたい。

 でも、この御業を使うにも“我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その力を行使するもの。我が意思は、世の理から外れたあらゆるものを無に帰すものとならん。【外道の分解デヴィル・デコムポーズ】”だって。

 説明も一緒に書き込まれてるけど、今は時間がないから、後でじっくり読もう。


消えよ神書シャッタ・ブック


 そう唱えたあと、気がつけば僕は、ソフィアさんに向かって走り出していた。

 それに神の御業を授かった時、外道の熊デヴィル・ベアに対する勇気も一緒に授かったような気がする。


 僕がソフィアさんを助けるんだ!


「ソフィアさん、ごめんなさい」

「なんで逃げないの! あなたが来たってどうにもならないでしょ」


 ソフィアさんのダメージは相当のものらしく、歪んだ顔はとても苦しそう。

 僕は邪魔をしてしまったことを必死に謝った。

 さっきのソフィアさんの吃驚した顔と、次第に僕を慮って心配に歪んでいく顔が脳裏に焼きついていたから。 


「でも……僕、このままソフィアさんのことほおっておけないもん」

「子供はそんなこと言わなくていいの。私のためにも早く逃げて、お願いだから……」


 もう戦うこともできなそうなぐらいのダメージなのに、それでも僕を心配してくれる。

 僕は決意を胸に立ち上がると振り返って敵を見る。

 近づいてくる外道の熊デヴィル・ベアは、獲物はもう虫の息とでも思っているかのようだ。

 ゆったりと、余裕しゃくしゃくといった感じに四つん這いで、近づいてくる。


「我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その意思を継ぐもの。我の纏いし神装束は、この世の理を顕し、あらゆる邪気を祓うものとならん。【神装変身チェンジング・ユニファーム】!!」


 僕は大声で第一の祝詞のりとの名を神語でのたまう。

――僕の足元に幾何学模様が現れると、金色の光に包まれた。そして足元から変身していく。ソフィアさんの髪の色みたいな綺麗な空色のローブ。

 両手には白い手袋がはめられ、両足には、ローブと同じ色のブーツが履かれていた。

 自分を確認するように両手を開いて手のひらを見る。

 すると両の手のひらの上が光り輝き、神器【理を正すタクト】が現れた。

 白い先端部に持ち手の部分が青で装飾された短めのタクト。

 僕は右手にそのタクトを持ちながら、ソフィアさんを抱っこする。

 神装に変身した僕は、全体的に能力が向上するって書いてあったから。

 

「あなた……神の御業を使えるの?」


 ソフィアさんは、僕が【神装変身チェンジング・ユニファーム】を使ったことに驚いたみたい。

 でも、少しだけ安心したのか、さっきみたいな悲しい顔じゃない。

 だから僕は、とりあえずソフィアさんを安全な場所に運ぶことにした。


「たった今、使えるようになりました。でもどんな御業なのかよく知らないんです」


 そう言って、近くの民家の壁にソフィアさんを座らせた。

 痛々しい彼女の姿を見ると、もし神鎧ディエティ・アーマーを纏っていなかったらと思って、とても怖い気持ちになる。

 ソフィアさんの神鎧ディエティ・アーマー。正面から見たその神鎧ディエティ・アーマーは、白銀で右胸の辺りに紋様が入ってかっこいい。

 ただ、おへそは見えてるし、こんなので防御力は心配じゃないのかなとも思った。

 それに、普段着のソフィアさんも素敵だけど、神鎧ディエティ・アーマーを纏ったソフィアさんは、白い綺麗なお肌を覗かせていて、僕を恥ずかしくさせる。

 こんなときに何を考えてるんだ……僕は……ソフィアさん、ごめんなさい。

 僕は心の中でこっそりソフィアさんには謝った。

 

「ソフィアさん……僕……うまくできるかわなんないけど、がんばってみる」

「もしだめだと思ったら、私のことはいいからお逃げなさい。あなたに神のご加護があらんことを……」


 最後まで、僕を気遣うソフィアさん――こんなにやさしい人を、こんなところで見捨てられるわけがない。

 外道の熊デヴィル・ベアと戦うために、僕は振り返った。

 僕の背中には、創生の女神 《アテイール》様の紋様が入っていた。

 ソフィアさんが、その紋様に気づき、驚くように目を見開いたことを、あとで知ったわけだけど。

 そして僕は小さな体に、目一杯の勇気を詰め込んで、外道の熊デヴィル・ベアに立ちはだかった。


――僕の前を、獲物を見定めるようにゆったりと行ったり来たりする外道の熊デヴィル・ベア

 近くで見た外道の熊デヴィル・ベアは、すごい迫力で足が竦みそうになる。

 ソフィアさんがやったと思う傷もあるけど、その漆黒の毛はとても硬いのか、あまりダメージを負わせている感じがしなかった。

 普通の熊なら簡単にやっつけられそうな攻撃だと思ったんだけど。

 僕がジロジロ見るのを嫌がったのか、外道の熊デヴィル・ベアは、丸太のような太い腕を振り上げて攻撃してきた。


「ヴォォォォー!!」


 地響きのような咆哮とともに向かってきた右腕を、僕は慌てて後ろに飛んで身をかわす。

 どの道、敵と戦えそうな方法を一つしか知らない僕は、さっさと第二の御業を使うことにする。

 右手に持った神器【理を正すタクト】を外道の熊デヴィル・ベアに向け、大声で第二の祝詞のりとのたまった。


「我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その力を行使するもの」


 僕が祝詞のりとを叫ぶように宣うと、神器【理を正すタクト】の先におっきな金色の幾何学模様が現れた!

 その模様は、クルクル回ってるように見える。

 僕は、一字一句間違えないように、祝詞のりとを唱えていった。


「我が意思は、世の理から外れたあらゆるものを無に帰すものとならん」


 その幾何学模様は、次第に神文字に彩られていった。

 大丈夫! ちゃんと間違えなく言えてるみたい。

 じゃぁ、次で総仕上げだ!

 

「【外道の分解デヴィル・デコムポーズ】!!」


 僕は、外道の熊デヴィル・ベアに効きますようにってお願いしながら叫んだ。

 幾何学模様の中心に、眩い光が集まっていく。その光は、ビリビリってしてて、なんかすごい。

 

 すると集まっていた光が、ビュンって飛んでいって、外道の熊デヴィル・ベアを包む。

 そして、次第に凝縮されいく眩い光。どんどん小さくなっていく光の球とは反対に、光はますます強烈に眩しくなっていった。それこそ眩しくて直視できないほどに。


「ヴァァァァー!!!」


 眩い光となった外道の熊デヴィル・ベアの断末魔とともに、眩い光は遂に弾けると、一つ一つの光の粒子が神文字に形を変えていった。

 その神文字たちは、吸い込まれるように僕の頭に入ってきた。

 そのせいで、頭の中がぐわんぐわんとする。

 一方で、頭の中では、神文字が勝手にパズルを解くように文章になっていく。


 お母さんを狩った人が憎い……憎い……

 カワイソウナ……ア……ニハ、ソウヨ……

 Ca……H、Si……Zn……水、水…………


 頭の中で勝手につながっていく神文字の羅列は、やがて神語となっていった。

 僕の頭の中は、行ったり来たりする神文字でぐちゃぐちゃだ。


「君、大丈夫? しっかりして!」


 遠くの方で聞こえるソフィアさんの声。

 でもその声もやがて聞こえなくなる。

 僕のおつむは、余りにも多い数の神語で限界を超えると、いつの間にか意識を手放していた。

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