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黄金の実

ここで中心に書いてたものが、だめになってしまったので、書きたかったものを投稿してみました。相変わらずの亀更新となると思いますが、よろしければお付き合い下さい。

 皆さんは異世界トリップというものを御存知だろうか?

 ネット小説にはよくある設定であり、そうなったらと想像してみるのは楽しいことなのだろう。

 だが、私はあえて声を大にして言おう。それが楽しく面白いのは、あくまでも想像どまりだからだと。

 実際にその身に降りかかれば面白くもなんともない。それどころか非情な現実が襲いかかるばかりだ。

 今から語るのは、そんな非常な現実を嫌というほど味わった私の物語だ。

 自分語りをするのは少々恥ずかしくもあるが、諸君等の無聊を僅かなりとも慰められたら幸いである。

 

 あれは暑い夏の日のことだった……。


 念願の第一志望の大学に合格し、華の大学生活を私は謳歌していた。つい先日22歳を迎えた私は、いわゆる遅咲きの桜というやつだが、学費の問題で高校を中退した身からである。自賛になるが、就学困難な状況から、難関の薬学部に合格を果たしたことは誇ってもいいだろう。

 そんな私であるが、長期の夏休みを利用して、遠方に漢方薬の勉強に来ていた。これは私の大学受験に協力してくれた恩人の好意によるものであり、昔ながらのやり方というものを見てきなさいといわれたことに端を発する。

 西洋医学との差異をはじめとして実際に得るものは多くあったのだが、ある漢方薬の材料になる薬草の栽培場所からの帰路の途中、運悪く私は一人はぐれてしまったのだった。今でもどうしてそうなったのかは思い出せないが、とにかく遭難したのだ。標高1000メートル程の山ではあるが、私のような素人に毛が生えた程度の人間には、日も落ちつつある状況で自力での下山は無謀であるとしか思えなかったのである。


 さて、早々に下山を諦めた私は、雨露を凌げる場所を探すことにした。今にして思えば、火を起こしてじっとしていれば良かったのだが、その時の私はその選択肢をとることができなかった。結果、私は迷いこむことになるあの禁忌とされる場所へ……。

 雨露を凌げる場所を探す内に、いつの間にか私は深い霧に包まれていることに気づいた。来た道も分からないほどに深い霧の中で、私の動揺は極まっていたのだろう。よせばいいのにとにかく我武者羅に歩をすすめていた。そうしないと不安で押し潰されそうなのもあったし、このままでは霧に呑まれるような奇妙な確信があったのだ。実際のところ、この霧は私にとって最後の救いであったのだが、私はそれを知る由もなかった。


 そうして霧から逃れるように歩く内に、私は開けた場所に出た。そこは荘厳にして神聖で、清純な空気に満ちた場所であった。樹齢千年、いや万年を思わせる巨木を中心に、現代日本では見られないほどに澄んだ水で満たされた泉で周囲を覆われた広場であった。私と言えば、その場の空気と巨木の雄大さにあてられ、ぽかんと口をあけて呆然としていた。

 そんな時だ。巨木の実と思われる黄金を思わせる果実が泉に落ちてきたのは。しかも、泉に落ちたそれは、まるで意思あるかのように私のもとに流れ着いたのだ。タイミング悪く昼食を抜き、長時間何も食べていなかった私が、これを天の采配と思って喰らいついてしまったのは仕方のない事だろう。今にして思えば、毒や衛生など考えることはあったはずなのに、不安と動揺で極限状態にあった私は全くの考えなしであった。

 だが、幸いにもその実に毒はなかったし、衛生等の問題もなかった。それどころか、今まで食べたどんな果実よりも豊潤で美味であった。その威力たるや、一心不乱に私が実を瞬く間に食べ尽くしたことからも明らかであろう。こうして、私は異世界への最後の一歩を己で踏み抜いたのだ。帰還の可能性を自ら潰して……。


 そうとも知らぬまま、満腹になったせいか強烈な眠気を覚えた私は、火も起こさない不用心ぶりで、リュックを枕にその場で深い眠りに沈んだのだった。

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