もし勇者として異世界を救いに行くとき一つだけ好きなものを選べるとしたら何にする?
あらすじがプロローグになっています。
本文より先に読むことをオススメします。
ある日、神が降臨した。
空中に神の姿をした巨大な人物が現れたときは、人知れず開発された最新型の3D投影機によるいたずらだと誰もが思った。しかし、世界中の大都市に同じ現象が起こり、さらにいくつかの奇跡を見せられて本物の神だということが証明された。
神曰く、異世界を救う勇者を探している。
その世界は、科学などは全く発展しておらず、お馴染みのファンタジーワールドそのものだと言った。それは当然ながら剣と魔法の世界で、妖精やドワーフ、エルフといった架空の種族も存在しており、マニアがヨダレを垂らして喜ぶケモミミの獣人族もいるそうだ。
そして神主催の大抽選会が開かれた。
なんでも、運が良い者を選びたいのだそうだ。力として何でも好きなものをひとつ与えてくれる。それは、身体能力でも魔法といったこの世界では架空のものでも、さらには物品などでも良いとのことだった。
そして魔王を無事倒したあかつきには、その力の返還と引き換えに巨万の富を与えてくれると説明をされて多くの人々が奮い立った。ただし、危険は多く死ぬ可能性もあるそうだ。すでに三つの別世界から召喚した勇者が死亡しているとのことだった。それで減ると思われた希望者だったが、実際にはそれほど減ることはなく最終的には十億人を超えた。それは選ばれた人間がもし死んでしまったら、また別の世界から選ぶとのことで、この世界からは今回しかチャンスがなく様子見など出来ないからだった。
お陰で、命を懸けて巨万の富を得ようとする者たちや、ヲタ、廃人ゲーマーのほかにも家の中でしか生息を確認されていない幻のニートまでが集まった。
世界中のメディアが注目するなか、俺は唯一の当たりを引き当てた。
次々と現れた記者たちはインタビューを求め殺到してきた。その一番の興味はどんな力を選ぶかであった。しかし、人見知りの激しい俺はそれらを全て無視してさっさと神の元へ向かうことにした。
俺の体が光に包まれて地上から消える。
次に気がついたときは何もない真っ白い空間のなかで、そこにはただ一人空中に現れた姿と全く同じ人物だけがいた。背丈は普通の人並になっていたので、余計な威圧を与えないようにとの配慮かもしれない。
「よく来たの、勇者よ」
「はあ」
まさに絵に書いたような俺たちの想像する神そのものに見える。この姿も自由に変えられて、それぞれの世界の神と崇められているものになれるのだろう。
「なんじゃ、やる気がないのう。これから行く世界は冒険に満ち溢れておるのじゃぞ? エルフ娘やケモミミ少女の仲間を集めて魔王を倒すのは、お主の世界では夢のような話じゃろうが。世界が滅ぶ前に魔王を倒してくれるのであればハーレムなど形成しても目を瞑ってやるぞ?」
「まあ、頑張ります」
「張り合いのない奴じゃ。なんか不安じゃのう。まあ、運は良いのじゃから何とかなるかの」
神は少しがっかりした表情を見せて、俺のテンションを上げるのを諦めた。
「さて、お主はどんな力を望むのじゃ?」
「モノでもいいんですよね?」
「無論じゃ。さあ、好きな物を言うが良い」
すでに俺の望むモノは決まっている。
「じゃあ、ドラ○もん」
俺は子供の頃からずっと考えていた。
彼がいれば大金持ちどころか世界征服すら出来るのではないかと。
故にこれは当然とも言える選択だった。
「――は!?」
「だから、ドラ○もん。未来の猫型のロボットでねずみに耳を齧られて……」
「それは、知っておる!」
すごいな、神様。いち世界の漫画まで知っているとは。
「しかし、それはダメじゃ」
「え? だって好きなモノひとつ何でも……」
「異世界に連れて行くのは一人だけじゃ」
これは異な事を。ロボットなのに?
「それは既に個としての人格がある。もはや人と変わらん」
詳しいな。実は好きなのか?
だけど、まあいいや。本当に必要なのは彼じゃないしな。
「だったら、未来の道具満載の四次元○ケットでいいです」
必要なのは道具だけである。全巻読破している俺は使い方も分かっているので、彼がいなくても問題はない。むしろ姑よろしく小うるさい彼がいない方が良いかもしれない。
「それもダメじゃ!」
「ええ!? なんでですか? ちゃんと一つですよ?」
「取り出したら、一つではないじゃろうが!」
これは予想外であった。まさかこれがダメと言われるとは思わなかった。
では何かひとつ未来の道具を選ぶか? いや、また難癖をつけられて却下される恐れがある。
未練はあるがここは潔く諦めて、無難にチート能力にしよう。
「じゃあ、チート能力にします。これならいいですよね?」
「うむ、やっとまともなもんを選びよったな。して、どんなチート能力を望むのじゃ?」
「どんなって……。だからチート能力ですよ」
「だから、どんな能力が欲しいのかと聞いておるのじゃ。ほれ、魔法が強力になるとか成長速度が速いとか色々とあるじゃろう?」
なんでそんなことまで知ってるんだ? この神様はゲームも好きなのか?
しかし、俺の望むチートはそんなモノではない。
「だから、全ての能力がチートになるチート能力が欲しいんです」
「――それも、ダメじゃー!」
「えええ!? だって、一つじゃないですか!?」
「そんなもんは、一つとは言わん!」
未来の物がダメだったときの為に考えていた予備の策までダメとは……。
――万策尽きるとはこのことだな。とりあえずどんなモノなら良いのか確認しながら考えるとするか。
「例えばですけど、車とかはどうなんですか? たくさんの部品を使ってますけど、これも複数扱いですか?」
「それなら構わん。組み立てられたことによって一つの物として扱うのじゃからな」
「じゃあ、水陸両用車はどうなんですか? これも一つですけど複数の用途になりますよ?」
「それも構わん。一つの物であることには変わらんからの」
なるほど。組み合わさって一つになっていれば良いのか。それが複数の用途であっても、その一つの物の機能として考えられるということだな。
「そうなると鉄砲はどうなんですか? 弾がないと意味ないですけど」
「ふむ。そうじゃのう……弾倉に込められる数だけは用意してやろう。あとは硝石を加工するなり、鍛冶屋に頼むなりするしかないの。車を選んでも同じじゃ。満タンにはしてやるが、補給は自分でなんとかするのじゃ」
弾や燃料などは付属品として認めるが、補充は自分でしろということか。
「性能は自分で選べます?」
「好きにせい」
これで、だいたい分かった。
よし、決めた! あれにしよう。
しかし、問題点がある。
それを解決しなければ何の意味もない。
ちゃんと確認しなければ……。
「選んだモノの使い方が分からないときは、どうすればいいのですか?」
「何を言っておるのじゃ。分かるから選ぶのじゃろうが」
「そんな事はありませんよ。身体能力向上のチートを貰ったとしても、どうやって発動させたらいいのか分からなかったら意味がないじゃないですか。それに機械だってメーカーによってみんな使い方が違いますよ」
「ふむ、今まで誰にもそれは言われんかったが、確かにそうだのう……。では、特別に説明書を付けてやろう」
「そんなことをしなくても神様なら頭の中に、ポン!っと使い方を入れたり出来るんじゃないですか?」
説明書など読むのは面倒である。それ以前に読んだ程度で『あれ』の使い方が分かるとも思えない。
「う――む……。まあ、いいじゃろう。して、お主は何を望むのじゃ」
俺は異世界に降り立った。
そしてまずは街を探した。魔王城の場所を神に聞いたのだが、なぜか機嫌が悪くなっていて教えてくれなかったのだ。そのせいで、自分で調べるしかなかった。まだ魔王軍に襲われていない街を見つけ、なかへ入り、最初に出会った戦士風の男に話しかけた。
「すいません、ちょっと聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「なんだ、にいちゃん。随分と変な服を着てんなあ」
「はあ、俺の田舎の民族衣装なんです。それでですね……」
彼は第一次魔王城攻略作戦の生き残りだった。ほぼ壊滅状態まで追いやられたそうだが、生き残った人々と協力して生まれ育ったこの街に帰ってきたとのことだった。そのおかげで魔王城の正確な場所が分かったのだ。さすが十億人以上のなかから選ばれただけあって運が良かった。
俺は即座に魔王城に向かうことにした。
その場所はかなり遠いので早く出発したかったのだ。
俺はパイロットスーツの襟を留め直しヘルメットをかぶった。
神に与えてもらった戦闘機に乗り込むとすぐに飛び立った。
ちなみにパイロットスーツは付属品として認めてもらっている。これがなければ酸欠で死んでしまうので当然だ。
これは垂直離着陸機なので滑走路などいらない。戦闘機に備わっている機能だ。そして海を超え山を超えて目的地である魔王城を目指した。エンジンには永久内燃機関を部品として組み込んであるので給油の心配もない。
最初はガ○ダムにしようと思ったのだが、魔王城が遠いときは移動が面倒だと思って戦闘機にしたが正解だったようだ。
魔王城を発見してすぐさまロックオンした。使い方は分かっているので問題はない。
付属品である強力な性能のミサイルを全弾発射。
そして見事に命中して魔王城は粉々になって吹き飛んだ。
余談だが空を飛べる可変式のガ○ダムも魅力的ではあったが、ビームライフルを付属品として認められない可能性があったので、断念している。
戦闘機の機能を使って辺りを調べたが生体反応はない。
これで任務は終了。無事に勇者としての役割を終えた。
あとは報酬の巨万の富をもらって帰るだけだ。
ハーレム? いや、俺は早く帰りたい。
神に再召喚されて、また真っ白い空間にきた。
顔を引き攣らせている神に戦闘機を返して報酬を受け取った。
「ただいま」
「え? あんた異世界に行ったんじゃないの?」
俺は家に帰り母親に話しかけたが驚きの表情を見せただけで、息子の生還を祝ってくれる様子はない。もしかすると、早すぎる帰宅に状況が分かっていないだけかもしれない。なにせ、召喚されてからまだ数時間しか経っていないのだから。
「行ってきて、もう帰ってきた。はい、これ」
神からの報酬は全て現金でもらった。現金以外など置き場に困るだけだ。その現金も既に銀行に預けたので母親に通帳と印鑑を渡した。
「なにこれ?」
「働いて生活費入れろっていつも言ってたでしょ? これだけあれば足りると思うからもう働かないよ」
母親は預金通帳に刻まれた○の数に顔面が蒼白になり絶句していたが、これでもう俺のポリシーを曲げることはない。
数時間とはいえ働いてしまった。失われた時間は取り戻せないが、これからは二度と邪魔をされずに充実した日々を送れるだろう。
俺は自分の部屋へ入ると、さっそくゴロゴロしながら漫画を読み始めた。
初めて短編を書いてみました。
感想など頂けたら嬉しく思います。
実は噂で聞いた話なのですが……
ブックマークを付けて頂いたり評価を付けてくださると
ポイントが上がるそうです。
しかも、ポイントが上がると作者には明日への活力が注入されて
執筆活動が進むというのです!
とても信じられない話なので真偽の程を
確かめたいと思いました。
そこで皆様の出番です!
ご協力をお願いします(笑)
読んで頂きありがとうございました。