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禁忌の魔女と弟子な魔男

修行編です。だらだらやってもだれますので、内容はかなり省いています。なにせ100年ですから。次話からが、この物語の本当のはじまりです。

 『薬』、それは人間の生み出した智の集大成であり、生命の綱というべきものだ。

 その研究作成には、多大な労力と時間、そして莫大な費用が惜しげも無くつぎ込まれている。

 生死に直結することだけに、その臨床試験や、副作用の調査など繊細で難解極まりない。

 現代では、最新機器や医学・薬学の発展などもあり、それでも昔よりはかなりましにはなった。

 では、現代機器もなく、それどころか医学も大幅に遅れている世界ではどうであろうか?

 この場合、純粋に薬師の腕が薬の出来に直結する。故に薬師に求められる能力は並のものではない。

 医学・薬学の知識は当然として、何よりも重要なのは調合を初めとした手技術だ。

 現代機器に慣れきった私には、分量を量るだけでも一苦労である。無論、調合など論外だ。

 さらに、魔女術の霊薬・秘薬、錬金術の魔法薬の類には繊細で緻密な魔法付与が必須である。

 魔法付与には、前提として当然の如く非常に高度なマナの制御が求められる。ミリ、ミクロ単位でだ。

 ちなみに、マナを元より持っていなかった私には、この世界の常人レベルのマナ制御ですら困難だ。

 要するに、私は自ら茨どころではない地獄の道を選んだのだ。

 もし、諸君らが私と同じ世界に行く事があれば、薬師だけは絶対にやめておくことだ。

 なぜなら、私が師匠に一人前と認められるまでに百年もの年月を必要としたのだから。



 

 私が今しがた作り上げた渾身の力作である霊薬を、魔女改め偉大なる我が師『禁忌の魔女』こと「シーリーン・フェルティナード」はしげしげと見つめる。一瞬マナの動きを感じたのは、師匠が『解析』の術を使ったからであろう。私はそれをはらはらとした面持ちで見守る。ここで出される評価の如何によって、私の今後が決まるのだから当然である。


 「うーむ、これもよしあれもよし。前に抜けてたあたりも完璧じゃ。それどころか、魔力付与にいたっては……ハア」


 ぶつぶつと呟きながら、採点する師匠。その傾国の美貌に思案気な色を浮かべながら、一度言葉をきり、深々と溜息をついた。


 「……文句なしの合格じゃ。只今この時をもって、お前を一人前と認めよう。我が弟子よ」


 「やった!やりましたよ師匠!これでようやく……」

 

 私は心から歓喜していた。余りの喜びように途中からは言葉にならない。些か大げさに思われるかもしれないが、これは無理もないことである。なにせ私はこの時122歳。実に修行をはじめてから百年の時を経ていたのだから。


 「うむ、よくやった。正直妾ですら、ダメかも知れぬと思ったあのドン底から、よくぞここまで至った。誇るがいい」


 感慨深げに何かを噛み締めるように頷いて、褒めてくれる師匠に自然とこの百年の修業が思い出される。百年もかかった修行。とはいえ、けして師匠が悪かったわけではない。ある才能が皆無であった私にこそ、その原因はあるのだ。


 医学・薬学はもちろん、この世界の成り立ちをはじめとした歴史文化等の知識、常識など学び覚えるべきことは多くあったが、そこは痩せも枯れても、国立大の薬学部生である。こと座学で早々に遅れは取らない。この世界の独特のものには苦労させられたものの、修めるのは師匠が感心する程早かった。

 では問題だったのは何かといえば、禁域から出るための絶対必須の能力であるマナ制御能力である。このマナ制御の才能が私にはなかった。いや、正しく言おう。この世界の常人以下どころか皆無であったと。これは当然といえば当然の話である。なにせ、私は元々マナをもっていなかったのであり、生きるのに日常的に用いているこの世界の者とは、比べくもなかったのである。

 

 この世界の者にとってマナは生命の源というべきものであり、自身の一部として当然認識するものである。だが、元々持っていなかった必要としなかった私からすれば、マナは異物以外の何ものでもなかったのである。これには流石の師匠も頭を抱えた。なにせ、教える前提であることができていないのであるだから、無理もないことである。

 しかし、ここで見捨てると言う選択肢をとらない辺りが、我が師の非凡さを示していると言えよう。できるようならできるまで、それでも無理なら嫌でもできるようにするのが師匠のやり方である。師匠は躊躇いなく私を攻撃魔法の的にした。これはこの世界の者が無自覚の内にやっているマナ放出による魔法防御を誘発させる為である。生命の危機になれば、誰もがやっていることであり、マナとの親和性がものを言うのであり、そういう意味ではそれが皆無の私にとってはぴったりな訓練方法であった。

 まあ、その過酷さは言うまでもないのだろう。死に掛けたのは一度や二度ではない。全身火傷に氷付け、串刺しに感電、なんでもござれだ。だが、これ程の苦行をもってしても、私がこの世界の者と同等のマナ制御能力を得るのにかかった時間は実に10年余りである。私の才能が皆無と言う言葉が良く理解できるだろう。ちなみに、ひたすら逃げまわり回避を繰り返す内に、むしろそっちの実力の方が上がったり、何度も攻撃魔法に被弾してる内に肉体の魔法抵抗が上がったり、何度も死にかけたせいで、精神的にタフになりクソ度胸がついたりしたのは余談である。


 とはいえ、一度感覚を掴んでしまえばこっちのものである……と思っていた私は甘々であった。そこから平均的な魔術師程度の制御能力を得るまでにはさらに5年かかり、魔導師クラスに至るまでは10年、魔女に至るまでには25年、ここまでに至るまでに実に50年もの歳月を必要としたのだ。一方、最高レベルの天才である師匠は15歳の時に独力・・で魔女に至り、25の時には大魔女に登極したのだから恐れ入る。

 だというのに、唯一の弟子である私ときたら、その大天才の教えを受けながら、魔女に至るのにさえ50年もかけ、大先輩に手を引かれるという反則をしているのにも関わらず、今日に至るまで大魔女へと登極することができず四苦八苦していたのだ。なんとも情けない限りである。

 そんな私が大魔女に登極できたのは、この世界に来てより100年目の今日であった。魔女から大魔女へと登極するのに50年もかかったのであった。一度感覚を掴めばとか、お笑い種もいいところであった。

 

 ともあれ、私はどうにか師匠の試験に合格し、師匠の苦労と私自身の流した汗と血と涙を無駄にせずにすんだのだ。今日だけは、声を大にして喜んでもいいだろう。


 「師匠、本当にありがとうございました。不甲斐ない弟子である私を見捨てないでくれて、ここまで導いてくれて、本当にありがとうございます!」


 全く恨みがないとは言わない。修行内容は苛烈の一言であり、殺されかけたことも一度や二度ではないのだから。だが、今ここに至って、全てはこの時の為と思えば、なんでもないことのように思えた。


 「うむ、本当によくやった。妾も調子にのってやりすぎたり、殺しかけたりしたが、あれもいい思い出じゃな。汝が妾の言うことはおよそなんでも真に受けるものじゃから、悪ノリして無茶苦茶な訓練方法をやらせたり、わざと難解なやり方を教えたりもしたが、全て汝の血肉となったようで何よりじゃ」


 訂正、なんでもあるわ!絶対に水に流さねえ!必ず復讐して……失礼、私としたことが興奮してしまったようだ。今のは忘れて貰えるとありがたい。

 笑顔に青筋浮かべながらも、無理矢理にはははとそれを笑って私は流した。


 「これで許してもらえるんですね」 

 

 笑みを消し真剣な表情で、姿勢を正して師匠に私は最後の確認を行う。


 「ああ、もういいじゃろう。この世界の知識・常識は言うに及ばず、マナ制御も今や大魔女クラスのものを身につけ、暴走の危険もない。魔女術・錬金術を修め、薬師としても霊薬・秘薬に魔法薬、およそ作れぬものはない。

 ……禁域の外へ出ることを許す」


 師匠は淡々と私の現状を評価し、最後の結論を下した。私が望んだ答がそこにはあった。


 「や、やった。本当にようやく……」


 私は万感を持ってそう口にした。なにせ、私の百年にわたる苦難はここに終わりを迎えたのだから。

 まあ、実際はこれからこそが私の苦難の生の始まりだったのだが……。この時の私はそれを知る由もなかった。


 「ようやくか、確かにのう。汝が薬師になりたいなどと言わなければ、もっと早く終えられたのじゃがな」


 喜ぶ私を尻目に苦笑する師匠。


 「それを言わないで下さいよ!今でこそ後悔してませんが、当初は本当に何度も諦めかけたんですから」


 師匠の言葉に否応無く、思い出さないようにしていたことを思い出してしまう。


 さて、先程述べたが、私がもっとも苦労したのはマナ制御である。とはいえ、四六時中それだけをやっていたわけではない。私が最も欲したのは、薬師としての技術なのだから当然である。そして、この薬師としての技術の習熟こそが第二の難敵であった。


 薬といえば調合であるが、あれはそれぞれの成分や分量などをしっかりと計測して行われるものだ。現代においては最新機器が存在し、それはそんなに難しいことではない。しかし、この世界にはそんな便利なものは存在しない。必然的にそれは人の手でやることとなる。

 

 ここで一つ諸君らに問いたい。計量スプーンも計量カップも、天秤や量りすら使わずに正確に砂糖等の粉状のものを分量通りにできるかと。できるという方は凄い、できないという方はそれが普通なので落ち込む必要はない。

 だが、この世界の薬師はこれができて当然なのである。彼らは、己の手のみを用いて、ある意味機械よりも早く正確に必要な分量を計ってみせるのだ。目分量などという生易しいレベルではない。彼らは長年の経験と勘から、その正確な分量を把握し、体に覚え込ませているのだ。

 よって、これから彼らの商売敵になろうという私は、必然的にその技術を身に付けねばならない。この習得には本当に困難を極めた。現代の機器に慣れ頼りきっていたこの身で、幼少よりもそれを専門に勉強し慣れ親しんできた者達の感覚を得るのは、並大抵のことではなかったのだ。


 詳細は長ったらしくなるので割愛するが、前述したマナ制御訓練よりも辛うじてましという程度と言えばどれほどのものか分かっていただけるだろう。しかも、薬学部という元の世界の積立があるせいか、それが皆無のマナ制御より、精神的なショックというかダメージは大きかった。己が機器がなくなっただけで何もできなくなるなど、思いもしなかったのからだ。それは否が応にも、私に無力感を感じさせ、正直何度薬師としての道を諦めようと思ったことか……。


 そして、彼らと同様の技術というか感覚(経験+勘)を5年かけて習得し、さらに15年かけて習熟したところで、再び壁にぶち当たることになる。霊薬・秘薬、そして魔法薬に必須の魔法付与エンチャントという魔法技術である。この世界独自の技術であるそれは、前提として当然に高度なマナ制御を要求する。なにせ、霊薬・秘薬をはじめとして魔法薬の類に求められる魔法付与の繊細さは、薬である以上、武器や防具にかけるものの比ではない。対象となるものの器としての容量、耐久性、変質のしやすさなど全ての面において劣るのだから。下手をすると1粒単位で細やかな魔法付与を要求されるものすらある程だ。前提技術であるマナ制御の才能が絶望的な私にとって、魔法付与は雲の上の技術という他なかった。


 流石の師匠もこれには困った。私のマナ制御能力の進捗具合は先に述べたとおりであったから、その発展技術である魔法付与を最低クラスの魔法薬を作れるレベルにまで習熟するのは、まだまだ先のことであったからだ。教えようにも前提となるスキルがないのだから……。

 だが、ここでも師匠はただでは終わらせない。できないならと、裁縫や料理等の家事、果ては細工や鍛冶に至るまで行わせたのだ。これは錬金術のための修行であると同時に、比較的簡単な魔法付与の練習でもあった。無論、料理はともかく裁縫や細工は学校の授業でやりましたレベルだったので、それ自体を習熟するのも、かなりの苦行であった。ましてや、知識だけしかない鍛冶など……。

 料理・裁縫・細工を師匠が満足できるレベルに習熟するのには、70年以上かかった。その過程で、師匠の下着を作らされたときの屈辱は忘れない。あれは形を変えたセクハラだと思うのだ。これみよがしに胸を当てやがって!いつか襲って……おっと、またも失礼。少し興奮しすぎたようだ。ちなみに、鍛冶については未だ合格点をもらえていない。

とにかく、私は薬師に必要ないだろという技術まで修める羽目になったのだが、しっかり魔法付与の練習となり、マナ制御能力の向上にしっかり寄与したあたり、私は文句をつけるどころか、確かすぎるその手腕にぐうの音もでない……。


 そうして、色んなものを身につけつつようやく、霊薬・秘薬の調合に入れるようになったのは、60年目のことであった。魔女の位階に昇って10年、ようやく魔法付与にも慣れてきたところで、またも壁である。魔法薬に必要とされる魔法付与の技術がミリ単位なら、霊薬・秘薬はミクロ単位であった。正直、これには私も心が折れかけた。

 言うは易し行うは難しである。安定して作れるようになるまで、どれだけの薬とは言えない廃棄物を作り出したことか。犠牲になった貴重な材料(霊薬・秘薬の材料はほとんどが貴重品)の数々を思うと胸が痛む。というか、あまりの失敗の多さに師匠が一度切れて、失敗作の暗黒物質を飲まされたことはトラウマになっている。そのまずさたるや、3日間物が喉を通らなかった程であり、さらには全身に発疹ができ痒くてたまらないという症状を引き起こした為である。


 そんな私が今日完成させたのは、魔女の霊薬の中でも最上級のものである。調合、魔法付与、どれも最高難度の技術を必要とする。それを自信をもって成功させ、渾身の力作といえるようになったのだ。その感動たるや、言葉にできない。


 「ああ、正直殺してやりたくなったこともあったからのう。後2,3回失敗しておったらどうしておったかのう……」


 物騒な事をどこか遠い目で語る師匠に、私は背筋を震わせる。どうやら、本気で薄氷の上を渡っていたらしい。


 「……ははは、とにかくよぼよぼの爺さんになる前に、一人前になれた良かったですよ」


 笑って誤魔化しつつ、話の転換をはかる。先の話題は、いろんな意味で危険すぎる!


 「ふん、世界樹とこの禁域に感謝することじゃな」


 私の露骨な話題転換に気づきながらも、話にのってくれる師匠。本当に頭が上がらない。


 「全くです。普通ならとうに老人ですからね……。この禁域にいる限り、10年に1歳しか年をとらないんでしたっけ?」


 「うむ、禁域が特殊な空間ということもあるが、それ以上に世界樹の恩恵が汝にはあるからのう」


 私と師匠がいるこの禁域は、本来精霊や妖精、後は植物か聖獣の類しか本来存在できない。それ以外の者は原則的に侵入できないし、仮にできたとしても短時間で排除される。なにせ、この世界の根幹である世界樹のある場所だ。下手な者を入れるわけにはいかない。まあ、師匠の場合強くなりすぎて、逆に守護者としてここに閉じ込められることになったのだが、私は違う。私の場合は、この世界につながった場所が偶然にも禁域だったというだけである。私もまた本来は短時間で排除される側だ。

 しかし、私は世界樹の慈悲から生きながらえ、その属性を身に宿すことになった。結果、私は世界樹の眷属(黄金樹)と同様の扱いを受け、排除されないのだ。しかも、禁域内限定ではあるが世界樹からダイレクトに力の供給を受けられるというおまけつきで。このおまけこそが、私が122歳でありながら、肉体年齢は20歳という状態の源泉である。まさに世界樹様々である。ああ、ちなみに、師匠が不老なのは、マナが質量共に至高の域にあるからである。


 「そうですね、本当に師匠と世界樹には頭が上がりません。いくら感謝してもしきれませんよ」


 「む、妾と世界樹は同格なのかえ?そこは妾の方が上というべきとこじゃろう」


 むっとした表情で、拗ねたように言う師匠。な、なんだ、この可愛い生き物は!


 「ああ、いやけして師匠をないがしろにしているわけではなくてですね。師匠には勿論感謝していますけど、命を救ってもらった世界樹にも多大な恩があるわけで。どちらも比べられないというか……」


 私はしどろもどろになって慌ててしまう。今や最愛の人と言うべき師匠に、そのような顔をさせるのは嬉しい面もあるが、本意ではなかった。突然出てきた情報とお思いかもしれないが、100年もの間、綺麗なお姉さんと二人きりで過ごして、情が移らぬはずがあるであろうか。いやない!というか、あの地獄のような修行に耐えられたのはひとえに師匠への想いがあったからこそである。好きな女の前で、無様を見せられるか!いや、まあ実際には見せまくったが……。


 「……ぷぷ、ふははは。そう慌てずとも良い。分かっておるとも。汝をちとからかっただけじゃ」


 表情を一変させて、堪え切れぬと笑う師匠。悪戯気に細められた猫のような目がなんとも魅力的だ。


 「全く酷いですよ、師匠。こっちは真剣に悩んだっていうのに!」


 「ふふふ、許せ。今宵が最後なのじゃ。このくらいの戯れは良かろう?」


 おかしそうにそれでいてどこか寂しげに笑う師匠。その言葉と表情に私は腹を決める。


 「し、師匠。いえ、シーリーン・フェルティナード様。今日に至るまでの100年の恩義、真にありがとうございました。いくら感謝しても、感謝の念は尽きませんが、それとは別に聞いていただきたい話があります」


 姿勢を正し真剣な表情で改めて言う私に何かを感じたのだろう。師匠も姿勢を正し表情を真剣なものへと変える。


 「ふむ、申してみよ」


 「100年もかっかってしまいましたが、ようやく一人前と認めていただけました。本当はもっと早く伝えるつもりだったのですが……」


 「前置きはよい、早く申せ」


 じれたように言う師匠。この期に及んで尻込みしている己のヘタレさが嫌になるが、分かって欲しい。経済的な理由で高校を中退し、就学のために学費を自力で稼がなければならなかった私に恋愛に時間を割く余裕は欠片もなかったのだ。初恋はともかく、本当の意味で異性を好きになったのはこれが初めてなのだ。それも50年越しの想いである。慎重なるのは仕方がないことだろう。


 「師……いえシーリーン。貴女を一人の男として愛しています。どうか私の想いを受け取ってはいただけないでしょうか」


 「ようやくか……。あんまり待たせるものじゃから、言う気がないのかと思ったぞ」


 呆れた表情でそんなことを宣う師匠。え、バレてたんですか?


 「汝な、あれでバレていないと思ったのか?妾は別に鈍い方ではないし、男の視線の意味を間違えたりせぬよ。でなくば、あんなあからさまな誘惑などするものか」


 バレバレだと言われてショックを受けるが、思い起こせば確かに心当たりはありまくる。誘惑の件も、単におちょくられていると思っていたことがそうなのだろう。


 「いつから気づいていたんですか?」


 「最初からじゃ。あれは確か、汝が魔女になった頃じゃったかな?」


 「……自覚したのはその頃ですから、あたってます。一人前と認めていただけたら告白するつもりでした」


 「正直な話、妾は最初汝の想いに応えるつもりはなかった。妾の美貌と汝のそれではとても釣り合わぬからのう。汝は不細工ではないが、美形というわけでもないのでな。妾はこれでも面食いなのじゃ」


 「そうですか……」


 師匠の言い様に反論できない。確かに師匠と己では、月とすっぽんである。到底釣り合わないだろう。分かっていた答とはいえ、中々きついものがある。


 「ええい、早とちりするでないわ!最初はと言ったじゃろうが!いくら妾とて、100年もの歳月を共に過ごした者に何の好意ももたぬことなどありえんわ!大体、欠片の好意もないならとうにこの屋敷から追い出しておるわ」


 「え?それじゃあ……!」


 思わぬ言葉に私は喜色を浮かべて勢い込む。


「お前の直向さが、けして諦めぬ様が、妾の心をとらえた。そして今日、不可能とさえ思うたことを成し遂げてみせた、お前の粘り勝ちじゃ。

……妾も汝を愛しておる、師としてではなく一人の女としてな」


照れくさそうに、恥ずかしげに、最後は消え入りそうな声ではあったが、はっきりと師匠は言ってくれた。あまりの可愛らしさと愛しさに、私は憤死しかけた。


「し、師匠!」


「これ、違うじゃろう。妾も汝の名を呼ぶ。だから汝もな……」


感極まって、思わず抱き締めた私にムッとした表情でデコピンをかますと、シーリーンは華が綻ぶように微笑んだ。この先は語るまい。ただ、翌朝の私達はこれ以上なく幸せで、すっきりした表情であったとだけ言っておこう。


一人称の形式で書くのは初めての試みなので、おかしいところがあれば、遠慮なくご指摘下さい。

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