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甘えん坊少年と過保護な女神とお姉ちゃん  作者: 桜川 清太郎
第1章 理から外れた存在 コスティス編
14/20

第14話 シリンギ村への道のり

新しくブクマして下さった方、誠にありがとうございます。

駄文ですが、お読み下さる人が増えると嬉しいです。

また評価も頂きとても感激しております。


 僕がお泊りしてる《マリーの宿》はこじんまりとした宿屋。

 一階には、食堂と玄関ホールに受付があるだけなんだけど、お花が飾ってあって綺麗なんだ。

 受付のカウンターの上。階段の昇り口。小さなお花だけど、通る度に仄かなお花の香りがして、心が休まるんだよね。

 たぶん、エリカさんの趣味がいいんだと思う。


 お姉ちゃんがシリンギ村の調査依頼を請けてきて、馬車の準備ができるのに三日。

 お日様が沈んで、晩御飯を食べて、お風呂も入って。

 本当なら、お姉ちゃんとお布団にもぐりこむ時間。


 でも、玄関ホールでお姉ちゃんとエリカさんが言い合いを始めちゃったんだ。


「なにもこんな時間に出なくてもいいじゃない」

「昼間は目立ちますから」

「アルくんだって、こんな時間に行くのやだよね?」

「…………」


 エリカさんは、僕に話を振るけども、答えられるわけがない。

 でも、すごい寂しそうなお顔をしてるから、お胸が苦しくなるんだ。


「ほら、アルくん。行くよ」


 そう言って、僕の手を引くお姉ちゃん。


「ちょっと待って! じゃあ、アルくん。今日はエリカお姉さんと一緒におねんねしよっか。アルくんの大好きなお胸で、ぐりぐりしてあげる」


 違うよ。僕はお胸が好きなんじゃないよ。やさしいエリカさんが好きなのっ!

 でも、エリカさんに、ぎゅーってしてもらうと、お胸からお花のいい香りがするから、つい、ぐりぐりしちゃうんだ。


 そんなことを考えていたら、なんだか冷たい視線を感じる僕。

 冷たい視線を感じる方を見上げると、お姉ちゃんが怖い顔してるの。

 だから、僕は慌ててしまって。


「……うん。でも……僕……お姉ちゃんも一緒がいい!」

「アルくんったら。うーん……本当なら私だけで満足してほしいんだけどな。でもアルくんが言うなら、しょうがないかな?」


 そう言ったエリカさんのお顔は、ほっぺが赤くなって、綺麗な碧いお目目がとろんとしてるの。

 それに唇に人差し指を当てて、僕をじーっと見るんだよ。

 いつも束ねている金色の髪を今は下ろしていて、そんなエリカさんのお顔を見たら、とても恥ずかしくなっちゃって。

 エリカさんのお顔が見れないよ。


「ちょっと、アルくんっ! なんてこと言うのっ! それにエリカさんも、アルくんに変なこと教えないでくださいっ!」

「キキキキキ……?」


 そんな僕らを《あいちゃん》は、冷めた目で見てるんだ。

 エリカさんは、僕が白雪龍ホワイトスノー・ドラゴンをやっつけたことを知ると、たくさんいい子いい子してくれて。

 それで《あいちゃん》は、何故か飛び回るから、エリカさんにもバレちゃったんだ。

 それにエリカさんは、《あいちゃん》が、意地悪なことをたくさん言ってるはずなのに、怯えないんだよね。

 創生の神様が、そんなひどいことするはずないよね。だって。僕もそう思うけど。


「アルくんっ! 行くよ。言うこと聞かないと怒るからね!」

「ちょっ! 待って!」


 お姉ちゃんは、僕の手を無理やり引いていく。

 僕は、寂しそうに手を上げているエリカさんを見ながら、《マリーの宿》を跡にした。


 * * *


 僕らは静まった町を抜け、外壁の外まで歩く。

 この時間になると、さすがに人通りもない。

 見上げれば、お星様が綺麗に瞬いていて、昼間と違って少し肌寒いかな。

 外壁の兵士さんに、こんな時間に町を出ることを訝しがられたけど、構わず町を出た。

 僕の手を引くお姉ちゃんは、《マリーの宿》から一言も喋らないし、暗いからお顔は見えないけれど、少し怒ってるみたい。

 何か悪いことしちゃったのかと、僕は不安で胸が苦しくなった。


 そうして馬車の止めてあるところに着くと、さっさと御者台に二人で座る。

 荷台に幌の付いたちょっと立派な馬車だ。お馬さんも二頭だし。

 旅先で快適に過ごせるようにって、荷台で寝れるように弄ってあるんだって。

 旅の準備といったって、積んである食料や着替えは、お姉ちゃんが全て用意してくれたんだけど。

 僕もお手伝いしたかったけど、ずっと《マリーの宿》から出れなかったから。


 食料は三週間分。着る物もたくさん積んである。

 迂回をすれば、途中に村もあるんだけど、念のために用意したらしい。

 依頼を出した商人の人が、全て用意してくれたんだ。

 だから、ほとんどお金が掛かっていない。

 お姉ちゃんも、条件が良すぎるかなって少し心配してたけど、よっぽど心配なのねって、快く貰ってきたらしい。

  

「私はね。アルくんの将来が心配だよ」

「……どうして?」


 お姉ちゃんは、馬車を操りながら、おもむろに口を開いた。

 僕はお姉ちゃんに、ぴったりとくっついて、お姉ちゃんのお顔を見上げたんだ。


「また……そうやって……」


 お姉ちゃんは、僕の顔を少し見たら前を向いてしまった。

 すると、今まで大人しかった《あいちゃん》が、何か言いたいらしく、淡い光を放ち始める。

 僕が【通信欄】を開くと、神文字が記入されていく。

 浮き出すように光る文字は、星の明かりぐらいしかないところでも、読めてしまうから便利だ。

 

『アルちゃん。私も心配。アルちゃんは、私だけでいいはずなのに。お願いも聞いてくれないし。すぐ人のとくっつくし……』


「だめなの?」


『また……そうやって……そのお目目はやめて……』


 お姉ちゃんも《あいちゃん》も、エリカさんにいい子いい子されるのが嫌なのかな。

 僕はいい子いい子されると嬉しいし、そんなエリカさんも嬉しそうなのに。

 僕はしゅんとしてしまった。

 

 暫らくの間、お喋りすることもなく、馬車は進んでいく。

 今日は、コスティスの町から、少し離れたところでお休みするみたい。

 街道の脇には、旅人や行商の人が休めるような開けた場所が、いくつもあるんだけど。

 そういった場所を何個か通り過ぎた頃、だんだん眠たくなっちゃって。

 ついに我慢できなくて寝ちゃったんだ。


 いつの間にか寝てしまっていた僕は、とても気持ちがいい、温もりを感じながら目覚める。

 御者台で寝てしまったはずだったのに、荷台の簡易ベットの中で寝かされていた。

 それに、お姉ちゃんがしっかりと抱きしめてくれていて。

 僕は起こさないように、こっそりお姉ちゃんのお胸に顔をつけて、ぐりぐりしちゃった。

 ちょっと硬めのお胸だけど、甘い香りがすると、とても温かい気持ちになって、嬉しいがいっぱいなんだもん。


 今日の《あいちゃん》は、今も僕に抱きしめさせていて、出てくる気配がない。

 そんな感じで、いつもと違う朝を迎えた僕たち。

 怒っていたお姉ちゃんも、起きたら碧い瞳を細くして、いつものやさしい笑顔を向けてくれた。

 よかったって安心する僕。

 それから朝御飯を食べて、一路シリンギ村を目指して出発したんだ。


 * * *


 コスティスからシリンギ村までは、馬車で一週間の道のり。

 四日目の今日まで、今のところ何も問題なく進んでいた。

 整備された街道は、見通しも良くて、遠くに見えていた北のお山も、次第に大きくなってきた。


 ここまでの道すがら、何組か行商の人たちとすれ違った。

 馬車の上から、ご挨拶すると、手を振って返してくれる。

 会ったこともない人たちと、お昼を一緒に食べることもあった。

 これも旅の醍醐味らしい。


 そうして、最後の分かれ道を通り過ぎて、暫らく進んだところで休憩を取る。

 街道の脇は、潅木がたくさん生えた林になっていて、偶に拭く風が、枝の葉を擦る音を立てるぐらいの静かな場所。

 そんなところに、少しだけ開けた場所がある。旅人用の休憩場だ。

 

 僕らは荷台から、食材を下ろすと昼食の準備を始める。

 でも、コスティスを出てからは、似たようなものばかりだけど。

 だって、調理できないし。だから、干し肉とパンなんだよね。


 なんでも出来そうなお姉ちゃんも、料理は苦手みたい。

 料理の話になったら、フンッてされたもの。

 その時は、余計なこと聞いちゃったかな? って心配になったんだ。


『料理もできないようじゃ、先が思いやられるな。所詮、鼻クソの寵愛か』


「アテイール様! 酷いじゃないですかっ! 鼻クソの寵愛って、いったいなんですかっ!」


『知らないのか? なら教えてやる。ソフィの寵愛はな? レプリースのヤツが、鼻の穴を指でかっぽじって、人差し指にな? 付いた鼻クソを飛ばしたところに、お前が生まれたってわけだ。どうだ? 嬉しいか?』


「なっ!……そっそんな……私だって、必死に鍛錬に励んできたのに……鼻クソだったなんて……」

 

 お姉ちゃんは、《あいちゃん》とお話をしていたかと思ったら、膝を付いて落ち込み始めちゃった。

 そんな二人は、いつの間にか、仲良くなってるんだもの。

 それは嬉しいんだけど、抱きしめて、ほっぺにキスしてくれなくなった気がする。

 きっと《あいちゃん》のせいだ。たぶん。

 

 みんなでお喋りをする最中さなか、僕はプティに用意した木の実を、少しずつ食べさせる。

 手のひらに乗せた木の実を、小さい身体で食べる姿は、とても可愛いんだ。

 それで小さい頭を、二本の指で撫でてあげると、とても喜ぶんだよ。


 楽しいお昼が終わる頃、落ち込んでいたお姉ちゃんが真剣なお顔になった。


「アルくん。これから先は、たぶんすれ違う人とかいないと思うから、御業の練習をしながら行くよ」

「ここでするの?」

「ちょっと、あそこの木を狙って、やってみましょうか」


 そう言って、林の中の潅木を指差すお姉ちゃん。

 僕は指の先を追うように、視線を林の中へ向けた。

 

「分かった? そしたら、あの木の両側にある木を同時に切り倒すの。真ん中には当てちゃダメ。真ん中の木は、私だと思って両脇にある木を狙ってみて」


『なんだ? ソフィも気づいていたのか?』


 何やら、お姉ちゃんと《あいちゃん》がお話している。

 あの真ん中の木に何かあるのかな? そんなことを考えながら、目標の潅木を睨む。

 そして、神器【理を正すタクト】だけを呼び出すと、ゆっくりと祝詞のりとを唱え始めた。

 

「我は創生の神アテイールの寵愛を受け、その力を行使するもの。我が意思は、あらゆるものを切り裂く風のやいば……」


 僕の祝詞のりとに反応するかのように、タクトの先に緑色に輝く幾何学模様が現れる。

 これが《あいちゃん》だけの御業だと金色になるんだよね。

 そんなことを考えながら、大きい風の刃を二つに別けた。

 そして、目を凝らしながら、目標の潅木に狙いを定める。


「【烈風の刃ウィンド・カーヴ】!!」

 

 僕の祝詞のりとに反応した風の刃は、空気を切り裂く音を立てながら、真っ直ぐに目標に向かっていった。

 そして見事に命中すると、バサバサって大きな音を立てながら、木が倒れていくんだけど。


「ひぃっ!!」


 林の中から、男の人の悲鳴が聞こえて、逃げるように走り去る影が見えたんだ。

 僕の御業で怪我をしなかったか心配になっていると、


「アルくん。上手に出来たね。えらい、えらい」


 そう言って、お姉ちゃんが僕の頭を撫でてくれた。

 走り去った影は、コスティスからずっと僕らの後をつけていたんだって。


「予想以上に慌てて逃げて行ったね。これで安心かな?」


 それって、逆にまずいんじゃないかなって思ったんだけど。

 お姉ちゃんは、気にしてないみたい。ほんとに大丈夫かな? って不安になる。


「よし。これで面倒なのも追っ払ったし、シリンギ村に一直線だよー。でもアルくんは、今みたいに練習をすること」


『アルちゃんなら、絶対にヘーキ。他の御業も私と一緒に練習しようね』


「……うん」

「キキキキキ……?」


 僕は何となく、これでいいの? って思いながら頷いたんだけど。

 プティもきっと僕と同じ気持ちなんだと思う。


 それからというもの。御者台の上から、街道脇の木を風やら炎やらの御業で伐ったり燃やしたり。

 シリンギ村に近くなるまで、《あいちゃん》の指示通りに御業を使って練習した。

 僕の顔の近くを飛び回りながら、銀色の髪を振り乱して、全てを見透かすような黄金色こがねいろの瞳は、いつになく真剣なもの。

 そんな、女神様は、次々と御業のページを開いてくれるから、とっても便利かも。

 これなら、長ったらしい祝詞のりとを覚えなくても使えるし。


『アルちゃんっ! すごーい! 次はあの岩にしようね』


《あいちゃん》は、そんなことを言ってくれるけど。

 すごいのは《あいちゃん》の御業であって、僕じゃない。

 薙ぎ倒される潅木を見ながら、僕はこんなことしていいのかな? って、ずっと思ってた。


 そうして道中を進んで行くと、遠くにシリンギ村が見えてきた。

 只ならぬ雰囲気に息を呑んだ僕らは、馬車を街道脇に止めると、歩いて村に入っていくことにしたんだ。

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