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甘えん坊少年と過保護な女神とお姉ちゃん  作者: 桜川 清太郎
第1章 理から外れた存在 コスティス編
12/20

第12話 憂鬱な一日

お待たせしました。

ブクマがまた増えて嬉しいです^^

誠にありがとうございます。


 白雪龍ホワイトスノー・ドラゴンをやっつけてから、一週間が経った。

 

 僕は目覚めると《あいちゃん》に「おはよう」ってする。

 毎日のように、くっつきそうなぐらい近くで、僕をじーっと見てるんだ。

 それで僕が瞼を開けると、唇を奪おうとするんだよ。

 だから、いつも心臓が止まるくらいビックリしちゃうんだ。

 

 でも、そんな創生の神様にも、だいぶ慣れてきた。

 

 それから僕が次にすること。

 隣で寝てるお姉ちゃんをじーっと見るの。

 お姉ちゃんがそばにいてくれるか確認するんだ。

 それは、お姉ちゃんには内緒にしてる僕の大切な日課。 

 

 よかった――今日もお姉ちゃんは僕のそばで寝ていてくれる。

 居なくなってしまったらって、考えるだけで泣きそうになっちゃうから。

 でも、僕のかたわらで寝息を立てるお姉ちゃんは、偶に笑ってたりしておもしろいんだ。

 どんな夢を見てるのかわからないけど、きっと楽しい夢なんだと思う。


 ドルダダ村では考えられなかった生活。

 母様ははさまが死んでしまってから、ずっと寂しかったけれど、今は毎日がすごく嬉しいし楽しい。

 まだ始まったばかりだけどね。


 お姉ちゃんの顔を覗いていたら、ヤマネちゃんが朝のご挨拶をしてくれる。


「キキキキキ……」


 初依頼で付いてきちゃったヤマネちゃんの頭を撫でる。

 でも、この数日は息苦しくなっちゃってるんだ。

 それは、お姉ちゃんにお外に出ちゃダメって言われてるから。


「アルくん……おはよう……」


 朝の支度を済ませると、みんなで朝御飯を食べる。

 それでギルドに行って、依頼を請けられれば良いのだけど。

 ここ一週間は、お姉ちゃんだけ別行動なんだ。

 

「アルくん。今日も宿で大人しくしててね」

「……うん」


 僕は寂しくて、お姉ちゃんを見たのだけど、そう言って出掛けてしまった。

 僕は小さくなっていく後姿を見つめながら、トボトボと部屋の中へ戻った。


 * * *


――六日前。


 昨日の疲れが残っていたんだと思う。

 いつもより少し遅めの朝食を摂った後、冒険者ギルドへ向かう。

 町は昨日の出来事なんか、まるで無かったかのように、人々が忙しく働いていた。

 買い物客はちらほらと見えるぐらいの商店街を、何となしに眺めながら連れられて行く。

 そうして商店街を抜けると、石造りの大きな建物が見えてきた。

 目指したのは冒険者ギルドだ。

 

 大きな扉を開けると、テーブルでたむろしている冒険者の人たちが目に入る。

 今日は依頼を請ける人が少ないみたい。

 こんな早い時間から、お酒を飲んでる人たちで一杯だった。

 どんなお話をしているのかは、よく聞こえないけれど、僕らを見つけると、こちらをチラチラと見ながらヒソヒソ話をするんだ。

 僕らを見る目が、好奇心だったり、怖がられてるのかな? そんなお顔をした冒険者の人たち。

 僕はなんかとても居心地悪いような気がして、うつむいてしまう。

 お姉ちゃんもそんな雰囲気を察したのか、僕の手を引くと、真っ直ぐに〔仕事の受領・完了〕と掲げられた窓口を目指した。


「ソフィアさんっ。こっち、こっち」


 ミラさんの押し殺すような呼び声がすると、手招きをしながらカウンターの中にあるお部屋へ通された。

 お部屋の中は棚が並べられて、書類がたくさん詰まっている。

 ミラさん曰く、資料倉庫なんだって。

 でもどうしてこんなところに呼ばれたのかな? なんて思っていたら、


「二人ともごめんなさいね。でも、アルくん達に聞いてからと思って」

「ミラさん。やっぱり、騒ぎになってます?」

「とりあえず、男爵様の使いの人が来て、会わせろって言ってきてるわ。今もギルドマスターの部屋で、ダルンさんと話しているわね」

「…………」


 男爵様が僕らに会いたい? でも、なんで隠れなきゃいけないのかな?

 確かに僕だって、偉い人に会うなんて怖くて嫌だけど、逆らってもいいものなのかな。

 捕まえられて、牢屋とかに入れられたりしたら。怖いよ。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。男爵様に会ったらいけないの?」

「あのね。アルくん。貴族っていうのはね。有望で使えそうな人がいると、自分の物にしたくなっちゃうの。でも、自分の物にならないと思うと、手のひらを返したように、意地悪されることがあるんだよ。みんながそういうわけじゃないけどね」

「…………」


 お姉ちゃんは、真剣なお顔で答えてくれたんだけど、意地悪ってどんなことされちゃうのかな。

 すると、《あいちゃん》が僕の腕から飛び立ち宙を漂い始める。

 こういう時の《あいちゃん》は危険だ。偉い人を脅かしたりしないかって心配になっちゃう。


「それでね、アルくんは、やっぱり会いたくないよね?」

「…………」


 ミラさんに聞かれるけど、そんなこと言われても僕には分からないよ。

 だから黙ってることしかできなくて。

 暫らくの間、沈黙が流れた。

 そして、扉の開く音がすると、ダルンさんが入ってきたんだ。


「いやいや。参ったよ。こんなところですまないね」


 ダルンさんが来たところで、みんなで椅子だけ用意して座る。

 

「早速なんだけど、君らがドルダダで外道化熊デヴィル・ベアを倒したというのは本当かい?」


 突然、そんなことを聞かれ戸惑うお姉ちゃんだったんだけど。


「いやね。お嬢さんが一緒に組んでいたって言う、ひょろっとした男が、男爵の使いと一緒に来てな。君とパーティを組んでいたって言ってるんだ。それで、その男がドルダダ村で外道化熊デヴィル・ベアに襲われたところ、宿屋に居た少年が倒したってね。その少年が白雪龍ホワイトスノー・ドラゴンも倒したんじゃないかって男爵に言ったらしいんだよ」

 

 その話で思いだした。お姉ちゃんと一緒に居た、キザっぽい男の人のことだ。

 お姉ちゃんのお顔が一気に強張る。


「それで、領民からそんなすごい子が出たって、男爵がえらい喜んでいるらしくてな。今日は、とりあえずお引取りを願ったんだが、何処に居るのか、いつ会わせるんだってうるさくてな」

「会わないとまずそうですか?」

「うん? やっぱり会いたくはないかい? いや、いかんせんな。坊(主)……やの事を見ていた冒険者も多くてな。それで、見たこともない神の御業だって、騒ぎだすのも出てきてるんだよ。会いたくないのなら、いずれにしろ、ほとぼりが冷めるまで、姿を見せないほうがいいかもしれん」


 なんかダルンさんのお顔が蒼い顔になっていく。

 なんだろう? と思っていたら、《あいちゃん》がダルンさん顔の近くでピカっと光りながら威嚇してるし。

 

「《あいちゃん》、ダメだよ」


 僕は困った女神様をたしなめる。

 

「しかし、あのひょろっとしたのは何者だ?」

「アルメオ・アドルファス。アドルファス家の四男坊ですよ。別にちょっと依頼を手伝っただけです」

「ふむ。そうか」


 ダルンさんは、一瞬考えるような素振りを見せた後、嫌な話はお終いとでもいうように、ニカッとした。

 

「それからな。今回の報酬の件だ。君たちの【黒碧こくへきの翼】にな。五〇〇万ビルの報酬を出す。それと、今日からギルドランクは《マスターB》だ」

「ごっごごごごご……五〇〇万?……」


 お姉ちゃんが吃驚してるけど、綺麗な碧い瞳がキラキラと輝いてる。

 とっても嬉しそう。母様ははさまは、女の人はおいしい食べ物に弱いって言ってたけれど、お金も好きなのかな?

 僕はって言うと、とっても大きなお金だっていうのは分かるけれど、正直に実感が湧かない。

 でも、《マリーの宿》の宿泊代は一泊八十ビルだから、それだけあったら、暫らく何もしなくてもよさそう。


 ダルンさんは、ミラさんに目で合図を送ると、予め準備していたのか、小さなトレーに載せたギルドカードをテーブルに置いた。

 僕は手に取ってみると、カードは真っ白なキラキラしたもので、表面に《黒碧こくへきの翼》って書いてあった。

 それと新しく、龍に剣を突き立てたようなマークも一緒に入っていた。

 このマークは《龍を討伐せし者ドラゴンスレイヤー》の証なんだって。なんかすごくかっこいい。

 少なくとも、このカードを見せるだけで、何処へ行ってもおかしな対応をされることはないはずだから、受け取ってくれって言われた。

 だけど、コスティスを出る時と、他の町に入った時は、必ずギルドに報告なくちゃいけないみたい。

《マスターB》より上のクラスは、上位クラスと言って、そう言った義務が発生しちゃうとのことだけど。

 でも、それは強力な化物が発見された時に、何処に居るか分からないと困るからって。


「ああ、それと依頼が終わっているなら、それは別に報酬を出すから、ミラに手続きしてもらうといい」


 ダルンさんのお話は終わりみたい。

 ギルドマスターが出て行くのを見送ると、ミラさんにお金の受け渡しの説明をしてもらった。

 報酬として五〇〇万ビルというのは間違いないのだけど、このギルドに現金でそんなに用意がない。

 だから、ギルドカードに付けておいたとのことで、必要な分だけ各ギルドの銀行窓口か、町の銀行でも貰って下さいだって。

 このギルドだと二階に窓口があるからねって、教えてくれたんだ。


 でも、なんでだかお姉ちゃんと半分ずつだと思ってたら、全額僕のカードに付けるみたい。

 僕は、どうして? って聞いたんだけど、お姉ちゃんは、これは僕のお金だからって言うんだ。

 そんなにお金なんていらないのに。お姉ちゃんのカードに付ければいいのにって思ったんだけど。

 だって、お金の話を聞いてたときのお姉ちゃんのお顔が、あまりにも嬉しそうだったから。


 それと、外道化ヤマネデヴィル・ヤマネの討伐報酬は、一匹に付き百二十ビル。

 僕らは当面の生活費を二階で下ろしてから、一階へ行くと好奇の目に晒される。

 なんか嫌な感じがするって思いながら、ギルドを出たんだ。

 

 商店がある通りをゆっくりと歩く。

 お店では、ご飯を売っていたり、服を売っていたり。

 たくさんお店があるんだけど、僕は〔神装備ディエティ・アーマーのボリー〕って書いてある看板に目が行く。

 お姉ちゃんはオプション装備が無いから、剣とか買えばいいのにって思ったんだ。

 だから、僕はお姉ちゃんの手を引いて、そのお店に向かおうと思ったんだけど、


「アルくん。あのね。つけられてるの。だから、あそこの路地に入ったら、宿まで駆けっこだよ」


 僕が振り向こうとしたら、見ちゃダメって言われた。

 だからお姉ちゃんの言うとおりに、路地に入ってから、一生懸命に走って《マリーの宿》に帰ってきた。

 お姉ちゃんの剣を買えなかったのは残念だけど、言うこと聞かないとだめだよね。


 * * *


「早く帰ってこないかな……」


 お姉ちゃんが出掛けてから、だいぶ時間が経った。

 エリカさんと一緒にお昼を食べて、何もすることがない僕は、宿の仕事を手伝う。

 ドルダダ村でも、やってたことだしね。それに暇だし。

 でも僕が手伝うって言ったら、エリカさんにぎゅーってされて、ほっぺをすりすりとくっつけてくるの。

 エリカさんのほっぺはスベスベしてて気持ちいいんだけど、とっても恥ずかしかった。

 でも嬉しそうなエリカさんを見ると、僕もなんか嬉しくて。


 それから、洗い物したり、お部屋の掃除したり。

 そうこうしてるうちに、お姉ちゃんが帰ってきた。

 両手にいっぱい荷物を持って、帰ってくると、


「アルくん。依頼よ。少しの間、町を離れるからね」


 お部屋に戻って荷物を置くと、開口一番、そんなことを言われた。

 お姉ちゃんの額には、汗が滲んでいて、ふぅって溜息をつく。


「どうしたの?」

「ダメね。ギルドにね。毎日のように男爵の使いがいるの。だから、このままだと何もできなそうなのよ。だから、少しの間ね。町を離れられる依頼を見つけたから、それを請けてきたの」

「…………」


 お姉ちゃんが請けた依頼。


“シリンギ村の調査。《マスタークラス》難易度D 報酬三百ビル 経費は別途支給。 一ヶ月前に出発した商隊が戻っていない。消息を含めて報告が欲しい。”


 シリンギ村。北の森を迂回したところに在る小さな村。

 ここから馬車で、一週間ぐらいの行ったところにある村みたい。

 いくらなんでも、帰ってくるのが遅すぎるって、心配した商人の仲間が出した依頼なんだって。

 

 僕はまだ一度しか依頼したことないし。それも、ちゃんと出来なかったんだよね。

 そんな遠くに行くなんて、大丈夫かな? って心配になる。

 

「そんなことより、アルくん。そろそろ、頭の上のヤマネちゃんにお名前付けてあげたら?」

「お名前?」

「そそ。いつまでも、ヤマネちゃんじゃ可哀相でしょ?」

 

 遠出を心配している僕に、そんなことを言うお姉ちゃん。

 僕の心配はどっか行っちゃって、その代わりに考えごとができちゃった。

 いきなり名前って言われても、僕には付けたことがないし。

 

 当のヤマネちゃんは、僕の頭の上でお休み中だ。

 僕はそんなヤマネちゃんを手のひらに載せる。


「キキ?」

「ダメ。捻りがない」


 やっぱり鳴き声から取るのはダメみたい。

 うーん……お姉ちゃんは意地悪だ。


 困った僕は、《あいちゃん》の方を見るんだけど――プイッとされちゃった。

《あいちゃん》は、僕がお願いを聞かないから、ご機嫌斜めなんだ。

 だって、毎日キスしてって言うんだよ。そんなことお友達に、恥ずかしくてできないよ。


 うーん……ぴょんって飛ぶから《ぴょん》かな?

 それとも……ダメだ。頭がパンクしそう。

 お姉ちゃん、もう降参だよ。


「お姉ちゃんがまた意地悪する……」

「じゃあ、《プティ》なんてどう? 神語で可愛いって意味なんだけど」

「それがいい!」

「キキキキキ……」

「今日から君はプティだよ。よろしくね」

「キキキキキ……!」


 目を覚ましたプティも喜んでくれたみたいでよかった。

 それにしてもお姉ちゃんはすごい。

 僕は尊敬の眼差しでお姉ちゃんを見ると、頭を撫で撫でしてくれた。

 こうしてプティの名前も決まったところで、依頼の準備を始めたんだ。

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