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ゑ:エンドレス

「……こっちよ……」

 おれを導く女が笑う。

 行っちゃいけない、とおれは思ってる。そっちじゃない、とおれは言おうとしてる。

 いいじゃない、と女は笑う。

 おれの手を引っ張って。




「……こっちよ、早く……」

 おれの手を引いて、導く女が笑う。

 行っちゃいけない、とおれは思ってる。そっちじゃない、とおれは言おうとしてる。

 いいじゃない、と女は笑う。私と一緒だと、あなたは嫌なの?

 抗えないおれの手を、強く引っ張って。




「……こっちよ、早く来て……」

 おれの手を引いて、導く女が笑う。

 どうしてこいつが……? ぼうっとする頭で、おれは思う。ちゃんと考えられない。

 ただ、行っちゃいけない、とおれは思ってる。そっちじゃない、とおれは言おうとしてる。

 いいじゃない、と女は笑う。私と一緒だと、あなたはそんなに嫌なの?

 余りにも純粋な笑顔に、背筋が凍りつく。おれだけを一心に求める女は笑う。抗えないおれの手を、強く強く引っ張って。




「……こっちよ、早く来て、早く……」

 おれの手を引いて、導く女が笑う。

 どうしてこいつがまだ居るんだ……? ぼうっとする頭で、おれは思う。ちゃんと考えられない。誰かに強く殴られたみたいだ。

 だって――おかしい。女がおれの前に居る。大分前に別れた筈の女が。

 ……頭が、ぼんやりしている。とにかくおかしな感じだ。体が借り物みたいな……。

 ただ、行っちゃいけない、とだけおれは思ってる。そっちじゃない、とおれは女に言おうとしてる。

 いいじゃない、と女は笑う。私と一緒だと、あなたはそんなに嫌なの?

 余りにも純粋な笑顔に、背筋が凍りつく。おれだけを一心に求める女は笑う。でもね、あなたがどんなに嫌でも……私はあなたから退く気はないわ。

 ――女は笑う。抗えないおれの手を、強く引っ張って。




「……こっちよ、早く来て、早くここで……」

 おれの手を引いて、導く女が笑う。

 どうしてこいつがまだ居るんだ……? ぼうっとする頭で、おれは思う。ちゃんと考えられない。誰かに強く殴られたみたいだ。

 だって――おかしい。女がおれの前に居る。大分前に別れた筈の女が。

 別れた。いや、違う。おれは考える。

 別れても別れても、泣いて懇願して戻ってきた女。いつでもおれの次の新しいチャンスを壊し、おれにつきまとい、常におれの彼女のスタンスを守り続けた女。

 嫌になって逃げ出しても、女はおれの居所を嗅ぎつけ現れた。何度でも、どんな時でも。だから、おれは――。

 ……何だろう……。頭が、ぼんやりしている。とにかくおかしな感じだ。体が借り物みたいな……。

 女は、どこに行くつもりなんだろう。おれを引っ張る女はどこか現実味を欠いている様に感じられる。

 ただ、行っちゃいけない、とだけおれは思ってる。そっちじゃない、とおれは女に言おうとしてる。

 おれの心を読んだ様に、いいじゃない、と女は笑う。心底楽しんでいる様でいて、どこか責める様でもいる瞳。私と一緒だと、あなたはそんなに嫌なの?

 余りにも純粋な笑顔に、それ故に潜む女の狂気に、背筋が凍りつく。おれだけを一心に求める女は笑う。

 でもね、あなたがどんなに嫌でも……私はあなたから退く気はないわ。

    『だって、今は私の番』

 ――キィン、と何かが弾けた様に――

 ……突然、頭が明瞭に晴れた。おれは、この女を殺した。殺したのだ。嫌になって。

 なのに、殺されても尚おれへの愛を貫く女は、まだ綺麗に笑う。運命に抗えないままのおれの手を、強く引っ張って。

 愛しい、とおれは思った。殺したおれを恨むでもなくまだおれを求めるこの女が、たまらなく愛しく思えた。握った手に、おれは力を込めた。




「……こっちよ、早く来て、早くここで……




……死ねよ」




 手が離された。おれは落ちて行く。

 ――女がおれを見限った。見下ろす瞳の冷悧さ。

 立場は完全に逆転した。今後一切、女はおれから逃げる様になる。

 あんなにおれを執拗に追い掛け、愛してると囁き続けた女が、おれを避け、逃げ回り、束縛と監視の嫌悪からおれを殺すのだ。今、おれが女にされ、女にしてきた様に。

    だって、『次はおれの番』。

 今からおれは女につきまとい、愛してると囁き続け、散々邪険にされた挙げ句殺されるんだろう。今迄何度もそう繰り返してきた様に。運命には抗えないのだ。

 さあて。おれは立ち上がる。

 女は、どこだ……?

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