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復讐日記  作者: 早川 奏一
立志編
2/3

1話 疑いの生活

 そうして、車は俺の知らない家の前で止まった。

 その家は、三階建てで、庭まである。

 思っていたよりもずっと大きい。


 だが、周囲には何もない。

 ぽつんと一軒家――誘拐犯が子供を閉じ込める場所として、これ以上ないほどそれらしい景色だった。


 男は到着するなり、俺を家の中へ連れて行った。


(やっぱり監禁か。

 ここで殺されるのか、それとも拷問か。)


 家の中は、外の殺風景さとは対照的だった。

 玄関をくぐった瞬間、古い木材と洗剤が混ざった匂いが鼻を刺す。長い間、人が暮らしてきた痕跡のある匂いだ。


 床はきしみ、壁紙は黄ばんでいる。

 だが荒れてはいない。壊れてもいない。

 この家は、確かに「使われている」。


 男――誘拐犯は、俺の腕を乱暴に引くこともなく、黙ったまま廊下を進んだ。

 靴音だけがやけに大きく響く。静かすぎる家だった。どこかで時計の秒針が、規則正しく時を刻んでいる。


 連れて行かれたのは一階の小さな部屋だ。

 薄いカーテン越しに光が差し、机と椅子、本棚が置かれている。

 監禁部屋にしては、あまりにも普通だった。


 男は俺を椅子に座らせると、しばらく無言で見下ろした。

 心臓の音が耳に響く。呼吸が浅くなり、自分がどれほど怯えているかを思い知らされる。


 やがて男は、深く息を吐いた。


「……怖がらせて悪かったな」


 低く、疲れた声だった。

 次の瞬間、手首の拘束が外れる。金属の冷たさが消え、血が戻る感覚がした。


「お前を傷つける気はない」


 俺はもう我慢できなかった。

 怖かった。そして、俺をなんで誘拐したの知りたかった。


「どうして、こんなところに連れてきた。目的は何だ」


 男は少し間を置いてから答えた。


「お前は命を狙われている。家も、もう割れている。だから――お前の両親の依頼で、ここへ連れてきた」


「……なら、名前を言え。親の名前を知ってるはずだ」


「佐々木梢と、岡山神吉」


 合っている。

 しかも姓まで、正確に。


「……そうか。正解だ。もっとも、嘘だったとしても、解放はしないんだろ」


「ああ。解放はできない」


 俺は短く息を吐いた。


「なら従うしかない。拘束でも、独房に閉じ込めるでも好きにしろ」


「その必要はない。ここに連れてきた時点で、今日の目的は果たしている」


 男は続けた。


「今日は休め。頭が追いつかないだろ。

 明日から、お前を鍛える。自分の身を、自分で守れるようにな。追手が、いつ来るかわからない」


「……わかった」


 そう答えるしかなかった。


 夕食は、男――楓から渡された。

 正直、毒を疑った。だが何も起こらなかったし、味も覚えていない。


 横になっても、眠れなかった。

 この状況で眠れるほうがおかしい。

 撃たれるかもしれない。再び拘束されるかもしれない。


 だが、何も起きなかった。


 翌朝、俺は大きなあくびをしながら、特訓のために庭に出た。


 庭に出ると楓が待っていた。


「どうした眠そうな顔して、眠れなかったか、無理もないこんな状況で眠れるほうが肝が据わっている。ただ、訓練は変わらんぞ。お前には時間がないんだ。」


「わかった。じゃあ何からすればいい。」


「まず基礎体力をつけるために、スクワット200回、腕立て100回、上体おこし200回だ。出来たら言え。次は武器の扱いについて教えるから。」


いやかなりきつくない。正直言って、そこら辺の柔道部よりも筋トレが多いような~


「いや、初日にしてはハードすぎません?せめて、2分の1くらいに…」


(そういうと楓の厳しい視線が飛ぶ。)


「いや、これくらいはできてもらわないと困る。明日はこれより負荷が大きいことするからな、これは最低ラインだ。」


(いや、無理だろこんなの1日でダウンに決まっている。でも、やらないと何されるかわかったもんじゃない。)


「わかりました。やりますよ…」


そうして俺は、必死になって筋トレをした。

途中絶対に筋肉ちぎれただろっていうことがいくつかあったが終わらすことが出来た。


「終わりました…」


もう死にそうだ。早く休みたい。


「そうか、ではこれから武器などの殺傷の方法について教える。」


「まだやるんですか。」


「いや、今日は座学だ。しっかりと頭に入れろ。明日テストするから。」


いや、頭に入るわけねえだろ。


もちろん俺に拒否権などなく様々なことを襲わされた。


楓は壁にもたれ、腕を組んだまま淡々と続けた。


「武器は距離で考えろ。距離を間違えたやつから死ぬ」


その一言で、さっきまで眠気で霞んでいた頭が、一気に冴えた。


「まず――超遠距離だ。ロケットランチャー、スナイパーライフル。この距離の連中はな、姿を見せない。だから気づいた時には終わってることが多い」


楓は窓の外を一瞥した。


「音、反射、遮蔽物。外にいるときは常にそれを意識しろ。こいつらは安全な場所から一方的に殺す。ただし――」


一拍、間が置かれる。


「近づかれたら脆い。見つけたら、迷うな。距離を詰めろ。それが生き残る側の判断だ」


俺は無意識に唾を飲み込んでいた。


「次が遠距離。銃、弓、ボウガンだ」


楓は指を二本立てる。


「弓矢は特に厄介だ。規制が緩い。弓道部?――それだけで世間は納得する。だから気づきにくい」


なるほど、と思う前に続きが来た。


「だが射程は限られる。撃つには姿を見せるか、背後を取る必要がある。つまり、使う側もリスクを背負ってる」


「……完全に安全な武器はないってことか」


「そうだ」


即答だった。


「三つ目、中距離。剣、鉄球、チャクラム。この距離は一番判断を誤りやすい」


楓の声が、ほんの少し低くなる。


「投げる武器でも、結局は“自分の間合い”だ。特に鉄球使いは注意しろ。あれを自在に操れるやつは、例外なく強い」


「なんでですか」


「難しすぎるからだ。才能と鍛錬、両方ないと生き残れない」


その言い方は、まるで何人も見てきたようだった。


「四つ目、近距離。ナイフ、拳法全般。内家拳、少林、南派、動物拳……」


名前が並ぶだけで、背筋が寒くなる。


「ここは誤魔化しが効かない。実力がそのまま生死に直結する。自信家が多いのもそのせいだ」


楓は俺を見た。


「覚えとけ。こういう奴に遭遇したら、戦うな。逃げろ。生き残りたければな」


最後に、指を一本だけ立てる。


「五つ目。超近距離だ。関節技」


「近すぎませんか……」


「だから危険なんだ」


楓は即座に言った。


「大半は防戦だ。だが一度、三十センチ以内に入られたら終わりだと思え。勝ち負けじゃない。ほぼ“確定”だ。すぐに背後に回り首を折られて死ぬ。」


俺は、自分の体の周りに、見えない円が描かれた気がした。


「――明日、テストする。覚悟しとけ」


よし、これで終わり。じゃあ家に帰って飯でも食おうかな~


俺が家に向かって帰ろうとしたその時だった。


「何帰ろうとしている。これから柔軟性の訓練だ。」


まじかよ。これで終わりだと思ったのに。


「わかりました。」


俺はしぶしぶ訓練をした。


それだけではなく。ほかにも、重心を鍛える。受け身など夜遅くまでさせられた。


「死ぬ。どんだけやらせるんですか、あなたは鬼かなんかですか。」


「いや、これでもまだ足りない。あいつは、あいつは、そんなもんじゃないんだよ。」


どうやら、追手はかなり強いそうだ。

でもさ、俺こいつに抵抗できなかったんだぜ。

いくら、俺だって成長盛りだ。かなり力は強い。

俺はふと気になりこの言葉を口にした


「楓さん。そんなに追っ手は強いんですか。俺が楓さんを見た感じこの辺の人だったら無傷で倒せるくらい強そうに見えるんですが。」


「ああ、光の言うとおりだ。俺は、この辺りにいるくらいのチンピラだったら、いともたやすくねじ伏せられる。でもな…彼はものすごく強い。今の俺では確実に敗北するくらいには。」


楓は険しい顔をした。


「相手は何を使うんですか。それによって対策方法が分かるかもしれません。」


俺は、そう提案した。

楓はかなり知ってそうだし、もし知っていれば攻略法を思いつくかもしれない。


「いや、無理だ。あいつの武器は、銃、ナイフ、関節技これらを複合して使う。いや、それ以外にも使うかもしれない。一回ライフルで撃とうとも考えたが、あいつにスキなんてない。あいつを止めるには正面突破しかない。絶対に無理だろうが…」


「いいか、今は、そんなこと考えるな、お前は、強くなればいい。それだけを考えて生きろ。」


楓は真剣に俺を見つめた。


「わかりました。お前の言葉を信じてみることにします。」


そうして俺は、この日から、強くなるために来る日も来る日も特訓を続けた。




1年がすぎた。


「光。お前を鍛えてから、もう1年か。……見違えたな」


楓は腕を組んだまま、短く息を吐いた。視線だけが、俺の全身をなぞる。


「ええ」


それだけ答えると、楓は少し眉をひそめた。


「なあ。ずっと気になってたんだが……なんで敬語なんだ。来た頃は普通に喋ってただろ」


一瞬、言葉に詰まる。


「……自然に、です。楓さんが、先生というか……師匠みたいに感じて」


言い終わる前に、楓が視線を逸らした。耳のあたりが、わずかに赤い。


「……そうか」


短く咳払いをして、話題を切り替える。


「だが訓練は終わりじゃない。今日は――」


「10kmマラソン。片腕懸垂100回。握力80kgを400回。ダンベル100kgを50回」


楓の言葉に被せるように言うと、今度ははっきりと苦笑された。


「覚えすぎだ。だが今日はそれはいらない」


楓は一歩、距離を詰めた。


「ここまで来たら、筋力は伸びにくい。最低限にして、技術をやる」


技術――。

あの楓が、そこを重視する。


「今日は煙玉だ」


手のひらに収まる黒い球体を、楓は軽く放って受け直した。


「不利な状況で使う。戦場を一瞬で壊せる。ただし――」


楓の声が低くなる。


「一瞬、判断を誤れば死ぬ」


「煙玉自体が、ですか?」


「違う。防御が遅れる。使う時点で、もう崖っぷちだ」


背中に、冷たいものが走る。


それでも、頭では反論が浮かんだ。


「でも……攻撃直前なわけですよね。煙玉で視界が塞がってもそのまま攻撃を続ければいいような気がしますが。」


楓は、にやりと笑った。


「そう思うなら、試すか。光、腕を振り上げろ」


言われた通りに腕を上げる。


「俺が近距離で煙玉を使う。その瞬間、振り下ろせ。当たったら、お前の勝ちだ」


――条件は、圧倒的に俺有利。


そう思った次の瞬間だった。


パンッ


爆ぜる音と同時に、世界が消えた。


視界を埋め尽くす白。

反射的に目を閉じる。

空気が、位置感覚を奪う。


どこだ――?


腕を振り下ろす。

だが、手応えがない。


煙が薄れたとき、楓はもう背後にいた。


「今だと、死んでる」


背筋が凍った。


頭では分かっていた。

それでも、体は何もできなかった。


――えぐい。


煙玉は、視界だけじゃない。

判断そのものを奪う。


「これが、煙玉だ。最も、めちゃくちゃ強いやつにはほとんど効果がないがな。」


これは、凄い。

でも、自分も注意しないとな。

自分の煙玉でびっくりしたら元も子もないしな。


「では、これを使って実践的な戦いをする。使う武器は木刀と、煙玉だ。手加減はしないから覚悟しろ。」


「わかりました。」


そうして、楓と戦った。

しかし、結果は、100対0で完敗だった。


(いや、どんだけ強いんだよこの人。絶対に何かやばい仕事しているだろ。)


ただ俺はそれを聞く勇気は持てなかった。


「光、いい動きだ。かなり煙玉の使い方も上達しているな。」


「嫌味ですか、俺何もできずに負けたんですが。」


「いや、最初のお前は適当に投げたり、不発をしたりしていた。それに比べれはものすごく上達した。」


嫌味を言っているようにしか聞こえない。

まあでも、返事はしておくか。


「ありがとうございます…」


「なんだ。不満だったか。まあいいだろう。これから、もっと鍛えるからな。」


楓は、笑っていた。

凄く笑っていた。

俺は、楓の笑いを見てずっとこんな生活が続くのではないかと思った。

本当に幸せだった。


「楓さん。今本当に幸せです。」


「どうしたんだ。光。俺は、ただ鍛えているだけ…」


その瞬間俺の眼には涙が出てきた。


「何かあった光。つらかったなら言え。時間はないがお前をうつ病にさせる気はない。」


(そうだ。俺は、こんな人が欲しかった。俺を見てくれるこんな人が…)


俺は家族に見放されていた。

母は、週に一回しか返ってこない。

そして、俺にろくに金を入れない。


いや、最近はもっとひどい、最後に話したのは2か月前だ。

俺に2万渡したきり、それ以来来ていない。


二万で足りると思っているのかごみくそ野郎。


たぶん、母は、男のところにいる。

化粧だけはいつもすごい高いものを使っていた。

たぶん、一瓶で2万ほどの…


では、父に頼めばいいのでは。

いや、俺は、浮気相手とできた子供だ。

もちろん父は援助しなかった。


3歳の時にDNA鑑定で父の子でないとわかったきり疎遠だ。


だから、俺はずっと孤独だった。

見てくれなかった。


テストで100点をとっても、


かけっこで一等をとっても、


見てくれるはずの人は誰もいない。


それが当たり前だった。


でも、楓との生活は違った。


おなか一杯食べさせてくれる。

応援してくれる。

努力を認めてくれる。


ああ、これが当たり前か、俺は、うれしさのあまり泣いた。


ふと楓の声。


「どうした。どうした。何がつらい言ってみろ。明日は訓練しなくてもいいぞ。」


ああ、優しいな楓は。

俺は、楓に思いすべてを伝えた。


「いや、そうじゃない。うれしくてつい。」


楓は慌てた。


「俺は、厳しく育てたはずだ。そんな幸せなはずがあるわけない。いやまさか…」


楓は俺を抱きかかえた。


「前の環境はどうだった言え、父と母と暮らしていた家について、あらいざらい言え」


俺は、楓に抱き着いた。

そして、洗いざらい以前の生活について話した。


「そうか、そうだったんだな。

ああ、つらい人生だったな。

もう大丈夫。

俺は、お前を人生をかけて守るからな。

だから、安心しろ。


たくさん泣け。

そしてそのあとたくさん食って寝ろ。


これは、誘拐犯からの命令だ。」


俺は笑った。


「いや、そんな誘拐犯なんて見たことないよ。」


俺らは笑いあった。

ああ、なんて幸せなんだ。


ああ…幸せだったな…
















 


 























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