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楽しい日とそうでない日の落差が堪えるようになった。

作者: ムクダム
掲載日:2026/02/17

 遠足や旅行の前日は楽しみ過ぎて夜も眠れないと言われることがあるが、あまり実感の持てない言葉だ。大抵、楽しいことがある前日は寝付きが良くなるのである。ちょっと本でも読もうかと思った瞬間に眠りこけることになるのだ。

 逆になかなか寝付けないのは連休最終日の夜、明日からの仕事に怯えながら布団に入った時だ。あれやこれやと不安が湧き上がり目を閉じても一向に眠ることができない。今年の正月明けなどは特にひどかった。23時前に布団に身をしずめ、夢の世界に落ちようと目を瞑っても浮かんでくるのは明日の仕事であたふたする自分の姿だけ。気がつけば、朝の4時まで悶々と布団の中に身を横たえていただけという体たらくである。

 いっそのこと、連休最終日は一人だけ出勤して体を仕事にならしたほうが精神衛生上望ましいのではないかと考える始末だ。人がいない、うるさい電話のかかってこない職場というのは一種の楽園であるように思える。

 不思議なもので、平日夜に職場から帰宅してから翌朝出勤するまでの数時間というのは心安らかに過ごすことが出来るのに、連休最終日の半日というのはヘタをすると出勤している時間よりも辛く感じられることがある。

 歳を取るにつれてヒシヒシと実感するのは、人生の大半は楽しくない時間で構成されているということだ。子供の頃は楽しい時間のちょっとした隙間に嫌な時間があるものだと感じていたが、実際は逆なのである。その証拠に大人になると、連休などのわずかなチャンスを狙ってわざわざ人で溢れた観光地に行き休日を満喫しようとするし、職場の飲み会では日々の憂さを晴らすように盛大に酔っ払う人間が後を絶たない。

 では、楽しくない時間がどれくらい辛いのかというと実はそれほどでもない。ため息ばかりの生活も、慣れてしまえば案外のらりくらりとやり過ごすことが出来るようになる。

 辛いのは、楽しい時間を満喫した後に訪れる楽しい時間とそうでない時間の険しい溝、いわば心の温度差である。 人生という波はその乱高下によって人間をズタボロにしてしまう。地面から50センチ上から物を落とした時よりも、100センチ上から落とした時の方がダメージが大きいように、楽しい日とそうでない日の落差が大きいほど心が負う傷も深刻なものになる。

 若い頃は肉体的にも精神的にもタフだった(あるいは傷ついたことに気がつかないくらい鈍感だった)が、歳を取るとどんどん脆くなるばかりだ。

 つい先日も、昔は鼻で笑っていたドラマのワンシーンで不覚にも涙を流してしまったし、筋トレ中の5分間が1時間の拷問のように辛く感じられた。学生時代の部活動で筋トレをさせられていた時は、人の目を盗んでサボっていたから真面目に筋トレをするのが久しぶりだったのである。目を盗む相手がいなくなると、サボることもできないというのはある種の人間的悲劇だと実感する。

 こんな脆い状態で楽しい時間を盛大に満喫してしまうとその後で回復不能なダメージを負いかねないと危惧した私は、楽しい時間にのめり込まないよう注意することを心がけるようになった。楽しさというのはある程度自分でコントロール可能だが、楽しくないこと、不愉快なことは往々にして外的要因により発生するものであり、自分のコントロールが及ばないものである。

 心の温度差をなるべく小さくしてダメージを軽減するには、自分でコントロール可能な範囲で対策を打たざるを得ない。すなわち、もっと楽しむことが出来るだろうなと思った瞬間にちょっとブレーキをかけ、自分で自分に水を差すことが重要なのである。

 つまらない生き方だと思われるかもしれないが、私は健康に長く生きていたいという欲求が人一倍強いのである。その目標のためならば、日々の楽しさのセーブなど瑣末なことではないかと考えることにしている。

 このような信念のもと、今日も一つの誘惑に打ち勝つことができた。旅行会社の宣伝にうっかり乗せられるところだったが、春先に風光明媚な場所に足を伸ばして素晴らしい景色を堪能などしたら、帰宅後にどんな手酷い目に遭うか分かったものではない。最近懐が寂しくなっていることとは断じて関係ないのである。終わり

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