1話・合唱部の憂鬱
春ですね…。
今年も、桜が綺麗に咲いています。
もちろん、先生や園芸部員の魔法で。
でも、咲いている…ということは、同時に新入生の入学が迫っている、ということ。
私こと緋月桜も、2年前にあの下を通って入学したのです。
「弱りましたねぇ…」
「どうかしたんですか?緋月部長?」
「はぁ…。」
考えるだけで憂鬱になりそうです…
「あの、先輩!私でもお手伝いできることがあれば、教えてくださいね?」
目の前のかわいい後輩、奈津辺サチが、心配そうにこちらをのぞき込んでいます。
「うん、ありがとうね。」
「いえいえ!あの、よければその悩み事、教えてください!私も、先輩の力になりたいんですっ!」
ほんとに、たくましい子だと思う。
「そうね…。ここだけの話にするのもなんだから、みんなを集めてくれない?」
「了解しました!!」
私の、ううん、私が部長を勤める合唱部の悩みごとは…。
「合唱部は、部員が少なすぎますよね。」
まさに、この一言なのです。
今、この第2音楽室にいる生徒は、私をいれても7人。
「あー、確かにそーだねー」
この、やる気のなさげな男子は、副部長の原皐月。私と同じ、三年生。
「さ、皐月先輩、廃部の危機ですよ!何とかしましょうよ!」
この子は、音楽大好き、立野鈴奈。
なにかと周りを気にしてくれる、しっかりものだ。
「でもさ、どうすれば良いんですか?歌が好きなら軽音部に行くだろうし、楽器ならブラスだと思うし。俺らのとこに来る人は、真面目に合唱好きな人だけじゃないっすか。」
こちらは二年男子の鈴木耕平。
「私も分かんないです、先輩。何をするって言うんですか?」
そして、同じく二年、松葉如音
「…それを話合おうと思ってたの。みんな、部活を宣伝するのにら何か良い方法はないですか…?」
「先輩、それでさっき、あんなに思い詰めた顔してらしたんですね…!」
「さっき…って、サチ、先輩のそんな顔見てたの!?いーなー…」
この子も二年、榎本ゆい。私たち三年生をストーキングする、ちょっと恐ろしい子…。
まぁ、それはおいておくけどね?
「そうなのよ…。今年こそ、何とかして一年生を大量に獲得しないと…。」
「…あの、先輩…。」
あ、珍しい。この子、山野雫ちゃんは滅多に喋らないの。
「うん、どうかしたの?雫ちゃん」
「あの、その…部活紹介のとき以外にも、ビラ…とか…」
「なるほど!配れば良いってことっすか!」
「…(コクリ」
「なるほどね…。うん、いいかも。」
「でもさー、それやるなら、問題はどうやってビラ作るかじゃね?」
「皐月の言うことも、もっともね。絵は魔法では描けないもの。」
魔法は、なんでも出来るわけではない。それがこの世界の普通だし、だからこそ、科学が両立しているの。
「どうする?私たちで下手にビラ描くのは、ちょっとね…」
全員がうーん…とうなり、黙り混んでじゃった…。どうしようかな…
「はぁ。わーったよ、俺に任せろ。」
「え、さ、皐月?」
「先輩、何かいい考えがあるんですか!」
「ああ。」
「何があるの…?」
「いいか?」
そう言うと、皐月はドヤ顔で喋りだした。
「とりま、俺達がビラを配れないり理由って何だ?如音。」
「えっと…ビラを描けるだけの画力がないから。ですよね?」
「そう。なら、俺ら以外で描ける奴は居ないか?んーと、耕平」
「え?あ、えと、そりゃ、その辺の女子や、美術部の奴なら…」
「なるほどね!」
「やっと分かったか、桜。」
「ええ。美術部の人に、何とかお願いしてつくってもらう…のね?」
「そのとーり。どうだ、良いだろ?」
少しドヤ顔がうざ…いえ、なんでもないけど。
「そうね。確かに。なら、私が行ってきましょうか。」
「あの、先輩!」
ゆいが不思議そうに声をあげた。
「美術部の人って、変人が多いって聞きましたけど?アブナイ人達じゃないんですか?」
「あ…うん、そうね。アブナイ人達ではないわ。」
この学校で美術部と言えば、それは変人を意味する。でも、本当は…。
「さーくらー、頼みにいくついでにつれてけば?」
皐月が早くも漫画を読み始めながら、そう言ってきた。
「…そうね。行きましょうか。」
かくして、私達は美術室へ向かうことにしたのです