男の娘です。拾ってください
突然ですが聞いてください、私はショタコンです。小さい男の子大好きです。
ええ――私ですか? 今度二十一になる立派な大学生です。……文句あります
か?
ある日私は男の娘を拾いました。近所の電柱の前に小さな箱が置いてありま
して――そこにはこう書かれてました。
「男の娘です。拾ってください」
私はその場ですぐ箱のふたを開けました。可愛らしいオス猫とか子犬でも入
っているんじゃ無いか? と思い、小動物を粗末にするのを許せない私の良心
が、箱のふたを開けたのです。
すると中から可愛らしく眠る女の子が入っていました。
「女の子じゃん……誰よこんな小さな子供捨てたの――」
顔の前まで持ち上げて私は言葉を失いました。――こんな可愛い顔なのに…
…あるんです。まだぷっくりした小さくて可愛らしいものが。
私はもう一度顔とおへその下を見比べました。顔はまごうことなく女の子、
でも下半身にはオトコノコ。
……私は神様がくれたプレゼントだと思うことにしました。
現代の竹取物語です。男の娘だけど――大事なことなので二度言います。男
の娘ですよ! あどけない表情で私を「お姉ちゃん♡」とか呼んでくれる。可
愛らしくも立派な男の娘です。男の娘バンザイ!
私は大学に通いながら、この子を育てることにしました。どうせ捨てられた
子なんだから、今さら探したりはしないでしょう。
託児所なんかで暮らすより、私が一生をかけて幸せにすると決心しました。
私の決意は固いです。三十階建てのビルから落としても壊れません――小学
生の時からガンコのユキ(名乗り忘れましたが、私は白鳥ユキと申します)と言
うアダナをつけられるくらい、自分の決めたことは途中で投げ出しませんでし
た。
男の娘を拾って数週間――毎日一緒にお風呂に入ったり、一緒の布団で寝た
り……
男の娘の身体を洗ってあげると、くすぐったいと言って笑顔を見せます。抱
きしめてあげると「お姉ちゃんの身体柔らか~い♡」と言って幸せそうな顔を
します。
一緒に寝ると真っ先に寝ちゃうし、ご飯はポロポロこぼすし――夜中にトイ
レ行きたいと起こすし――まるで子供ができたみたいな感覚でした。
私はそんな、可愛らしい男の娘の事が大好きでした。――もちろんLOVE的な
意味ですよ?
男の娘を拾って数年たちました。私は就職し、一応安定した生活ができるよ
うになりました。
――男の娘もだいぶ大きく成長し――と言うことはありませんでした。
何故かは解らないんですが、男の娘は拾ったままの大きさで成長しません。
顔も女の子みたいに可愛らしいまま、身体もスベスベな少年体型。――内面も
全く成長していないらしく、まだ毎日のように一緒に入浴し、一緒に寝ていま
す。
それからまた数年たち、私はそろそろ結婚を考える年齢になってしまいまし
た。――ここで逃すと、多分行き遅れてしまい――将来シワだらけになりなが
ら、新入社員に愚痴をこぼす生活になりそうです。
でも私には男の娘がいる。この子を連れていて結婚してくれる男性はいるだ
ろうか……? ただでさえ男の方は、初めてが良いなんて言う人が多いのに―
―ワケアリな子持ちなんていう、私をもらってくれるでしょうか……?
私は最近やけ酒を飲むようになりました。帰りも遅くなり、男の娘と関わる
時間もどんどん減っていきました。――可愛いけどこの子が私の結婚を邪魔す
る。男の娘のいないところで散々愚痴るようになっていきました。
でも……子供って何故か解るんですよね、そういうの。面と向かって言った
わけでは無いのに、最近男の娘の表情が暗く――私に話しかけてくれなくなっ
てきました。――私はひどい事をしてしまった。もしかしたらあの時拾わなけ
れば良かったんじゃないか――とまで考えるようになりました。
やがて、私にも出会いがやってきました。社内の同僚数人と、合コンなる物
に参加したのです。――行ってみたら人数も多く、これは婚活だろっ! って
ツッコミが入るくらい、人がたくさんいましたが。
その中に一人、何か親近感のわく男性が一人いました。すっかり意気投合し
た私たちは、時間いっぱいまで一緒にいて――男性の家に泊まりに行きました。
私は男の娘の事なんか忘れて――夢中でその男性と夜をともにしました。
次の日家に帰ると、男の娘はいませんでした。テーブルの上に「さよなら」
とクレヨンで書かれた広告紙が置いてありました。
私は必死で辺りを探しましたが、結局あの男の娘を見つける事は出来ません
でした。――もとはと言えば、私も無断で拾った子供なので警察にとどけるこ
ともできず。ただただ、後悔の念に襲われました。
男の娘がいなくなって数ヵ月後、私は彼(男の娘がいなくなった時に出会っ
た男性)にプロポーズされ、めでたく独身生活に幕を閉じました。
彼のアパート暮らしを経て、ようやく新居を建て――引越しの準備を始めた
時、私は彼(現旦那)の古いアルバムを見つけました。
「見ていい?」
と聞く私に、彼は嬉しそうに静かに頷きました。
アルバムには、高校入学の時の写真や中学、小学の卒業式――幼稚園の卒園
式――まで見たところで、私はページをめくる手を止めました。
彼はアルバムを覗き込み「懐かしいな~」などと言いながら目を細めました。
「ねえ、この子誰?」
私の指差した写真には――間違い無く、あの男の娘が写っていました。女の
子みたいな顔立ち……でも幼稚園の制服は男の子用。完璧に男の子だと言うこ
とは分かった。
彼は嬉しそうに微笑み、私を抱き寄せ、
「それは僕だよ。幼稚園の頃は男か女か区別つかなくってさぁ……」
私は背中に彼を感じながら、写真の男の娘を見つめていました。
「あの頃はよくからかわれたなぁ……男の娘! とか言われて……」
しみじみと語る彼の顔を見ると、可愛さは無いにしても――多少の面影を感
じた。
(お姉ちゃん!)
頭の中に男の娘の声が蘇った。――私はいろいろな感情に挟まれ、思わず涙
が出てしまった。
「どうしたの? ユキ」
優しく頭を撫でてくれる。――そっか、あの子は彼の子供の時の姿で……私
に会いに来てくれたんだ……
一日帰らなかったからいなくなったんじゃ無くて、私が彼と出会えたから。
「ねぇ……お腹の子、元気に生まれてくるかな?」
私は彼の顔を見た。彼は優しく目を細め、
「男の子かな? 女の子かな?」
私はなんとなく解っていた。――きっと生まれるのは……可愛らしい男の娘
なんだろうな……
私のそんな予想は裏切られ――その言い方は生まれてきた子に悪いか。
――可愛らしい、玉のような女の子が生まれました。名前はユミ、私と彼か
ら一つずつとってつけました。
早いものでもう幼稚園に行き、毎日泥だらけになって帰って来ます。ふふっ
……誰に似たんでしょうかね。
「ママー!」
今日もまたお洋服を汚して、ユミが走ってきました。あら? 誰かの手を引
いているわ。
「ママー! 新しいお友達ー!」
俯いているから顔がよく見えない。私はその子の前にしゃがみ、顔を覗き込
んだ。
「初めまして、お名前何て言うのかな?」
顔を上げると――懐かしい顔が頭に蘇った。
「久しぶり! お姉ちゃん」
忘れるはずも無い、あの時の男の娘だった。ユミは不思議そうに私と男の娘
を交互に見て、
「ママのお友達?」
私はそれには答えず、ユミに聞いた。
「この子と、どこで会ったの?」
ユミは「うーん」と考えながら、
「電信柱の前にね、黄色い箱があったの! でね何かな? って開けたら、お
洋服着てなくてびっくりして! 近所のおばさんに『いらない服無いですかー
男の子がはだかんぼうで寒そうでーす!』って言ったら、お洋服貸してくれた
の!」
ユミは「良かったね~」と男の娘の頭を撫でている。――もしかしてこの子
は……
ユミの未来の王子様なのかもしれない……
なんて、メルヘンチックな事言ってみたりして?
「ほらユミ! またお洋服汚して、全身泡々の刑にしちゃうぞ~!」
「いやー!」
ユミは走っていなくなった。――またもっと服を汚して戻って来るんだろう
な……
「お姉ちゃん!」
ユミを追いかけて門まで行っていた私は――男の娘に呼ばれて振り返った。
「また二十年後、会おうね!」
男の娘は手を振りながら、スーっと消えていった。
まるで、お空の流れ星が誰かの願いを叶えて夜空へと消えて行くように……