走れ 少年!!!
古い民家が立ち並び、ジトジトと湿っぽい雨の日の午後
片手に傘を持ち、枝には手提げをぶら下げ黒いランドセルを背負った僕は
小石を蹴りながら歩いていた。
今日は珍しく人の気配もなく、車も通らない。
体に張り付くようなネバッとした汗をかいていたが、僕は気にはならなかった。
なぜなら学校から蹴り続けていた小石を 今も大事に蹴り続けるのに必死だったからだ。
10分。いや15分は蹴り続けていたであろう大事な小石が
とうとう溝に落ちてしまった。
少しためらったが僕は溝に足を突っ込み 小石を道に戻そうと必死だった。
ふと気づくと白髪で少し腰の曲がった老人が僕のすぐそばにいた。ゾッとした。
何か僕に話しているようだが、老人の声は小さく
雨の音で はっきりわからない・・・
得体のしれない恐怖と、何だか嫌な予感がしてきた。ダメだ!と直感した。
僕は急いで家まで走りたかったが、片方の靴が行く手を阻むように
グニュグニュと水の音を鳴らし、老人はまだ何かを言ってくる。
身震いで背筋に電気が走った。
あと少し、あと少しで家だ!!
僕はありったけの力で走った。
きっと今なら口裂け女が追いかけてきても逃げ切れる自信があった。
勢いよく玄関のドアノブに手をかけた。が、
閉まってる!!今日に限って鍵がかかってる!!
僕は身震いに耐えながら大声で叫んだ!!
早く!早くあけてーーー!!!
僕の悲鳴のような叫びに母親が答えた。
一層大声で叫び、母親を急かした。
鍵が開く音と同時に僕は扉をあけ、濡れた靴下のまま部屋に飛び込みながら
ランドセルも手提げも放り投げ、僕は急いでトイレへと駆け込んだ。
・・・ふぅ。間に合った